FFXV 泡沫の王   作:急須

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覚悟は燃える

目が覚めた頃には清潔なベッドにいた。

開け放たれた窓から流れ込む熱風と活気を考えるに、レスタルムだろうか。

少しだけ傾いているような気がして右側を見ると、寄りかかるように眠るアラネアがいた。

 

たしか、コースタルマークスタワーで蔦のシガイに右半身を貫かれたはずなのだが傷はすっかり癒えている。

包帯も巻き直されて新品同様だ。

まだ体にだるさが残るのは血が足りていないせいだろう。

するりとベッドを降りてリビングへの扉を開くと、血まみれの包帯が積まれた机の奥でコートとベストを脱ぎ捨てたアーデンが寝転んでいた。

 

ワイシャツ姿のアーデンに近寄って、ツンツンとその頬をつつくとがっしり手首を掴まれ引っ張られる。

バランスを崩してポスッと硬い腹筋に顔を埋める羽目になった。

 

「任務、ご苦労様。俺は魔力を減らしてこいとは言ったけど血を減らしてこいとは言ってないよ。」

「任務完了。最後の油断が敗因です。治療、感謝いたします。」

「…随分と淡白だね。何か嫌なものでも見た?」

 

なぜここに連れてこられたのかさっぱりわからないが、無意識のケアルのおかげで大きな傷跡以外は問題ない。

引き攣るような皮膚に苦笑いをしながら向かいのソファに座ると、アーデンが怪訝そうにこちらを眺めた。

 

「俺は悪人だと実感しただけだ。」

「何を今更。」

 

開け放たれたベランダの窓を遠い目で見る。

生暖かいレスタルムの風に吹かれながら思うのはあの蔦。

否、双子の試験管ベビーである。

ジグナタス要塞で行われていた人間をシガイにする実験。

帝国内ではアーデンが秘密裏に行なっていた極秘実験だ。

研究者のヴァーサタイルが一枚噛んでいたとは言えよく隠蔽できていたと思う。

 

実験はおおむね良好で、試験管ベビーの双子はシガイになった。

 

赤い華。

薔薇のような棘の蔦が姉のフランシール。

青い枝。

幻の青い薔薇が身を守るかのように麻痺の毒を纏う弟のブランシェ。

名前は一般的に付けられる子供の名前からとったのだが、名付け親はディザストロであった。

それ故にシガイにしてしまったことに罪悪感と後悔があったが見て見ぬ振りをしたのは自分である。

己の使命のために見捨てるものは見捨ててしまった己のツケがこの傷跡だ。

 

「…いずれ人は罪を償わなきゃならない。」

「あの双子は君の罪じゃないよ。」

 

まるでマルマレーヌの森での一戦やコースタルマークスタワーでの出来事を見てきたかのような発言にディザストロはアーデンを見る。

帽子で顔を覆うように隠しながら言葉を続けた。

 

「俺の罪だ。君はあの子達の名付け親ってだけさ。シガイにしたのも、二人を分けて放ったのも俺だし。」

 

やっぱり。

ジグナタスに居るはずの双子がどうして外にと思ったが案の定この男が放ったようだ。

ノクティス達にちょっかいをかけるために放ったのだがその被害をディザストロが被ってしまった。

執拗に狙ってきた理由は分からないままだが、どちらも瀕死の重体にさせられた。

兵器としてはとんでもない成果だろう。

生身の人間、魔法を持たないハンターなら出会いたくないシガイだ。

 

「…君はもう十分罪を償ったさ。」

「あ?なんだよ。聞こえなかった。」

「なんでもなーい。元気になったならご飯でも買い出しておいでよー。」

「病み上がりに買い出しさせるのか…。」

 

文句を言いつつもコートを羽織って部屋を出て行った。

 

ドアの閉まる音とともにアーデンは人知れずため息をつく。

ディザストロの罪は全て彼が高潔であるが故に生まれ、神が理不尽な故になすりつけられたものばかりだ。

生き汚いその辺な人間ならば羽虫程度にも気にしない罪を常に償い続けて居る。

 

生まれて来たことも、今も生きて居ることも、第一王子であることも、魔法の天才であることも、王に選ばれないのも、全て彼の責任ではない。

けれど世界は彼に罪という罪をなすりつけ、その罪悪感の償い方として世界の救済を押し付けた。

彼にとっては生きることそのものが一生の罰だ。

 

アレほど傷ついた体でまだ罪を償おうというのだから、アーデンには大馬鹿者にしか見えない。

 

「ほんと、俺も君もどうしてこうなっちゃったんだろうね。」

 

ベランダから下を見て外を歩く赤い頭を眺める。

市場に向かう彼はいつか若い頃の自分にそっくりだ。

 

「親と子って似るのかなぁ。」

 

