道のりの割に簡単に終わったスチリフの社から出た時には、既に早朝を迎えていた。
帰り道を悠長に歩いていた所為で扉が閉ざされるギリギリに脱出した。
この後どうしようかは既に決めていて、休む間も無くレスタルムに一度戻るつもりである。
シドニーを通してミスリルの加工依頼をしているのだ。
レスタルムの発電所に勤務している時の女性で、レガリアで早く戻ろうと一睡もせず急くノクティス達をアラネアが止めた。
「待って。私もレスタルムに用があるの。車と一緒に送ってくわ。」
レガリアを揚陸艇に積んで運んでくれるという。
上空を飛ぶ揚陸艇にとって道のりは関係ない。
地上を走るより直線距離を飛ぶ方が早いと判断し、アラネアを信用してお言葉に甘えた。
レスタルムに何の用事があるのか不躾にもプロンプトが聞く。
それを気にすることなく普通に答えた。
「友人の見舞い。すーぐ無茶するから治療中なんだってさ。」
「それってメルロの森出た時に電話してた?」
「そうそう。根はいい奴で上司にこき使われる苦労人。」
アラネアの説明を聞くと親しみやすい人物像だが十中八九帝国軍関係者だろう。
その人物の肩書きを言わないということは聞かないほうがいいことである。
それ以上聞かないようにプロンプトの肩を叩いて止め、レガリアを運転して揚陸艇に積み込んだ。
レスタルムに着くと何やら騒がしくなっていた。
発電所に用事がある三人は一旦レガリアをどうするか顔を見合わせるがアラネアが代わりに駐車場まで運んでくれるという。
帝国軍がルシスの街の問題に無断で首を突っ込むのはあまり良くないらしい。
友人の容態も心配だ、と言ってアラネアにレガリアを任せて街の騒ぎの原因を突き止めることにした。
街に降りればほとんどの市民が噂話をしているので容易に特定できたのだが。
騒ぎの原因は発電所内に侵入したシガイ。
働いていた従業員達は既に脱出済みなのだが退治に向かえるハンターがほとんど出払っているという。
唯一残っていたハンターが現在進行中だが、一人だと心もとない。
もう一人ぐらい欲しいと、発電所をまとめるホリー・トーウェルがハンターを探しているという。
実はシドニーの友人であり、ミスリルの加工依頼をしたのはホリー・トーウェルである。
最初は相応の金額を払うことで話が付いていたが代わりに退治依頼を受けるのも悪くない。
三人は顔を見合わせて発電所に向かい、入り口付近で発電所を見る女性に話しかけることにした。
「ハンターを探してるって聞いたんだけど。」
「君たちハンター?」
「そうだ。それとシドニーを通してミスリルの加工依頼をしたのも我々だ。」
「そりなぁ好都合。悪いんだけどさ、シガイ退治頼まれてくれないかい?」
ホリーの話によると既に先行したハンターとは無線機で連絡中。
外周のシガイを掃討したところで、これから内部に潜入。
気の強そうな印象を受けるホリーはシガイに驚いて腰を抜かしてしまい、止む無く外側から内部状況を確認しつつ依頼できるハンターを探していた。
彼女のほうからミスリルの加工の代わりにシガイ退治依頼を正式に受け、報酬にミスリルパーツを頼んだ。
内部は防護服でなければいけないのだがあいにくなことに女性社員が多い発電所では男性サイズが残り一着。
誰が行くかは一番動ける上に緊急脱出できるノクティスに決まった。
善は急げと防護服を着込み、魔法の使用に問題ないことを確認して無線機を受け取る。
外周で待機している大柄のハンターと合流することが第一目的である。
「中はとっても暑いから早めに片付けちゃって!頼んだ!」
「任しとけ。じゃ、行ってくる。」
「気をつけてね!」
「危なくなったら撤退するんだぞ。」
仲間達に急げと背中を押されて、先を行くハンターの元へとノクティスが走った。
所変わってリウエイホテル。
騒ぎの声が聞こえはするが目が見えていないメディウムはボーッと外を見る。
ベランダには出ないように言われているので、寝室の掃き出し窓を網戸にして南風に当たっていた。
全身包帯だらけで蒸し暑さが増すが、エアコンばかりに当たっていると体調が悪くなる一方。
多少外の風に当たらないと本当に病弱になると脅されて、ロッキングチェアで日向ぼっこをしていた。
ギーギーと音を立てて揺られるだけの穏やかなホテル生活。
入院と大差ないが贅沢なホテル暮らしだと思えば多少気分が晴れる。
何やら部屋の方もガチャガチャギャーギャーと騒がしい気がするが、自動ケアルが途切れてから意識が朦朧とするメディウムは頭がお花畑かというほど穏やかに聞き流していた。
