FFXV 泡沫の王   作:急須

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軍師と元将軍

揺れ動く列車で向かう次なる目的地まで寝台列車でアコルドを抜け、帝国領へと進んでいく。

帝国領からも列車で進み、王の墓所があるケスティーノ鉱山とテネブラエで途中下車する予定だ。

その間はのらりくらりと今までの激動が嘘のように列車の揺れに身を任せながら穏やかに過ごしている。

そうしているとメディウムの顔を覗き込もうとする乗客が居り、にっこり笑って挨拶をしてはやり過ごし近場に控えるレイヴスに助けを求めること幾たび。

致し方なく列車に心踊らせワクワクな子供達に臨時絵画教室を開いて保護者と無垢な盾を利用させてもらっている。

演説は思ったより視聴率が高くラジオの声もかなり印象に残ったのかコソコソするほどではなくても疲弊する列車となった。

 

気ままな絵画教室が終われば割り当てられた寝台のコンテナでぐったり。

レイヴスに看病されながらぐーたらだらしなく横になり続ける。

文句一つ言わないレイヴスに甘えてしまっていることを自覚して一度無理を押して一日はしゃいで見たが、結局次の日にはぐったりして再起不能となり無言の圧に負けて午後は休むようにしている。

魔力を抑えるといっても自動ケアルは発動し続けている。

そのかわり肉体面の補助魔力が半減し傷ついた筋肉に負担をかけているのだ。

寝込んで当然だとレイヴスに睨みつけられノクティス達にはきちんと体のことを伝えた。

 

体の体質ばかりは相談しても改善されない。

せめて悪化しないように多く休めとお言葉に甘えさせてもらった。

 

「あー…はしゃぎたいわ。体がついてこないけど。歳かな。」

「まだ二十六だろう。俺より若い。今まで頑張りすぎていたんだ。今ぐらい休んでもバチは当たらないさ。」

「遊ぶは休むの中に入らないんですかー?」

「入れても構わないが体が落ち込まない範囲でだ。」

 

シガイの影響により夜間は明るい駅で停車する。

今までは走り続けても明るければ問題無かったのがここ最近シガイの影響がひどく停車を余儀なくされたらしい。

神々が地からいなくなったこと、ルナフレーナの神凪としての能力が低下していることが大きな原因だろう。

日が短くなる速度も異常に早くなっている。

世界の終焉が近づいているのだ。

 

「最後かもしれないだろう。こうして遊べるのも。穏やかに眠れるのも。友として休めるときに休んでいてほしい。」

「…そうだな。」

 

最後かもしれない。

 

本当に自分たちの肩に世界の命運が乗っかっている。

大人になったばかりの家族に大きなものを背負わせてしまった。

子供だった自分がたくさんの現実を知ってしまった。

優しい友に辛い選択を強いてしまった。

二十年過ごしたあの人へ折れた牙を向け育つ日々。

 

それ全てが"最後"の訪れる時、過去へと変わる。

 

「ありがとう。親友。」

「どういたしまして。」

 

コツンッと軽く拳を合わせて笑いあった後誰かが控えめに扉をノックする。

このコンテナを訪れるのは仲間達だけだ。

一応レイヴスが警戒したように帯刀してそっと扉を開けると見覚えのあるメガネが視界に入る。

この中でメガネをしている知り合いの人物は一人しかいない。

 

「どうしたイグニス。一人で訪ねてくるなんて初めてじゃないか。」

 

控えめに開かれた扉をすり抜けて入ってきたのは売店で売っているクッキーを手にしたイグニスだった。

紅茶のペットボトルを持っているからきっとお茶をしに来たのだろう。

彼が一人でメディウムとレイヴスのもとを訪れるのは初めてのことであの四人の中では一番警戒していたはずだ。

仲間といえど帝国の名だたる役職に身を置いていた二人である。

それはそうだと納得して流していた。

なのにどうして訪れる気になったのか。

 

「だらしない姿勢で申し訳ない。見ての通りだ。このままでも構わないかな?」

「むしろ休んでいるところ申し訳なかった。出直した方がいいか?」

「イグニスが構わないならいいさ。茶菓子もあり合わせのものしかないけれど。座って。」

 

二段ベッドで四人のコンテナを使っている彼らのコンテナより普通のベッドに二人のここは幾ばくか広い。

反対側はレイヴスのベッドなので上体を起こした己のベッドの横に腰掛けてもらった。

必然的に近くなる距離になんだかおかしくなってクスクス笑うとメガネをあげて軽く眉を寄せる。

 

「何かおかしなことをしただろうか。」

「いや。イグニスがここまで近づく事もなかったなと。今日は珍しいことが多い。」

 

