FFXV 泡沫の王   作:急須

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生まれと育ち

復興に力を入れる人々を窓越しに眺めながら時折感覚を間違えてつんのめる。

カップを取ろうとして空を切る。

半分に減った視界が煩わしい。

もう仲間だけの時や一人の時ぐらい外してしまおうと無造作に眼帯を投げた。

見事机の上に着地したカメリアからの贈り物に一息つき、手鏡で見慣れているはずなのになれない片目を眺めているとコンコンッとノックが響く。

この無駄に礼儀正しい四回のノックに笑ってしまう。

 

くすくす笑いながらどうぞと言えばしかめっ面のレイヴスが昼食のプレートを持ちながら入ってきた。

すぐに動き始めたノクティスとは違い全世界に顔が割れてしまったメディウムは常に身辺警護を行う必要がある。

片目を塞ぐことで距離感を掴めないのも大きな問題だった。

流石に戦闘中は外さないと無理だと察しているぐらい微妙な動きしか習得できなかったのである。

今でこそなんとか歩けているが最初は歩くだけで何もない所で躓いた。

かなり恥ずかしかった。

 

閑話休題。

机の上にプレートを置いてもらい練習のためにもう一度眼帯をつけてナイフとフォークを手に取った。

その様子を見届けてからレイヴスが口を開く。

 

「ルナフレーナのことだが。」

「俺たちの出発と同時にレスタルムに発ってもらう。短い間のお別れの挨拶しておけよ。」

「…ああ。」

 

何か言いかけるのを反ればレイヴスは黙ってしまった。

言葉を探すように視線を彷徨わせチラチラとこちらを見てきている。

ものすごく鬱陶しい。

言いたいことはわかっているがそれを是とはいえないのだ。

我々は国を背負う者だ。

今だけを生きるならばそれでもいいがまだ先があることを留意し選択しなければならない。

 

「どうしても、ダメなのか。」

 

引き絞るようなか細い声におもわず顔を上げてしまった。

"何が"とは言わないが問いの内容を理解しているメディウムには懇願するような言葉にしか聞こえない。

レイヴス自身が決めた越えられない一線を踏み越えなければ基本言う通りにしてくれるのに、今回ばかりはかなり食い下がってくる。

妹の頼みを断れないのか。

 

「世界のことを考えないのならばその選択肢もあった。だが我々は世界を背負う使命を持つ。…残念ながら今回ばかりは甘い判断はできない。」

 

考え直す余地はない。

例えルナフレーナがこの先も共に戦いたいと願ったとしても連れてはいけないのだ。

その先で怪我をし、最悪の場合死んでしまったら痛い思いをして救った意味がなくなってしまう。

ここから先の計画はメディウムも詳しく把握していない。

ディザストロだって帝国でどんな扱いになっているのか不明だ。

容易に潜入もできない。

世界の闇がニフルハイム帝国への侵食を始めたはずの今、光をもたらす神凪を喪ってはならない。

 

オルティシエの水神討伐の際帝国側もただでは済まなかった。

准将のほとんどは戦死してしまい、アラネアも辞職。

魔導兵器も大多数を破壊されてしまいその責任が将軍であるレイヴスに降りかかったのだ。

時すでに遅くルシスに寝返った頃には脱走兵と反逆者としてお尋ね者だ。

レイヴスは顔が知られている分タチが悪い。

 

新しく誂えた王都警備隊の服を着ているが黒が恐ろしく似合わない。

神凪はやはり白なのだとよく理解した瞬間だった。

最終的に今も神凪の礼服を着込んでいる。

隠すための外陰だけ纏って貰えれば何とか誤魔化しが効く。

 

「すまない。母君にも迷惑をかける。」

「我が王が責任を持つことではない。テネブラエを気遣い、救おうとしてくださる慈悲深き心に感謝を。」

 

テネブラエのことはテネブラエが解決すべきなのは当然だ。

あれはすでに国とは言えないが元は一つの国家だったのである。

遠き他国が介入するのは筋違い。

けれども神話時代からの付き合いである両国としては揺るぎない信頼の元、協力していきたいと思っている。

先代は特にレギスの良き友であった。

ノクティスにとっては義母にあたる存在だ。

母を知らぬ弟の為にも是非無事でいてもらいたい。

 

