FFXV 泡沫の王   作:急須

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Chapter10 激動
水都オルティシエ


灯台の地下ではふよふよと浮かび上がって船の周りを飛び回るメディウムと整備を続けるシドの姿があった。

他の面子はコルに人生の先達としてアドバイスをもらっている。

多少魔力の回復で体調も安定したメディウムは席を外すように言われ、シドに工具を渡す作業を行なっていた。

 

「レガリアも積んだし、いつでも出られるぞ。」

「ありがとう、シドのじいさん。」

「俺にできんのはここまでだからな。やることやって早く帰ってこいよ。」

「…はーい。」

 

降り立った船の座席で伏せ目がちに返事を返す。

釈然としない言葉に首を傾げながらもシドは聞き返さなかった。

メディウムがこの地に帰ってくる時に世界は混乱を極め、光を求めて彷徨う羽目になる。

荒廃した自国を見たいとは誰も思わない。

ましてやその状況を作り上げた責任があるメディウムには、余計にのしかかる重圧がある。

 

恨み辛みをぶつけられ、軋む心を抱えながら真の王が帰還する時を永遠に待つ。

 

自分に与えられた使命は世界のためだとか、未来のためだとか、家族のためだとか。

大義名分を山のように積み上げてやっと正当化される。

全てが"神にとって都合のいい"こととして扱われた瞬間、使命を与えられた人間は無様に散るのだ。

ルナフレーナも、ノクティスも、メディウムも、散るためにこの時を生きている。

最低最悪の戦いがこの先に待っている。

一般人にとっては聖戦だろうが、向かわされる側はたまったものではない。

 

「なあ、シドのじいさん。俺たちの勝利条件ってなんだろうな。」

「あ?…何に勝つ条件か分かんねぇのに答えられるわけねぇだろ。」

「シドのじいさんはさ。俺たちにどうしてほしい。」

 

もしかしたら穏やかに顔を合わせられる最後の時かもしれない。

そう思うのにどうでもいいようなことしか聞けない。

人間、大事な時に聞きたいことはくだらないことばかりだ。

それに後悔するか満足するかはその人の生き様にもよる。

メディウムは質問に意味など見出さない、満足もしないが聞くことそのものに理由求めた結果の質問だった。

どちらが悪でどちらが善かもわからない主張のぶつけ合いという名の聖戦よりはよっぽど有意義な質問だと思っている。

 

「んなもん、全員が生きて帰ってくることだろ。」

「クリスタルも持ち帰って?」

「国としちゃあそれが一番なんだろうが、生きてりゃなんとかなる。命あっての物種をポイポイ捨てる前にさっさと帰ってこい。」

 

シドは迷わず生きて帰ってこいと言った。

命だけ拾って帰ってこいと。

王家という縛りがないだけで人間はこんなにも身勝手なことが言える。

その言葉に温かみを感じる心のあたりを抉るほど強く握りしめて、メディウムは次いで言葉を発した。

 

「…もし、もしの話だが。この先に進むことで誰か一人が裏切り者になるかもしれないって言ったらさ。シドのじいさんは…。」

「なんもいわねぇよ。」

 

操作パネルをいじっていたシドが椅子に座るメディウムに振り返った。

歳を食ってもなお鋭い眼光は何かを知っているかのように見つめてくる。

何も知らないはずなのに、その瞳はひどく鋭く暖かい。

 

「そいつが裏切るってことは大切な誰かのためになる。他にやり方がないからそうしてるんだろ。」

 

シドは言い切った。

裏切り者は一人きりでそれは目の前にいるのだと。

六人しかいない旅でそれぞれの生い立ちと性格を知っていれば、自ずと答えは見えてくるが言いにくいことでもある。

しかし、シドは確信を持って告げた。

前々から知っていたような口ぶりで。

 

「…そんなに不自然な行動したか?」

「強いて言うならなにもかもが可笑しいんだよ。神とやらじゃ説明できねぇところが山ほどある。全部聞こうとは思わねぇがこの話の流れだと確信できるレベルだな。」

「うわマジか…。」

 

落ち込んだように頭を抱えるメディウムの頭を皺だらけの手が撫ぜる。

聞くに聞けない雰囲気や止むに止まれず事情がある場合が多すぎて突っ込めなかっただけである。

王族というだけで抱え込むことは多い。

怪しすぎて逆に近寄りがたいものだ。

 

「それにな、親は子を守るもんなんだよ。親が信じてやらなくて誰が子供信じてやるんだ。」

「昔似たようなこと言われた気がするんだが。」

「当たり前のことお前さんが学習しねぇから言われんだ。」

 

シドは己の孫のようにメディウムの髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。

近い年の友達が殆どいないシドニーにとって気兼ねなく話せる数少ない友人。

親ぐるみでの付き合いで幼い頃その手を離した負い目から、その動向は気にかけていた。

この先に進んでしまったら今のように笑い合うことができなくなることもなんとなく察しがつく。

だがここで引き止めることはできない。

片足を突っ込んでしまった以上、始末をつけなければならない。

 

