FFXV 泡沫の王   作:急須

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怪我人

目を開けると、長年見続けた赤いオープンカーの後部座席で寝転んでいた。

 

たしかスチリフの社で魔力が尽きてアラネアに保護してもらっていたはず。

レスタルムに連れて行ってもらってこのオープンカーの持ち主と会うはずがなぜ自分は持ち主不在の車で眠っているのだろうか。

鼻に付く消毒液の匂いと動かしづらい両腕を見る限り、時間は大してたっていない。

周りを見るとヴェスペル湖が少しだけ見え、樹海が広がるばかり。

木の間から覗く日は真上にある。

 

今が正午か、少し後か。

多く見積もっても午後一時は過ぎない。

それだけの時間があればレスタルムからスチリフの社まで移動することは可能。

つまり、迎えにわざわざ来たという推測がたてられる。

呼びつけておいて迎えに来るとか意味がわからないが、ヴェスペル湖周辺にいるのは確かだ。

 

痛む体を腹筋だけで起こし、辺りを見渡すが風景は代わり映えしない。

アラネア用の赤い揚陸艇が眼に映るが数人の帝国兵がいるだけ。

一体どこへ行ったのかとキョロキョロ探していると、ポスンと肩に手が置かれた。

 

全く気配がしなかったことに大いに驚き慌てて振り向くと、不思議そうな顔のウェッジ。

無愛想で寡黙な彼は物音がしない節があるが、まさかここまで接近されて気がつかないほど弱っているとは思わなかった。

微妙な顔でウェッジを見続けているとポンポン頭を軽く叩かれた。

ついでに探し物の場所を示すかのように別の黒い揚陸艇を指差した。

 

「アラネア達はあそこに?」

「宰相が迎えに来た。」

「誰かが呼んだのか?」

「勝手に来た。お前を引き取りに来たとかで。」

 

ぐっすり眠っている怪我人を叩き起こすのはアラネアが許さず、ウェッジが運んでくれたようだ。

当のアラネアとアーデンはシガイの標本回収状況やミスリルの採掘量の報告のために、資材運搬の揚陸艇にいるらしい。

ビッグスは武器の在庫確認でアラネアの揚陸艇に。

 

動けるのならばアーデンの元に行こうと体を起き上がらせるが、ウェッジに止められた。

何処かを見ているので視線を追うとちょうど二人が出てくるところであった。

 

「あら。起きた?もう少し寝てた方がいいわよ?」

「よく眠れてスッキリしてるよ。所でそこの宰相様はなんで迎えに来たんだ。」

 

誰も頼んでいない迎えにジト目で睨むと涼しい顔でスルー。

ニヤニヤと腹が立つ笑みで意味深な言葉を放たれた。

 

「うーん、色々あって急がなきゃいけないんで来ちゃった。ディアが来るの待ってたら遅いしさ。」

「来ちゃったじゃねぇよ。俺の努力が水の泡なんだが。」

「見事に道を間違えた馬鹿な部下をからかいに来たとも言うね。」

「そーですか。」

 

急がなければならない用事などなかったはずだが、アーデンは態度を崩さない。

だが、滅多に嘘をつかないのも確かである。

どうしたもんかと後部座席で座り直しているといつのまにか運転席に座っている。

このままどこへ行くのかさっぱりわからない。

 

「じゃあ、アラネア准将。引き続きよろしくね。」

「承知しました。くれぐれも副官に無茶振りなさらないように。槍が降ってくるかもしれませんので。」

「ははは。それ君の槍だよね。」

 

和やかなのに殺伐とした会話の二人にドン引き。

冷や汗を流しながらその場にいるアラネアとウェッジに手当ての礼を言って走り出したオープンカーの後部座席から助手席に移る。

少しぬるい風に吹かれながら向かう先はレスタルムだと言う。

迎えに来てわざわざとんぼ返りという謎行動にさらに疑問に思うが、曰くホテルのようなベッドがある場所でなければ行えないことがあると。

 

「…セクハラ?」

「違うよ。そう言う趣味ないし。」

「上司のあれやそれやなんて知りたくないんだが。」

「だから違うって。」

 

どう違うと言うのだ。

清々しい程雲ひとつない晴天の下で話す内容ではないし。

そも、自分が一緒の必要性が感じられない。

説明を要求すると、ネックレスにかけられた魔法を解くように言われた。

 

メディウム・ルシス・チェラムに関係することで王子様との逃避行気分なのだそう。

こんなところノクティスたちに見られたら言い訳ができない。

どんな解釈をされることか。

しかし、追ってくることもないだろうと自嘲気味に微笑んでディザストロは魔法を解いてメディウムへと姿を変えた。

その予想は現在進行形で覆されているのだが知る由も無い。

 

「で。説明。」

「魔法に関することなんだけどね。」

 

ルシス王家が扱える神から賜った奇跡。

魔力と呼ばれる力を代償にすることによってあらゆる力を身につけられる。

その原理や定義は様々で使用者の考え方で形を大いに変える。

特にメディウムに関しては氷魔法と相性がいい。

形に残す絵に才があるところから造形を特に得意とする。

 

