帝国軍の襲撃から半日。
夜を迎える前にテネブラエ駅へと滑り込めた列車は疲弊した人々を下ろし、これ以上進めないと駅員達が首を振る。
唇を噛み締めたノクティスは駅員達に礼を言って仲間が待つ駅のベンチへと戻ってきた。
かける言葉が見当たらないイグニスとグラディオラスが俯き、燃え盛る己の城を呆然と見つめるレイヴス。
先に進むことも前に戻ることも出来ない。
プロンプトとメディウムが列車から落下し、捜索もできぬままテネブラエへとたどり着いてしまった。
彼らの心配をする前に十中八九アーデンに囚われていると全員が予想している。
列車での出来事はタネを明かせば簡単なこと。
最初にノクティスを起こしたプロンプトはすでにアーデンだったのだ。
追いかけていたのがプロンプトで列車の屋根に登った時は逆にプロンプトに扮したメディウムと隠れたアーデンの三人が揃っていた。
偽物の自分が確実にアーデンだと思っていたプロンプトは騙され、最初から見抜けなかったノクティスも騙された。
テネブラエに来てしまった今、二人を探すことはもう出来ない。
今できることはテネブラエの状況を確認することだ。
「レイヴス…。」
「…主すらも守れず、自国すらも見せしめにされた私に望むことがあるのか。」
現実を嘆くレイヴスをノクティスは真っ直ぐ見つめた。
今できることをしなければ、王として失格だ。
レイヴスも兄に仕える者なのだとしたら、最善を尽くせと。
「いや、いい。今のはナシだ。あまりにも酷い。冗談とも言えない言葉だ。忘れてくれ。…行こう。先ほどアラネア准将が見えた。」
この先に崖があるのだという。
そこに揚陸艇を止めて駐屯地としているようだ。
聞いた話では帝国軍をすでに退職し、傭兵の慈善活動としてテネブラエの人々を救助中。
宮殿の王族、女王も無事だという。
すっかり寂しくなった四人で階段へと降りて行くと、恐ろしい顔をしたアラネアが待ち構えていた。
「こんにちは。帝国軍将軍レイヴス・ノックス・フルーレ。」
「嫌味なら後に…。」
「惚けんじゃないわよ!」
いやに怒っているアラネアを無視してテネブラエの状況を聞こうとするレイヴスを彼女は怒鳴りつけた。
悲痛な叫びと滲み出る怒りの矛先を向ける相手がわからないかのような。
無差別な怒りだけが飛ぶ。
「ディアが…!ディザストロが!殉職したって!!」
思わぬ情報に四人は顔を見合わせる。
怒り心頭なのはアラネアだけではなかった。
ビッグスもウェッジもアラネアの後ろで無言を貫く。
明らかに向けられるレイヴスへの非難の目。
「アンタならディアを守ってくれるって!信じた私が馬鹿だったわ!!」
彼女の手に武器はない。
ただ弱々しいまでに無力な拳がレイヴスの胸へと押し付けられる。
そこでようやく合点がいった。
アラネアはディザストロが何者か知らないのだ。
「アラネア、アラネア准将。」
「今はただのアラネア・ハイウィンドよ!」
「メールを見てくれ。多分一通だけ来ているはずだ。」
「メールなんて今はどうでも!!」
「ディザストロからのだ。」
ハッと慌てたように携帯を取り出したアラネアが中身を見ると、たしかに一通のメールが届いていた。
届いた日付はつい二週間前。
ノクティス達が列車旅をしている長い間であり、アラネアが軍を退職してから慈善活動に従事するまでの忙しい時期だ。
彼女がメールに気がつかないのも無理はなかった。
両脇にいたビッグスとウェッジが覗き込み、呆然としてしまったアラネアの代わりにビッグスが読み上げる。
"我が親友アラネア・ハイウィンド。
突然で申し訳無いがディザストロ・イズニアは殉職することになった。
軍から籍を外し、一人の人間としてこれからを生きることになる。
差し当たって君に伝えていなかったいくつかの大事なことを伝えることにする。
メールで申し訳無いが、どうか理解してほしい。
俺の我儘かもしれないがこれは君への信頼だ。
ビッグスとウェッジにはアラネアから伝えてくれ。
まず一つ。
俺の本当の名前はディザストロ・イズニアではない。
本当はルシス王国第一王子メディウム・ルシス・チェラムという立場にある。
俺こそがメディウム王子だ。
騙していて悪かった。
二つ目はこの世界の惨状を引き起こす手助けをしたのは俺だ。
シガイが増えるのも、夜が長くなるのも、ルシス王国が滅んでしまいそうなのも、全ての元凶はニフルハイム帝国宰相アーデン・イズニアの手によるものだ。
このメールを見る頃には既に帝都はシガイの手に落ちているだろう。
馬鹿みたいだよな。
