FFXV 泡沫の王   作:急須

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エピソードプロンプトの若干のネタバレがあります。
未プレイの方はご注意ください。


死にたいと黙った

冷たく硬いものの感触が頬にあたる感覚に意識が浮上してくる。

硬い鉄と蛍光灯によるちかちかする光が起き抜けの視界に映る。

なぜこんなところにいるのか分からず、かぶりを振れば端の方に自分と同じように倒れている人が見えた。

 

見覚えのある黒髪になぜか毛の根元に大きく赤毛が混じり始めている青年。

メディウムである。

さらに火傷の跡が片側の顔を覆うほどまで迫ってきている。

眠っている間にこの青年は相当な責め苦を味わったのだろうか。

酷い有様だ。

 

自分達は先程まで列車乗っていたはずだと考え、途中で思い出す。

 

そうだ。

アーデンに騙され、列車から落ちてしまったのだ。

メディウムもさらわれてしまったのだろうか。

とにかく起こさなければ、脱出の手立ても考えられない。

 

「メディ!メディ!起きて!」

「…っ…?…プロン…プト?」

 

ゲホゲホ噎せるメディウムを起き上がらせ、状況を説明すると合点がいったように辺りを見渡した。

既にニフルハイム帝国領に入っていたのだから、ここもニフルハイムの施設と考えるのが妥当だろうか。

自分には分からないことだらけだと首を傾げ、頼れる軍師に任せることにした。

 

「ケホッ…ここ…ぐっ…第一、ケホッ…魔導兵生産ケホッケホッ…基地だ。」

 

噎せながらも状況を確認してくれたようだ。

ズルリと不可解な音を立て、足を引きずり入り口のような扉の前に行く。

色々と調べているようだが開かない。

 

「ディザストロの、カードキーもあるんだが…殉職扱いで無効になってやがる。」

 

タッチ式のバーコードリーダーに職員のカードキーを当てても反応しない。

外に出ることも叶わず、身体の調子も戻ってきたメディウムは部屋を漁り始めた。

続いてプロンプトが研究資料に目をつけ、一緒に探索するが鍵のようなものは見つからない。

 

プロンプトはずっと気になっていた火傷についてメディウムに聞いてみた。

 

「メディ、眼帯はどうしたの?火傷も酷くなってる。」

「お前を雪山から助け出す時にちょっとな。」

「え!?雪山!?」

「列車から落ちたら何故か雪山に居たんだよ。」

 

何故雪山なのか分からない上にメディウムも落ちていたことに驚愕したが、自分を助けるために負った傷らしい。

薄着のプロンプトが完全に冷え切る前にファントムソードのシフト浮遊を使って助けが呼べる位置まで運び込んだのだそう。

そんなことに命を削るメディウムも凄いが、目覚めなかった自分に反省だとプロンプトは謝る。

 

それを手で制したメディウムは早く鍵を探そうと促した。

 

数分だけ漁り、出せども出せども出てくるのは研究資料だけ。

諦めてもう一度扉を調べようと近づいた際、メディウムの身体が大きく傾いた。

調子がいいように見えて全く良くなっていなかった。

 

「メディ…ぃ…いいい!?」

 

心配そうなプロンプトの声が驚愕へと変わる。

倒れたはずの身体が支えられ、冷たい手が肩をつかむ感覚にメディウムは眉を寄せた。

金色の瞳と目が合う。

 

「ケホッ…あん、た…ガッ!!」

「メディ!!」

 

支えた人間に腹へ一発もらい、その場にうずくまった赤と黒が入り混じる頭髪を掴まれる。

まるで赤黒い血でも流しているかのような短髪が嫌な音を立てて数本ちぎれる。

かろうじてヒューヒュー風の通るような荒い息を吐き、相手を睨みつけた。

 

「アー…デンッ!」

「やあ。ご機嫌麗しゅう。メディウム・ルシス・チェラム殿下。素敵な目覚ましのお届けだよ。」

「サイテーの間違いだ、ろ。」

 