「仲間も家族も大事にしろよ。」

「いでっ!」

 

バシリッと凄まじい音と共に背中を叩かれた。

シドが船縁で桟橋に向かって大声を出す。

五人を呼んでいるようだ。

ふわりと浮いて同じく船縁に行くとプロンプトがその手に持ったものをこちらに見せようと大きく振っている。

思わず苦笑いしながらも彼らの思い出の一枚に加わる為船から降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルティシエへの船旅はなんの事件もなく終わった。

初めての船と大海原に大興奮の年少組は片や写真片や釣りがしたいとはしゃぎまくっていたが、二時間もすればぐったりと疲れたように椅子に倒れこんだ。

右を見ても左を見ても海だと飽きたらしい。

塩の湿気った匂いというのも最初こそ新鮮だが、ずっとそばにあると顔をひそめたくなるものだ。

オルティシエ周辺までよく遠征にくるメディウムは全く動じていない。

護衛組は若干疲れたようにソファーでくつろいでいた。

 

「ねーまだつかないのー…?」

「もう少しだ、プロンプト。あの岩場を抜ければ水門がある。」

 

見え始めた大陸の一端にのそりと顔を上げた年少組の横に急拵えで用意された車椅子。

そこへふわりと乗り込む。

魔法で浮遊すること自体は簡単だが、それでは自分がルシスの王子だと宣伝しているものだ。

魔力回復の目処は明日の朝。

これでも異常な速さで生成されている魔力だが、回復に当てられた魔力を差し引くとチビチビとしか増えない。

エリクサーをいくつか飲み込んでもこのザマである。

よって、氷の造形魔法をノクティス に教え加工をメディウムが行った特製車椅子である。

見た目は幻術魔法でカバーしているが冷たさはどうしようもなかったので手袋必須。

イグニスが押し手として採用されたのはいうまでもない。

閑話休題。

 

「ルナフレーナ、幻術をかけるからこっちに。」

 

壮大かつ見事な水門に再びはしゃぎ始めた一行を横目にルナフレーナの髪飾りを受け取る。

誓約の時に使用する生命力の半分ほどこちらから補助するために使用した髪飾りは今や彼女のお守りと化している。

二つの魔法を両立させるには少々骨が折れるのでシドに加工してもらったバレットにリボンをくくりつけて、ルナフレーナに返した。

 

「バレットに幻術魔法がかけられている。俺には黒髪黒目の美人さんが見えているわけだが、あとで鏡でも見てくれ。」

「メディウム、ここに手鏡ならある。」

「なぜ持ち歩いているんだイグニスママ…まあいいや。はいこれ。」

「ほ、ほんとに色が黒くなっています!目まで!ノクティス様とお揃いですね!」

 

朗らかに微笑むルナフレーナにノクティスが照れたようにそっぽを向く。

メディウムともお揃いなのだがそこは言及しないほうがいいだろう。

熱々で何よりである。

 

「肌身離さず持ち歩いてくれ。身につけていれば問題ない。幻術を切りたいときは、このバレットの赤い宝石の部分を軽く叩くんだ。」

「おお、どんな魔法が組み込まれてるんだこれ。」

「ノクトもその内できるようになるさ。」

 

何度か試しているルナフレーナの手を止めさせ、オルティシエの水路を抜けた先の桟橋を指差す。

白を基調とした街並みは日差しに照らされて目に焼きついた。

海による反射光は彩をさらに強め、人々の大きな活気に溶け込んでいく。

水都オルティシエの姿。

 

新たな国と知らない街にさらに浮き足立つ年少組を諌める役目は護衛組にほっぽってシドの元へ歩み寄った。

 

「桟橋に着いたら後は任せてくれ。」

「入国許可証もってんだっけか。」

「ほら。」

 

シドが見せてきた古びた入国許可証とは違い、真新しい紙ペラを出すと書かれた日付を手にとって確認している。

最後に更新したのがここに来る一年ほど前だが、名義はルシス王国外交官だ。

 

「これ見せたらまずいんじゃねぇのか?」

「話は通してある。電話ってのは便利だ。」

「外交官も大変なもんだな。」

 

実際電話の話は嘘でこちらの入国許可証を使うつもりはない。

ニフルハイム帝国の属国であるオルティシエで使うには少々やばい代物だ。

アコルド政府側はルシス王国の外交官が第一王子であることを知っている。

和平交渉の時。

ルナフレーナとノクティスの婚儀の話を詰める会議の場が結婚式場であるオルティシエで開かれた。

 

