FFXV 泡沫の王   作:急須

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夜空

歩くことすらままならないメディウムはグラディオラスによってレガリアに運ばれ、カエムの岬まで連れ帰られた。

その際、ディザストロに扮したアーデンに"束の間の旅行を楽しむといい"などという嫌味を言われた。

実際にただの旅行になりそうだ。

 

動く景色と共に揺られて、移動すること数分。

カエムの岬の隠れ家まで再びグラディオラスに背負われて向かうとルナフレーナ、ニックス、シド、モニカ、タルコットにジャレット。

隠れ家に住まうメンバー全員総出の出迎えであった。

幼い家出少年のような扱いに、メディウムは心底嫌そうな顔をした。

 

「…お出迎えどうも。」

「電話で歩けないとお聞きしました!いったいどんな無茶を!?」

「魔力の、枯渇。大したことじゃない。」

「お前さんの魔力が枯渇するほどの無茶したってことだろ。ボサッとしてないで寝室まで運べ。」

 

怒りの形相といったルナフレーナに詰め寄られたが、グラディオラスを都合よく盾にして知らんぷり。

溜息をつきそうなシドに促されて五人は隠れ家へと入り、一番広い寝室の窓際にメディウムを運び込んだ。

ジャレットによる診察を行なっている間、メディウムは必要事項とばかりに早口に言葉を並べ立てる。

 

「オルティシエへの出港は明日。その際俺の入国許可証と共にツテを当てる。シドのじいさんは船の運転後帰国、ルナフレーナ含めた六人で入国。ルナフレーナは実に有名な為俺が幻術魔法をかける。全員無闇矢鱈に行動しないように。注意事項は以上だ。」

「今日一日は絶対安静だからな。兄貴。」

「…言うと思った。」

「お前さんの言うツテってのはウィスカムのことか?」

「ああ。ウィスカムさんとは大分古い知り合いでな。事前に連絡を入れてある。」

 

携帯電話を全員に見せながら少ししかめっ面をする。

ウィスカム・アルマはアコルドの帝国領土オルティシエでレストランを経営するルシス国民。

三十年前のレギス王の旅の一員であったが、アコルドで重傷を負い自ら離脱した。

その際ルシス王国には戻らず、そのままオルティシエに住み着いている。

彼はアコルド首相のカメリアと親交が深い。

ディザストロの姿の方が何かと会話量が多かったが、レギス王の息子ともあってメディウムの姿の時はかなり良くしてもらった。

 

「アコルド政府の首相は自国さえ無事であれば何かと融通が利く。交渉は我らが王に任せるが、概要は先にウィスカムさんを通して検討してもらっている。その際、ルナフレーナの保護も頼んである。俺たちと街を歩くより安全だ。」

「オルティシエは帝国領のはずです。帝国側が気がつかないとは思えませんが…。」

「レイヴスが協力してくれている。たとて帝国軍であろうとも妹が大事なんだと。」

 

全てはあの場をこの旅の終わりと本当の始まりの一戦にする為。

あらゆる勢力の多くの人々の思惑が渦巻いて世界は複雑になって行く。

それぞれがうまく噛み合って絡み合って気がつけば誰かに利用されている。

世界は今、平和と真反対の誰かに握られて。

 

「…水神の啓示は大きな戦いだ。水都を舞台にした、無茶すぎる戦いだ。それでもなお俺たちは立ち止まれない。覚悟は、出来ているな。」

 

ここから先は後戻りができない。

ルシス国内から旅立てばあとは寄り道しながら帝都へ向かう。

文字通りの片道切符。

その覚悟はあるかと、全員の顔を見渡せば誰もが力強く頷いた。

改めて確認するでもないかのように、その意思は揺らがない。

 

「愚問だったな。オルティシエの一戦後どうなるかはわからないが、長らく列車旅。観光はほぼできないだろう。楽しむならオルティシエまでだ。」

 

診察をし終わったジャレットに一日休んで欲しいとその手を握られ、悲しそうに頷いたあと皆にわざとらしい笑顔を浮かべる。

メディウムにとってこれが最後の楽しい観光だ。

これ以降はギスギスとした暗い闇を手探りで進んでいく。

先を知っているからこそどうしようもない想いで胸がいっぱいだった。

それでもこれは兄として、年上として言わねばならない励ましの言葉。

 

「楽しめ!世界はきっと明るい!俺たちのできることをしよう!」

 

