FFXV 泡沫の王   作:急須

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居場所

使われていない空のベッドにため息をついて、仲間たちが待つ一階へと降りる。

結局兄は何も言わずに隠れ家に帰ってこなかった。

隠れ港でシドが監視をしているという。

 

意気消沈した兄は気がつけばどこかへと消えてしまう。

ガレージに泊めたあの夜。

六歳の子供の時ですらほとんど帰ってくるかも怪しかった。

今度は本当に帰ってこないかもしれない。

 

昨晩意識が戻ってから聞いたシドの言葉にチクリと心が痛んだが、あんな兄居なくなってしまえと思ってしまう自分もいる。

兄は自分を王としてしか見て居ない。

兄弟として、弟として、家族として見てくれない。

嫌いだと言われて本気で殺しにきた。

力の差を見せつけられた。

それがどうして心配だから見に行こうという気持ちになれようか。

 

名称もつけられないどうしようもない気持ちで一階に降りるとタルコットとジャレットが食卓に着きイグニスとプロンプト、モニカが食事を並べて居た。

メディウムとルナフレーナと護衛のニックスさらにシドの席もあるが空席。

隠れ港にいるのかもしれない。

 

お通夜のようなどんよりした空気で席に着いたノクティスにかける言葉が見つからず、静かに食事が始まる。

昨日まで笑いあっていた兄はいない。

それがどうしようもなく虚しくて、一口二口朝食のスープを口にしてからスプーンを置いてしまった。

 

「…ノクト、気持ちはわかるが食べなければダメだ。」

「そうだよ。食べなきゃ元気でないよ。」

「…悪りぃ。今は無理だ。」

 

イグニスとプロンプトの制止も聞かず、ノクティスは席を立つ。

 

あれだけ傷つくことを言われたのに、兄はきちんと食べているのだろうかと心配してしまう。

結局のところ昨日の虚しい戦いでは傷つきはした。

けれど、弟と思って欲しかった。

家族だと認めて欲しかった。

自分の体を大事にして欲しかっただけなのに。

ただ、それだけだったのだ。

なのに。どうして。

 

ーー何故そう決めつける。

 

兄が放った一言が気になって仕方がない。

 

ーー俺は昔っから!テメェが大っ嫌いだったんだよ!!

 

あれは本心なのか。

本当にそう思われていたのか。

ぐるぐると考えて考えて、悩んで悩み抜いても一つの頭では回り続けるだけ。

答えが出ないまま、室内にいると気分が悪いと赴くままに外に出た。

仲間達もついてくるかと思ったが一人にしておいてくれるようだ。

家を出る前に周りをよく見るプロンプトがそっとイグニスを遠ざけていたのが見えた。

 

心遣いに感謝しながら玄関先で灯台を見ていると、ドカンッという爆発音と共にシドと思われるしわがれた怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「メディ!また逃げる気か!!」

 

声のする方を見ると灯台が立つ岬のさらに先。

海の上に素足で飛ぶメディウムが見えた。

その手には修理されたのであろうクラレントを持っている。

 

視線は興味に逆らえず見続けていると、焦点が合ってくる。

じっとよく見れば手足は血だらけで足先からポタポタと血を流している。

先ほどの爆風にやられたのか、その前なのか。

隠れ港で一体どんなことが起こったのか。

想像もつかないがまた兄が傷ついているのだけはわかる。

 

しかし、体は動かない。

駆け寄りたいのに、体は言うことを聞かない。

震える手。脳裏には全力の一撃を放つ兄の姿。

ファントムソードなどと言う借り物ではない、魔法の才を存分に発揮した兄自身の力。

ショボい魔法しか使えない自分とは違う。

 

神の力もファントムソードも取り上げられて仕舞えばろくに戦えない自分。

何もかもを取り上げられても才能を持って這い上がってきた兄。

ノクティスは、メディウムが怖くなってしまっていた。

 

「拗ねてねぇで降りてこい!そんな体で魔法使ったってどこへも行けねぇぞ!」

 

シドが怒鳴りつけて降りるように促すが、兄はちらりと見るだけ。

ずっとどこかの方向を見て浮遊している。

照り返すような光でキラキラと光る海の上の幽鬼のようにフワフワと浮く。

何かを探しているのか稀に別方向を向くが、北の方向で目線がよく止まる。

 

やがて、緩やかな動きでシドがいるのであろう灯台の岬へと振り返った。

ノクティスのいる玄関先からはよく見えないが白い布がはためいてチラチラとのぞいている。

ルナフレーナもいるのであろう。

ならば護衛のニックスもいるはずだ。

肯定するかのようにルナフレーナの透き通るような力強い声が響く。

 

