スチリフの社。
クレイン地方北部のヴェスペル湖の東側にある旧時代の遺跡。
ルシス国内でミスリル鉱石が発見されているのはスチリフの社のみ。
船の修理は時間がかかるため、王の墓所を回っている間にシドへ渡して直してもらおうと言う魂胆だった。
事情を説明してシドに電話をして聞けば、一旦レスタルムにいるシドニーの知人に加工を頼まなければならない。
何故アーデンがやるべきことがあると言ったのかはわからないが、メディウムから聞いたのかもしれない。
喧嘩をする前にメディウムが提示したやるべきことは二つ。
まず最優先事項、スチリフの社にてミスリル鉱石を採掘すること。
それが終われば現状回収できる残り三本のファントムソードの回収。
伏龍王の投剣、飛王の弓、覇王の大剣。
伏龍王の墓所はヴェスペル湖にほど近い森林地帯、メルロの森にある。
ミスリルの加工を急ぎたいところではあるが、もう一度ヴェスペル湖まで訪れるのは二度手間。
先にスチリフの社、後にメルロの森と決めた三人は水没しかけている森の中を歩いて進んでいた。
途中までチョコボで移動していたのだが、揚陸艇の姿が見えたのである。
ここに来て帝国兵とやりあうことになるとは思いもしなかったが、相手の狙いもミスリルだと推測された。
ほかにここを訪れる理由が思いつかない。
慎重にバレないように進もうか、と言うところで三人の耳にとてもよく通る女性の声が届いた。
「そこの三人組。事情は聞いてるからこそこそしないでおとなしく出て来なさい!」
どんな事情を聞いたのか知らないが敵に言われて大人しく出て行くわけにもいかない。
しかし、次の一言でおとなしく出て行く以外の選択肢がなくなった。
「ディザストロとか言う名前に覚えがあるなら従っておいた方が身のためよ!あいつは人質に拷問するほど最低じゃないけど必要なら火炙りぐらいはするわよ!」
それはもはや拷問ではないだろうか。
無抵抗の人質に拷問するのは国際法違反だろう。
そもそも人としてやばい。
人質なのかはわからないが、メディウムのことを考えて声の主の指示に従った。
声の主はヴォラレ基地で定時帰宅をしたアラネアと呼ばれる帝国の准将であった。
彼女の名は後からメディウムに聞いたが、まさかこんなところで再会するとは。
入り口の前に部下を従えて立つ彼女は三人を見て軽く頷き、手に持った携帯の画面を見せた。
「因みに今のセリフのカンペ。あんたらがミスリル採掘に来るからお手伝いしろって特命。あんた達の正体も知ってる。手出しはしないようにって。」
「俺たちはあんたを知らないんだけど。てかなんだよ特命って。」
「名を聞くならまず名乗りなさい。相手が一方的に知ってても礼儀よ。あと女性にガン飛ばさない。」
「レディに対して不用意な行動だった。申し訳ない。ほら、ノクト。」
「…ごめんなさい。」
ごもっともな返しにノクティスがしかめっ面をし、イグニスがフォローをいれる。
一度刃を重ね合った敵に謝るのは釈然としないノクティスだが、素直に謝った。
滅多に女性扱いされないアラネアはイグニスの発言に一瞬狼狽え、恥ずかしそうに頬をかく。
協力してくれると言うならば今は素直にありがたい。
殴り合うと言う原始的な話し合いではなく文明的な会話がしたいのである。
その為には柔軟な対応ができるイグニスが前に出た。
自己紹介が何よりも先である。
「こちらがノクティス、後ろにいるのがプロンプト、私はイグニスと言う。」
「そんなにかしこまらなくてもいいわ。私はアラネア・ハイウィンド。横にいるのがビッグスとウェッジ。」
お互いに肩書きは言わなかった。
フルネームはその立場を表す為、不用意に言わないのが一番良い。
アラネアは軍を辞めるつもりでなんの縛りもないからか、普通に自己紹介をした。
相手が姓を名乗らなくても気にしない。
名前と顔が一致すれば戦場では十分である。
能力はその都度見ていくしかない。
「それで、特命とは。」
「私達の上司ではないんだけど、将軍の名を借りてディザストロ…ディアが出したのよ。」
