FFXV 泡沫の王   作:急須

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ジグナタス要塞

これ以上列車で進むのは難しい。

 

ビッグスとウェッジが大きな瓦礫を前に申し訳なさそうな声をあげた。

さらに奥に進むと彼等の身の安全も保証できたくなる。

アラネアから預かった一時の援軍を死なせるわけにもいかず、ここから先は持ってきたレガリアに乗る事になった。

 

ガタガタ揺れる線路に加えて襲い来る無数のシガイ。

ハンドルを握るノクティスの悲鳴よりも後ろに乗るグラディオラスの方が大声を上げる。

 

「帝都はどうなってるんだよぉぉおおっ!」

「やべえことになってるのは確か!!」

「ノクトっ!前!前を見ろ!」

「バカ王!!運転に集中しろ!」

「分かってるってえええ!!」

 

屋根を閉めた狭いレガリアの中がまるでジェットコースターのように揺れる。

帝国軍がやっているのかシガイが悪戯しているのか知れないが、ミサイルまで降ってきている。

王族仕様で頑丈に出来ているレガリアでなければ絶対耐えられない。

それでも、大事な車はかなりボロボロになりつつあるのだ。

 

いつまで持つかわからない。

アクセルを踏み込んだ瞬間、爆発した目の前の道にジャンプ台の様な上り坂が現れた。

 

「うっそだろおおおおおお!?」

「口閉じとけよっ!!」

 

道が崩落し、残った一部が隆起して出来たジャンプ台。

少しでもズレたら灯りひとつ灯らない街に真っ逆さまだ。

流石にこのレガリアは車であって飛行機でないので落ちたらタダでは済まない。

いつかシドニーに提案されて笑い飛ばしたレガリアTYPE-Fにしておけばよかったとこの時ばかりは嘆きたくなる。

 

いややっぱりナシだ。

亡き父親の形見たる愛車を墜落したらゲームオーバーな飛行機に改造したくはない。

 

アクセルを潰す勢いで踏み抜く。

世界一の整備士が太鼓判を押した父の愛車は綺麗に宙を舞った。

全身が浮かぶ浮遊感はほんの一瞬。

気がついた時には反対側へと飛び移り、酷い衝撃に前のめりになりながらもハンドルは離さない。

 

飛んでくるミサイルを避けるために右へハンドルを切れば、廃車となったバスに激突し、レガリアが止まった。

降り注いでいた爆撃の雨も品切れの様で道もレガリアが通れる広さの道はもうない。

ここからは確実に歩きだろう。

 

「…し、死ぬかと思った…。」

「歩くしかなさそうだな。行くぞ。」

「ああ。ノクト、行こう。」

「レイヴスもイグニスも冷静すぎだろ…。」

 

九死に一生を得た気分のノクティスとグラディオラスを置いて、さっさと二人が外へ出てしまう。

煙をあげるレガリアもボロボロで、確かに中にいる方が危なさそうだ。

これはシド達に任せても直せないかもしれない。

 

幼い頃からずっと乗ってきた大切な車だ。

父親の旅でも兄とのドライブも家族三人での公務の時でさえもずっとレガリアだったのに。

 

「親父。ここまでありがとうな。」

 

ここで大切な物ともお別れだ。

亡き父親の優しさと強さを表す様にレガリアはガラス片一つ落とさなかった。

まるでノクティス達を傷つけまいとするかのようで。

ボロボロになっても、レガリアは美しかった。

 

「ここからは俺達の足で進む。みんなで。一緒に。」

 

もう一人ではない。

家族に守られるだけの王ではない。

だから大丈夫。

先を進む三人が立ち止まってノクティスを待っている。

彼らを信じよう。

助けるべきもう二人の仲間も、ルシスにいる仲間も、みんな信じよう。

 

燃え盛る街並みを横目に安全な道を確保してくれた三人と前へ進む。

道を塞ぐ横向きのバスは中を通っていくしかなさそうだ。

シフト魔法が使えるノクティスはともかく、他の三人が通れるルートをなるべく探したい。

 

「帝都グラレアの目標はあの真っ黒な塔がジグナタス要塞だ。」

「ここが兄貴の育った街か。」

「原型をとどめてはいない。敢えてディザストロと呼ぶが、彼はジグナタス要塞の宰相専用居住区に十五年以上軟禁されていた。時折外に出たとしても軍がらみだ。」

「つまりジグナタス要塞がメディの家ってわけか…要塞に軟禁とか考えられねぇな。」

「兄貴はその居住区に居そうだな。」

「プロンプトの方は牢屋だろう。アーデンはディザストロ以外の人間に大した興味はない。」

 

大方の目星がつけば探索は容易だ。

将軍も務めていたレイヴスはジグナタス要塞を熟知している。

案内役が一人いるだけで要塞攻略は容易になるだろう。

さらに居住区への出入りは外部からの扉でさえ設定された人間しか開けない。

 