「メディウム様!あなたの居場所はここです!もう他を求めなくていいのです!あなたはもう、ルシスに帰っても誰も咎めません!あなたが望むなら戦いを辞めてもいいのです!!だからもう…お願いですから…そんな姿にならないでください…。」

 

最後の方は途切れるように細々としていた。

泣き崩れているのかもしれない。

ルナフレーナは兄との二人旅で何かを知ったような口ぶりをしていた。

きっと、それに関する思いなのだろう。

 

兄は家族である自分に何も話さないくせに、神凪であるからとルナフレーナには語った。

その事実に、さらに悲しみが増える。

 

振り返った兄の顔は見えないが、海風に煽られて首からキラリと光るものが現れた。

太陽の光に反射して美しく輝く銀のネックスを血まみれの手で掴むと兄の体に氷がいくつも張り付いた。

どう言う魔法だと玄関先の柵から身を乗り出すと一瞬だけ兄の瞳がこちらを見る。

頬まで氷で覆われたところで口パクで何かを伝えていた。

 

「ーーーー。」

 

音にならない声を残して、全身を氷で覆われた兄は砕けて海へと落ちた。

反射して眩しいほどの氷に岬に立つシドがやりきれない思いで地団駄を踏む。

一体何が起きたのか理解が追いつかないが、兄がどこかへ行ってしまったのはなんとなくわかる。

兄はもう、帰ってこないかもしれない。

 

そう思うとノクティスはいてもたってもいられなくなった。

気がついた時にはただ、ひたすら岬に向かって走りだしていた。

 

消えて砕けてから体が動くなど馬鹿らしい。

あんなに傷ついている兄に駆け寄れなくて何が家族か。

何が認めてもらえないだ。

そんなの当たり前だ。

 

昔からノクティスが泣きたい時や寂しい時に兄はふらりと帰ってきた。

帰れなくても外の世界を絵でも写真でも見せてくれた。

 

兄は自分のことを大嫌いだと言った。

一日経って兄の姿を見て、ノクティスはその言葉を”それがどうした"と投げ飛ばす。

だって、兄はいつだって、メディウムはいつだって駆けつけてくれた尊敬する優しい兄なのだ。

嫌いだって構わない。

殺したいと言われてもいい。

嘘でもなんでもついていくらでも騙されてもいい。

 

自分は兄を心配するあまり、兄が自分に最初に放った家臣としての言葉を忘れていた。

 

ーー王の側に。

 

レスタルムで聞いた言葉の意味をやっと理解する。

兄はあの時から自分を犠牲にしてでも王を支える誓いを立てたのだ。

覚悟もろくにできていない馬鹿みたいな王様の側にいてくれると誓ってくれたのだ。

それをないがしろにして、ただ守られる存在になれと言ってしまった。

もし、言うことを聞いてくれても兄にはとっても耐えられない状況だろう。

 

すれ違って、初めて喧嘩した。

必要なものは会話だと学んだのに、ろくに話もしなかった。

兄が想いの内を開けないからと勝手に自分も想いを告げることを忌避していた。

 

聞かねばならない。

砕ける前に音にならなかった言葉を。

兄の口から、聞かなければ。

今すぐ探さないともう二度と帰ってはこない。

そんな確信があった。

 

「ルーナ!シド!ニックス!」

「ノクティス様…。」

「どこまで見てた。」

「飛んでるところから砕けるまでだ。兄貴を探したい。どこに行ったか分かるか。」

「おめぇさん、合わせる顔があんのかよ。昨日喧嘩したばっかだろ。」

「そんなことはどうでもいい!このままじゃ兄貴が帰ってこなくなる!」

 

まだ少しだけ会うのは怖かった。

昨日の今日で盛大に怒りをぶつけてしまったからだ。

だが、そんなことでまた足を止めたら取り返しのつかないことになる。

早く探し当てないと。

一刻も猶予はない。

 

シドがため息をつくと先ほどの魔法について語る。

 

「昔メディが作ってた転移魔法とかいうやつだ。足取りを追われないように追跡防止魔法もついていやがる。」

「行くあてとかは。よく寄ってたところとか。」

「それなら、レスタルムでは?」

 

ニックスが言うには隠れ港で誰かからメールをもらっていたらしい。

チラリと見えた本文の中にレスタルムの名前があったと。

それから様子がおかしくなり、先ほどの転移に繋がった。

途中で止めに入ったニックスを避けるために自爆を敢行したとも。

血だらけだったのは爆風で肌が切れたからだろう。

 

どのようなメールで誰からだったのかはわからないがレスタルムにいるならば話は早い。

早く捕まえなければと、ノクティスは隠れ家へと戻り仲間を呼びに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わってスチリフの社。