「ディザストロ・イズニアで間違いないか。」
「そう。彼と私はそれなりに仲が良くてね。こうやって秘密裏にめんどーなお仕事が回ってくることもあるわけ。内容はミスリル採掘の手伝いとメルロの森攻略の同伴。」
「え、メルロの森も?」
メディウムが教えたのか、メルロの森に用事があることを知っていた。
まさか王の墓所をめぐる理由まで把握しているのではないかと疑うが、手伝う理由がわからなかった。
宰相に続いて謎が深い人物である。
しかし、とても助かる。
三人しかいない中で空中戦などと言う人外技が出来る仲間がいることは非常にありがたい。
歴戦の戦士はどんな人物でも頼もしいものである。
「今は夕方でしょ?夜にしかここ入れないし、メルロの森って最奥のボスさえなんとかできれば対して苦戦しないのよ。先にそっちいきましょ。」
「いいの?」
「この遺跡、夜の判定が九時過ぎぐらいでね。今七時ぐらいだから、二時間も暇になるわよ。」
「二時間あれば踏破できる自信があるのか?」
「四人も戦闘員がいて二時間もかかればスチリフの社なんて踏破できないレベルよ。嫌ならここで二時間後に集合だけど。」
アラネアの発言に三人の行動は決まった。
「行こう。メルロの森に。」
メルロの森は途中滝と標があり釣りも楽しめる。
エンカウントしてしまった敵をアラネアと共に打ち倒しながら進んだ先の水の音で、知っている情報を話したイグニスをノクティスが睨みつける。
釣りと言われるといきたくなるが今は先を急ぐ時。
とてつもなく珍しい事にノクティスが釣り場には目もくれず最奥を目指した。
戦闘力がずば抜けているアラネアのおかげで、最奥手前にたどり着くまで三十分とかからなかった。
流石にボス相手に策無しは軍師の名折れ。
一旦止まって作戦会議が行われた。
トレントとは巨大な樹木と大猿を掛け合わせたような姿をした野獣。
混乱状態にする攻撃を仕掛けてくる。
木である見た目通り、炎属性が弱点。
長い年月を経て、食肉植物のマンドレイクが成熟した姿と言われている。
脳とは異なる神経系を持ち、動物のように刺激に対して複雑な反応をすることができる。
その体は養分補給が追いつかない程に成長してしまっており、徐々に枯死へと向かっている。
年老いたトレントは、森の木々と同化して活動を停止し、また若いマンドレイクへと生まれ変わりを果たすという。
メロルの森はドレイクとトレントの循環がうまくいっている森で、それに連なる野獣が生活を営んでいる。
奥に潜むトレントは確認されている中でも特に長寿で、そろそろ枯死すると言われている。
力は全盛期より出ていないことが予測され、アラネアは単独でも撃退できると豪語した。
彼女の実力を考えれば言い切れるのも納得である。
であれば、アラネアを主体として援護に回るのが妥当であった。
幾ばくかの戦闘で友好を深めた四人は、イグニスの作戦を聞き入れる。
「俺がノクトとアラネアに炎のエンチャントをしよう。好きな武器を使ってくれて構わない。」
「俺とイグニスで後ろから援護するね!」
「任せた。」
「了解。一分で片付けるわよ。」
魔導ブースターによる跳躍と槍に付けられた降下加速装置の重さ。
少しだけひらけた場所の最奥で初撃から重い一撃が飛んだ。
弱点である炎の属性と、大地を抉る容赦ない槍。
てっぺんからつま先まで余すことなく食らったトレントは大きくよろけた。
巻き込まれないように後方でエンジンブレードを構えていたノクティスが続いてシフトブレイク。
間髪入れず衝撃が飛んできたトレントは、よろけるままに地面へと倒れた。
さあ追撃を、とそれぞれ武器を構えたがトレントはピクリとも動かない。
何かを察したアラネアは、申し訳なさそうに乾いた笑い声をあげた。
「あー、ごめん。強く行きすぎちゃった。」
「ほぼ一撃で倒してしまったな。」
「アラネアつよー…。」
手間がかからないのはいいことだがボスらしいボスではなかった。
あっけなく倒れたトレントに全員が微妙な顔で見合い、まあいっかと目的を優先させる事にした。
