弱い足音
澄み渡るような青い世界。
否、青しかない空間。
空っぽの場所は何にもなれない半端者にふさわしいとばかりに、忌々しいほど輝いて居た。
所詮は王にも民にもましてや人間にもなれない大馬鹿者。
今更世界を救うなどおこがましい。
立っているのか浮いているのか沈んでいるのか。
何もかも分からない世界で包帯だらけの体を見る。
ーー自らを犠牲にしても得られたものはこれか。
ほれみろ。何もないじゃないか。
誰かが耳元で馬鹿にしたように囁いた。
うるさいな。
これでも頑張っているんだ。
今更口を出されたって戻れないところまで進んでしまった。
知らない奴が適当に言うんじゃない。
過程を見もしない。
結果論だけで人を図るな。
ーーそっくりそのまま君に返す。
半端者。
過程なんか見もしない。
皆が救われる結果だけを求めて人の気持ちなんか考えやしない。
だから君は人にも道具にも王にもなれないんだ。
どうせ何もできないならやめて仕舞えばいいのに。
それすらもできない。
違う。
弱いからこうなってしまうんだ。
自分が弱いばっかりに結果も過程もぐちゃぐちゃだ。
合理性のかけらもない。
ーーそうだよ。
自己満足の自己犠牲。
自分のために自分に押し付けて他人にも強要する。
気分はどうだい?
世界のヒーロー気取り。
違う。
俺はそんなつもりで世界を救おうとしてるんじゃない。
ーー見て欲しいんだろう。
褒めて欲しいんだろう。
お前はよくやった。お前は頑張った。
昔母親と父親にやって欲しかった願いを大人になってからも引きずって。
誰にも愛されてないってまだわからないのか。
いてもいなくても変わらないって分かってるだろう。
それ…は。
ーー否定ぐらいしてみろよ。
ああ、できないよね。
だから半端者なんだよ。
「うるさい!俺は!」
「うわっ。何。嫌な夢でも見てたの?」
「目覚め悪りぃっ!クソ!」
むしゃくしゃする感情のまま枕に拳を落とす。
魔法を取り上げられた今の状態ではポスッと音を立てて柔らかさに受け止められた。
震える両足と血が滲んでいるだろう包帯。
真っ白な視界とろくに聞こえもしない耳。
不良品の自分が兵器にも道具にもなれないのは重々承知。
だが国のため家族のため世界のため動く。
使命だから。大切だから。
その全てが自己満足の一言で片付けられる訳がないのに妙に納得してしまった。
世界を救えば誰かに認めてもらえる。
神の言う通りにすれば自分の存在意義がある。
馬鹿にしながらも考えが一致しているあの声にぶつけられない怒りを覚えた。
少しだけ刺さるような気配を感じて後ろを見ると、アーデンらしき気配が呆れたようにこちらを見ていた。
「何に怒ってるのか知らないけど、包帯変えないと衛生的に悪いよ。」
「…見えねぇよ。」
「イラつくと口悪くなるなぁ。はい、腕出して。」
「ん。いつになったら取れるんだ。」
「目は今取ってあげる。他はしばらくこのまま。」
目の包帯を取られて、世界の色彩に瞬きをする。
二日ほど目を開けていなかったため脳が色彩に驚いているようだがそのうち治る。
絵を描く側として色彩感覚がもともと豊かだ。
また彩りを覚えればこのチカチカする視界もなくなる。
両腕と両足の包帯を取り替えて、いつものように支えられて歩く。
リビングにはあらかじめ調理された食材が並べられ、購入してきたのが伺える。
朝は軽くスクランブルエッグとベーコンの乗ったトースト。
エボニーコーヒーをつけて帝国風の朝食だ。
親の顔と同時に見て育つこと間違いなしの料理である。
コーヒーではなく牛乳かジュースに変わるだろうが。
椅子に座らされて向かい側にアーデンが座る。
ジグナタス要塞にいた時も外での食事を取る時も必ず向かい合って食べた。