既に目覚めているのに目覚ましも何もないと吐き捨て、プロンプトと並び立つ。

武器を召喚しようにもアーデンは妨害装置を持っていて呼び出せないのだ。

 

それはプロンプトも同じようで、必死に利き手を見つめている。

彼のスコーピオンはアーデンの手に握られていた。

 

「俺の銃!」

「これ?カッコいいなーと思って貰っちゃったけど飽きたから返すよ。」

 

放ってこちらに投げつけたスコーピオンを必死にキャッチする。

ひとまず武器があることに安堵したところでメディウムはアーデンに手を差し出された。

何事か首を傾げたが、彼の目を見てすぐに眉をひそめる。

 

「断固拒否。」

「拒否権ないよ。ほら。早くしないとそこのプロンプト君だっけ?彼に危害を加えることになるだけだし。」

「…チッ。」

 

アーデンがここを訪れた目的はメディウムの迎えだ。

この研究施設にしかない物を使って何かをしたいらしい。

逆らってやろうと心に決めていたのにプロンプトをダシにされては頷かざるを得ない。

心配そうに見つめる仲間を守る為ならばアーデンの言う事を聞くぐらいいまさらだった。

 

せめて脱出の手立てを立てたい。

チラチラと周囲を見ているとプロンプトの腕に目が止まった。

いつもリストバンドや手袋で隠している部分が露出している。

まるでバーコードのような。

 

…バーコード?

 

「…なぁ。アーデン。プロンプトってさ。まさか。」

「ん?ああ。言ってなかったっけ?君に預けた子だよ。ほら。培養体の中でちょっと出来が悪かったからコソッとかっさらってきた盗難品兼消失登録されている。」

「検体番号…05953234…。」

「よく覚えてるよね。」

「当たり前だ!!一年も面倒を見たんだぞ!」

 

思わず叫び出してしまったメディウムに恐れたプロンプトが銃を握りこむ。

二人が何を話しているのかさっぱり見当もつかないが帝国軍内で何かが起こっていたのはわかる。

それがプロンプトの運命を大きく変えたことも。

 

「俺は帝国人の軍人として育てられる予定だった被験体としか聞いてない!あの試験管の子が!プロンプトだったなんて…!」

「試験管?どういうことなのメディ!?」

 

苦々しく唇を噛むメディウムをアーデンがまるで我が子のように抱きすくめる。

癇癪を起こす子供をあやすその仕草が今までの行為と真逆の慈悲を示すかのようで狂気にしか見えない。

 

振りほどこうと暴れる赤黒い傷だらけの子を拳一発で黙らせると、プロンプトに笑いかけた。

 

「そのバーコードは帝国軍基地内どこでも開けられるマスターキーなんだ。真実を知りたければ進んでみなよ。メディは、ディアは俺が預かってるからさ。」

 

抱え上げられ、連れ去られるメディウムをただ呆然と見送る。

彼らは自分の謎に包まれていた出自を知っている。

もしかしたら立役者そのものが彼らの可能性だってある。

 

確かめなくちゃ。

 

生まれなんて関係ないと言ってくれたのはメディウムだ。

その彼が何か知っているのならきっと教えてくれる。

バーコードのことだって今まで訳がわからず隠していたけれど、これからは隠さなくても良くなるかもしれない。

 

真実は悲しいことが待っているとメディウムは言った。

大丈夫。

覚悟を持って帝都へと向かったのは間違いなく自分の意思だ。

仲間を信じて、ノクティスだって突き落とし、投げかけて来た言葉がアーデンにだったことをきちんとプロンプトは分かっている。

 

優しい彼なら思いつめた顔で謝ってくるだろう。

その時、こちらも隠していたことがあったと一緒に謝ろう。

今ならそう思える。

どんな真実があっても彼らに語れる覚悟がある。

 

忌み嫌っていたバーコードを機械へかざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーくらい。

 

さむい。

 

こわい。

 

みえない。

 

きこえない。

 

かんじない。

 

なんにも、ない。

 

 

これは犯した罪への罰だろうか。

それとも与えられた運命か。

どっちでもいいか。

どうせ誰かが身勝手に与えて行くだけなのだから。

其れ等を全て甘受し受け入れ飲み込み砕き糧とする。

それが贄としての生き方だ。

 

人になりたかった。

 

たったそれだけの願いも叶わない。

 

愛して欲しかった。

 

誰かに愛して貰ってもそれは欲しかった愛情じゃない。

 

抱きしめて欲しかった。

 

冷たい手の感触しか知らない。

いつだって触れるのは死体の感触だ。

 

生きたかった。

 

生きてるって?

