FFXV 泡沫の王   作:急須

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それぞれの色

「ちょっとムカついたよねぇ。」

 

揚陸艇で眠りこけるメディウムの黒髪を撫でながら遠目に見ているリヴァイアサンを睨む。

傷付けていいのはこの子自身と自分だけだというのに、あの神は何度も拾い子を殺そうとしてきた。

ぶちのめしたいけれど今は我慢だ。

 

王の力を解放しファントムソードでリヴァイアサンを圧倒してみせる真の王に少しだけ、ほんの少しだけむかっ腹を立てた。

眼球損失など人体からしてみれば凄まじい損失だ。

やりすぎなほど魔力を注ぎ込み始めたメディウムの体を支えるため己の魔力も分け与えている。

 

その作用なのかそもそも魔力に反応したのかは分からないが片目を失ったはずの拾い子は驚異的な回復能力で眼球を復活させてみせた。

未だ瞳が開かずとも陥没していない瞼で判別できる。

代わりに傷跡が残ってしまったが彼にとっては些細なことだろう。

 

そもケアル如きでなくなったものを再び生成するなど不可能だ。

皮膚のような細胞分裂が起こるものならまだしも眼球は生まれてから増えたりなどしない。

まさしく異常な回復力だ。

 

「君は俺のなのにさ。揃いも揃って壊そうとするし君自身でさえ碌に身を守ろうとしない。」

 

冷たくも暖かくもない体を緩やかに寝かせ、傷だらけの胸を上下に動かす。

彼に自己犠牲の精神がなければもっと傷は軽かった。

彼に己が可愛い人間の醜さがあればその生き様を兵器などと卑下しなかった。

卑屈で高潔で馬鹿で天才で暗くて明るい。

矛盾を折り重ねて放り投げるような拾い子は家族をいつでも愛している。

 

「どこまでいってもお兄ちゃんか。」

 

あんなにも小さかった子供がいつの間にか大人になった。

弟を必死で守ろうとする姿はまさしく兄だった。

遥か遠い昔の自分を見ているような。

そんな気分になってしまった。

 

二千年前に夢想になった兄弟との日々は一体誰のせいで崩れ去ったのか。

きっと、誰のせいでもないのだろう。

ただほんの少しだけ羨ましいと思ってしまった。

認めよう。

家族との情に自分は飢えている。

今更戻れやしないのに、馬鹿だ。

 

けれど、この拾い子だけは底知れない愛情をまるで簡単なことのように配っていく。

歪み狂い荒んだ異形でさえも優しさで受け入れてしまった。

それではいけない。

そんな優しさを持たせてはいけない。

 

親として芽生えた理性が囁いてきても自分は優しさを否定してやれない。

相手が受け入れているように彼のすべての行動を許容してしまっている自分に否定する権利なんてないだろう?

 

「ごめんね。親なのに守ってあげられないや。」

 

王様がリヴァイアサンに剣を突き立てヒラキにしてしまった。

約束を守らなければゲームは成立しない。

再び訪れる暫しの別れに悲しみながら揚陸艇の操縦者に適度な場所に降下するよう指示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そこは窓一つない子供部屋だった。

 

山積みにされた参考書とにらめっこをしながら赤髪の少年が鉛筆を走らせる。

一人きりの部屋はベッドと机と本棚。

パソコンやタブレットなど通信機器はあってもおもちゃはない。

子供らしさなんてかけらもない部屋だ。

時計の針が傾く音だけが響く部屋で少年はふと顔を上げた。

 

どこでもない何もない空間をジッと見つめ、目を瞑る。

さらに少年がこちらへと振り向いた。

橙から金の混じる瞳が射抜くようにこちらを見る。

 

「アーデンの奴、また帰ってこないのかなぁ。」

 

背後にある扉に向かって少年は歩き始めた。

ふわふわと浮く意識を慌てて動かし相手を追いかける。

ガチャリと開かれた扉の向こう側はがらんどうのキッチンとダイニング。

しかしいつもの食卓の上にメモとおやつが置かれていた。

 

――子供の君にはおやつをあげる。

 

焼け焦げたクッキーだった。

売り物ではなさそうなそれを少年は手に取り、一つかじる。

ガキッと音を立てて痛そうに口を押さえた。

 