ああ、今日も平和なんじゃないかな。
多分。
入院生活一晩明けて二日目のメディウムはピクリとでも動かせば痛む身体に揺すられながら目を閉じようとすると、バンッと一切大きな音を立てて寝室の扉が開け放たれた。
「なぁんだ。いるじゃない。」
「もう。怪我人なんだから静かに入ってくれないか。アラネア准将。」
「今仕事じゃなくてオフなのよ。准将って呼ばないで。宰相様。てか何この黒髪。イメチェン?」
「あーあー。」
ぽわぽわする思考の中で包帯から覗く黒髪が引っ張られる。
ロッキングチェアの背もたれで見えなかった全身を見て、髪をつかんだ張本人の手が震えた気がするが今のメディウムに気にするという思考はない。
張り詰めていたような空気が秒単位の穏やかな流れに感じているのは精神がピリピリしすぎているメディウムの為にかけたアーデンの体感時間魔法なのだが、怪我も相まって異常なほど様々な速度が遅かった。
普段の彼なら扉が開く前に誰がいるか確認するはずが、まだ誰かが入ってきたという考えにしかたどり着いていない。
「なにこれ。たった一日で重体患者じゃないのよ!あんたディアになにしたの!」
「わー!ストップストップ!なにもしてないよ!元々こんなに酷いのを隠してたんだよ!」
「もっと早く言いなさい!バカ宰相!」
「君、オフになると口悪くなるね?上司なんだけど?」
「うっさいわね。」
なにもしてないわけではないが元々重体患者なのは嘘ではない。
アーデンがしでかしたと思った相手は殴りかかろうとするが、止められて言い訳されて一先ず押しとどまった。
治療されているのでアーデンが一緒になって隠していたかもしれない可能性が拭えない。
逆に言えば治療してくれているので見捨てる気は無いのだろう。
胸ぐらから手を離して、今度はボーッとしているメディウムの頬をペチペチ叩く。
アーデンがそっと体感時間魔法を解いた。
「ディア!起きなさい!」
「…んぁ?なんだこの声。アラネア?」
「そうよ。アラネアお姉さんよ。見舞いに来たわ。」
「まじか。わざわざありが…え?アラネア!?イッ!?」
「あー無茶に動くから。」
ようやく頭が追いついて来たメディウムが焦ってロッキングチェアから立ち上がろうとすると、チクリと全身に針が刺されたかのように痛み出して動きを止める。
脱力して再びロッキングチェアに沈んだメディウムの肩をそっと叩いてアーデンがアラネアに押入られたのだと肩をすくめた。
黒髪黒目のままだが目隠しをしているため大惨事にはなっていない。
「あんたから電話きてレスタルムにいるーっていうからわざわざきてあげたのよ。で、その髪なに?」
「まあ、イメチェン?」
歯切れの悪いメディウムにアラネアは顔をしかめる。
イメージチェンジなどしている暇があったら仕事をしろというほど忙しい帝国軍で、この真面目な副官が髪の色を変える理由がわからない。
スチリフの社で別れてからたった一日しか経っていないのに。
さらに、毛染め特有のグラデーションや痛みなどは見受けられない。
地毛というのが正しいレベルで真っ黒である。
怪しんだアラネアは目隠しもとってやろうと目にも留まらぬ速さで目隠しを強引に抜き取る。
人の手で取られれば簡単にとれる目隠しがシュルシュルと音を立てて取れたが、頑なに目をつぶったままだった。
「なによ。見られてまずいものでもあるの?てかどっかで見た顔ね。」
「どこでも見た顔だろ。お前と付き合い長いし。」
「ディザストロとは違うのよね。ここ最近一緒に動いた誰かと一緒だわ。勘だけど。」
完全なる失態である。
アーデンに助けを求めるように顔を向けるが援護なし。
バレても構わないのかと問いたいが、アーデン的には気にしていなさそうだ。
メディウムが気にするからこそ隠しているのを黙認していたが、今尚必要事項かと聞かれればそこまでではない。
軍を離れると公言しているアラネアに真実が伝わったところで、どうすることもできないだろう。
否、しないだろう。
「まあいいわ。あんた昔っから隠し事多いし。その傷含めてね。帝国兵の衛生兵が気づかないって相当のステルススキルよ。」
実際には存在し言えない傷なので気づかないのは当たり前である。
ケアルが切れて始めて浮き彫りになる怪我の数々を帝国の衛生兵が気付けたらとっくのとうにルシス王国を属国にしているはずだ。
嫌味のような一言を残して言及を避けたアラネアの隙を見て目の色だけ橙色に変色させる。
髪の色はスプレーなどと適当に理由をつけることにした。
