コースタルマークタワーはスチリフの社同様、夜にしか進入できない。
近場にある標にて夜まで待機することになった。
その間ディザストロは少し離れた場所で訓練をするとアラネアを保護者に標から離れた。
膝立ちでアサルトライフルを構える。
スコープの先に映る樹々のさざめきに耳をすませ、目に見えるものを頭に叩き込み音と気配を識る。
包帯の所為で格段に落ちてしまった身体能力の中で最も頼りになるのは五感。
日頃から坐禅を行うディザストロは人より感覚が鋭い。
視力が落ちでも聴力に補助が必要でも嗅覚が鈍っても、常人よりは鋭い。
であればあとは一点集中。
狙いを定めて一発。
サイレンサーによって音が遮断されたアサルトライフルの反動に、当たった感覚。
もう一度スコープを覗くと多少ズレてはいるが真ん中に辺りには当たった。
射撃能力のない彼にしてはなかなかである。
フーッと息を吐いて魔力で打てるマガジンと銃身を確認するが、火薬のような痛みは多少でるらしい。
魔力はそこまで消費を必要としない。
ディザストロの保有量が仮に一万だとすれば一も消費しないぐらいだ。
三発ほど打てば一は減るだろう。
「あら。随分いい腕になったじゃない。」
「お褒めに預かり光栄です。准将。」
「その魔導アームのおかげ?」
甲冑のように腕にはめられたアームを見て察したように問われる。
これは昔からある射撃補助の魔導アーム。
腕の向きを標的に合わせる動作を固定できる。
相手が激しく動かない限り撃ち漏らしはありえない。
今回の相手はシガイなので固定能力よりオートエイムの能力がつけられたアームが用意された。
こちらは試験段階なので現場実験ともいう。
アラネアは槍の名手。
彼女には必要ない。
「途中で壊れるかもしれない試作機だ。途中でお荷物になる気は無いが前線にはでないぞ。」
「当たり前よ。誰がいいって言っても私が許可しないわ。」
「本来ならそちらがメインなのだがなぁ。」
「怪我は直してからじゃ無いと。悪化させて大事な時に前線に出られないのは嫌でしょう。」
「まあ、な。」
大事な時の前線。
ディザストロという人間とメディウムという人間の境目が消え失せ、世界の為に身を捧げる時。
その時に怪我で出られないなどお笑い種にもならない。
生きていた意味さえも消えるような真似はしたく無い。
自分の生きて来た人生は、決して無駄では無いのだから。
先日見た夢の言葉が頭にこびりついて離れない。
ファントムソードは残り三つ。
レイヴスが持っていると聞いたレギス王で一つ。
神凪の鉾が一つ。
その全てが揃う前にオルティシエの前哨戦。
死を偽装し、そのあとは全てアーデンに任せる。
計画とも言えない計画が今も進められている。
本当にこれで全てが片付いても良いのだろうか。
父親とも慕ったあの蹴落とされた王を殺すことこそが本当に自分の使命なのだろうか。
そこに意思は。
「…あんた、ここ最近で人間らしくなったよね。」
「は?」
「前までずーっとニコニコしててさ。正直気味が悪かったけど、今は悩んだり考えたり怒ったり悲しんだり本気で笑ったり。いい顔するようになったんじゃない?」
「なんだよそれ。俺はいつでも気分に正直だよ。」
「でもなんかね。閉じ込められてる気がしてたのよ。帰りたい場所が、成し遂げたい思いがあるのにカゴが邪魔で出られない鳥みたいな。」
籠の中の鳥。
間抜けな構図だ。
世界という籠の中に閉じ込められたまま一生出られないディザストロにはお似合いの言葉がしれない。
"監禁されているのがよく似合う"とアーデンが冗談とも本気とも取れるように言った言葉。
アラネアもそのように感じたのか、言い得て妙だと同意した。
「あの鬼畜と同列なのは癪だけど、そうね。私もその通りだと思うわ。それと同時に外に飛ばしてあげたいとも思う。」
包帯に巻かれた腕をアラネアが取る。
真っ白に染まったその腕の下の皮膚も陽の光を知らないかのように白い。
血をこぼしたかのような赤い髪と爛々と輝く橙の双眼が白いキャンパスに彩りを与える。
その様が何にも変えがたい芸術。
ディザストロという存在を彩る素晴らしき色。
それらを外に出したいと、日の光を浴びせたいと願うのは彼を大切に思うからこそ。
親友たるアラネアの優しい顔に怪訝そうに眉を寄せたディザストロがいつまで触っているのだとその手を軽く叩く。
ペチリと柔らかい音を立てて手を放した。
「あんたはカモメね!海鳥!夕日を見に来たカモメ。」
「はぁ?さっきからなんなんだよ。」
「元気付けようとしてんの、よっ!」
「いって!」
バシッと強く背中を叩かれて前のめりになる。
かなり痛い背中をさすってアラネアをにらんだ。
楽しそうにあくどい笑みを浮かべるアラネアは優しさに満ち溢れていた。
「ほら!日が沈むわ。準備するわよ。」
「はいはい。准将殿の言う通り。」