この場にいないアラネアを含め、アーデンとメディウム、レイヴスの四人だけが解錠できる。

殆どの施設の鍵はバーコードで管理されているのだが、居住区だけはアナログの鍵と指紋認証式なのだ。

 

最悪、鍵さえあれば解錠できる。

扉は壊せてもアーデンとメディウムの共同開発で施された施錠の魔法が強固なのだ。

銀のシンプルな鍵は魔法を一時的に解除する文字通りのキーアイテム。

メディウムを救い出すにはレイヴスが必要不可欠だった。

 

「レイヴスとノクトは何があっても絶対に離れないでくれ。メディを救い出すには二人が揃わなければ不可能だ。」

「物理的な鍵と心の鍵ってとこだな。しゃーない。レイヴス、ノクト任したぞ。」

「仕方あるまい。あのアーデンが待ち構えているのだ。否が応でもそうなるぞ。」

 

レイヴスはまるで未来でも見ているかのようにオッドアイの瞳を細め、ノクティスの隣を歩く。

バスの車内は狭く、シガイの気配はまだない。

グラディオラスもイグニスも安全に中を通ってきたところで比較的広い道路に出た。

何もないのが逆に怪しい。

 

「なんもねぇな。」

「油断しているところにぶち込んでくるのがあの性悪宰相だ。常に気を張っていろ。足元をすくわれるぞ。」

「身近に見てきた将軍様の言葉は重みがちげぇな。」

「あの胡散臭さに触れれば誰でもそう思うだろう。」

 

軍師とはまた違う知将の名にふさわしいレイヴスは決して警戒を怠らない。

アラネアの言う通り人っ子一人いない帝都もさることながら、何をどうきたらこうなるのかと言うほどの世紀末ぶり。

世界統一を目前にした大国とは思えない。

 

さっさとジグナタス要塞に入ってしまおう。

 

足早にレイヴスが進もうと足を踏み込んだその時。

上空から飛来する一つのミサイルが近くのビルに直撃した。

倒壊するビルは間違いなくこちらに倒れてきている。

 

「言わんこっちゃない!」

「全員走れー!!」

 

ノクティスの首根っこをレイヴスが掴んだ。

兎にも角にもここで王が死ぬのが最悪なパターンだ。

ノクティスだけは生かさねばならない。

意外と足の速いイグニスとグラディオラスは倒れる前になんとか下を抜けられそうだ。

 

だがレイヴスが気にしている問題はそこじゃない。

 

「飛ぶぞッ!!」

「えっ!?はぁああああ!?」

 

倒壊するビルの先には最短ルートで居住区へと進める唯一の扉があるのだ。

アレを使わないとジグナタス要塞の外周を何周もさせられる羽目になる。

その間にシガイや魔導兵に襲われる想像が容易にできる。

危険なルートより安全かつ確実なルートを選ぶべきだ。

 

メディウムから借り受けた魔導ブーツを最大出力で起動させる。

確かアラネアが考えた魔導ブーツで最も高威力の出せる攻撃方法があった。

メディウムの提案と威力検査の結果最強枠は二つになったのだが、今は一択だ。

 

「うっそおおおだろおおおお!!」

 

叫ぶノクティスとレイヴスが宙を舞う。

究極物理攻撃(アルティメットアタック)と悪ふざけ傭兵組とメディウムに言わしめた最高力の物理攻撃。

踏みしめた地面から高く飛び上がり、宙から舞い降りる隕石(メテオ)のごとく舞い降りる。

垂直に落下するのではなく上空から斜めに、確実に急所を狙う高度な技。

 

つまり、飛び蹴り。

 

ガキンッ!と激しい音を立ててレイヴスの足に当たった鉄塊が砕かれる。

この飛び蹴りはレイヴスの義手と同じく光耀の指輪から受けた制裁による特典が大きく乗る。

常人には繰り出せない飛び蹴りは硬く閉ざされた要塞の扉をも砕く。

文字通り蹴り破った扉に間一髪滑り込んだ二人は、勢いそのままに何枚かの壁をぶち抜いて漸く止まった。

 

「いってぇ…。」

「やはり物理攻撃が一番だ。」

「レイヴスが脳筋だってのはなんとなく察していたけどこれはひどい。まっ今回は助かったけどな?」

 

澄まし顔で埃をはらうレイヴスに苦笑いを禁じ得ない。

おかげでビルに潰されることなく最短ルートを選択できたとしてもこれはひどい。

 

外にいるグラディオラスとイグニスも心配だが、倒壊が収まったと同時にかすかに声が聞こえてきているのだからきっと大丈夫だろう。

中で合流できると信じて進むしかない。

 

「ノクティス。光耀の指輪をはめておけ。ここからは武器召喚も魔法も使えぬはずだ。」

「え?あっ!?本当だ!!」

「光耀の指輪には特殊な魔法が備わっている。リング魔法、と言うらしい。」

 

指輪の使い方は列車内でメディウムに習った。

ジグナタス要塞はメディウムがディザストロであるために、魔法がなくてもある程度生きられるようにそれらを全て封じる機械をアーデンが作り上げた。

理由自体は最近知ったらしいが軍での運用はしなかったようだ。

 