歴代の王達は魔法よりも武芸に秀でていたが、必ず相性があった。

相性が悪ければ威力が落ち、良ければ少量でも劇薬となる。

魔法は便利だがなんでもかんでもできるわけではない理由がそこにあった。

つまるところ、良し悪しがある。

 

さらに言えば魔法も奇跡の賜物ではあるが、エレメントをそのまま使う以上のことにはきちんとしたプロセスがいる。

材料と過程がない中で物は作れない。

そう、作れないはずなのだ。

 

「ところがぎっちょん。」

「は?」

「いや冗談で言っただけ。ディアの、メディウム君の場合はね。過程をすっ飛ばして結果を発現させられるんだ。君、魔法に関しては過程なんて考えたことないでしょ?」

「さっぱりない。思い浮かべた結果が目の前に出て来るし、必要ない。」

「うん。それね、人間技じゃないんだ。だって神様でもできないからね。」

 

極論で言って仕舞えばメディウムはあらゆる物事を魔力というリソースのみで現実にできる。

その上で過程や理論は存在しない。

魔力があれば新たな神を創造することだって理論上は可能なのだ。

そんな膨大な魔力を持ち得ている人間なんていないが。

 

それの何が問題なのか。

 

そう、メディウムは人間なのである。

人間がその身の範疇を超えた事象を起こしたり出会ってしまったりすればどうなるか。

 

「大抵の場合は大怪我か、意識不明か、死ぬか。それすらもメディウム君は"魔力がある限り覆している"んだけどね。」

「最近怪我どころの騒ぎじゃない吐血や骨折が多いのは?」

「魔力が尽きているからだね。魔力回復が遅いのはケアルが常時働いているから。」

 

吐血するほど内臓が逝っても骨折しても魔力がある限り自動で治療するということらしい。

マルマレーヌの森で蔦のシガイに叩きつけられた時も背骨が折れたような気がしたが、ジャレットの診断ではなんともなかった。

ノクティスとの戦いで負った傷もほとんど治りかけ。

包帯を少し解いて中を見ると、ガーゼに血が滲んでいるが肌は元どおりになっている。

 

「でも人体って何度も大怪我負って無理やり高速治療なんていうとんでも状況に対応できるもんじゃないよな。」

「そのうち後遺症が残るようになったりするかもね。それ以前に魔力自体が枯渇して死ぬかもしれない。」

 

魔力を生産することができなくなれば自然と今までのツケが回ってくる。

因果応報。

このままのペースで傷を負い続ければ五年もしないうちに野垂れ死ぬ。

応急処置をしても、もって十二年。

三十路を迎える頃にはお亡くなりになるのが決定しているということだ。

余命宣告されるとは思っても見なかったが、なぜアーデンにそんなことがわかるのか。

 

隅々まで体を見たわけでもあるまいに。

 

オールド・レスタを通り過ぎたところで再びジト目で睨みつけるが気にせず話を続け始めた。

なぜ睨まれているのか分かっているだろうに、答えないということは教えたくない情報なのだろう。

黙って説明を聞くことにした。

 

「メディウム君には生きていてもらわないと困るからね。応急処置は直接体に触れないといけないし、単純に何もしないで休む時間も余命延長に重要。」

「それでベッドのあるレスタルムか。合理的だが休むだけに時間を費やすのか?」

「まさか。君の弟君にちょっかいかけるさ。」

「…そうかよ。」

 

どうするのかは知らないが真の王を求めるアーデンならば任せても勝手に色々やってくれるだろう。

知っているかもしれないがまだ周っていない王の墓所と、ミスリルが必要なことを教える。

ついでに王の盾が不在であることも。

修練の道についてはアーデンも知っているので、時間がかかっても四日足らずで帰って来るだろうとのこと。

生きていれば、の話だが。

その辺はコルの現場判断による。

 

移動基地などに収容するのも手だとは思うが、そうすると強硬手段に出る可能性がある。

ルシスの王子という肩書きをメディウムが持っている以上彼らが保護にやってくるのは絶対だ。

民間人も泊まる公共の場に押し入れておけば帝国側もルシス側も手出しが難しくなる。

今の状況で騒ぎを起こすのは賢明な判断ではないからだ。

さらに宰相のおまけ付き。実に嬉しくない。

 

「まーた監禁か。」

「君のためなんだよ。」

「どこが。遊びのために人質にするだけだろ。ついでに治療。」

「俺なりに優しさを見せてるんだけど?」

 

ハンドルを握る手を片方外して、ぐしゃぐしゃに頭をかき回される。

黒い夜空の髪がキラキラと舞った。

手つきこそ荒いが労わるような優しさがある。

 

レスタルムは軍人ばかりのジグナタス要塞とは違う、一般人の居る場所。

ノクティス達が順調にレスタルムに辿り着くとは到底思えないが、何かしらの誘導を行うだろう。

生ぬるい風に吹かれてしばらく暇に過ごす間何をしていようかと、久しぶりに静かな車内で目を閉じた。

 

メディウムはニックスがメールを覗き見していたことを知らない。

割とすぐにたどり着いてかなり驚くのは数時間後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は戻ってメディウムがスチリフの社に墜落した頃。

