FFXV 泡沫の王   作:急須

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空白の二十年

レイヴスの案内で蛍光灯だけが灯る真っ黒なジグナタス要塞を進んだ先は、あまりにも厳重な大扉だった。

拍子抜けなことにレイヴスの指紋ですんなりと開いてしまったが。

しかしその先にも何枚か似たような扉が連なり、結局のところ四枚は同じような扉を開けてもらった。

真っ黒な鉄の要塞の中に丸でどこにでもある一軒家のような扉が現れたのは五枚目。

特に趣向も凝らされていない簡素な木の扉だ。

 

「最後の一枚だ。これにはこっちの鍵だ。」

 

レイヴスの言う物理的には絶対に開かない扉とやらが一番脆そうなこの木の扉。

たしかに魔法の気配がしないこともないが、強力なものなのか疑うほど微弱な気配だ。

半信半疑なノクティスに呆れたのか、義手を思い切り扉に叩きつける白髪の次期義理兄様。

 

ガンッと鉄と鉄がぶつかったような激しい音を立てて真っ赤な魔法障壁が現れた。

これは王都で見たことがあるものと全く同じか、それより強固なものだ。

一点集中型故に破ることはほぼ不可能。

一目見て物理手段は無理だと魔法に疎いノクティスも悟った。

 

「ご理解いただけたようで何よりだ。開けるぞ。」

 

いちいち感に触る笑い方で一つ澄まし顔を飛ばしながら、鍵を回したレイヴスが扉に手をかける。

あんなにも固いと思った扉は一軒の民家のように軽々しく開き、玄関が現れた。

大して広くもない間取りの、二人だけの家。

自分の知らない空白の二十年を過ごした他人の家に、ノクティスは上がりこむ。

 

広々としたマンションと言えば正しいのだろう。

ノクティスが高校時代一人暮らししていた場所に二人で住んでいるような雰囲気がある。

昨日まで使っていたような生活感のある空間と不自然に積み上げられたビデオテープの山。

 

ブラウン管テレビの脇には最近貼られたメモが一枚。

 

「"バースデーメモリアル二十年セット"…?兄貴のか?」

「撮影者アーデン・イズニア。主演ディザストロ・イズニア。どれもそう書かれているな。全て三月九日、メディの誕生だ。」

「裏にまだなんか書いてある。"埋まらない空白は思い出と罪を飾る"ってなんのことだ。」

「見てみればわかる。」

 

どのビデオテープも旧型のもので、長くても十分とないらしい。

このジグナタス要塞に来たサブ目的であるメディウムの空白の二十年。

その片鱗がこのテープにあるのなら見るしかない。

 

ビデオデッキのついたブラウン管テレビに一つ目を入れる。

最初は七歳の誕生日からだった。

 

 

 

 

 

 

出会って数ヶ月経った七歳の誕生日。

 

「ハッピバースデー!ディア!」

「うっわ。なんだアンタ、ケーキなんか用意して。バースデー?俺が?アンタに誕生日伝えたっけ?」

「君が生まれた時今度こそ"真の王"だと思って記録してたの。出会った時自分の誕生日忘れてたでしょ。」

「あー…そうだったかも?」

 

祝われてもまるで他人事のようにパーティーを眺めていた幼い子供が自分の誕生日に首をかしげる。

たった二人でケーキを食べるだけの日だったこの子は他人事だ。

 

ルシス家の子供を養い子にして早数ヶ月。

三月九日を迎え、誕生日に年に見合わない完璧な御礼の言葉を述べることもなくなった彼は言われた通りに席へ着く。

いつもと変わらないデリバリーの食卓に帝都で買った安いケーキが加わっただけだ。

 

「バースデーソングも考えたんだけど"ハッピバースデーディア、ディア"ってややこしくない?」

「そんなところで悩むぐらいなら歌わないのがアンタ流か。」

「えー?プレゼントも用意してあげた養父に向かってその言い草?」

 

