FFXV 泡沫の王   作:急須

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冷たい橋

「さむっ…!」

 

吹雪いている外に煽られ、列車内にも冷気が届く。

窓ガラスは凍りつき触れることすらままならない。

この地は氷神の亡骸があるのだから致し方のない現象だ。

 

帝都グラレアに続く永久凍土、グロブス渓谷。

数十年前に帝国主導で行われた神殺しの標的となった氷神シヴァの亡骸が横たわる氷に閉ざされた渓谷。

吹き荒れる吹雪のせいで列車以外で帝都グラレアに向かうのは困難。

 

ビッグスとウェッジがいて本当に良かったと思った矢先に列車の速度が急に落ちてしまった。

何事かと四人が立ち上がると、車内放送のスピーカーがキーンと音を立てる。

 

「ーーすみません。凍ったかぶつかったかで列車が動かないです。これ外かな。」

 

この外に出るの…?

ノクティスとグラディオラスが嫌そうな顔をしている間に緊急用の設備を通してレイヴスが返答する。

 

「分かった。少し外を見てくるからこちらに任せろ。」

「ーー頼みます。」

「しゃーねーかぁ…。」

 

それはそれは嫌そうな顔をするノクティスを追い立てるイグニスに続いてグラディオラスとレイヴスも外へと出る。

扉を開けた瞬間に刺すような吹雪の痛みを感じ、思わず戻りそうな気持ちをぐっとこらえて外へと出た。

強すぎる風に煽られながら視界の悪い周囲を見渡す。

 

「さっむ!!無理無理!寒すぎ!」

「ぼんやりしてっと死ぬな…。」

「氷神の影響か?」

「あの亡骸が原因だと言われている。痛々しいものだ。」

 

比較的暖かい格好のレイヴスとイグニスはいいが、半袖のノクティスやほぼ上半身が露出しているグラディオラスにこの寒さは致命傷だ。

早く片付けてしまおうと走る四人の先に数匹のシガイが見えた。

あれらがいては氷の除去も原因の究明もできない。

 

「頼りにしてるぜ、将軍サマ。」

「レイヴス将軍の本領発揮ってとこか。」

「お荷物がいなくて戦いやすいなんて冗談は俺の心を抉るのだが。」

「ふざけてないで真面目にやりなさい。」

 

はーい。お母さん、とふざけたことを口にしながらノクティスが飛び出していく。

切羽詰まった状況、仲間の安否が心配だ。

だが戦いは待ってくれない。

冗談一つでも飛ばして彼等の無事を信じるしかないのだ。

 

焦る気持ちが先に出てしまうノクティスはグラディオラスやイグニスに心配をかけぬよう、飛び出した直後に彼等が守りやすい位置へ退避する。

ヒットアンドアウェイ戦法の超安全版だ。

今ここで自分が倒れるのが最も危険だと彼が立場を理解しているから取れる戦法。

過去の遺恨など捨て置いて時にはレイヴスに援護を頼んだり、守りに動いてもらったりと決して油断はしない。

 

「動いてたらあったかくなってきた!かもしんない!」

「絶対気のせいだな!」

「うるせー!」

 

グラディオラスが敵に投げつけた大剣へシフト魔法で飛び、大剣を投げ返して敵を斬りつける。

旅を始めた当初ならできようもない小難しい動きも可能になってきた。

だからと言って調子に乗らず次はイグニスの後ろへと飛ぶ。

 

「メガネの人!」

「…もしや俺のことか?」

 

心底心外だと言わんばかりに眉をひそめながらファイガのマジックボトルを敵に投げつけている。

メガネで悪かったな、と言いたげだ。

 

怒られる前に退避してしまおうと敵に突っ込むとレイヴスが後ろから援護の為か敵に愛剣のアルバリオニスを突き刺してくる。

背中から敵を突き刺したため切っ先がノクティスの腹をかすめた。

思わず身を離すと周囲に大きな爆発が起こった。

爆震源はレイヴスの義手のようで離れて良かったと心底思う。

 

「あっぶねぇ!」

「本領発揮して欲しかったのだろう?殲滅できたのだから結果オーライだ。」

「巻き込むのはナシ!」

 

ギャーギャー喧嘩をしていると、ドスンッ!と大きな地響き。

さっきの爆発で橋にヒビでも入ったかと思ったがどうやらそうでもないらしい。

大きなシガイが唸りを上げて橋を登ってきた。

 

「遊んでいる場合ではないぞ!」

「ゲッ!新手が来てやがる!」

 

デスイーターと呼ばれる大型の蜘蛛のようなシガイだ。

列車ほどの背丈がある巨体を避けるべくノクティスは街灯へ飛び上がる。

あいつずるいな、と思っていられたのもつかの間。

狭い線路の脇幅を埋め尽くすデスイーターが突進で迫ってきたのだ。

 

「マジかよ!?」

「仕方がない!後ろに下がっていろ!」

 

アルバリオニスを水平に構えたレイヴスが二人の前に立つ。

紫の閃光を纏う剣の一閃。

時空さえも切り裂く不滅の刃。

とても見覚えのある構えにイグニスはセコセコと後ろに下がった。

何が何だかわからないグラディオラスもそれに従う。

 

デスイーターの突進は止まらない。

最悪の場合、列車内に逃げ込むつもりで防御の構えを取る。

一歩一歩が重い敵の突進に思わず目を瞑る前に全てのカタがついた。

 