受け取った茶菓子を開きながら食べかけの食事が下げられる。

柔らかく飲み込みやすいものでも食欲が落ちてきてしまい、少し残してしまった。

毒味までレイヴスがしてくれているのに申し訳なさばかりが募る。

叱咤しても言うことを聞いてくれない体はルナフレーナの代わりに背負った半分の代償の影響もある。

戦闘に出られても足手まといにならないように知恵を回すのが精一杯かもしれない。

 

「メディウムはここ最近で儚くなったと、ノクトが心配している。」

「それで偵察か。自分で遊びにくればいいのに。儚くなったってなんだ?」

「深窓の、と表現したり薄幸の、と言ってみたりでまあその辺りの表現をノクトはしたいのだろうな。」

「どれも似たようなもんだなぁ。」

 

サクッと口に広がる淡い甘味を味わいながら悩ましげに首をかしげる。

自分では元気にしているつもりでも周りから見れば無理をしているように写ってしまっていたのかも。

 

「元々、元気にかけまわれるほど体は頑丈じゃない。魔法の力でなんとかしていた内臓を突然人と同じように活動させれば疲労や不具合が出てくる。むしろ補助がほとんどない状態で生きていられるのが奇跡だ。ここまでの回復は悔しいことにアーデンおじさんのおかげだな。」

「三人旅の時の治療だな。あれは適切な処置だったのか。」

 

ないに等しかった寿命を延ばしてくれたのは確かにアーデンだ。

けれど素直にお礼は言えない。

あれは世界の、ひいてはルシス王家そのものにとっての敵だ。

メディウムの立場そのものが絶妙で曖昧だからこそどちらの側にも立てるだけの話。

イグニスにとっては憎くき仇敵だ。

 

「んで、本当にお見舞いだけが目的かな?」

「…聞きたいことがあるのはたしかだ。」

 

目線をそらしたイグニスの手には携帯が握られている。

その画面に映るものを覗き込めばいつかの日に送りつけたナーガの写真と洞窟で撮られたような消えゆくナーガの写真だった。

これが一体どうしたのだと首を傾げれば意を決したようにイグニスが向き直ってくる。

重要で重苦しい話のようだ。

 

「ずっと気になっていた。シガイとは寄生虫による病だと言っていたあの日から。ずっと。」

 

病とは生物全体が感染するものだ。

例え害の根元が寄生虫だったとしても突然変異や進化の過程で感染しなかったものへも広がっていく。

それがシガイでも起こりうるのではないか、というのがイグニスの疑問点だった。

今は人間が完全にシガイになることはないけれど、いずれは人間ですらあのような化け物になる世界が訪れるのではないかと。

 

ただの憶測だった考えは人の言葉を喋るナーガによって現実に変わる。

寄生虫と言うならば侵される前の大元があるはずだ。

その大元が人の言葉を理解する野獣や幻獣の可能性は希望的観測。

推測できるのは最悪の事象。

 

「誤魔化さないで教えて欲しい。人もシガイになり得るのか。」

「…結論から言うと数パーセントの確率でなる。」

 

そばにいるレイヴスが目をそらし、イグニスが息を飲んだ。

ジグナタス要塞の中身を目の当たりにしてきたレイヴスとメディウムは実際に人がシガイになる姿を幾度となく見ている。

魔導兵もまたシガイに部類されることを彼らは理解している。

軍部の中でもアーデンに近い二人だからこそ知り得る情報だ。

 

「それには長期の間高純度のシガイに侵されていなければならない。人為的でも無い限り外の世界では不可能だ。」

 

たった一晩で人がシガイに変貌するならば世界はシガイで溢れかえり、アーデンがなにもしなくても勝手に滅んでいっただろう。

二度遭遇した野獣に寄生する蔦のシガイもジグナタス要塞で人為的に作られた異形のものだ。

人はそれだけ多くの寄生虫の摂取をしなければシガイにはならない。

 

「では、洞窟のナーガは?」

「人の言葉を後から覚えたシガイかもしれない。そのような例なら何度か聞いたことがある。」

 

盲点だったようで納得したようにイグニスが息を吐いた。

もし人がシガイになる確率が二桁以上であればイグニスはシガイとの戦闘を二度としなくなるだろう。

ノクティスがシガイになる姿など誰も見たく無い。

神々の尻拭いのために家族を喪うなんてもう二度とごめんだ。

 

「聞きたいことはそれだけ?」

「もう一つ。聞きたいと言うより言いたいことが。」

 

ベッドに腰掛けていたイグニスが床に降りて正座を始めた。

何をする気なのかと動向を見守っていれば綺麗な所作で見事な土下座を敢行してみせた。

ぽかんとしてしまったメディウムとレイヴスをほっぽって何事かの謝罪を口にする。

 

