カルタナティカ駅が近くなってきた列車内。
向かい合うような席で目を瞑るレイヴスと対面に座り、過ぎ去っていく外を眺める。
ノクティスとイグニスは食堂車に、グラディオラスは散策に行ってしまった。
二人だけの空間を穏やかに緩やかに堪能するだけの時間だ。
流れ行く雲やゆっくり消えていく山々。
時折伺える現生種の野獣とルシス領内では見られない植物を目で追いながら列車に揺られる。
眠っているように見えて目を瞑っているだけのレイヴスをチラリと目の端で見て、自分は本当に眠ってしまおうかとあくびを一つ。
どこでも寝れてしまう軍人気質のメディウムは本当に寝入ってしまおうと体を少し傾けると同時に、隣に誰か座る気配を感じた。
一瞬レイヴスが身動ぐ動作をして、また目を瞑る。
危険人物ではないとすぐさま判断されたということは旅の仲間だ。
致し方なく瞑ろうとした重い瞼を開けて、隣に視線を向けた。
金色のチョコボ頭がにこやかに笑っている。
「ごめんね。寝るところだった?」
「いや、大丈夫だ。」
ふわぁ、ともう一度あくびだけして片目を擦る。
眼帯をずっとつけていると腐ってしまう、と今日は橙色の瞳に視力を集中させている。
白髪がだいぶ多くなってきた髪を鬱陶しそうにかきあげてプロンプトの要件を聞いた。
「どうしたんだ。何か問題があったか?」
「ううん。グラディオと探索してたんだけど一通り見てきちゃって。一人で戻ってきたんだ。」
確かにグラディオラスがいる気配がしない。
何度か列車を乗り換えたがどれも似たようなつくりでメディウムは早々に寝入ってしまっていた。
しかし列車自体が珍しい四人組は律儀なことに毎回散策しては、珍しいものを報告しにくる。
外に写ったものだって嬉しそうに見てはしゃぐのだ。
特にカメラを持ってこの旅を記録しているプロンプトはノクティスと嬉しげに撮り合っている。
時々こちらにカメラを向けてくるけれど気にせず寝ている時もあるし、レイヴスと巫山戯る時もある。
あるがままを写すのが思い出というものだから。
「メディの絵、見せてもらえないかなって。」
「構わないよ。ほら。」
何処からともなく取り出されたスケッチブックを受け取ってお礼を言いプロンプトは、そっと絵を眺める。
芸術の感性がてんでダメなグラディオラスやノクティスとは違い、好んでスケッチブックを眺めているようだ。
このまま寝るのも惜しいと考えたメディウムはプロンプトのカメラを思い浮かべる。
「プロンプト、写真を見てもいいか。」
「もちろん。使い方わかる?」
「一応わかる。」
王都製のカメラを手渡され、今まで撮った写真をみる。
このメモリーカードには今回の旅だけが記録されているようで、いく枚もの外の写真があった。
皆一様に笑顔で白熱するような戦闘の瞬間でさえも悲壮感はない。
ただこうしてみんなで旅が出来る。
その幸福を思い出として閉じ込めるような写真の数々にメディウムも写り込んでいた。
旅路の思い出を振り返るには少しばかり早すぎるかもしれないけれどこれはこれで感慨深いものだ。
悪いものばかりじゃなかったと、皆の表情が語っている。
ルナフレーナもレイヴスも写っていて、イリスもジャレットもタルコットもいる。
ニックスがルナフレーナに振り回されている写真もなぜか何枚か入っていた。
守りたい人たちがこんなにも笑っている。
それだけでメディウムは満足だ。
「メディ。これ。」
「メモリーカード?予備のか?」
「これはもう一杯のやつ。俺がノクトと友達になった高校生の頃から撮ったやつだよ。」
いつも持ち歩いているのだと笑いながらメモリーカードを入れ替える。
映し出された写真はメディウムの知らない、王都での日常が沢山詰まっていた。
学生として友として親友としてノクティスに寄り添ってきたプロンプトが記録した日常。
奪われた街が鮮明に残っている。
なにより、兄が知らない弟の日常が垣間見えることが嬉しかった。
馬鹿みたいなことをして親友と言える人を見つけて誰かに支えられて親に心配されて生きていく。
当たり前の学生としての生活を謳歌できた弟の日常。
血生臭くなどない。
剣を訓練以外で握ることもない。
人に振るうこともない。
何かの命を奪うこともない。
ただ穏やかに見守られて過ごす麗らかな春のような日々。
綺麗なままの思い出が写真と言う名の形に残されていて弟のことなのに嬉しいと思う。
大人になって見返した時、その時一緒にいた人々と笑い合う未来があるならメディウムはなんだって出来る。
今までの努力が違う形で何処かを平和にしていたのならそれに敵うものはない。
「皆、楽しそうだな。」
「メディのお陰だよ。魔法障壁の所為で弱っていた国王陛下を政治で助けて戦時中も豊かなままでいられたのはメディが頑張ったからだって、イグニスに聞いた。」
一年に一度様子を見ることしかできない王都はいつだって賑わっていた。
戦争をしていてしかも追い込まれていると言うのに王都は常に最先端。
それもこれもジリ貧だったルシスをなんとか立て直し、内部情報を持って帰っては対策を練ってきたメディウムの行動あってこそだ。
王都に引きこもってばかりの重鎮などよりよっぽど活躍したと言える。
賞賛する国民の声も感謝を表す人々の声もメディウムに届くことはなかったけれど。