小さい頃はレギスとは長い机の向こう側で愛想笑いの応酬だったのに、妙に近い小さなテーブルで小ぢんまりとした皿に二人だけで食べる朝食に困惑を覚えた。
今ではすっかり慣れてしまったがこの食事の取り方は嫌いではない。
「どんな夢みてたの。」
「掘り返すのかよ。」
「気になるじゃん。」
「あー、変な夢だよ。冷静になって考えりゃしょうもない夢だ。」
少し冷めたベーコンを齧りながらもそもそと喋る。
行儀が悪くても要領がいいメディウムはアーデンに叱られたことがない。
からかわれたことは多々あるが、基本叱らない人だ。
悪い時は悪いと教えられたがアーデンの方がよっぽど悪いことをしている。
そんな奴に怒られたらおしまいだろうと少しだけ思うが、良識はあるようだった。
スパルタさえなければいい父親だ。
「ふーん。心乱すのは人間らしいってところだけどあんまり激情に身をまかせると魔法が暴走するよ。特出すべき才能にステータスガン振りもいいところなんだから。」
「悪かったな特化型で。どうせゲームだったら使いづらさに序盤は放置されるよーだ。」
「ほんと扱いづらいよね。ため過ぎればパンクするし使い過ぎればガタがくる。」
ヒリヒリと痛む肌をみて呆れたような声を出された。
通常、魔力は保有量の限度を越えれば省エネモードに入って魔力の生産を極度に落とす。
メディウムの体は常にブーストがかけられた状態で、省エネモードでも通常の王族より大量生産してしまう。
体が耐え切れず爆散するかもしれないと言う危険状態なのだが、内臓も痛む二重苦で自動発動のケアルが常に起動している。
ある意味生産と供給の釣り合いが取れているのだが負の連鎖に変わりはない。
時折強制的に止めてやらねば寿命が縮まる一方。
しかし、使わねば破裂するのでその前に発散させる。
そこでアーデンが発案したのがディザストロに扮してノクティス達と共にダンジョンに潜ることであった。
ただし危険度を省みて武器召喚の一切を禁止。
近接戦闘は緊急時のナイフのみに限定。
その他はアサルトライフルとスナイパーライフル、ハンドガンで対処すること。
「なんだそのゲームコンテンツ。」
「やらないと死ぬよ?戦うと言うより謎解きがメインなコースタルマークタワーがいいと思うんだけど。」
「鉱山よりは確かに安全だが、ノクトたちが次向かう場所なんて…ああ、アラネアに誘導を頼むのか。」
「そういうこと。このマガジンは魔力を込めれば鉛玉と変わらない威力で撃てる。二つ渡しておくから魔力が尽きる寸前ぐらいまで減らしてくるように。」
「終わったらまた監禁か。」
「包帯は多少ケアルが発動するレベルまで減らしてあげるけど体の可動範囲をしっかり把握するといいよ。」
「へーへー。喧しいわ。早く取れよ。」
軽いマガジンを受け取って包帯を外してもらっている間、白い外陰と銃を召喚する。
全身に巻かれた二重の包帯を一重に減らして、まだ落ちている視力用の眼鏡と多少遠くなった耳のために集音魔法がかけられたイヤリングをつける。
筋力を補うために魔道ブーストのアーマーを改良したブーツと腕輪をもらった。
今前線に出ている帝国兵よりも重装備なのではないだろうか。
顔の印象は眼鏡と色合いのおかげでだいぶ変わる。
白い外陰を口元まで上げて準備は完了。
アラネアへの連絡はこちらですることになった。
「チョコボポストまでテレポートとかできねぇの?」
「地道に行きなよ。揚陸艇は手配してあるよ。」
「それ地道じゃないだろ。仕事はええし。」
無駄に手配の早いアーデンに先に計画していたことを悟り、ジト目を送った。
飄々とした態度で知らん顔。
これは相手にしてくれないパターンである。