「メディウム殿下。これまでの非礼、深くお詫び致します。」

「ふぁ!?いや、いやいやいや!なんだ突然!?顔を上げてくれ頼むから!!」

 

悲鳴に近い声を上げたメディウムの声を聞いてイグニスは顔を上げる。

重要性を感じ取ったレイヴスが側に控え、イグニスに冷たい目線を寄越した。

 

「何に対する謝罪なのかも分からぬままその意を受け取ることはできん。我がへい…殿下を困らせるな。」

 

陛下と言おうとしたレイヴスの脇腹をつまんで殿下と言い直させ、その通りだと頷く。

謝罪をしてもらうようなことは何一つなかったはずだ。

グッと唇を噛み締めたイグニスがその想いを言葉にするまで少しばかり時間を要したがなんとか文を組み上げて謝罪の意味語った。

 

「オルティシエで演説をした時、殿下は祖国を思って声を上げてくださいました。我々が言葉にできない怒りを世界に知らしめてくださった。」

「六年しかいなかったとはいえ生まれて育った故郷だしなぁ。」

「自らが矢面に立つことで陛下をその身で庇ってくださった。我々が命を差し出してでも守るべき時殿下が片目を差し出してまで守ってくださった。」

「陛下だからとかじゃなくて弟だったからなぁ。」

 

当たり前のことをしただけだとメディウムは首をかしげる。

まるで眩しいものでも見るようなレイヴスが己の主人を見て微笑んだ。

 

メディウムにとってルシス王国は恨みこそすれ助ける義理はないような物だ。

命を追われ成り行きとはいえ六歳で野獣蔓延る外へ追い出され生贄として差し出された。

それでも献身し続け王となる弟のために世界中を飛び回ったにもかかわらず側近のイグニスに信頼できないと一刀両断される。

どれだけ身を尽くしても犠牲にしてもメディウムは出来損ないだからと罵ってきた国民がいた。

お前に才能がないからと王としての映えある栄光の座から蹴落とされた。

道具なのだとメディウムを人とも扱わない神々がいた。

 

それら全ての原因はルシス王国の第一王子として生まれたからといっても過言ではない。

なのに恨み言一つ口にすることなく今までもこれからも献身していくであろうメディウム。

果たして自分はそこまでぞんざいに扱われてまで尽くしたいと思えるだろうか。

恐らく、いや絶対無理だと言い切れる。

それがなぜ。

メディウムはこんなにも優しくこんなにも尽くしてくれるのか。

その心が見えず疑いをぬぐいきれなかったイグニスは演説を聞いて、一度片目を失った姿を見て納得した。

 

「貴方は最初から最後まで"家族のため"に動いていた。それを理解しようともせず私は疑い続けていた。」

 

家族のためだけに己の命そのものを差し出せる人がいるならばそれは狂気だ。

愛の意味を履き違えた傲慢な狂気。

自己満足の果てにある結果だ。

メディウムも狂人の部類なのだと考えてもどうにも納得できなかった。

彼は全てを知っていてその上で彼が最も納得できる一番幸せな未来を探し続けている。

その中に己が入っていないのは一体誰のせいなのか。

こんなにも狂わせてしまったのは一体誰なのか。

 

「私は自分が恥ずかしい。その理由も意味も理解せず貴方そのものを否定してしまっていた。」

 

そう。

原因は我々なのだ。

弱さゆえに祖国を守れず。

無知ゆえに神々の流れに翻弄される。

自分たちが選んでいるように見えて予め用意されたそれにただ流されているだけの我々が彼をこんなにも歪めてしまっているのだ。

最初から最後まで見て自分以外の全ての人が幸せになる未来を探している。

彼が己の幸せを諦めたのはこのまま進めば皆の未来を成すために命をかなぐりすてる必要があるからだ。

 

「我々は弱い。あなたはその分背負っていく。だからこんなにも傷ついてしまった。」

「…イグニス。」

 

王は犠牲の上に立つ。

多くの屍の上に新しい命を築き上げていく。

その間に立つ王がどれだけの悲しみを背負うかなど誰にも想像できない。

メディウムは今その犠牲の中に片足を突っ込みながら王としての役割を王の代わりにやっているのだ。

まるで王がやってのけたかのようにレールに乗せて自分はそっと屍の海に退場していく。

その姿が容易に想像できるのだ。

 

「私が受けるべき傷を、我々が受けるべき痛みを殿下はずっと肩代わりしてくださった。そのことへの感謝と弱さゆえに甘えていた事実への謝罪を。どうか受け取って欲しいのです。」

