FFXV 泡沫の王   作:急須

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亀の甲より年の功

水都と名の通り海の上で発展するこのオルティシエでは移動にゴンドラが用いられる。

これも一種の観光産業ではあるが地元の人々にも利用され愛される事業だ。

そのゴンドラでしか向かえない場所に"マーゴ"と呼ばれるちょっと高めの飲食店がある。

海の絶景を楽しめる店が多いオルティシエの中で建物の下にわざわざ店を設け、常に薄暗い中をお洒落なランプが程よく照らしている。

どの料理も絶品で隠れ家的な店内が人気を呼んでいる。

 

「で、その店主がこちらのウィスカム・アルマさんだ。」

「ご紹介預かったウィスカム・アルマだ。久々だねメディウム王子。ノクティス王子もね。」

「え?」

「ノクティスが生まれて数ヶ月の頃にお祝いに王城へ態々来て下さったんだ。」

「生まれたてだったからなぁ。覚えてなくても仕方ないさ。ま、とりあえず座って。」

「大人数で申し訳ない。」

「構わないさ。…この光景は懐かしいしね。」

 

カウンターに促されて全員が席に着く。

お茶ぐらいは出すとダージリンティーを入れてくれた。

野蛮な男どもに合わせて水だとルナフレーナに申し訳ないと思ったので予め頼んでおいたのである。

口では適当に言っておいてもらうとかちゃっかりメディウムからもらっている。

今回の件に一枚噛んでもらっている手数料としてはかなり破格なので文句も言えない。

 

「オルティシエにはいつ?」

「つい先ほど。王都よりも帰ってきた感があるなぁ。」

「君のホームはもっと奥だろうけど、それなりに顔を出していたしね。これからもご贔屓に。」

「商売上手なこって。で、例の件はどんな感じ?」

「それについては…。」

 

話を切ったウィスカムがこちらからは見えない裏側に視線を向ける。

四角いブースにキッチンを置いたマーゴは取り囲むように椅子が配置されている。

その視線の意味を察してメディウムは慌てることなく立ち上がり、緩やかにルシス王国での最高礼の形をとった。

その動作はキレを求めつつも鋭さの先に優雅さを兼ね備え、決して相手を刺さない。

そのまま膝を立てようと足を後ろに下げたところで、その女性は出てきた。

 

「そこまでの礼はいらないわ。メディウム・ルシス・チェラム王子。いえ、今は王様になったのかしら?」

「ルシス王国の伝統たる王選定をご存知でしょう。…我らが王より先にご挨拶してしまったこと、深くお詫び申し上げます。しかし、我らが王は貴女様から見れば未だ新米。ほんの少しだけ外交の先人たる私が無礼のないようご挨拶させていただきました。」

「ご丁寧な謝罪はいいわ。あなたの外交歴を"先人"の一言で片付けていいものでもない。自分を蔑ろにするのはあなたの悪い癖よ。…それよりルシスの新王と話をさせて頂戴。」

 

チラリとウィスカムを非難めいた視線で見つめるが、肩をすくめられた。

目の前にいるのは水都オルティシエを首都としたアコルド自由都市連合の首相にして、議会代表を務める敏腕女性政治家。

カメリア・クラウストラ本人である。

アコルド政府の護衛を二人ほど伴った彼女は鋭い目線でメディウムに下がるように促した。

 

彼女とはメディウムとしてもディザストロとしても付き合いがある。

キツイ口調によらず情に熱い。

筋を通してさえいればそれなりに寛容だ。

ウィスカムに頼んでいたのは気性の荒い水神リヴァイアサンの誓約と掲示を行うことを説明する場を設けること。

つまり会談の話を通してもらうことである。

誓約と啓示は穏やかに行くものではない。

特に気性の荒い水神リヴァイアサンは大暴れの末に戦闘し、半殺しにしてやっとかもしれない。

そうなると被害にあうのはルシスでも帝国でもなくこのアコルドの首都。

 

百五十年前の戦争でニフルハイム帝国の属国となったこの国では何をするにも帝国の許可がいるが、勝手に知らない誰かが行う分には帝国も口が出せない。

故にオルティシエでの被害を抑えるためにできることや、避難の指示などの話を詰めるつもりで予め概要は話してあった。

では、この話し合いの責任者は誰なのか。

アコルド側の大惨事は間逃れない中で誰が責任を取るのか。

こうなると名前を出すには対等の立場でなければならない。

立場上、レギスとも親交があるカメリアは未来の話をしても疑問符はつかないだろうがかなり厄介な相手だ。

致し方なく王となったノクティスの名を出してしまったのである。

本人には許可を取ったが心配していたことが現実に起こって欲しくなかった。

 

責任者が己で筋を通せとカメリアが要求しているのが目に見えてわかった。

 