こんな惨めな生き方誰も望んじゃいない。

 

 

どんなに頑張っても当たり前のように生きられないのなら、もういい加減死なせて欲しい。

望み一つ満足に叶えられないのならどうか捨て置いて欲しい。

光すら捨てろと喚くなら闇に沈め切って欲しい。

こんな中途半端なところに一秒だっていたくない。

 

いたくない。

 

居たくない。

 

いたくない。

 

痛くない。

 

痛くない?

 

 

「痛いに、決まってんだろ…。」

 

灰になるその時までこの痛みと戦い続ける。

痛くても苦しくても辛くても悲しくても足を止めればそこでおしまい。

不死鳥のように灰の中から蘇ったりはしない。

 

だって人間なのだから。

 

連れ去られた場所は真っ白な実験室。

被験体が大怪我を負った時に使われる医務室も兼ねている場所だった。

違和感のある左の腕に溜息すら漏れる。

あまりにも重いそれを持ち上げれば、ズルズルと嫌な音を立てて赤と青の寄生体が壊死を始めた半身を覆っているからだ。

 

壊死した皮膚や筋肉の代わりにこの蔦達が役割を果たす。

かの双子が残した研究成果だ。

殺した罪を文字通り背負わされる気分に眩暈を覚える。

 

流れ込んでくるあの二人の記憶もひどいものだ。

自分が映るたびに唇を噛み締め、血を垂れ流す。

試験管ベビーに感情など存在しないが、ただ事実だけを並べられても辛いものだ。

 

「延命処置がシガイ化ってのも皮肉なものだね。死ぬ筈なのに生き長らえてる。」

「アンタも変なことするよな。王族はみんな殺したいのに俺は生かしたい。惚れた弱みか?」

「君をエイラと重ねたことは一度たりともないよ。…家族に生きて欲しいって思うのはそんなに悪いことかな?」

 

エイラとはアーデンの許嫁だった二千年前の人だ。

神凪の一族だったその女性はルナフレーナにそっくりだったと言う。

でもそれだけ。

 

さらに馬鹿なことを言う。

ベッドサイドで蔦に覆われた左腕を調整するアーデンは白々しいほどに陽気な声だ。

家族に生きて欲しいと願うこと自体何ら悪いことではない。

けれどそれを願った奴が他の誰かの家族をたくさん奪い去って来た奴というのが馬鹿なことなのだ。

 

「俺だって家族に生きて欲しいよ。今だってそうさ。うまくいかねぇけどな。」

「ごめんね。」

「謝んなよ。アンタはアンタの思いがある。それを踏みにじった祖先様が許せねぇのもわかる。でもたしかにその祖先様にも理由があった。…今の俺達にそれぞれの理由があるのと同じだ。」

 

誰も互いの理由を話したりはしない。

皆口を閉ざして大きな目標を隠れ蓑に暗躍する。

世界はそうして回るのだ。

仲間内でさえも。

 

一貫して誰も悪くない。

誰かの正義のために誰かの悪になるのが人間という生き物だ。

この体に巻きつく双子、フランシールとブランシェのカケラもアーデンの正義のために開発された悪行の一つ。

 

誰しも理由がある。

理解できないからと糾弾しても、蔑んでも、悪と断じても、人の意思は変えられない。

 

「とうとう化け物になっちまったなぁ。」

 

持ち上がった腕は誰にも見せられない。

 

「服、新調してもらうからな。」

 

歪な腕を空に掲げた。

 

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