問い詰めても答えは出ないのでさっさと出立してしまうことにした。
「任務、承りました。行って参ります。」
「はいはい。行ってらっしゃい。怪我しないようにねぇ。」
役職柄まじめに発言したにも関わらず軽い上司に若干ムカつきながらも、チョコボポストを目指してホテルから出て揚陸艇に乗り込んだ。
「というわけで貴方達の攻略作戦に参戦させていただきます。ディザストロ・イズニアです。」
「あんの!宰相!怪我人に!何させようと!してるのよ!」
ガスガスと地面を蹴るアラネアと困惑気味のノクティス一行。
魔法のくだりやら日常の風景やらは省いたが任務だからついていくという概要は伝わった。
怪我人だと知っているアラネアは鬼の形相で怒ったが宰相直々の命令となると跳ね除けるのは難しい。
任務に行かせないと反逆罪で罪に問われるのはディザストロだ。
ので、発散できない怒りを地面にぶつけているわけである。
「アラネア准将。心配されるのはわかるが体調は万全だ。多少の遅れはなんとかできる。」
「怪我人とお年寄りと子供は戦場にでちゃいけないのよ!的にしかならないわ!」
「俺はただで的になるほど甘くはない。」
「そういうことじゃない!もう!あんたら親子関係どうなってんのよ!親は鬼畜だし!子供は頭いいのにバカだし!なんなのよ!私の胃が痛いわ!」
アラネアのご乱心である。
頭いいのにバカとは誠に遺憾である。
頭の出来はいいのに人として欠けていると指摘されるのは初めてのことではないが、言い方がアレである。
アラネアの心配は嬉しい。
しかし行かねば反逆罪。
そうじゃなくても魔力で死ぬ。
行かないという選択肢はないのである。
「なあ、俺たちの意見無視か。」
「コースタルマークタワーは非常に迷いやすい。道案内が居て損なことはない。」
「こいつは一度踏破してる。確かに道案内は適任。腕もいいわ。」
「残念ながら近接は禁止されている。銃での援護になる。」
「当たり前よ!剣なんて持ってたら私が取り上げてたわ!」
頭が使えない三人がイグニスをみる。
確かに損ではないのだがディザストロという人間がわからない以上、危ないダンジョンでの同行を迷ってしまう。
アラネアは安心できるが。
迷うイグニスにアラネアが渋々助言をした。
「こいつは闇討ちなんかしないわ。するならとっくのとうにしてる。私に連絡を入れてここまで誘導してのこのこ出てくる前に王子様の頭ブチ抜いちゃえばよかっただけだし。それをしなかったってことは目的は別のところにあるんでしょ。誰の目的とは言わないけど。」
「俺は常に上司のために動く。帝国の未来など知ったことではないが民草が平和であればいいとは思う。そのための手順だよ。」
「このダンジョンに潜るのが?」
「その王子様を手助けするのが、だ。私の出身国はルシスでね。思い入れはある。」
育ったのは帝国だが。
根っからの帝国軍人だと思って居た四人は面食らったような顔をする。
所属は違えど同郷。
なぜ帝国側についているのかわからないが、先日話を少しだけしたイグニスは"拾われた"という言葉を思い出す。
そのまま辿るならば拾ったのは帝国の宰相。
彼が軍人になったのは宰相への恩義か教育か。
筋の通る話ではある。
「同郷のよしみというわけではないがアラネアのいう通り闇討ちなら事前にするだろう。俺はひとまず安全だと思う。」
「俺も賛成。たくさん人がいた方が早く攻略できるよ。」
「異議なしだ。」
「んじゃ、そういうことで。よろしく。ディザストロ。」
「ディアでいい。同行の許可、感謝する。」
五人パーティーだったノクティス達に一時的に加わったディザストロ。
これにて六人パーティーでコースタルマークタワーに挑むこととなった。