「恐れ多くもカメリア首相…。」

「メディウム王子。私は責任者と名乗り出ておいて筋を通さない人を王とは認めないわ。」

 

そこまで言われるとメディウムも引かざるを終えない。

わかっていただろう?と聞くように見てくるウィスカムに苦笑いを返して、立ち上がっていたノクティスの後ろへと下がった。

ここにきた時他の客が誰もいなかった。

最初から張られていたのだと考えるとカメリアは粘り強そうだ。

実際ものすごくしつこいし怖いし芯が強い。

だからこそ首相なのである。

 

「こんにちは。ルシスの新王。話は聞いているけれどその前に一度顔を見にきたわ。」

「お初にお目にかかります。ノクティス・ルシス・チェラムと申します。」

 

一晩かけて仕込んだ挨拶にカメリアは目を細める。

すぐに誰の仕業か分かったのだろう。

チラリとその少し後ろに立つメディウムを見て眉を寄せる。

 

「帯刀するのは構わないけれど、外交官の態度じゃないわね。」

「おや。お言葉ですが私は何も手にしておりません。」

「ルシスの護衛、ましてや王族がその手の冗談を言ってくれるとは驚いたわ。」

 

食えない人だとそっと後ろ手に宿していた魔力を霧散させた。

魔力も持たない一般人が少し勘が鋭いだけで武器召喚の準備を察せるわけがない。

害意でも漏れていたのかと眉をひそめ、態とらしいため息をついた。

もうこの場に身分を隠す必要のある人間はいないと判断し、震える足をわざわざ叱咤してとった立ち姿を解いてお手製の車椅子にどっかり座った。

 

「あー!やめだやめだ!カメリアさんに腹芸なんて話が長引いてこじれるだけだ!」

「あら。ぜーんぶ私が衰えてないかの確認するためにワザとしていたんじゃないかしら。」

「…ほんっとカメリアさんに経験で勝てる気がしない。まだまだ青二才だって言われている気がするよ。ウィスカム。」

「メディがカメリアに勝っているところは一度も見たことがないね。ましてや負けているところも見たことないけどさ。」

 

目を白黒させる他の五人を外に、三人がそれぞれの態度で感想を述べる。

カメリアとウィスカムが対等に話し合うのはわかるが、メディウムまでもがまるで長年の友のように寛ぐ姿が異様に見える。

それを咎めようともしない二人も不思議だ。

 

「カメリア首相。折り入って願い事がある。予め伝えた通りではあるが、そちらとしても準備や通達で時間がかかるだろう。」

「もちろんよ。あなたの要望を叶えるには"責任者"に話を通してもらうわ。」

「ので、すぐに話し合いの場を設けたい。」

「そのつもりで今日顔を見にきた。明日の午前中に。どう?」

「場所は…一つしかないな。こちらとしてもありがたい。」

 

カメリアはもう一つの条件としてメディウムは同行してはならない、と付け足した。

責任者としての言葉を聞くにはメディウムが出張らない環境を作るしかない。

ならばすっこんでいろということだろう。

断る理由も思いつかず素直に頷いた。

代わりに午後メディウムと二人きりでお茶をしてくれるらしい。

皮肉ばかり言われそうで背筋に寒気がしたが、伝えたいこともあるので受け入れた。

 

おいていかれないように話を聞いていたノクティスに決まったことだけを伝えると、神妙な顔で頷いた。

自分が王として初めて成し遂げなければならないことが人命に関わることだ。

気合も大いに入れてもらわねばならない。

 

話は終わりだとゴンドラに乗って帰ろうとするカメリアが何かを思い出したようにこちらに振り返る。

メディウムの目を見据えて変わらない険しい顔でよく聞く言葉を口にした。

 

「おかえりなさい。メディウム王子。ようこそ、アコルドのオルティシエへ。」

「ただいま。カメリアさん。オルティシエ、沢山見て回る。」

 

今度こそ去っていったカメリアを見えなくなるまで見送り、イグニスに押されてウィスカムが開けてくれたカウンター席にそのままつく。

疲労困憊なノクティスのそばで背をさするルナフレーナと安堵のため息を吐くイグニスに苦笑いをし、怖かったと泣き言を言うプロンプトをグラディオラスが慰める。

カメリアは圧のある人だ。

疲れるのもよくわかる。

 

「兄貴、すげぇ親しげだったな。」

「"おかえりなさい"っていってたね。」

「それでも"ようこそ"なんだな。」

「何か意味でもあるのか?」

 

最後に交わした会話が気になるのか、こちらを見る五人に頬をかきながら昔のことを話す。

ウィスカムは懐かしむようにその話を聞いていた。

 

「オルティシエにはそれなりに来るんだけど、ウィスカムやカメリアとは必ず会うようにしているんだ。」

 