ルナフレーナと同じ青い瞳と光を耀の指輪をはめた影響で変色した紫の瞳が銀髪から覗く。

白髪に近い銀を揺らして柔らかく笑う顔はあと何度見られるのだろうか。

あとどれほど自分は彼らに道を示してやれるのだろうか。

誓約を半分肩代わりした影響で元々ない寿命がさらに縮んだとアーデンに眉間をグリグリされた。

具体的にどれほど生きられるのかを言えば延命処置をして十年。

その延命処置も身体を壊す最悪のものだ。

最終手段と言ってもいい。

 

「メディ。」

 

珍しく愛称で呼ばれレイヴスを見るとそっと眼帯を外された。

黒と金に近い橙はアンバランスで似ても似つかない。

綺麗なオッドアイのレイヴスより恐れられることが多い歪なものだ。

それをお揃いだとはねのけるこの幼馴染の護衛は心も体も強い。

何てったって剣神バハムートでもなし得ない斬鉄剣が使える人なのだ。

 

「何があっても俺はお前の味方だから。悩むぐらいなら相談してくれ。頼りないかもしれないが。」

 

彼のいう味方はメディウムがアーデンについたら自分も付いていくという意味合いではない。

例えメディウムが望まない戦いを強要されてもその意思を汲み取りその願いを想い、剣を交えて弟を守ってくれる。

何があってもメディウムという一個人を尊重し寄り添って支えてくれるという。

そういう、意味なのだ。

だからレイヴスは幼馴染で護衛という立場に収まれた。

これほどまでに信頼できる言葉を口にできるのは彼しかいないから。

 

「頼りなくなんかないさ。ずっと頼りにしている。相談もする。一人じゃ歩けないって旅で学んだ。」

「不謹慎だがとてもいい旅だな。学ぶことが多くある。守るべきものが沢山ある。頼れるものが見つかった。」

「俺には勿体無いぐらい良い旅だ。」

 

コンコンコンッとノックの音が響いた。

食べ終わったプレートを持ち上げたレイヴスが一礼をして退室すると共にノックの主が入れ違いで入ってくる。

戸惑うような足踏みでやってきたのはプロンプトだった。

やけに"帝国関連"の来客が多いと笑いながら食後の紅茶を淹れるべく立ち上がる。

外された眼帯も忘れずに付けていく。

 

「どうしたんだ?」

「ちょっと、聞きたいことがあって。ごめんなさい。病み上がりなのに。」

「構わないさ。体調が悪いわけでもない。」

 

カップをぬるめに温めながらティーポットに布で蓋をする。

素早く飲めるように熱くもなく温くもない温度を見極めて淹れるのは副官として当然の技術である。

金髪を揺らして座るプロンプトにそっと言葉を促せば一瞬息を飲み込んで深呼吸するような音が聞こえた。

彼にとって重大なことを言いたいようだ。

 

「メディは帝国にディザストロとして住んでたんだよね。」

「ジグナタス要塞の辺りにな。アーデンと二人で。」

「俺も帝国生まれの帝国人だって言ったら…どうする?」

 

緊張したようなプロンプトに何も反応せず顔だけずらして見ればガチガチに冷や汗でも書きそうなほど凝り固まっていた。

少し早めに紅茶をカップに移してプロンプトが座る椅子の前に置くと向かい合わせの椅子に自分も腰をかける。

ふむ、と一呼吸多いて小首を傾げた。

 

「知っていた、といえばプロンプトはどうする?」

 

ビクッと肩が跳ねるのを見るに予想すらしていなかったのだろう。

帝国人だからなんだとは言わないがニフルハイム帝国全体で戦争をしていても民草が直接我々の同胞の命を奪ったわけではない。

兵だって殺されそうになりながら戦うのだ。

そこに恨みを持つのは正しくもあり間違いでもある。

本当に復讐をしたいならトップから権力のある者全てを殺していく気合いで行かなければ。

 

「俺たちは正反対だな。ルシス生まれ帝国育ち。帝国生まれルシス育ち。言うなれば俺も帝国人だ。」

「…でも故郷はルシスなんでしょう。」

「家族がそこにいるのならばそこが故郷だ。」

「じゃあ、俺の故郷は帝国になるよ。」

 

プロンプトが言いたいことが何となくわかってきた。

自分の生まれがノクティス達と敵対する帝国であることをひどく重く捉えているのだ。

友達を傷つけた連中と同じ存在なのだと、思っているのだ。

全く心外なことである。

 

「プロンプト。生まれた場所がそんなに重要な意味を持つのか?」

「え?」

「記憶にも残らない場所がそんなにも大事なのか?」

 

