FFXV 泡沫の王   作:急須

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ケスティーノ鉱山

現在確認できるファントムソードの中で最後と言えるケスティーノ鉱山へ行くためにはカルティナカ駅で降りる必要がある。

カルティナカ駅はこぢんまりとした駅でケスティーノ鉱山への直通エレベーターがあること以外に突出するものはない。

 

「闘王の刀があるのはこのエレベーターの先だ。」

 

先導していくメディウムに続いて五人が続く。

鉄骨でできた簡易エレベーターに下は濃い霧が立ち込める野獣の温床。

なるべく足を踏み入れたくないような場所にも王の墓所は存在する。

聖なる力によってシガイ避けになる王の墓だとしても野獣までは対策できないのだ。

 

「最愛の妻を早くに亡くし、豹変したという王の証だ。コルに一度やらせたが、高速で間合いを詰めて放つ居合抜きで本領発揮する。下はどうなっているか分からん。気を引き締めていくぞ。」

「兄貴が付いてくるの反対…って言っても聞かねぇよな。レイヴス、任せた。」

「言われずとも。」

「んじゃ俺は王サマを守ってやるとしますか。」

「俺とグラディオラスは"護衛"だからな。」

「俺も!ノクトもそうだけどメディもなるべく気にかけるよ!」

 

各々が気合いを入れる中でレイヴスに支えられながらエレベーター内部へと進む。

かなり下まで降りなければならないだろう。

皆が乗り込んできたところでエレベーターを動かし、降下の中プロンプトに声をかけた。

 

「カメラ、ちゃんと構えておけよ。」

「うん!危なくない程度にね!」

 

まだ少しだけ余裕のある旅も冒険もケスティーノ鉱山で終いとなる。

このあと写真を撮れたとしても暗い風景ばかりになってしまうだろう。

せめてここまでの旅の思い出は楽しいままで。

不穏な音を立てて動く古いエレベーターの中でろくに動かぬ体を叱咤した。

 

 

 

 

 

ガコンッと少しの揺れと音を立ててたどり着いた最下層は少し小高い丘の上。

濃霧によって先があまり見えないが、湿気とぬかるむ足元から水没しているのがわかる。

この分だと鉱山内部にある王の墓所は腰まで浸かりそうだ。

足を取られぬようメディウムを支えて進むレイヴスに合わせて全員で足並みを揃える。

滑らないようにもつれないように一苦労だ。

 

「あまりにも遅いようなら置いていってもいいぞ?」

「置いていって戻ってきたら大怪我してたとかぜってぇやだ。」

「ねーレイヴス、俺ってそんな信用ない?」

「己の体調や怪我に関しては一切ないな。」

 

ゆっくり、しかし確実に歩きやすい道を模索しながら進むレイヴスにも申し訳ないが、一刻も早くクリスタルを取り戻したいノクティス達にも迷惑をかけている。

ならば待っていろと言われてもそれはメディウムの精神に反するのだ。

たとえ両足を失ったとしても這ってでも進んでいく気概なのだからこの程度で諦めたくはない。

 

足場もしっかりしたところを選べば進めないこともない。

ゆっくりでも前に進めるならば足を止める理由などない。

 

「不甲斐ない兄王でごめんな。」

「今まで歩んできた道を歩き易くしてくれたのは紛れもなくお前だ。不甲斐ないどころか頑張りすぎだ。…それに、一人で限界を超えて戦い続けた人間を手酷く扱うほどコイツらは馬鹿じゃない。」

「珍しくレイヴスが褒めている。」

「褒めているように聞こえねぇよ。」

 

坂道を下りて先導するノクティスのツッコミに笑っていると、グラディオラスが険しい顔をした。

どうやら野獣が出始めたようだ。

膝までありそうな水溜りにカニのような野獣が何匹かいる。

まだ少し離れた位置にいるメディウム達の前に四人が戦闘態勢に入った。

 

「そっこーでぶっ倒すぞ、プロンプト。」

「ちょっとレイヴス…。」

「ん?ああ。心得た。」

 