「かってぇ…。」

 

とても食べられたものではないだろうそれに文句を言いながらも口元がにやけている。

少年はとてつもなく嬉しそうで照れ臭そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたら知らない天井だった。

豪華なベッドに寝かされたノクティスはゆっくりと起き上がる。

布が擦れる音を聞きつけ、イグニスが読んでいた本を置いて顔を上げた。

 

「目が覚めたか。」

「…ここは?」

「オルティシエの首相官邸だ。リヴァイアサンとの儀式から三日ほどお前は眠っていた。」

「他の皆は?」

「皆無事だ。今はそれぞれ自由行動をしている。殆どが復興の手伝いだがな。」

「そっか…。」

 

まだグラグラする頭を押さえて周りを見渡す。

状況が頭に入ってくるまでに時間を要したがなんとなくの整理がついた途端ノクティスは慌ててベッドから降りて大声を上げる。

 

「そうだ兄貴!兄貴は無事か!?」

「メディなら…。」

「ん?呼んだか?」

 

目の前で目をくり抜かれさらわれた兄はのんきにもひょっこり顔を出してきた。

ぽかんと口を開けてしまったノクティスをゲラゲラ笑い、眼帯がつけられていない右目を細めた。

 

「何もされてないか!?目は大丈夫なのか!?」

 

駆け寄ってきたノクティスはメディウムの体をペタペタ触り容態を確認する。

これといって異常があるのは片目だけのようで安堵したようにため息を吐けば再びメディウムが大声を上げて笑った。

片目に涙までためている。

 

「最初に確認するのがそれなのかぁ?」

 

噎せながら笑うメディウムは思うより元気そうだ。

彼が言いたいのはアーデンが放った二十年間の空白の時間を聞かなくていいのか、ということだ。

メディウムが裏切り者と暴露され悪事ばかり働くアーデンとの繋がり聞いたにもかかわらず一番初めに聞くことは怪我の有無だ。

 

笑われたノクティスは至極真面目な顔で当たり前のように言い放った。

 

「何言ってんだ。家族なんだからまず無事か確認するだろ。」

 

心配したんだからな!と尚も詰め寄るノクティスの頭を撫でてその心の強さに感嘆した。

ノクティスはメディウムが裏で暗躍していたとしても帝国に味方していたとしても王都の決戦で手を引いていたとしても何か理由があるのだと推測していた。

そしてそれはいずれノクティスの為に国の為になるからか、アーデンを裏切れないからかの二択だ。

それ以外の理由をこの献身を体現する兄があげるとは微塵も思えない。

 

なによりも兄は約束してくれた。

共に未来を歩んでくれるのだと。

辛いことも幸せなこともそばで分け合ってくれるのだと。

過ごせなかった二十年分全部を。

その言葉に嘘偽りはないのなら。

きっと答えてくれる。

 

「兄貴。教えてくれ。二十年の間、何があったんだ。」

「そうだな。頃合いだ。イグニス。みんなを集めてくれ。」

 

話についていけないイグニスは慌てて携帯を取り出す。

みな外に出払っていてすぐさま呼び寄せられるかは不安が残る状況だ。

なによりこの二人は病み上がりだ。

メディウムは昨日まで眠っていたしノクティスも起きたばかり。

できればショッキングなことは避けてもらいたい。

 

「とりあえず連絡はしたが、なによりもまず…。」

「飯だ!よしノクト!ウィスカムのとこまで競争だ!」

「よし乗った!転ぶなよ!」

「そっちこそ!」

「ちょっ!?待て二人とも!!走るな!!」

 

バタバタと駆け出してしまった王族二人を追いかけてイグニスが慌てる。

決戦の中で兄弟の中に何かがあったことはルナフレーナから聞き及んでいたが突飛すぎてついていけない。

何をどうしたら病み上がり同士で競争になるんだ!

