各々別れを告げ出立の準備を始めるオルティシエ陸側の駅でメディウムも古き友人に別れを告げる。
帝国領へ立つときと同じようないつもと変わらない見送りだ。
しかしレギスから伝え聞いているカメリアとウィスカムはこの先こそ本格的な戦いと苦悩が始まると知っている。
此処より先は敵国の領内。
一瞬たりとも油断はできないだろう。
「本当に世話になった。眼帯まで繕ってもらって。」
「そのぐらいの可愛い頼みごとならいくらでも聞いてあげるわ。今回みたいな大ごとは勘弁だけどね。」
「面目無い…。」
「まあまあ。カメリア、門出の時まだ説教しなくてもいいだろう。」
ため息をつくカメリアを宥めるウィスカムはいつも通りだ。
オルティシエの被害は破壊された街並みだけで帝国軍からのあれやそれやでえらいこっちゃと言うこと以外丸く収まったらしい。
不思議なことにメディウムやルナフレーナの演説に関しては何も言われなかったそうだ。
おそらくアーデンの差し金だろう。
カメリアも気づいているのか険しい顔でメディウムに釘を刺した。
「宰相が変わってから帝国は怪しかったけれど今は更に酷いわ。戦争どころの話じゃない。もっと大きな、神話の大戦のような大ごとになる。」
「…そうなる前に止められればいいんだが。」
暗い顔をしたメディウムに大戦は避けられないことを察した二人が眉間にしわを寄せる。
この先数週間の間に取るべき行動をカメリアには伝えているがまだ半信半疑だろう。
本心から言うならばこんな世界になる前に止められるものたら止めさせて使命も王座もかなぐり捨てて誰も彼もを救いたい。
できないからこそ心苦しいながらに事実を伝えなければならないのだ。
「兄貴ー!そろそろ出発だってよー!」
「今いくよー!…じゃ、カメリアさん。ウィスカム。またな。」
「いってらっしゃい。またオルティシエによりなさいな。」
「いつでも歓迎するよ。」
すでに乗り込んでいる五人の中でも年少組で外の列車初体験組が窓から手を振ってくる。
急いで追いかけていく途中ルナフレーナに呼び止められた。
これからカエムの岬で王の剣達と一緒に様々な備えをしてくれる彼女は此処でお別れだ。
先程まで今時の中学生でも見かけない初々しさでノクティスと暫しの別れを惜しんでいた。
メディウムとも頼みごとついでに早めの別れの挨拶を済ませたはずだが何かを伝えるためにもう一度呼び止めたようだ。
「どうした。ルナフレーナ。」
「これをお渡ししたくて。」
手渡されたのは神凪一族に伝わる神凪の鉾。
メディウムも所持していないファントムソードだ。
なぜノクティスに直接ではないのか首をかしげるとルナフレーナは優しく笑った。
「貴方に持っていて欲しいのです。」
「でもこれはファントムソード…ランサー?だろう。ノクティスが持っていなければ無意味じゃあないか。」
「ノクティス様はすでにその鉾を"所有"しています。」
ファントムソードと言っても特殊な魔法が込められた実体のある武器だ。
実態がある限りルシス王家の武器召喚として所有することができる。
反対に返却することもできるのだ。
ノクティスはファントムソードとして所有しつつ実態の武器としてルナフレーナに返し、ルナフレーナ自身がメディウムに譲与するという異例の流れが出来ていた。
ファントムソードやノクティスの召喚が優先され、己のものというより借り物のような代物だがこれが一番神凪の力を乗せやすいものなのだと言う。
一体何をしたのか。
「それはお守りです。何かあった時側においてください。きっと貴方を守ってくれます。」
「…ありがとう。心強いお守りだ。」