どうせこの後すぐ、再びダンジョンに潜るのである。
体力は温存できた方がいい。
特命の中にはメルロの森で何をしていたか見てはいけないと言う不思議なものもあったらしく、アラネアは王の墓所を一瞥して先に入口へと戻っていった。
なぜそんな命令があるのかわからないが、ディザストロ・イズニアという人間が理解できなければ到底辿り着けない答えだろう。
考えるのをやめて、ノクティスが開けた王の墓所の内部へと入った。
マルマレーヌの森やラバティオ火山より簡単であった。
いい加減見慣れてきた内装の中で手裏剣のような巨大な武器を抱えて眠る歴代王。
伏龍王の投剣。
明け透けにいって仕舞えば巨大な十字手裏剣。
民の前に姿を現すことが無かった王の証。
なんだか苦労という苦労をしなかった上に帝国兵の力を思いっきり借りて攻略してしまった。
例に習って貸し与えられた王の力は重いが、気持ち的にパッとしなかった。
森の外で待っていたアラネアは誰かに電話をかけていた。
話しかけるのもはばかられ、そっと遠くから盗み聞きする。
協力してくれた恩を仇で返すようなものだがこちらも死活問題。
何か情報を持っているかもしれない。
「だーかーらー!あんたは働き過ぎなのよ!休めって言われたら休みなさい!初めて宰相がまともな事言ってるのよ!?」
宰相の単語が出てくるということはニフルハイム帝国軍関連なのはすぐわかった。
働き過ぎな誰かを諌めているようだ。
「はぁ!?あんたその容態で一秒でも働いたら今から私がぶん殴りに行くわよ。いい?…合流なんてさせないからね。大人しく寝てなよ!」
アラネアが一方的に切った。
こちらに気づいたが、聞かれても全く問題ない会話だったらしく普通に話しかけてきた。
肝が座っているというか、器が広い。
「そっちは終わったの?」
「ああ。スチリフの社に戻るか?」
「そうね。早く行きましょう。」
電話の相手については聞かなかった。
思案顔でここまでくるために乗ってきたレガリアの元に向かう。
聞いても答えてくれる様子ではなかった。
電話の主は森の方角を見てため息をついた。
「ーーあの野郎。切りやがった。」
開け放たれた窓。
涼しい夜風に吹かれて、黒い髪が揺れる。
真っ白な視界の中であまりにもやることがなく、ノクティスの世話を頼んだアラネアに事務仕事はないかと電話をかけたのだ。
どうせスチリフの社の前にメルロの森に行くだろうと想定していて、時間も計算していた。
ぴったり予想通りに森から出てきたアラネアの携帯にかけ、要件を言えばきちんと休めと怒られたが。
何もすることがない時間というものが無かったメディウムからすれば今の状況は一種の拷問である。
体を動かせないならせめてデスクワークがしたい。
抗議してもアーデンにはなしのつぶてで、結局のところ大いに暇を持て余していた。
白いばかりな視界と魔法が使えないという状況が実に鬱陶しい。
アーデン曰く、この体は"見えたもの""考えたこと""聞こえたもの"を元に無意識に魔法を使う。
"魔法を封印して何もさせない"ことが一番の治療だという。
戦闘に出たいならば好きなだけモブハントでもなんでもしていいとお許しは出ているが、その際目隠しを外してはならないし魔法の使用も許可されていない。
自分の体のためなので不用意に破ると今後の計画に支障が出る。
大人しくいうことを聞かざるを得ない。
憎たらしいおじさんは早々にどこかへ出かけてしまったし。
そよ風がカーテンをはためかせる音を聞きながら、寝室のベッドに横たわる。
魔法がないとこんなにもできることが少ない。
聴力が実は落ちていて、魔法で補助していたと聞かされて大いに落ち込んだ。
環境音ですらどこか遠い。
常に崩壊と再生を繰り返す箇所があり、ケアルを永遠に続けていたと言われた。
ケアルがなくなり崩壊し続ける背中の皮膚がジンジンと痛い。
知らぬところで知らない傷が増えている身体を両手で抱え、やることもないと睡眠へ逃げた。
どんな人間でも、寝ている間だけは穏やかに過ごせるのだ。