たった一閃。

砕けるように時空が裂かれたと思えばデスイーターは水平に真っ二つ。

上体が崩れ落ち、渓谷の底へ落ちていくのを呆然と見つめる。

それをやってのけた当のレイヴスは冷静にノクティスに声をかけた。

 

「そら。終わった。中に戻るぞ。」

「え?あ、ああ。って!待てよ!今のなんだ!?超カッコよかった!!」

 

興奮冷めやらぬノクティスは寒さも忘れてまくし立てる。

相手にする気もないレイヴスはサッサと列車内に戻ってしまい、内容を知っているイグニスも続いていく。

グラディオラスも後ろを気にしながらも列車内に入ってしまった。

誰も疑問に答えてくれない状況に肩を落としながら、寒さが戻ってきた体をさする。

 

早く中に戻ろう。

こんなところにいては体があったまっていても凍死してしまう。

一方列車内に足を踏み入れると、外とは比べようもない寒さが襲ってきた。

なぜか列車内で吹雪が吹き荒れている。

 

「なんだ…?グラディオ!?イグニス!!レイヴスー!?」

 

仲間達に呼びかけても返事はない。

静寂の中、先程まで座っていた車両の扉を開けると、更にひどい吹雪が吹き荒れた。

寒いなんてものじゃない。

窓が割れたのかと両脇を見てもむしろ凍りついて割れた様子はない。

 

誰も返事をしない車内を低姿勢で体温を確保しながら進んでいく。

ゆっくり一歩一歩席へ近づいて行くと、なを呼びかけた三人が気を失って倒れていた。

 

「グラディオ!イグニス!レイヴス!!」

 

触れようと手を伸ばす前に真っ黒で実にあったかそうな男の手がノクティスに触れる。

思わずエンジンブレードを召喚して斬りつけると、ニヤニヤと笑った顔で躱されただけだった。

 

「アーデンッ!!テメェ!!」

「おや。吹雪は俺じゃないよ?ねぇ?君を殺してあげた時もこんな吹雪で、そーんな綺麗な顔だったものね?」

 

怒りで真っ赤に染まる視界の先に、美しい黒が現れる。

アーデンとは正反対の彼女はゆったりとした足取りでノクティスへと近づき、間に立つアーデンは指先一つで凍らせてしまった。

にやけ顔が実に腹立つ氷の彫刻だ。

 

「ゲン…ティアナ…なんで…?」

 

皆を凍らせてしまった張本人と思われるゲンティアナ、神々の御使いだと言われる彼女がにこやかに微笑む。

正確には、凍りついたのはアーデンだけで仲間達は気絶しているだけのようだ。

再びゲンティアナへ視線を戻した時には、どこか見覚えのある氷神へと変貌していた。

 

なるほど。

氷神は死んだのではなく、神凪の元で小さな神として今も生き続けていたのか。

 

「太古より続く神凪との約束を果たしに。貴方がここを訪れるのを待っていました。啓示を。」

 

差し出された手をノクティスが掴む。

冷たい氷の様な氷神の証が手に渡ったところでゲンティアナは優しいタイプの神だったな、と遠い目をしたくなる。

心底寒いこと以外は優しめの試練だ。

 

啓示をサッサと終えてしまい、どうすればいいか迷ったノクティスの前にゲンティアナは重々しい言葉を吐いた。

 

「ーー貴方にニフルハイム帝国の歴史と炎神イフリートの逸話、そしてメディウム・ルシス・チェラムの使命についてお話しします。」

 

寒さが、一瞬だけ吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

全ての話を聞き終えたノクティスの頬には涙が流れていた。

既に収まった吹雪の中で凍った顔を溶かす、生暖かい涙がぽつぽつと落ちて行く。

なんてことない使命だったらどれほどよかっただろう。

 

"泡沫の王"とは。

いつかゲンティアナがメディウムをそう呼び、激怒した呼び名だ。

あの呼び名は彼が全てを失敗した時に呼ばれることになる、不名誉なものだった。

事実、メディウムは使命に逆らっていた。

そう呼ばれる日も遠くなかった。

 

しかし、今は違う。

泡沫の王。

そう呼ばれることが誇りに思える悲しい日が今まさに近付こうとしているのだと。

 

いつの間にか去っていった氷神と倒れ伏した仲間達、あと無駄にムカつく氷漬けの元凶。

無性に腹が立ってエンジンブレードでその氷を砕いた。

これで死んだとは思わない。

だって、もう背後に気配がある。

 

「流石に痛いんですけどー?ノクティスサマー?」

「うるせぇ。兄貴とプロンプトを返しやがれ。」

「この先の帝都に行けば会えるよ。二人ともね。今回はそれとは別に伝言預かってるの。」

「伝言?」

 

アーデンが取り出したのはスケッチブック。

何も描かれていない真っさらなスケッチブックの最後が異様に膨らんでいる。

何か硬いものを挟んでいるようだった。

最後のページを開くためにスケッチブックをひっくり返すと、王冠の絵があるだけ。

 

次第に浮き出て、王冠が飛び出してきた。

無駄にユーモアのある仕掛けだ。

列車から落ちて捕まった人のすることとは思えない。

これをつけて来い、ということなのだろうか。

 

「確かに渡したからね。全く。俺は宅配業者じゃないってのー!」

「兄貴とプロンプトとクリスタル返してもらったらお前もシバく。」

「おーこわ。さっさと退散しちゃお。」

 

お得意の瞬間移動なのか時間停止なのかわからない魔法でアーデンは消えて行く。

メディウムは今、帝都で何をしているのだろうか。

 

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