軍の命令に従ってシガイの標本集めをしていたアラネアが昼間は入れないと、外で報告書を書いていると慌ててやってきた帝国兵に妨害される。

何事かと聞けば"人が降ってきた"と言うのだ。

人が降ってくるわけがないと思うが、聞けば赤毛の男でビッグスとウェッジが顔を確認中。

 

赤毛と聞けば一人の知り合いが思い浮かぶが魔導ブーツで移動する前に迎えを頼むはず。

文字通り降ってこられるほど魔導ブーツは高性能ではない。

せいぜい揚陸艇が滞空できる高さまで跳躍できる程度。

魔法が使えるわけでもあるまいと思っていたところでビッグスが報告に来た。

 

「誰だった?」

「ディザストロで間違いありません。随分傷だらけですが。」

 

担ぎ上げて来たのかウェッジがアラネアの揚陸艇内に降って来たディザストロを下ろす。

ぐったりしているが外傷は切り傷のみ。

肌が裂けているだけで高所から落ちて出来た打ち身や骨折は見られない。

どの程度から落ちたのかは見ていないが人間業でないのは分かる。

意識はギリギリ保っているようだ。

 

「どうしたのさ。何があったんだい。」

 

言葉は返さず、首を振るのみ。

血が滴る手でポケットに入った携帯を取り出したかと思うと一つのメールを見せた。

 

ーー優秀な副官へ。

居場所を求めるならばレスタルムにて待つ。

誰よりも君を理解している親父殿より。ーー

 

簡潔だが誰から送られて来て、どこに行けばいいのかわかる文。

アラネアは眉をひそめてディザストロを見た。

レスタルムに向かいたいのだろうがその体では無理だ。

メディウムも魔力の限界で、マルマレーヌの森周辺に一度転移。

レスタルムにもう一度転移したはずが座標を大いに間違え、先日通ったスチリフの社上空に出てしまった。

飛行魔法を使う魔力もなく、かろうじて落下衝撃の軽減が出来たところで帝国兵に拾われたのである。

 

ディザストロとして動くためにあらかじめ起動したネックレスが功を奏した。

 

「レスタルムに行くのは良いけど手当てしないと連れてかないよ。自力で行くなら別だけど。」

 

アラネアは厳しいから言っているのではなく、本当に心配しての言葉。

そのまま歩いて行くこともできないこともない距離だが、血まみれの不審者など通報ものだ。

ハンターなんかに保護されたら目も当てられない。

メディウムも昨晩は眠らずに徹夜。

もはや限界で手当でもなんでもして良いから連れてってくれと、もう一度メールの"レスタルム"という部分を指差した。

 

長い付き合いで無言でも意思疎通ができるアラネアは了承し、もう一度ウェッジに抱えさせて救護用の揚陸艇に運び込んだ。

運び出して見えなくなったところでビッグスがアラネアに話しかける。

 

「やっぱり、宰相の仕事関連の怪我ですかね。」

「でしょうね。仕事かどうかはわからないけどあんなに疲れてるのは久しぶりに見たわ。」

「油断からくる傷ってやつよりも"自ら負った傷"っぽいですよね。」

「何かの警護か、不可抗力か、命令か。どちらにせよ良い仕事じゃないわ。」

「魔導ブーツも履いてなかったですし。降ってくる理由もちょっと思いつかないですね。」

「"ルシスの王子"絡みだったら降ってくることもあるんじゃない?」

 

長年戦場に居続ける二人は的確にディザストロの状態を観察し把握したが降ってくる理由がどうしても思いつかない。

説明がつかないことでよく押し付けられる理由を使うならば魔法とやらの奇跡的な現象ぐらいか。

今も逃亡中のルシスの王子と出くわして一戦交えた時にそうなった、とか。

 

しかし、アラネア自身が戦ったときは魔法を使う気配すらなかった。

単純な剣技と瞬間移動のような魔法。

アラネアを着地不可能な高さまで跳ね上げる魔法があればそれを使えば良いのに使わなかった。

つまりルシスの王子という線もかなり薄いわけだ。

ビッグスはアラネアの報告と擦り合わせて、無難な結論を出す。

 

「ま、宰相絡みの不思議な事件ってことで。」

「それ以外ないわよねぇ。」

 

アーデン宰相絡みの不思議な事件簿にまた一つ、不思議事件が増えた。

結論とも言えない極論が出たところで仕事三昧の年下の様子を見るべく、二人は移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

救護用の揚陸艇では止血と消毒が行われ、ガーゼを大量に貼られた。

両腕は面倒だとガーゼを丸ごと貼られて包帯でぐるぐる巻き。

両足は洗えば割と傷が少なかったので所々ガーゼが貼られることとなった。

戦場あるあるの応急処置のようなものだが、清潔に保って消毒までしてくれるのだから御の字である。

魔力が戻ったらケアルでもかければ良い。

それよりも寝ていないと体力もろくに回復しないと、横になるよう衛生兵にきつく言われた。

眠れなくても目を閉じて横になれば十分。

 