まるで自分の家がこの地にあるのかと錯覚するほどよく来る。

アコルドが何かを行いたい場合、帝国に許可が必要でありきちんと説明の場を設けている。

その場で派遣された政府首脳部の人間が判断してもよし持ち帰ってもよしなのだが、ディザストロとしてよく派遣されていた。

しかし街で遊ぶにはニフルハイム帝国の服が堅苦しく、メディウムとして街を歩くうちにウィスカムと出会った。

話をしていくうちに互いの生い立ちや事情などが分かっていき、気がつけば仲良くなりウィスカムと親交のあるカメリアが混ざり始めた。

 

派遣される行事は議会などもそうなので、その度に話ているとある日ウィスカムが"おかえり"と言い始めたのである。

けれど、故郷を忘れて欲しくないと言い始めたカメリアが"ようこそ"と付け足した。

よって矛盾したような言葉になっているのである。

ノクティス達にはウィスカムと出会ったところから話した。

 

「そんなわけで、割と仲がいいわけ。会うには決まってこのマーゴさ。」

 

カウンターから伸びてきた無骨な手がぐしゃぐしゃとメディウムの髪をかき混ぜる。

年上には良く可愛がられるメディウムだが、オルティシエでは特に子供扱いされがちだ。

大人と肩を並べて育ち続けた彼に前に立って守れる人間がいるのだと、彼らは教えてくれた。

見てくれだけではない。

住まう人々さえも美しいこのオルティシエを戦火に晒すことはしたくない。

避難は迅速に、市街は最小限に。

やらなければならないのは変わらないがせめて街並みを壊さないように。

 

「カメリアさんはノクトの意見を聞きたいんだろう。お互いに譲れるところ譲れないところがあるが、きちんと見極めて自分の言葉で向き合あうんだ。ノクトならきっと納得させられる。」

「任せてくれ。兄貴には及ばなくても、俺には俺の言葉があるし。」

 

大見得切って急に恥ずかしくなったのか、尻すぼみながらも自らの意思で話し合いに臨んでくれることを約束してくれた。

自分の言葉があることはとても大事なことだ。

意思を伝えるとは非常に難しいことだ。

特に思いを口にできないノクティスには至難の業だろう。

 

「王としての自覚、出てきたか?」

「フィッシング王爆誕かな!」

「釣り王でいいだろ?」

「ふむ。今日の夕食は魚料理か。」

「ノクティス様、釣りがお好きですものね。」

 

五人に顔を覗き込まれ半分冗談のようにやいのやいのとからかわれる。

ぷるぷると震えだしたノクティスがガタッと立ち上がって声を張り上げる。

 

「うるせー!今日はオルティシエ存分に観光するんだよ!!いくぞみんな!ルーナ!」

「ルナフレーナだけ特別なのな。」

「う、うるせーってば!」

 

楽しげに笑い合いながら好き勝手にノクティスを揶揄う姿をウィスカムが懐かしそうに見つめる。

随分昔に自分にもこうして笑い合う仲間達がいて、賑わいながら世界各地を歩き回った。

辛いことにも大変なことにもぶつかったが、それ以上に思い出に残る旅になった。

その旅の中心にいた人物はつい数週間前に突然いなくなってしまったけれど、その息子達が父と同じように中心となって世界を見て歩いている。

その果てに父以上に辛い思いがあるだろうに。

彼らは今とてつもなく楽しそうだ。

ウィスカムにはそれが眩しくてたまらなかった。

 

「メディウム。」

 

そっと、幼子の名前を呼ぶ。

その輪から少しだけ距離を取る彼は見てくれの割に心が子供のままだ。

全てを覆い隠して隠してしまう大人の殻の内側にチラつく空洞がこの旅で少しでも埋まればいい、とウィスカムは再び髪をぐしゃぐしゃにした。

 

「どうしたんだよ。ウィスカム。」

 

殻から少しだけ覗いた彼の子供のような笑顔が、いつまでも続けばいいと心から願って。

 




※ウィスカムさんとカメリアさんについて補足。


・ウィスカム・アルマ
メディウムとの出会いは彼が十一歳の時。
外交官と言う名の気まぐれ宰相に連れ回されてやって致し方なく仕事をし、息抜きに食事に来たマーゴでたまたま出会った。
ネックレスの魔法は切っていたため若かりし頃のレギスにそっくりなメディウムを気にかけ始め、数年後にメディウムの方からカミングアウト。
それに伴いウィスカムも包み隠さずレギスとの関係を教えた。

・カメリア・クラウストラ
出会いはマーゴ。
ウィスカムにカミングアウトする前からマーゴで顔を合わせていた。
レギスの若かりし頃というより王子としての気品を察してウィスカムに問い詰めている。
その後きちんとメディウムから素性を聞いた。
見聞の広さと先見の力に一目置いている。

三人は古くからの友人と言える関係である
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