武器召喚でエンジンブレードを手に持ったノクティスがプロンプトに援護頼んでいる間に後ろがごにょごにょと騒がしい。

足元でも滑ったのかとそのまま敵に向かって前進すると、横から何かが高速で通り過ぎノクティスをひっ摑んだ。

 

「行ってこいッ!」

「はぁぁぁぁああ!?」

「イーッヤッフー!」

「ノクト!?メディ!?」

 

なんと、レイヴスが思い切りメディウムを投げ飛ばしたのだ。

敵に向かって投げ飛ばされた状態で的確にノクティスの襟首を掴み、一緒に飛ばされて行く。

重さで少し高度と速度が落ちたがそこまで計算済みなのか的確に敵の真上へと落ちていく。

二人に続いてレイヴスも飛び出した。

 

動揺していてもノクティスは現状況で最善の手を選ぶべくエンジンブレードから大剣へと持ち変える。

長剣と同じく大剣を構えたレイヴスとメディウムに合わせてシフトで位置を合わせる。

三人が三匹のカニの野獣の上に飛び出し己の獲物を振り下ろす。

ドォンッと地響きを響かせて落下した三人は見事にカニの殻を粉砕してみせたのだ。

 

それなりの高さからもたらされる自由落下の衝撃に加えて武器の重みで加速した速度に耐えられるはずもなく中身も丸ごと潰れてしまった。

受け身だけとって着地に失敗したメディウムはレイヴスに即座に回収され、抱えられていた。

 

「ビックリしただろうが!!」

「でも一気に降りられたし障害物も排除できた。一石二鳥だ。」

「実に効率のいい戦闘方法だ。」

「一言!言ってくれ!」

 

この帝国軍幼馴染同盟はダメだ。

効率重視すぎる。

怪我をしないと分かればとんでもないことをしでかしてもモノともしない。

 

「それよりなんか機械があるぜ。」

「ああ。先に行く道を塞いでいた。」

「グラディオもイグニスも気にせず先に探索するな!」

 

事前にメディウム達と何らかの協定でも組んだのか先に進むためだけに無駄な連携が取れているプロンプト以外にリーダー王子は怒りマークを浮かべそうになる。

適応能力が高すぎやしないか。

 

「さっきのかっこいいシーンもバッチリ撮ったからね!安心して!」

「なにを安心しろってんだ…。」

 

ダメだこのパーティー。

早く何とかしないと。

 

先行きが不安になってきたところでまた勝手に動き始めたメディウムとレイヴス、幼馴染同盟は機械をカチカチと操作している。

機械類に関しては確かにあの二人の方が詳しいだろう。

周囲を気にしながら報告を待っていると面倒臭そうな顔で戻ってきた。

 

「電源が切れている。予備電源はここより少し離れた小屋にあるらしいんだ。プレハブ小屋があっちの階段の上にあるとか。」

「んじゃそこ行くか。兄貴は階段大丈夫なのか。」

「何とも言えん。行って戻ってくるだけだろうし任せてもいいか。」

「おし。レイヴス、兄貴頼んだ。」

 

道中の敵は四人で対応できるだろう。

走り去っていくノクティスに苦笑いを浮かべる。

タイムでも測っておいてやろうか。

 

 

 

 

 

けたたましい機械音を立てて道を塞いでいた機械が動く。

鍵を受け取り、レイヴスとメディウムが手分けして機械を操作したのだ。

塞がれていた道の先は急な坂道になっていてレイヴスに抱え上げられながら進むこととなった。

 

「この先完全に水没してっけど兄貴大丈夫なのかよ。」

「逃げるときはレイヴスに抱えてもらうわ。」

「レイヴスさんの苦労耐えないねー。」

「問題ない。メディは軽い。」

 