「ふふ。友達でお義兄様ですからね。」
三俣の鉾をしまい、ルナフレーナに礼を述べた。
ノクティスとコソコソしていると思ったらこんなことをしていたのか。
何やら列車の方でノクティスの悲鳴とレイヴスの殺気を感じる。
「お前が義弟…だと!?」
「まだ!まだです!お義兄さん!」
「貴様ぁぁぁぁ!!」
本格的に喧しい。
まだ婚約で結婚式もあげていないのに気が早いやつらだ。
そこが愉快で楽しいのだが公共の場で騒ぐな。
ルナフレーナと顔を見合わせて一頻り笑った後お互いの手を力強く握った。
揺れ動く列車内の移動はメディウムにとってかなりの難所となった。
本来存在するはずの双眼を片側使用せず空間把握を行おうとしているのだから当然といえばその通りである。
四苦八苦しながらも列車の席で水彩画を描いて暇を潰している。
全体的に片側に寄ってしまうスケッチを見ては顔をしかめてぐしゃぐしゃにしてしまうけれども。
「あぁー…勿体ない…。」
「ボツだボツ。バランスが微塵も取れてない。」
「十分綺麗なんだけどなぁ。」
「まっ、メディの納得がいかねぇなら仕方がないさ。」
両側から覗き込んでいたノクティス とプロンプトがぐしゃぐしゃに破り捨てられたスケッチの紙切れを勿体なさそうに掴む。
いつのまにか群がっていた列車に乗る子供達は完成されたスケッチブックを眺めているが、素人目で観るとそちらとなんら遜色はない。
何がいけないのかと首を傾げてもメディウムが落ち込んで行くばかりでなんの解決にもならなかった。
「絵を描く時ぐらい眼帯を外したらどうだ。」
「ディザストロになっていた時の色彩魔法とか認識阻害魔法とか使えば片目ぐらい兄貴なら余裕だろ?」
名案を発言したつもりが一瞬で空気が氷点下まで下がった。
ピタリと筆を止めたメディウムがギロリと提案者のプロンプトとノクティスを睨む。
全員忘れているようだがメディウムにとって魔法とは、魔力とは生命そのものに他ならない。
それを容易に使えというのは命を削れと言っていることになる。
しかし今更命などどうでもいいメディウムは別の理由で魔法を使いたくなかった。
「ちょっと開発中の魔法を発動させるために魔力をためていてな。」
「兄貴の量で足りない魔法とか大魔法以外ありえないじゃないか。」
「そうでもないぞ?人知を超えた神々でさえなし得ない"極大魔法"があるじゃないか。」
「は?兄貴極大魔法使う気なの?世界滅びるぞ?」
「あんな大厄災魔法誰が使うか。例え話だよ。」
どんな魔法かは教えてもらえなかったがそのような理由によりしばらく魔法は封印だという。
母の形見である銀のネックレスも今は魔封じが込められていて本格的に使用不可能だとか。
ノクティスがエレメントを詰めたマジックボトルならば使用可能なので完全に使えないというわけでもない。
ちなみに大魔法や極大魔法は稀に生まれる特殊能力持ちの一般市民にルシス王家の魔法を与えると使えるようになる。
逆に王家の方はかなりの才能がないと使用が難しい。
大魔法までならやすやす撃てるアーデンやメディウムが異常なのだ。
「兄王様だって一応ルシス王家なんだぜ?武器一本で戦い抜いてみせるさ。…正確には一本じゃないけど。」
「違いねぇや。」
「だが危険度が高まるのは確かだ。油断はしないでくれ。」
「後輩軍師に負けるほど衰えちゃいないよ。」
再びスケッチしたものをぐしゃぐしゃに丸めようとしたところに缶コーヒーが当たる。
冷たい缶コーヒーの持ち主は先ほどお使いに行ったレイヴスだ。
義手を隠すようにカメリアからもらった長いローブを身に纏った白髪の男は妙に凄みがある。