俯いてしまった彼には分からないのだろう。

人間は生まれた場所に何かしらの感情を抱く。

何も思わない人はあまりいないだろう。

自分がそこから生まれ出でたという事実も自分と歴史の上で確かに重要だ。

けれど人として生きていく上では些細な問題なのである。

 

「人は育つ。人は学ぶ。俺でさえ知らないことばかりで学ぶことが沢山ある。」

「メディも?」

「そうさ。育ち学び知りまた育つ。進んでいった先に得た答えと想いこそがその人を人と為す。」

 

人は生きた道を糧に自我を持つ。

生まれた場所など所詮スタート位置でしかない。

振り出しに戻れない長すぎる人生の中でスタートなんてちっぽけなものに囚われるなどバカバカしいとは思わないか。

育ちだって本人の心があればまだ育つことができる。

進む手段を持つ。

彼が今の生まれも育ちも気に食わないと言うのならまた学び育てば良い。

 

「進んでようやく人となる。プロンプトが出会ってきた人々や見てきたものは生まれた場所に劣るものなのか?スタート地点が違うからと罵るような者だったか?」

「そんなことない…そうだよ。そんなことないよね…絶対そんなことないよ!」

 

ノクティスもイグニスもグラディオラスも生まれを馬鹿にするような人達ではない。

プロンプトの努力を知る彼らは今更そのようなことでプロンプトを見放したりなどしない。

今まで培ってきたものを蔑ろにしないプロンプトはそう叫んでスッキリしたような顔をする。

しかし真剣だ。

 

「でも俺、知りたいんだ。自分がどんな存在でどんな人が親なのか。俺知りたい。」

「辛くてもか?」

「それが事実なら俺、飲み込むよ。」

「悲しくてもか?」

「泣きたくなったらみんなのところでいっぱい泣く。」

 

絶対に目を逸らさないとプロンプトは誓う。

泣いたら慰めてくれる?なんて言う姿があまりにも勇ましくてもちろんだと頷いた。

彼はもう立派な仲間だ。

後から入ってきて散々かき乱した自分が言うのもなんだが彼がいないと今のパーティーは始まらない。

弟の友人がこんなにも良いやつで本当に良かった。

 

「聞きたいことは"プロンプトの生まれ"で良いんだな。」

「うん。メディなら知っていると思ったんだ。知らなくても帝都の話とか聞きたくて。」

 

プロンプトの親や出自をメディウムはよく知っている。

ジグナタス要塞には資料しかないが確かどこかの雪山に研究施設があるのだ。

恐らくそこが生まれた場所。

今の状況で寄り道するのは無理だ。

帝都で我慢してもらうしかない。

 

「予想通り知っている。が、俺が真実を話すのは酷だなぁ。ノクト達に打ち明けないのか?」

「まだ、もう少し落ち着いてからにしようかなって。大変な時期だし。」

「それもそうか。んー俺が過ごしてきた帝都の話なら出来るかな。」

「うん。お願い。どんなところだったの?」

「どうせならレイヴスも呼びつけるか。」

 

隣室で待機していたレイヴスを呼び出して帝都グラレアの日常を語っていく。

そのどれもがルシスにはない物事ばかりで夢中で聞いていた。

そのうち遊びに来たルナフレーナやノクティスが混じり、テネブラエの話も上がる。

対抗心を燃やしたノクティスとプロンプトがルシスの王都について熱く語り始めてしまい、夕食まで四人で笑いあった。

お国自慢のようでお互いの違いを尊重し合う自分を含めた三国の代表者にオルティシエも混じれば世界平和も近いのにな、なんて思ってしまったのは内緒である。

 




※ゲームシステムならばという補足説明。

レイヴス が なかまに なった!▼

ハイパーボールでも捕まえられるか怪しい伝説のぽけ…神凪一族レイヴス。
ゲーム本編ではここらで処刑されてしまうチョイ役ですが泡沫の王では生存いたします。
アーデンおじさんにチョチョイのチョイされて死んだ方がマシな姿になった時オーディンがいない今作唯一の"斬鉄剣"の使い手でした。

生きてても使えるところ見してやるんだレイヴス!という願いを込めてコマンドで斬鉄剣を習得。
消費ゲージ3は確実でしょう。なんだったって斬鉄剣。

七人のレベルは恐らくこんな感じ。

ノクティス Lv.68
プロンプト Lv.68
イグニス Lv.70
グラディオラス Lv.70
メディウム Lv.74
レイヴス Lv.74
ルナフレーナ Lv.神凪

おじさん軽く捻れるのでは?

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