イグニスとプロンプトに状況説明を行ったノクティスは急いで追いたいと仲間たちに頼んだ。

しかし、プロンプトは当然のように快諾したがイグニスが頷かなかった。

なぜ頷かないのか理由はわかっている。

メディウムがノクティスに対して大嫌いだと言ったこと。

実際にノクティスに全力の一撃と言う名の害を与えたことである。

 

イグニスとて兄を追いかけたいノクティスの気持ちがわからないわけではない。

ノクティスがいない世界をイグニスが考えられないようにノクティスもメディウムがいない世界を考えられないのだろう。

家族とはそれほど大きな存在であり、帰ってこない可能性も高いことは自明の理。

急ぎたい気持ちもわかる。

 

けれど、従者は王を守らねばならない。

尊敬する軍師が敵でないと確証を持って言えない今、追いかけるとは言えなかった。

 

そこにルナフレーナが割って入る。

 

「イグニスさんはここにいてください。行きましょう。ノクティス様、プロンプトさん。」

「ま、待て待て!ルーナも来るのか!?」

「当たり前です。メディウム様は私を守りノクティス様と引き合わせて下さいました。いわば恩人です。そんな人を傷だらけのまま放置できるほど私は非道ではありません。」

「俺も付いて行きます。王都襲撃の時、命を救っていただきました。一度救われた命をあの人の役に立てるように使いたい。」

「ニックスまで…。」

 

ルナフレーナは王都の襲撃から二人旅まで、ニックスはグラウカ将軍との一戦で大いに救われた。

彼女らの決意は固い。

ノクティスと共についていくと言って聞かないルナフレーナとニックスにイグニスが動揺しているとシドとモニカ、イリスもノクティス側に加勢して来た。

 

「シドニーはハンマーヘッドを離れられねぇが、早く捕まえてこいだとよ。あいつらは長い付き合いなんだ。気になって仕事が手につかないって。」

「コル将軍にも連絡を入れました。各地で活動している王の剣や王都警護隊の者達にメディウム様の捜索を最優先にするように指示をと。用事が終わり次第、将軍達もレスタルムに合流するそうです。」

「私たちも手伝うよ。ジャレットとタルコットと私ならレスタルムに居ても怪しまれないからね。」

 

ルシス王家に深く関わりのある人達が動き始めている。

信頼できないと思う反面、これだけの人々が迎えに行きたいと思っている事実。

そして、ノクティスが誠心誠意込めて頭を下げた。

 

「頼む。兄貴を、家族を失いたくない。」

 

事の発端はただの兄弟喧嘩。

その仲裁をこれだけの大人数でやろうとしているのだから馬鹿げている。

でも、彼らは本気でメディウムを取り戻そうとしている。

消えて行った王子を必要としているのだ。

 

イグニスはため息をついて、そっとメガネをあげた。

 

メディウム自身に自覚はないかもしれないが彼が残して行った政治の指針や細かい改定法案はあらゆるところで賛美されている。

第一王子メディウム・ルシス・チェラムは世界の指針。

彼を失ってはルシスに大きな打撃を与える。

 

今は全く関係ない打算的な理論で信頼できないと言う気持ちを押さえ込んだイグニスは、渋々頷く。

ノクティスの意に反することは基本したくないのもある。

だが、ルナフレーナやニックスが来るのはあまり良くない。

特にルナフレーナは知名度が高い。

どこに行ってもばれてしまうだろう。

メディウムがルナフレーナと二人旅の時に密かに行っていた認識阻害魔法も、ノクティスは使えない。

 

「メディを探しに行くのはいい。だがレスタルムに直接行くのは俺とノクトとプロンプトだけだ。それ以上は目立つ。」

 

妥協案を出すと、そそくさとノクティスとプロンプト以外が引いた。

完全に乗せられたことに若干イラッとするが王の剣や王都警護隊が動き出しているのは事実だろう。

彼らがルシス国内を見てくれている限り、国外逃亡はあり得ない。

魔法で国外に行けば目立ってしまうし魔力も足りないはずだ。

船も出て居ない今、袋の鼠である。

 

思いもよらぬところで王子と従者と一般人の三人旅が始まってしまった。

 

「ぜってぇ兄貴を捕まえる。」

「うん!喧嘩したまんまは嫌だもんね!」

「全くだ。」

 

イグニスとて喧嘩したままでは後味が悪い。

反対したのはある意味従者としての建前なのだが、その辺は黙っておく。

守るつもりで反対したのも確かなのだ。

 

ただ今回は、そんなことよりも早く捕まえて説教してやりたい年上の大人たちがたくさん居た。

メディウムを大切に思ってくれる人達がたくさん居た。

イグニスが考えを変えた理由はそれだけの、それほどのことである。

 

いろんな人に見送られて隠れ家を出た三人は早々にレスタルムへと向かった。

 




おじさんは余計なことしかしません。
主人公にだけ優しい。
おじさんがいった「ところがぎっちょん。」は中の人ネタです。
調べると出てきます。気になる人は検索だ。

三人旅は長くなるため何編かに分けます。
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