本人が聞いたらやめてくれと後退りしそうな冗談を言いながら、血濡れの包帯を片付け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!ディザストロ!」

「んぉ、おまふぇあか。」

「串焼き食べながら歩くなよ…あぶねぇだろ。」

「ズボンとブーツに素肌にそのまま包帯と前を全開にしてコート…風邪を引くぞ。」

「いや突っ込むとこ違うだろ!なんで瀕死だった奴が悠々と外歩いてんだよ!」

 

プロンプトの声に気がついて大通りのレストランに立ち寄れば、イグニスとグラディオラスがボケてノクティスが突っ込むという珍しい光景が見られた。

よく見れば彼らはちょっとボロボロである。

 

「俺さっき目が覚めたばっかで何が何だかわかってねぇんだよ。串焼きうま。」

「タワーから出た後アラネアが治療のために信頼できる場所に預けるっていってそのままだったんだよ!あれから一週間も立ったから心配してたんだ!」

「なんだ。一週間寝ていたのか。にしてもお前らボロボロだな。」

「本人なんでこんな気にしないみたいなノリなんだよ!」

「俺たちはもう一つの目的の品を手に入れて来てな。」

 

事の顛末はこうである。

 

まず、シガイに貫かれ瀕死の重体となったディザストロをアラネアが担ぎ上げ、全力でコースタルマークスタワーを脱出した。

応急処置の止血と消毒はなんとかなったが内臓にもダメージが入っていた。

ケアルで内臓の補填はできない。

現代科学に頼るしかないと、揚陸艇で真っ先に衛生兵の元へ向かおうと思ったが人間を見る衛生兵は殆どこの地にいない。

病院があったとしても帝国軍人を見てもらえるとは思えなかった。

 

最終的に思い当たったのがレスタルムにいるアーデン。

レガリアで移動し、まだ目的を達成しきっていないノクティス一行とはコースタルマークスタワーで別れ、揚陸艇で一直線にレスタルムのホテルに向かったという。

その後のことを彼らは知らないが、先ほど見た夥しいほどの血濡れの包帯を見るにかなり危ない状況だったのか。

心なしか魔力が枯渇寸前とは言わないが少なすぎるほどだ。

 

およそ一週間にも及ぶ決死の看病の末、目が覚めたディザストロは呑気に焼き鳥を食べ続ける。

その一週間の間に、彼らはもう一つのダンジョンに潜ってきた。

バルーバ採掘場跡と呼ばれる廃坑。

彼らの目的はこの地で入手できる最後のファントムソード、飛王の弓であろう。

技術に秀で数多の武器で戦った王の証と言われているがかなり大変な目にあったようだ。

 

「今にも落ちそうなエレベーターで最下層まで行ったらゴブリンに扉閉められて鍵までかけられちゃったりとか!アラムシャっていう武士みたいなシガイに細道で突き落とされたりとか!もう大変だったよ!」

「そらまた災難だな。」

 

身振り手振りで大変さをあらわすプロンプトに苦笑いを返し、串を近くのゴミ箱に捨てる。

彼らはこれで最初にアーデンに提示されたメディウムに会う条件を見事クリアしたわけだ。

一頻りダンジョンの話をした後イグニスが話を切り出す。

 

「これで目的は果たした。」

「ディザストロ、頼む。兄貴に会わせてくれ。」

 

王は決して頭を下げない。

しかし、真剣な瞳で真っ直ぐとこちらに頼みこんできた。

これを断る馬鹿はいない。

 

「受け入れよう。ホテルのロビーにて待っていてくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二週間ほど別れていた兄にようやく会える。

ホテルのロビーで落ち着かないように行ったり来たりするノクティスの元に包帯の取れたディザストロがやってきた。

 

「待たせたな。面会は四人でいいな。」

「ああ。」

 

それだけ確認すると、付いて来いとでもいうように上の階へと上がっていった。

最初にプロンプトが話をした部屋と同じ応接室に通され、四人分の紅茶が既に用意されていた。

ディザストロはそのまま奥の部屋へと入り、出てきたときには車椅子のメディウムを連れてきた。

種明かしをすれば迎えに出て言ったのはディザストロに変装したアーデンであり、車椅子に座っているのが本物のメディウムである。

寝室にいたアラネアはかなり喚いたが一時退散してもらった。

 

目に光のない濁ったような黒いメディウムの瞳に四人は息を飲む。

二週間ほど前に喧嘩別れした時とは大違いと言えるほど様変わりしていた。

身体中が包帯に覆われているのはかわらないが、意識が朦朧としているのか時折ギョロリと目を動かす。

包帯による魔力遮断が最大化されているのだ。

これは一種の治療。

使いすぎた魔力が半分ほど回復するまで包帯を緩めることはできない。

 