感情を押し込めることはメディウムの十八番。

その言葉とともにその日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出航と出国の晩。

灯台の天辺でガウンだけを羽織って夜風に当たるメディウムがいた。

足は曲がるようにはなったが歩けるとは言えず、飛んでここまでやってきた。

硬い地面に座り込んで、潮風に目を閉じる。

 

少し前から動いていたエレベーターが、ガコント音を立てて止まった。

 

「ほんと、じっとしてられないのな。」

「護衛もなしに出てきたらだめだろう。王様。」

 

ノクティスが心配して部屋を訪れれば、既にメディウムは出て行った後だった。

灯台側の窓が開け放たれていたため、歩けない兄は飛んでここまで来たのだと推測できていた。

ルシス王族が揃いも揃って護衛なしとは周りが頭を抱えそうだ。

当の本人たちはあまり気にせず。

ノクティスはメディウムの隣に腰を下ろして同じように月が浮かぶ空を眺めて、目を瞑った。

 

「兄貴はさ、俺のこと憎い?」

「…そう思ったこともある。仮にも俺は王になれと言われた時期があったんだ。」

 

ポッと出の弟に何もかもを持ってかれたメディウムが世界を恨み、父を恨み、弟を恨むのは当然の帰結。

寧ろ暗殺してもおかしくないところを彼は耐えに耐え、最後に自殺を選んだ。

心優しく育ったが故にそうなってしまった。

心強く生きた故にそうできた。

 

「でもな、それでもいいと考えられた。俺を育ててくれた人は俺を認めてくれた。努力を見てくれた。実力を測ってくれた。能力を買ってくれた。天才だと見つけ出してくれた。家族だと支えてくれた。」

 

メディウムの育ての親は最低最悪のヴィランだ。

つまり悪者。

王様と言う名のヒーローにボッコボコにされて白旗をあげる役回り。

本人の性格もドロドロで、それはもう最悪だ。

しかし、人として育てる一点に関しては最高と言えた。

褒めるところは褒めるし心を折っても立ち直る方へ折る。

見栄でも嘘でもない事実と言う名の認識をくれる。

 

人間褒められれば懐く。

心に余裕が持てる。

余裕があれば広い視野で見られる。

今のメディウムのように遠くを見られる。

 

「みんな当たり前にやっているとっても難しい"当たり前の家族"の典型的な感じだったけど。俺の"本当の家族"にはそれがなかった。」

 

お互いに甘えていた。

お互いに知ろうとしなかった。

色々な要因が重なったがそれを打ち砕くことも避けることもしなかったのはお互いの責任だ。

一度減った信頼は二度と戻らない。

信頼とは減点方式だ。

 

「お前を憎んでいたのはお前が生まれて来た最初の一年だけだよ。たった一人の弟に恨み辛みを言うのはどうかと思うしな。」

「そっか。」

 

目を瞑ったままのメディウムをノクティスは一瞥して、昔を思い出す。

いつの記憶にもイグニスやグラディオラスが現れて高校生の頃からプロンプトが現れる。

家族のはずのレギスやメディウムは滅多に現れなかった。

それがルシス王家の家族の形。

 

二人共子供ながらに悲しいことだった。

家族の団欒とは子に安らぎを与える。

友がいたノクティスと何もなかったメディウム。

居心地の悪さは格段に違うだろう。

だが、彼らには見えない絆がある。

家族というくくりとは違う、独自の絆。

故に、レギスは殺された。

 

「俺は兄貴のこと、大好きだ。メディウム・ルシス・チェラムとして、ずっと。」

「ルナフレーナが拗ねちまうぞ。」

「兄貴は?」

 

おちゃらけたようなメディウムの返しにノクティスは真剣な顔をする。

諦めたようにため息をついて、瞳を開けた。

街灯りのないカエムの岬に無数の星々が映える。

 

「俺の自慢の弟だよ。」

 

ぐしゃりと弟の少し硬い髪をかき混ぜる。

不器用で見栄っ張りで想いを言葉にできないノクティスが言い澱みもせず気持ちを伝えてくれた。

今回の事件は相当心にダメージを負ったらしい。

 

その後黙り込んでしまったノクティスと何枚もの毛布にくるまって夜を明かした。

翌朝、朝食で起こしに来たイグニスが鬼の形相で灯台に登ってくるまで兄弟水入らず。

 

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