俺は育ての親が何をしようとしているか知りながら今までずっと加担してきた。
同罪だ。
その罪を贖うことはほぼ不可能だろう。
最後に。
我儘すぎる俺の願いを聞いてくれ。
俺はたくさんの罪を犯してきた。
たくさんの人の命を見捨ててきた。
だから俺はもうこの世界では息苦しくてたまらない。
たくさんの命を背負って生きていくには俺の器はあまりにも小さすぎる。
だから、親友。
俺を。
殺してくれ。"
最後の一言を読み上げた瞬間、携帯が地面に叩きつけられた。
行き場のない怒りは真っ直ぐとぶつける相手を捉えた。
アイツは一発ぶん殴らなければ理解できないことが山ほどあるらしい。
無言で少し離れた駐屯地へ走っていくアラネアを全員が追いかける。
人々の集団から離れたところで爆発したかのように叫び始めた。
「バッカじゃないの!?アイツがルシスの第一王子だなんて!なんとなくわかってたわよ!!いつか話してくれるって!思ってたわよ!なのにこのメールはなに!!なんなのよ!」
ノクティスの顔を見た時なんとなく理解した。
きっとアーデンもレイヴスも知っているのだろうけど、内政部外者の傭兵には言えないのだろうとずっと飲み込んできた。
いつかきっとあの真面目な親友は申し訳なさそうに菓子折りでも持って謝りに来るって。
いつかそうなった時。
ビッグスとウェッジで揶揄いながら酒でも飲んでいつも通りにしようと。
そう思っていたのに。
「アンタに罪なんか無いわよ!その分たくさん苦しんできたじゃないの!!二十年も!苦痛に耐えて生きて生きて生きてきたじゃないのよ!!」
ずっとそばで見てきた。
たった数年だけでも彼の親友をしていればわかる。
どれほど助けようと動いたか。
どれほど辛いものを見てきたか。
どれほど傷を負ったか。
アラネアはずっと少し離れた場所で見てきた。
「今更殺してくれなんて!!そんなこと!!そんな、こと!許すわけ!ない…じゃ…ないのよ…。」
酷い事を、頼まれてしまった。
親友の辛さがわかるから殺してしまった方がいいのかもしれないと思う自分がいる。
親友の努力を知っているから生きてほしいと願う自分が喚く。
ただ親友だから、また一緒に笑い合いたいと素朴に願う心がある。
崩れ落ちる体をビッグスとウェッジに支えられた。
彼らもアラネアと同じようにずっと見てきた。
願うことも心も一緒だ。
容易に流れなくなった涙を、拭う仕草だけ。
三人と同じように怒りを灯すレイヴスを見た。
「メディウムはどこ。」
彼女は親友の全てを受け入れた。
ディザストロ・イズニアは死んだ。
これからの親友はメディウム・ルシス・チェラムだ。
「ここにはいない。それについて話がある。ノクティス。」
「ああ。実はな。」
プロンプトとメディウムが列車の途中で落とされてしまったこと。
この先の帝都に向かいたいのに列車が動かないこと。
それらを伝え、アラネアにプロンプトとメディウムの捜索をしてほしいと頼めば快く引き受けてくれた。
「ビッグスとウェッジなら列車の運転も出来るはずよ。」
「ええ。行けるところまで走らせますよ。」
「危なくなったら逃げる。」
「それでいいなら二人を連れて行って。」
願ったり叶ったりな申し出だ。
全く異論はないと全員が頷いた。
移動手段があればすぐにでも出発できる。
早速いこうと言う前にレイヴスが手を挙げた。
「すまない。母に会いに行っても構わないだろうか。」
「女王様ならこの先の崖のところにいるわよ。」
「ノクティス。一緒に来い。」
呼ばれたノクティスがレイヴスと共にテネブラエの女王の所へと向かう。
その間にアラネアはイグニスとグラディオラスに声をかけた。
「プロンプトとメディウムはどの辺りに落ちたの。」
「荒野のあたりだと聞いている。」
実際に落ちたところを見たわけではないのでなんとも言えないが、落ちたのはそこだと。
そのあと連れ去られていれば別の場所にいるかもしれない。
「…雪山は近くになかった?」
「ああ。あったかもしれねぇな。」
「すこし北上したところにあったはずだ。」
「研究所に連れ去られた可能性が高いわね。そっちを捜索してみる。」
話がついたところでレイヴスが片側の頬を真っ赤にしてやってきた。
苦笑いのノクティスに事情を聞けば、思い切りビンタされたのだと。
メディウムを守れなかったことに対しての仕置きの一手だったようだ。
ノクティスには優しく言葉をかけ、二人を送り出してくれたと言う。
テネブラエの女王は実に優しく誠実で強き人らしい。
「兄貴のこと任された。行こう。帝都へ。」
ノクティスの一言に皆が頷く。
決戦の時は目の前だ。