主人ばかり不便を掛けさせるのは忍びないと窮屈なフードまでバッチリかぶっていた。
「子供が怯えてしまうだろう。せめてフードを取れ。」
「被った意味がなくなる。ご注文のコーヒーだ。そら。貴様らの分も。」
「うお!」
「うわ!ありがとう!」
食堂車でメディウムの分だけ買ってくるかと思いきや全員分持ってきて投げよこした。
主君だけ手渡しなのは苦笑いをこぼさざるを得ないがさらに小脇に抱えられた物の中に大袋のチョコレートが紛れ込んでいた。
「…ふん。増えてるじゃないか。チョコしかないぞ。」
嘘をつけ。
マシュマロも見えるぞ。
純真な子供たちは餌付けされてすっかりレイヴスに対する警戒を解き、またスケッチブックを眺め始めた。
「増えてるの予想して大袋いくつか買っておいたんだろう?甘い奴め。」
「メディの絵に惹かれぬ者などいないからな。増えるのも無理はない。我が主君ながら惚れ惚れする。」
フードから覗く色違いの双眼をぐっと細めてはにかみながら子供達と同じようにスケッチブックを覗く。
まさか素直に褒められるとは思っておらずむせそうになったのを何とか堪えて睨みつけた。
レイヴスは捻くれた分だけ時折真っ直ぐな言葉をくれる。
顔や行動で全く察せない分唐突すぎて心臓に悪い。
「ふーん。あんたも兄貴の絵、好きなんだな。」
「例え貴様の芸術センスが壊滅的であってもメディの絵は美しく映るだろう。やはり我が主君は最高だた。」
「なぁんで片方上げて片方落としてくかなぁ。」
メディウムのみを賛美しノクティスを徹底的に貶していくレイヴスは呆れを通り越して感心する。
数時間前の"お義兄さん"発言が相当気に入らなかったようだ。
ルナフレーナは別に結婚してもおかしな年齢なのだがシスコンが極まると誰であれ威嚇したくなるらしい。
アンブラの頑張りにより古き良き交換日記から始めた純然たるお付き合いの期間が長すぎてノクティスも奥手だし。
「弟と妹同士の婚約なんておもしろ…楽しいじゃないか。俺とお前が家族になるんだぜ?年齢的に俺が弟とかなー?」
「ぐっ…メディと…家族…メディが弟…うぐっ!そ、そそんなものにつられるわけが…!」
ものすごくつられている。
なぜかちょっと苦しそうだ。
レイヴスにとって一にルナフレーナ二にメディウム三にテネブラエだ。
順番を決めてもほんの数ミリの差しかないほどどれも大事にしている彼にとって全てが強いつながりで並んでいる構図に対して非常に魅力を感じるだろう。
どれもあともう少しで失いそうになったものだから余計に。
フーフー言いながら深呼吸をしたレイヴスをノクティスと共にニヤニヤ眺めているとムッとした顔でそっぽを向いた。
「俺とメディは親友だ。今更呼び名を変えたとて繋がりの強さは変わらない。」
「家族と親友って明確に違うと思うけど。」
「なればこそ。家族に見せぬ一面を親友は見られる。何より他人への無条件の信頼とは勝ち取ることが難しい代物だ。俺にはそちらの方がよっぽど価値があると思える。」
メディウムが家族に見せる一面は偽りのものだらけなのを知っているレイヴスにとって親友の立場の方がお株が高い。
今でこそどちらも同等と言えるけれど信頼の意味では明らかにレイヴスとアーデンに寄っていただろう。
心が荒んでいたあの時期に声をかけて手を取り共にいてくれたレイヴスには感謝しても仕切れない。
たまには殊勝なことも言えるのかと心温まりながら感心していたら、ニヤリと笑ってノクティスにガンをつける。
「んん?弟という立場を振りかざすだけでメディに寄り添うことをしなかった貴様より圧倒的に信頼されているとは思わないか?」
結局煽ってきた。