先程まで元気に外を歩いていたというのに魔力がほとんどなくなった途端これである。

メディウムにとって魔力とは命であり人生であり存在そのものだった。

だからこそ、回復のためにこのような姿になっている。

 

「兄貴…だよな。」

 

声をかけても反応がない。

体を動かすのもままならないようで、ディザストロが車椅子から抱え上げ、そっとソファに座らせた。

それでようやく反応したようにメディウムは四人を見る。

 

「頭が…朦朧とする。もう少し緩めてくれ。」

「却下だ。そのまま話を続けろ。」

 

ぽすぽすと頭を叩かれる。

ノクティス達はディザストロとメディウムが友人同士なのは知っているが心の距離が明らかに友人などという枠からはみ出している。

側から見れば家族のようであった。

実際中身がアーデンなのだから家族のように見えて当然なのだが。

そんなこと知る由もない四人は疑問しか浮かばない。

そんなことなどどうでもいいと言うようにメディウムは声をかけた。

 

「どうやら"この国でやるべきこと"を終わらせたようだな。」

「ああ。旅立つ準備はできている。あとは兄貴だけだ。」

 

迎えに来たと言わんばかりのノクティスを一瞥してメディウムはため息をつく。

彼はまだ自覚が足りていない。

このままアコルド政府に向かわせるには少々心もとない。

何より、自分と弟の立ち位置をはっきりさせねばならなかった。

 

「…ノクティス・ルシス・チェラム。君は第百十四代目ルシス王だ。」

 

メディウムは何者も映さない真っ黒な瞳を夕日が沈む外に向けた。

レスタルムには珍しい、冷めるような冷たい風を感じる。

夜の静けさを届ける風はメディウムの頬を撫でてどこかへと消えていった。

 

「メディウム・ルシス・チェラム。王家臣。それがお前と俺の立場であり壁であり必要な線引きだ。」

 

グラディオラスはあの喧嘩の時にその場に居合わせなかったが彼は王の盾として誰よりも理解している。

イグニスはそもそもノクティスが一番だ。

立ち位置を曖昧に認識しているのはノクティスとプロンプト。

 

「俺が言えることはない。あとはノクティス自身が成長していくしかない事柄だ。故に俺は家臣として問う。」

 

濁った瞳が一瞬だけ鋭く輝くような、それでいて見たものを惹きつけるような王の瞳となる。

 

「王となる自覚はあるか!お前に歴代王の意思を継げるのか!」

 

ノクティスは黙り込んだ。

自分には断定的に言葉を返す資格がない。

だからこそ兄弟喧嘩にまでなった。

けれど、ノクティスは王として返さねばならない答えがある。

 

「自覚はまだ足りない。実力だって足りない。けれど、俺には支えてくれる仲間がいる。救うべき民がいる。王になる覚悟は、出来た。」

 

メディウムはそっと目を閉じた。

ディザストロの仮面の中でアーデンがそっと嗤うのを感じたからだ。

見事にルシス王に育て上げ、更に高みへと進める可能性が出て来た。

それもこれもメディウムというイレギュラーあってこそ。

叩き潰し甲斐がある。

 

「ならば俺は共に道を歩もう。君がルシス王である限りずっと側に仕えよう。…今度こそ、この言葉を忘れないでくれ。」

「ああ。忘れない。俺のそばにいてくれ。メディウム。」

 

カエムの岬で音にならなかった言葉は"いつもそばに"というなんてことない兄としての言葉だった。

二十年離れ離れでお互いに辛い思いをして過ごして来た。

だからこそ心だけはいつもそばにいたかった。

その思いで転移前に放った言葉だった。

 

正真正銘仲直り。

弟は王としての覚悟を持ち、兄は未来への献身を決めた。

この何処までも優しい王のために残り少ない命を燃やし尽くす覚悟を。

 

この手で未来を救う決戦が、もう直ぐ幕を開けるのだ。

 




※ルシス王国内での話が終わりますのでこの辺であとがき。 次話から波乱万丈オルティシエの話となります。
この先は読まなくても問題ありません。


・あとがき
家臣にとって王の覚悟とは何よりも重い言葉です。
真の意味での兄弟を知らない彼らにはこのまま王と家臣として歩んでいきます。
それがいいとも悪いとも言えず、少しずつずれてしまったお互いの認識。
大きなずれが修正できたとしても根本を弟は知らないまま。
兄はいつまでも先を行き、いずれ本当に手の届かぬ泡沫へ。
事件しか起こらなそうなオルティシエでまだ少しだけギスギスした一行の二度目のターニングポイントが。

最初の投稿から5ヶ月余り。
うち1ヶ月はほぼサボりという凶行がございましたがここまで長らくお付き合いいただきありがとうございます。
これからもお暇な時間に彼らの旅を見守ってくだされば幸いです。
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