茶々を入れたプロンプトに軽く笑いながら対応をしたレイヴスに苦笑いをこぼしながら一同は奥へ進んでいく。

ザブザブ音を立てて降りていけば膝上まで水につかってしまう。

王の墓所は全て作りが同じになっているため白い扉を目印に視線を彷徨わせると、ぶくぶくと泡立つ場所があった。

 

不可解な現象に首を傾げてメディウムが小石を掴む。

 

「お前ら、臨戦態勢に入っとけ。あと大火力のマジックボトルもな。」

「あ?なんかいたか?」

「面倒くさいのがいそうだ。」

 

ヒュンッと弧を描いて飛んだ小石が泡ぶくの上にぽちゃんと落ちる。

波紋を描く水面がボコボコと激しく波打ち何かが飛び出してきた。

無数の緑の職種に赤い唇目玉のようなイボ。

これはガラードに良くいる。

 

「モルボルだー!?」

「モンボル・ベビーもいやがるぞ!」

「うっそぉ!」

「王の墓所入り口を巣穴にしてしまったのか!」

「全員下がれ!レイヴス!」

「了解した!」

 

レイヴスに抱えあげられ、安全な所まで退避するメディウムを追いかけ四人が走る。

全員を追いかけるように大口を開けて迫り来るモルボルにイグニスが叫んだ。

 

「マジックボトルを投げ入れられないか!?」

「投げてみりゃ分かる!」

 

さっさと投げたグラディオラスに続いて全員が次々に用意していたマジックボトルを投げ入れた。

見事に入ってしまったボトルを飲み込んだモルボルはボコボコと音を立てて爆発四散。

ギィギィ悲鳴をあげるモルボル・ベビーは恐れをなしたのか自然と何処かへ消えてしまった。

あっさり倒してしまったモルボルに安堵し、入り口にぶら下がるモルボルの卵もマジックボトルで吹き飛ばした。

 

鍵を開けて中に入れば水没はしていても荒らされてはいない。

握られた剣にノクティスが手を伸ばし己のものにしている間、足の遅いメディウムは一足先に地上へと向かった。

 

 

 

 

滑る足場に気をつけながら上る坂道の上に大柄な男を見つけて眉をひそめる。

仕掛けてくるとは予想していたが幾分か早いような気がしてならない。

まだノクティス達が来ていないことを確認し、その背中に声をかけた。

 

「…アンタ。暇なの?」

「君はマゾなのかな。」

「はぁん。俺の魔力の流れに気がついて様子見に来やがったのか。ご苦労なこって。」

 

胡散臭い笑顔からわずかな怒気を感じ一歩下がる。

この人が真剣に怒るところは初めて見たかもしれない。

レイヴスが代わりに前へと体を傾け、ジッとアーデンを見た。

 

「言ったよね?君は魔法がなきゃ生きられない。生きていけない。そういう風にできているって。貯めてもダメ。使い過ぎてもダメ。それがわかっててなんで限界以上に貯めようとしてるの。体が徐々に燃える体験をしたいってドマゾなの?」

「意味のないことはしねぇ主義だ。この行為の先に意味がある。」

「その先にある意味は君の未来を奪うことだけだよ。」

 

シガイの顔、人の顔、誰かの顔、宰相の顔、民の顔、王の顔、父親の顔。

全てが入り混じる物の中に本物のアーデンの顔を見る。

歪んで、泣きそうで、傷ついて、酷く焦燥した顔。

忘れた誰かの想いがメディウムの選択を悲しんでいる。

 

「俺は君にーー。」

 

その先の言葉をアーデンは言えなかった。

噤んだ口に言葉を閉じ込めて己の顔を覆い隠す。

哀れな王は何者なのか思い出せぬまま誰かの死を悲しんでいる。

 

メディウムは知っていても指摘はしなかった。

答えも求めなかった。

ただこの人が進む道についていくだけだからだ。

 

「兄貴ー!」

 

後ろからメディウムを呼ぶ声が聞こえる。

アーデンは何も言わずに背を向け、瞬きと共にその場から消えた。

迷っているな、と。

ただそれだけを感じてノクティスに振り返った。

 


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