この話からアーデンがどれだけメディウムを大事にしていて、ディザストロという架空の息子を愛していたか理解できる。

きっとレギスがメディウムに向ける愛と同等か、それ以上をディザストロに向けていたことだろう。

生贄となる彼を生かそうと思ったのだから。

 

「この先にいるのか?」

 

ーーその軟禁部屋にたくさんのプレゼントを用意していたけどね。弟の君への贈り物みたいだよ。

 

「アーデン!?」

 

ーー君達のお仲間はディアがお招きするみたいだから安心しなよ。まあ…今のあの子がどう振る舞うかは知らないケド

 

「兄貴に何しやがった!!プロンプトはどこだ!!あと兄貴の名前はディザストロじゃなくてメディウムだッ!!」

 

ーーうわっ一気に言われてもわかんないし。答えないし。しかもディアはディアだよ。

 

「聞こえてるし答えてるし!」

「ほら。ノクティス。クソ宰相に構っている暇はない。さっさと進むぞ。」

 

ーーテネブラエの坊ちゃんはおっかないねー?どう思う?改竄だらけの嘘の歴史しかない世界最古の国を治める王様?あれ亡国だったっけ?

 

「うわなんだこの宰相。すげー煽ってくる。」

 

下らない茶番をしながらも足は止めない。

用意された道を歩いているようで癪だが、ここは一本道だ。

外はなんとなくシガイがいたのにここには何もいないのがさらに誂えたようでムカつく。

そんな用意する暇があったらもうちょっともてなしてくれと冗談の一つでも言いたい気分だ。

言ったところで飛んでくるのは煽りだろうけど。

 

なんだか無駄にテンションが高い様子もある。

まるで長年の計画が叶う瞬間が今まさに訪れようとしているかのような。

怪しいアーデンはいつものことだが今回はさらに増して怪しい。

不安は、この先で的中する。

 

 

 

 

 

 

 

カツン、カツン、なんてちょっとカッコいいような革靴の音と共に重苦しいズルズル引きずる嫌な音が迫り来る。

ノクティス達とはぐれることとなったイグニスとグラディオラスは迫り来る敵の気配と発動しない武器召喚に焦っていた。

このままでは応戦することもままならない。

 

ノクティスとレイヴスは共にいるからいいとして、ここでデットエンドはごめんだ。

せめて王のそばで名誉ある死を遂げたい。

素手でも戦える構えをとり、影から現れる敵に備える。

 

しかし現れたのは黒いコートを羽織、赤黒い髪に小冠をつけたメディウムだった。

眼帯のない橙と黒曜の瞳が射抜くように二人を貫く。

その服装はまるでアーデンのようで、暑苦しそうではないのに圧がある。

手にしたクラレントと小冠だけがルシス王家たる証だ。

 

「ようこそ。我が家へ。散らかっていて申し訳ないが、歓迎しよう。」

 

広がった火傷の跡に眉間に深くシワを刻むイグニスが、ふと片腕を見た。

そういうデザインなのかと思っていたが、クラレントを持たない左の腕が妙に動いている気がする。

他の生物でもいるかのような。

コートはその左腕を隠すために引きずるほど長い。

 

「…メディ、いや。メディウム殿下。あなた、まさか…。」

「イグニス?」

「さあな。何に気がついてしまったのか敢えて問わないが、今はそれどころじゃない。そうだろう?」

 

橙の瞳が長くなった赤黒い髪から覗く。

出会った頃からボロボロだった彼も随分と変わってしまった。

まるで別人のようで遠くに行ってしまった感覚をイグニスとグラディオラスは覚える。

彼はさらに辛い地獄へと足を踏み入れているのだと。

 

「プロンプトのところまで案内しよう。ノクトとレイヴスはクリスタルの元まで一直線だ。君達は仲間を救出次第、クリスタルルームに向かうがいい。」

 

投げて寄越されたのはカードキーだった。

これがあればある程度の場所は解錠できるちょっとしたマスターキー。

さらにパチンッと指を鳴らすメディウムの合図とともにこの手に武器が戻ってきた。

今まで通り、武器召喚が行える。

 

二人に武器を与え、鍵も与えた彼は役目は終わったとばかりにジグナタス要塞内部へと戻っていく。

二人は走ってその背を追いかけたが、瞬きをした瞬間に居なくなっていた。

まるで、アーデンのように。

 

「…メディ…あいつ。」

「彼自身は信頼に値する人物だ。例え宰相の言う通りに動いていても、それは彼が古の契約に縛られているからこそ。…行こう。仲間を助けに。」

「おう。メディもプロンプトも。あと迷子の王様も見つけようぜ。」

 

イグニスとグラディオラスは長い付き合いだ。

同じノクティスを守る立場なのが大きい。

彼らの目的は二つ。

仲間の救出とクリスタル奪還だ。

それさえ果たせればあとは心置きなくお互いのことが話せる。

 

そう信じて、今は進むしかない。

 

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