 

再び深く頭を下げたイグニスは今度こそ顔を上げようとしなかった。

どうするべきか困ってしまったメディウムがレイヴスへと助けを求める。

メディウムにとって困っている人を助けるのは当たり前で助けたいものに身を賭すのは当然のことだった。

そうやって生きてきたしこれからもそうしていくだろう。

 

誰に認められなくても己がしたいからそうする。

誰に感謝されなくても己が助けたいから助ける。

だから彼は知らぬ間に人望を集め嫉妬した誰かの反感を買う。

循環を知ってそういうものだと納得してきた。

改めて感謝され謝罪されてもあたふたしてしまうだけだ。

 

致し方なさそうにメディウムの前に立ったレイヴスがイグニスを見下ろす。

しばらく黙っているようにメディウムに伝えて静かな声で厳しい言葉を落とした。

 

「虫が良すぎるとは思わんか。」

 

イグニスは動かなかった。

感謝の言葉も謝罪の言葉も所詮は言葉だけだ。

行動で示してきたメディウムがそれっぽっちのものを受け取る必要はない。

レイヴスはそう主張した。

 

「お前のいうことはもっともだ。それと同時に受け取って欲しいなど傲慢だ。罰して欲しいというならまだしも謝罪の言葉?感謝の意?そんなもので殿下が今まで味わってきた痛みが和らぐわけが無い。」

「ちょ…レイヴス。」

「そんなものが欲しくて殿下は今まで血反吐を吐いてきたわけでは無い!弱さを知っているならば強さを証明してみせろ!王を守り切ってみせろ!今その場で無駄な時間を消費している間にあのアホは何かやらかしているかもしれんぞ!」

「陛下!陛下だから!アホって言ってやるな!」

 

黙って聞いていられなかった。

何一つ受け取ってやらんというレイヴスの態度は怒りもせず嘆きもできないメディウムの代弁だ。

しかしどこか彼自身への怒りもあるような言葉を持ち、頭を下げたままのイグニスの髪を無理やり引っ張り上げ揺れ動く瞳に一喝を入れた。

 

「メディウムが傷つき続けているのは弱い我々の責任だ!ここでぼさっとしている暇があったら頭回すなり体動かすなりしてろ!出直してこい!」

「あっ!?ちょっとレイヴス!」

 

ぽいっと放り投げられたイグニスはコンテナの廊下に転がり、勢いよく閉められた扉が轟音を立てる。

こちらに背を向けるレイヴスの顔は見えないがその姿が小さいものに見えて、少し笑ってしまった。

自分の心配ばかりしてくれる親友はとっても優しいらしい。

 

「我々の…責任なんだ…!」

 

噛みしめるような吐露に怒る気も失せた。

人一倍メディウムを思ってくれる親友が誰よりも責任感を感じるのは知っている。

先程イグニスが言ったこともレイヴスからすれば苦しくて痛くてどうしようもないような思いが溢れるような、そんな思い出が蘇る話だったろう。

 

「レイヴス。泣くなよ。」

「泣いてなどいない!」

 

怒鳴るように振り返った顔は真っ赤でまたおかしくて笑う。

ムスッとした白髪はそっぽを向いてベッドの端に座った。

部屋から出て行ってしまったりしないのは存外寂しがり屋なメディウムを想ってだ。

 

「レイヴス。」

「…なんだ。」

「ありがとうな。代わりに怒ってくれて。」

「ふん。若造にはあのぐらい言ってやらんとわからん。」

 

なおもこちらを向かないレイヴスはズズッと鼻をすすった。

ティッシュを差し出してやれば無骨な手でぐしゃりと頭を撫でられる。

少し年上の親友の好ましいところだ。

 

「怒りすぎてハゲるなよ。」

「やかましい。」

 

撫でていた手がげんこつに変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンテナから追い出されたイグニスがトボトボとノクティス達の元へ戻るとキングスナイトをしている真っ最中だった。

意を決して謝罪に行ったら不発に終わり帰ってきたらゲーム中だからと軽い感じであしらわれて踏んだり蹴ったりである。

けれど思わぬ収穫があった。

自覚できなかった足りない部分を知ることができた。

対話自体は無駄ではなかったのだ。

 

「イグニスなんかスッキリした顔してるー!」

「いつになくな。」

「兄貴となんかあったのか?」

 

携帯の画面から顔を上げた三人が覗き込むように顔を見てきてふと笑った。

 

「レイヴスとは仲良くできそうだな、と思ってな。」

「ええ!?」

「あのいじめっ子野郎と!?」

「そいつはまた面白そうな話だな。」

 

詰め寄られたイグニスは電車の窓から外を眺めた。

 

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