こいつ喧嘩を売りたいだけなのか。
呆れた目線を意に介さずフンッと鼻で笑ったレイヴスにノクティスが反論するかと思えば黙ったままだった。
真剣な顔で神妙に頷いている。
「言う通りだわ。兄貴、これからもたくさん相談するし迷惑かける。けどその分兄貴のことちゃんと見る。二十年分一から積み上げてこう。今までの旅の分も含めてさ。」
「お、おう。もちろん。」
「…チッ。考えを改める頭はあったようだな。」
少し前だったら煽りに乗って激怒していたであろうノクティスが大人しく意見を受け入れ、己の悪いと思ったところを治すべく素直に頭を下げた。
さらなる追撃を入れる気分も削がれたレイヴスが窓の外を眺めてだんまりを決め込んだ。
腰にさす剣から手を離さないところを見るに警戒しながらも次の降車駅まで休む気なのだろう。
一方的に話を切り上げた大人気ない大人はアレでノクティスを受け入れる努力をしているのだ。
やり口は気に食わないところを口にして相手の性格を見定め度量を図ると言う攻撃的なものでも努力は努力。
責める気にもなれずノクティスにごめんな、と謝って渡された缶コーヒーを開けた。
気にしてないと頬をかくノクティスも渡された缶を開けて一口含んだかと思えば思い切りむせた。
「なんだこれ!くっそ苦い!!」
「…これコーヒーはコーヒーでもエボニーだな。」
よく見たら通路を挟んで向かい側に座るイグニスがプロンプトに渡されたエボニーを至福の顔で飲んでいる。
帝国領で缶コーヒーといえばエボニーコーヒーなのをすっかり忘れていた。
「…クク。」
「ああ!レイヴス!俺がエボニーコーヒー苦手なの知っていて渡しやがったな!!」
軽く吹き出したレイヴスに食ってかかるノクティス。
なぜエボニーコーヒーが苦手なのを知っているのか首をかしげるとにやけ顔で解説を入れてきた。
「交換日記に…ぷふ…書いていただろう…ルナフレーナがそれ以来エボニーコーヒーを飲めるようになってお前に自慢してやろうと躍起になっていな。」
「あーあれか。エボニーを子供でも飲みやすくする方法ないかって聞いてきた時。あれ日記のせいだったのか。」
あるに突然レイヴスが言い出すものだから何事かと聞けばルナフレーナのわがままを叶えるためだと言っていた。
結局苦味が濃すぎて砂糖でもミルクでも緩和出来ず諦めてもらったが。
ルナフレーナはエボニーコーヒーを飲めるようになったのだろうか。
「子供舌は健在のようだな…くく…。」
「レイヴスお前ー!」
仲がいいのだか悪いのかわからない親友と弟が騒ぐ。
ものすごくうるさい。
ルシスとテネブラエの次期代表が公共の場で騒ぐな。
「喧しい。」
「「イデッ!」」
白と黒の脳天に鋭いチョップが落ちた。
※ゲームシステムのような蛇足。
これより先の本編で主人公はマジックボトル以外の魔法技が使用不可能になります。
コマンド技の魔法も使用不可になる代わりに新しいコマンド技を習得します。
APの大飯食らいはきっと主人公。
"友との約束"
即死攻撃一度回避。
戦闘不能時一日につき一度だけ自動蘇生。
戦闘終了時にHPの五十%まで回復。
回復余地が五十%以下になっていてもきちんと回復する。
"ソードマスター"
レイヴスと主人公のコマンド技。
斬鉄剣と偽ファントムソードの乱舞。
範囲攻撃技。
"忠誠の盾"
グラディオラスとレイヴスのコマンド技。
文句を言い合いながら残存HPが低い誰かのダメージを一定時間肩代わりしてくれる。
護衛対象と自身に中程度のリジェネ状態。
結論。レイヴスつおい。
以降はついに帝国領へと飛び出していく五人組改め六人組。
先はまだまだ長い。