 

「二人とも止まれ!」

「うわ!おかんが追いかけてきた!」

「よし計画変更だ!ノクト掴まれ!」

 

兄が振り返って差し出した手に弟は速度を上げて追いつき掴む。

いつまでも離れていた距離が、背中しか見えなかった兄が初めて振り返って初めて手を伸ばした。

追いかけることをためらった弟が初めてその手を掴んだ。

何もかもが奇跡のような瞬間なのに当の本人たちはただ笑いながらシフトでベランダから飛び出す。

派手な音を立てて着地した二人にシフトのないイグニスが上から怒鳴る。

 

「戻ってこい!」

 

ギョッとしたように街の人が目を剥く中を笑いながら走り抜ける。

手を引っ張られてどこまでも進む途中でメディウムが思い出したかのように昨夜見たという夢の話をした。

 

「スッゲェ懐かしいんだけどさ。育ての親と二人暮らし始めて二年くらいの頃俺におやつをくれたことがあったんだ。」

「おやつ?」

「そ!真っ黒に焦げたクッキーでさぁ。食えたもんじゃないぐらい硬くて苦くて!」

 

ノクティスも眠っている間にそんな夢を見たような気がする。

その後の少年を思い返して二人揃って顔を見合わせた。

 

「「全部砕いてタルトの生地にしてやった!」」

 

驚いたようなメディウムにノクティスが見た夢の話をする。

少年は硬い棒を取り出して粉々に砕いた後チーズタルトの生地にしてしまったのだ。

きっとあれは育ての親が懸命に作ってくれたであろうクッキーだ。

少年だって嬉しそうに最初はかじっていた。

それをなぜ砕いてタルトにしてしまったのか聞くとメディウムは笑う。

 

「齧れなかったし、なにより作ってくれた親と二人で食べたかったんだ。でもきっと食べたもんじゃないって自分でも食わなそうだった。」

 

どうせ文句を言って誰が作ったのだろうとしらばっくれるのがオチだ。

だからわざわざ砕いてタルトの生地にしてアーデンの好きなチーズタルトへ作り変えてしまった。

きっと彼は自分が作ったクッキーだと思いもせずタルトを食べたことだろう。

 

「酷いガキだろ?親が作ったもん勝手に作り変えちまってさ。」

 

確かに奇行に部類される行動だ。

目の前でされたら育ての親も傷つくだろう。

 

「でもな、どうしても二人で食べたかったんだ。どうしてもクッキーを二人で味わいたかった。」

 

だからチーズタルトにした。

タルトなら生地が硬くてもチーズがごまかしてくれる。

チーズを食べて仕舞えばタルトの味は、クッキーの味はそのままだ。

 

「二人で苦い苦い文句言いながら食ったんだぜ?」

 

そんな時間がなによりも大切で嬉しかった。

簡単なことを遠回しにしかできない彼らには幸せでかけがえのない家族の時間だった。

失敗しても上手くできなくても伝えられないものがあってもいい。

だって家族なんだから。

 

アーデンは時折暗い顔をする。

もともと胡散臭い人だけれど何気ない日常で暗い顔で頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜてくる。

何かできないことを悔いるようにその間を埋めるように行動で示してくれる。

あの人は自分で気づいていないだろうがものすごく優しくてものすごく過保護でものすごく愛に溢れた人なんだ。

 

「ノクトはノクトであの人を見て欲しい。俺と違う目であの人を知ってくれ。」

 

戦うことになる二人にメディウムの価値観を押し付けてはいけない。

彼らには彼らの因縁があり自分達には自分達の因縁がある。

自分の目で見た何もかもがその時初めて真実になるのだから。

あとで語るメディウムの二十年はほんの一端でしかない。

 

「けどこれだけは覚えていてくれ。あの人はさ。」

 

俺の家族なんだ。

 

メディウムの言葉にノクティスはただ頷いた。

育ての親と敵では見方が全く違う。

己の目で見て判断すると頷いたノクティスに満足して再び前を向いた。

後ろから追いついてきたイグニスと呼び出されたのであろう仲間達の声がする。

グラディオラスの笑い声とプロンプトのはしゃぐ声。

ヒールで俊足を発揮するルナフレーナとスタイリッシュ走行のイグニス。

 

時代が動き始め、人との関係も変わっていく。

 

「全力で逃げるぞ!」

「任せとけ!」

 

兄弟の鬼ごっこは夕方まで続いた。

 

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