外務を担当する重鎮の中で世界情勢をよく知るものはメディウムしかいない。

必然的に任命され、あれよあれよとアーデンとの会談になった訳だが身内同士で話を詰めればトントン拍子になるわけで。

ほぼお互いに必要事項と予算的現状を語り合い、行われることのない結婚式を計画した。

メディウムが外交官としてどれ程の技量があるのか測定するテストのような会談だった。

 

片や世界のほとんどを手にしたニフルハイム帝国で政治的実権を握る食えない宰相。

片や世界で三人しかいない魔法の神秘を宿し生活面の穏やかな科学でニフルハイムにも勝るルシス王国第一王子。

間に挟まれたオルティシエの外交官は冷や汗ダラダラで終始顔色が悪かった。

井の中の蛙な部分があるルシスがあらゆる面の世界情勢を投げかけてくるニフルハイムに対等に渡り合い、まるで未来予知のように今の政治の先を見ている様は圧巻だったことだろう。

高度な情報戦を通り越して、情報から導き出される妥当な未来を語り出した時は間に挟まれた外交官が身を乗り出して二人に詰め寄ってきた。

 

このまま世界が平和に進めば、そうなるだろうと曖昧にお互い返し含み笑いを二人で浮かべたが、今頃彼は全て本当になるはずが誰かの手によって強制的に塗り替えられていることを悟っている頃だろう。

手段があまりにも強引すぎるが故にあの場にいたどちらかが主導であることも察しているはずだ。

でなければ外交官などやってられない。

 

そんなわけで色々やらかした過去があるメディウムは己にも少し小細工を施して知り合い以外は気がつかない程度に偽装しつつ、ディザストロ・イズニアとしてニフルハイム帝国が発行している入国許可証を持ち出してきた。

一年間有効なビザだ。

今入国に使ってもなんら問題がない。

代わりに門を通る間、ディザストロでなければならないので来ていた上着のフードを目深くかぶった。

 

「いつまで騒いでいるんだ二十歳組!もう着いたぞ!」

「よっしゃ!一番乗り!」

「あ!ノクトずるい!」

 

バタバタと後ろから飛び降りる音が聞こえて、慌てて追いかける護衛組に溜息が出る。

レディたるルナフレーナを置いていくとはなんたることだ。

ノクティスもテンション上がり過ぎである。

 

ルナフレーナの手を取ってゆっくり降りているとシドが声をかけながら何かを投げてきた。

 

「おいメディウム。こいつもってけ。」

「おわっ。船のキー?」

「レガリアをウィスカムに預けたら船置いて俺は帰る。好きな時に乗りな。」

「操舵できる奴いたっけ…まあいいや。助かった。きっとノクトが喜ぶ。」

「海釣りってか?程々にしろよ。」

 

スペアキーを渡されたらしく、シドはそのまま船で何処かへと進んでいく。

手を振って見送りながら、黒髪黒目で庶民が着るようなワンピースのルナフレーナとはしゃぐ四人組の元へ歩いて行った。

 

「入国手続きは俺がしておくからお前らは…あー、ルーナと先に行っていてくれ。あとこれイグニス。船のキーだってよ。」

「了解した。責任持って保護者をしよう。鍵も預かっておく。」

「子供のお守りは兄貴の役目ってな。外交官様、任せたぜ。」

 

イグニスとグラディオラスが三人を連れてゲートを潜ろうとすると一瞬止められるが、メディウムがひらひらと黄色い紙を見せているのを見てスルーさせる。

五人が見えなくなったところで、フードの中でこっそりとネックレスを起動し顔を見せた。

車椅子はイグニスが待ち合わせのホテルまで運んでいる。

それまで軽く浮いてバレないようにしている。

浮いていると魔力の消費によっていつまでも歩けないままのため、今限りだ。

それなりに知る人がいるディザストロの容姿に入国審査官も背筋を伸ばす。

 

「ニフルハイム帝国政府首脳部所属。宰相副官。ディザストロ・イズニアと申します。アーデン宰相からお話が通っていると思われますがご確認お願い致します。」

「既に確認済みです。伝言を預かっております。"用事が済み次第指定の場所に来るように"と。」

「確かに。お仕事お疲れ様です。」

 

何か言いたげな入国審査官に愛想よく返してさっさと人混みに紛れる。

観光客のような五人組を連れて歩いていること自体おかしいが、ニフルハイム帝国の政府首脳部に何か言える立場でもない彼は苦い顔で見送ってくれた。

もう一度フードをかぶり直し、人混みの中でネックレスを切りメディウムとしてホテル前まで向かってくれている五人組の前に現れた。

予め指示していたが疑問を持たずに言うことを聞いてくれていたようで何よりだ。

 

「お待たせ。じゃ、高級料理店にでも行きますか。」

「高級料理店!?」

「うまい飯か。」

「ふむ。料理の参考になるな。」

「楽しみですね。ノクティス様。」

「お、おう。」

 

ホテルの隣にあるゴンドラに五人組を促す。

外交官の仕事はここからである。

 

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