救護用の揚陸艇に備え付けられた折りたたみのベッドに毛布を敷かれて放置された。

顔には出ない寡黙なビッグスが長年の付き合いで分かる程度に心配そうにしている。

 

「大丈夫か。」

「いきなりすまん。驚いただろ。」

「かなり。今度からは地を歩いてきてくれ。」

「…あー、うん。そうする。」

 

深く聞くつもりがないという意思で、ベッドの横に座る。

いると寝られないだろうと衛生兵が横から注意するが居てくれた方が落ち着くと苦笑いで返した。

ビッグスとウェッジは悪友だが、節度がある。

怪我人を悪くは扱わない。

 

ウェッジは軽い冗談だけ言って、後からやってきたアラネアとビッグスに軽く手を挙げた。

 

「ただの切り傷ばかりだそうだ。」

「そう。出血量が心配だから食べ物持ってきたわ。朝のスープの残り。」

「なんでスープの残りなんてあるんだよ。」

「シガイの標本集めって夜しか入れないから以外と暇なのよ。それにご飯ぐらいきちんと食べたいじゃない。意外なところで役に立つしね。」

「へいへい。ありがとな。」

 

渡された少し暖かいスープを口に含む。

塩だけの簡単な味付けだが、遠征中に食べるには贅沢だ。

野菜まである。

 

昨日の朝から丸一日何も食べていないディザストロは思いの外お腹が空いていて、軽い味付けがありがたかった。

アラネアは満足そうにそれを見て笑う。

 

「お礼が言えるのは良いことよ。ほら、食べて休んだらレスタルムね。気が乗らないけど送ってく。」

「悪いな。ほんと。」

「良いわよ別に。あんたの居場所は宰相の隣なんでしょ。」

 

アラネアの言葉にスプーンを止めてスープに映る自分の顔を見る。

酷い有様だが、これが正しいあり方なのだ。

自分はルシスの王子に戻れはしない。

肩書きがあっても、心と体は道具のまま。

 

どうしようかぼんやり考えていたところで計ったかのようにメールが届いて、気がつけばカエムの岬を文字通り飛び出していた。

 

「…本来いるべき場所に帰るだけだ。」

「なによ。"居場所"と"いるべき場所"は違うわよ。」

「は?同じ意味だろ?」

「馬鹿ね。」

 

居るべき場所ってのは強制された場所。

居なきゃならない場所で好きとか嫌いとかは関係なし。

その存在がいるってことを求められる場所よ。

 

居場所っていうのは、形じゃない。

人でも家でも場所でも自分を表してくれるものがあってずっとそこにいたいってあんたが思える。

いる意味なんて求められないし、好きなだけいれば良い。

好きなだけ離れていても良い場所。

帰った時に温かく迎えてくれるのよ。

 

「あんたは宰相の隣に居たいから帰るんじゃないの?」

「それは…。」

 

違うとは言えない。

今までアーデンの隣が帰る場所で、それ以外にいても良い場所なんてなかった。

ノクティスと旅に出て初めて、他の帰る場所を知った。

違いなど、よくわからない。

 

迷いのまま吃る。

アラネアは深くは考えなくて良いと優しく笑った。

 

「あんたが行きたいってんなら連れてくよ。友達だからね。でもいたいって思える場所、見つかると良いね。」

「俺は宰相の隣だけはオススメしないよ。」

「同意。」

「それは私も同意。」

 

アラネアに続いて茶化すようにビッグスがアーデンの隣はやめておけと付け加える。

ウェッジが静かに同意しアラネアも真面目に頷いた。

それがたまらなくおかしくて、少しだけ微笑む。

眉は下がったままだがいくらかマシな顔が出来ていることだろう。

 

暗い顔で怯えるような友人など、誰も見たくはない。

 

年下の上司であり同僚。

なにがあったのかを聞くよりも外を知らない彼に友としてできることをしたい。

一種の弟のように思っている三人は思い思いにディザストロの頭を撫で、早く元気になれと救護用の揚陸艇を出て行った。

 

気の置けない年上たちの優しさに包まれてそっと目を閉じる。

いたい場所といなければならない場所。

ノクティスの側はいったいどちらなのか。

許されるならばずっと一緒にいられて、離れていた分やり直せたら。

 

アーデンに植え付けられた現実と本心が揺れ動いて迷いが生まれたディザストロは久しぶりになにも考えずに眠った。

悩みごとが多かった数日の中で一番疲れが取れる眠りは存外深く短かった。

 

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