確かに救われた人たちが世界に多くいた。
当たり前のように手を差し出すメディウムは一度も誇ることがない。
偉人と言われてもおかしくないほどに素晴らしい彼は兄王の地位で未だ戦を続ける。
「戦争は続いてるけど、確かに平和な時期があった。メディの、殿下のお陰でさ。なんて言えばいいかわからないけど、ありがとう。平和のために頑張ってくれて。」
眩いほどの素直な感謝の気持ちは忖度のない笑顔と共に贈られる。
人はこれほどまでに素直な顔が出来るのかと目を細めてしまう程だ。
にこやかに笑い返したメディウムはカメラを持たない片手でそっとチョコボ頭を撫でる。
弟にするように優しくかき混ぜた。
「ああ。どう致しまして。また平和にしてやらなきゃな。」
奪われた平穏を取り戻すために。
プロンプトは生まれた地に、メディウムは育った地に足を踏み入れる。
ニフルハイム帝国とはなんなのかプロンプトはまだ知らない。
自分とは何者なのか彼はまだ知り得ない。
それはあの胡散臭いおじさんが教えたいと宣ったからメディウムが言わないだけだ。
戦はまだ続いている。
知らないことがまだ並んでいる。
たくさんのことが終わらないままどんどん無理難題が積み上がっていく。
世界の理不尽に追われて最初は誰も"悪くなかった戦い"を"誰かが悪い戦い"に変えていく。
他人の正義を自分の正義で塗り替える劣悪な戦いだ。
止まる術を知らない正義が世界を押しつぶす前に大勢の正義が振りかざされる。
なんと滑稽で悲しい戦いなのだろうか。
そんなものしかできない自分たちに、嫌気がさす。
「世界はどうしてこんなに複雑なんだろうな。」
「ホント。俺にはさっぱりわかんないや。」
ため息すら漏れそうな嫌味に悲しそうに笑うプロンプトが答える。
難しいことが苦手で快活な彼には理解できないことが沢山あるだろう。
それが人間で世界というものなのだからもうどうしようもない。
この世界は失敗作なのだと、世界を作りかえようとした悪役が嘆いていたけれど今ならその気持ちがわかる。
全てを原初に返して生き物も形も命も新しくしてしまいたい気分だ。
「ありがとう。プロンプト。返すよ。」
「もういいの?」
手渡したカメラを受け取りながらメモリーカードを入れ替えるのを横目にノビをする。
写真をとった時何があったのかや思い出話を聞いてもいいけれどそれは今じゃなくても出来ることだ。
それに、聞いてしまったらこの世界にとどまりたいと思ってしまうかもしれない。
使命を果たせないのはメディウムとして少し困る。
「ノクティスのこと、これからも宜しく頼む。」
「うん…あ、そうだ。これ。」
改めてノクティスをお願いすると神妙そうに頷かれ、何かを思い出したようにごそごそとポーチを漁っている。
なにやら何枚かの現像した写真があるようで駅で忙しそうにしていたのは現像していたからだったらしい。
複数枚の中に隠れ港でとった集合写真があった。
集合写真を差し、嬉しそうにしている。
「これ、お守り。何かあった時みんなでメディウムを守れるように。」
写真には魂が宿るという。
それは撮られた人が魂を抜かれてしまうなんて都市伝説があるからなのだが、それとはまた違う。
写った人達が助けてくれるという紛い物とも言い切れないその思いをプロンプトはお守りにしたいのだと言った。
気持ちだけで十分なのだけれど、せっかくの写真だ。
ありがたく受け取った。
「もちろん、俺たちも駆けつけるけどお守りもあった方がきっと安心だよ。」
「ああ心強いよ。ありがとうプロンプト。」
へへへ、とはにかむプロンプトのチョコボ頭をぐしゃぐしゃにして写真を懐にしまう。
それと同時に勢いよく立ち上がったプロンプトがまだあと四枚ある写真を持った。
どうやらノクティス達にも渡しに行きたいようだ。
ジッとしていられないところは子供のようだな、と微笑みながら手を振って見送った。
ふと、隣で瞑っていたはずの双眼が開いたような気がして向かい側を見る。
無骨で長い手のひらが無言で差し出されているのを見て眉をひそめ、懐にしまったばかりの写真を無言で取り出した。
写真が見たいなら一言いえばいいのに。
「…あとで一緒に撮るぞ。」
「はいはい。」
少し見ただけですぐに帰ってきた。
もう一度しまいこんで目を瞑ったレイヴスを見る。
彼とルナフレーナとメディウムの三人で列車出発前にオルティシエで撮った写真があるというのに、自分が映らない写真に嫉妬したようだ。
我儘を言う子供のような一言に適当に返事をしてメディウムも寝る体制へと入る。
どこかへ行ってしまった眠気は体制さえ整えれば自然と戻ってきた。
ノクティスの親友は快活で優しくてちょっと抜けているプロンプト。
メディウムの親友は物静かで努力家で自分と特定の人に厳しいレイヴス。
兄弟なのに親友は正反対だと思い浮かべながら、微睡みの世界に落ちていった。
昨年の三月十四日から投稿し始めて早一年。
これだけ多くの方に見ていただけるとは。
どうしてこうなった。(困惑)
それはともかく、お気に入りやご感想、目を通してくださる全ての方々にこの場を借りて改めて感謝を。
乱文で申し訳ない程コレハヒドイ「泡沫の王」ではございますが今後ともよろしくお願い申し上げます。