「今回の任務で黒毛の方が目立たないってアーデンが。これはスプレー。怪我は切り傷がひどくてわからなかったんだろう。」
「…ふーん。」
納得していない、という調子だがいちいち聞く気はないらしい。
ため息をついてロッキングチェアの隣に椅子を引っ張ってきて座った。
ネックレスによって橙色になった目を見開いて、アラネアを見る。
「あんたのそういう態度は軍で育ったからかしらね。」
「どういう態度だ?何かまずかったか?」
「人を根っこで信用してない態度。付き合いの短いやつなら誤魔化されてくれるかもしれないけど、私には全然違う理由だって分かる。」
「…さぁてな。」
スッと目を細めて挑発するようにアラネアを見るが軽く流された。
小手先の誤魔化しは通用しない。
彼女は実力だけではなくその勘で戦場を生き抜いてきた。
彼女が嘘だと言えば、大抵は嘘なのである。
「ちょっとは信用されてる自信あるけど、やっぱり全部は無理ね。宰相しかそこまで信用してないって顔に書いてあるわ。」
「この人が一番信用できないぞ。」
「"信用できない"ところを"信用してる"んでしょ。」
「どういうことだそれ。」
「そーいうことなの!」
グリグリと頭を撫で回される。
眉を下げて笑うアラネアは手土産に適当に買ってきた絵の具をメディウム改めディザストロに渡して、外の様子を伝えてくる。
ノクティス達は無事にメルロの森とスチリフの社を攻略し、一旦ここで別れたとのこと。
何やら騒がしいレスタルムの街は現在発電所にシガイが侵入中で、その駆除のためにハンターの募集をしているとのこと。
大柄で顔に傷のある男が先に潜入している噂を聞き、絵の具を購入したところで後にノクティスも潜入しているという話も聞いたという。
もう一人のハンターの容姿に聞き覚えのあるディザストロは良いタイミングであったと独り言ちた。
きっと先行しているのはグラディオラスである。
メディウムの家出を知らないグラディオラスはこのあと挑む二つのダンジョンに同行してくれるはずだ。
そうなればルシス国内を飛び出してオルティシエまで一気に行ける。
それまでにこちらの体の調整が間に合えば良いのだが。
「報告は以上よ。王子様を手助けするようなことしちゃったけど、良かったの?捕縛令でてるのに。」
「黙っていれば問題ない。なんせ知名度が低いからな。」
「君も黙ってればね。アラネア准将。」
「わざわざ喋らないわよ。退役しちゃえばこっちのもんだし。」
今はまだ落ち着いているが妙な動きが増えたニフルハイム帝国にほとほと嫌気がさしているらしい。
そのうち一般人にも手を上げそうだと嫌そうに語った。
王都襲撃戦には参戦させないように手配したが、罪のない一般人を巻き込むあの戦い方は彼女の腹に据えかねている。
また同じことが繰り返すだろうと、アラネアは直感していた。
その時は命令違反だろうが一般人の命を優先することを決めている。
「で、あんたの傷はいつ治るのよ。」
「早ければ数日で。」
「それは早すぎでしょ。これ一ヶ月は寝込みそうよ。」
「治りだけは早いんだ。」
「ふーん。あんたにじっとしてろって方がおかしいもんね。休んで欲しいけどそこはなんとも言わないわ。」
「もう言ってるじゃないか。」
確かにいつも忙しなく動いてはいるが。
そんなにじっとしていられないわけではないのだ。
「私はもう少しノクティス王子達と動こうと思うの。」
「え?なんで?」
「軍をやめたら傭兵でしょ?顔売っておかなきゃ。任務ってのもあるわね。残業代が宰相の財布から出るって。」
「打算的だな。じゃあディザストロがよろしくって言ってたと伝えてくれ。」
「あら。名乗り合う知り合いだったの?」
「故あってな。」
長居しても悪いとアラネアが席を立つ。
ディザストロは部屋の玄関先までに留めてアーデンがロビーまで送った。
アラネアがノクティス達について行ってくれるのはとてもありがたい。
彼女は准将でもトップクラスの実力。
ハイウィンドと言えばあの槍使いだと誰もが震え上がる。
経験豊富でこれからの戦闘で大いに活躍することだろう。
何より定期報告の約束をしてくれた。
合わせる顔がないがやはり心配で、様子が知れるのは嬉しい。
アーデンがなぜそのような仕事を任せたのか定かではないが便利といえばそうである。
寝室のベランダから見えるレスタルムの街の喧騒を聞きながら次はどこのダンジョンに向かうのだろうかと思いを馳せた。
グラディオラス、アラネアがパーティーイン。