カメラ越しに映る子供が嫌そうな顔で教科書の山を眺める。

これがプレゼントなら全国の子供に嫌われること間違いなしのステキな贈り物だとでも言いたげだ。

無論、嫌がらせなのだからその反応が正しい。

 

バースデーソングの話をまだ引きずっているのか"ディアじゃなくてディザストロって言えばいいだろ"なんてブツクサ文句を垂れる。

人間らしい誕生日祝いが誰かさんの記憶たちだけなのだからおざなりになってしまうのは仕方ないと思って欲しい。

 

「てかそのビデオカメラはなに?」

「ビデオカメラはビデオカメラだよ。毎年撮る予定だから。」

「マメなのか嫌がらせなのか…。」

 

呆れた子供の顔を最後に映像は途切れた。

 

 

 

 

 

 

二年目の八歳の誕生日。

 

「お誕生日おめでとうー!」

「…?…あ?誕生日?だっけ?」

 

去年よりも落ち着いた八歳の子供が首をかしげる。

今日のノルマが終わって夕食かと思ったらケーキといつものデリバリーがある。

前回と全く同じ食卓に合点がいったのか、ビデオカメラをひと睨みして席に着いてしまった。

なんだ。面白くない。

 

「えーもうちょっとテンション上げていこうよ。」

「この部屋から出られないのに上がるテンションなんてない。」

 

態とらしく突き立てたフォークが少し冷めたピザに刺さる。

不機嫌な子供は喚き立てるでもなく不満をこぼすでもなく荒々しくピザを飲み込んだ。

おっかないなぁ。

 

「…ノクティス様は一歳を迎えられたのか。」

「しーらない。ルシスではそんなニュースやってたかもね。」

 

華々しく執り行われたであろう去年の八月、ノクティス王子の生誕祭。

部屋に閉じ込められている上に世界の端と端だ。

ルシス王国の閉ざされた王都の情報などこの部屋まで届かない。

養父は知っているけれど知らないふりでカメラを切った。

 

 

 

 

 

 

三年目となる九歳の誕生日。

 

「バースデーなディア君にプレゼントー!」

「あー?あー…あー…そういえばそんな頃だったか。」

 

また今年も忘れていた子供は去年よりも豪華になった食卓を眺める。

いつものデリバリーに加えて最近子供が始めた料理の残りに加えて、こぢんまりとしたケーキ。

品数が増えただけでも賑やかさは増すものだ。

 

それにしてもこの子供はいつになったら自分の誕生日を覚えるのだろうか。

祝い初めて今年で三年目なのだからいい加減記憶に刻まれてもいいはずだ。

 

「今年でノクティス様も三歳か。」

「君の誕生日に他人の歳気にしてどうするの。そもそも弟を様呼びってどうよ。」

 

いつもこの子供は遠い場所に住む弟を様呼び。

確かに立場はこの子の方が弱いかもしれないが、弱いのは立場だけだ。

それ以外の何もかもが優っているにもかかわらず、彼はなにかしらの引け目を感じて決して家族のようには呼ばない。

 

からかい半分で指摘してみると面倒な返しが来た。

 

「アンタは弟をなんて呼んでたんだよ。」

「…さあ、夕飯食べちゃおうか。」

「都合悪くなったからってはぐらかすなよ!アーデン!」

「あーあー聞こえなーい。」

 

子供が詰め寄っていく途中で映像が途切れた。

 

 

 

 

 

 

四年目になる十歳の誕生日。

 

「ついに二桁だよー!ハッピーでバースデーだ。はい。プレゼントのナイフ。」

「うわっ!?刃物を子供に放ってよこすな!!」

 

間一髪で躱されたナイフが壁に突き刺さる。

ここ一年は戦闘訓練も行い始めたのでこの程度で怪我をするとは最初から思っていない。

投げたナイフだって刺さらない程度に避けて投げた。

どうせ大仰に避けると予測していた。

 

今年のプレゼントはちょっとしたナイフだ。

その辺で売っているものよりも実用性が高いのは軍で使われている切れ味抜群のサバイバルナイフの一つだから。

十歳の彼ならギリギリ扱えるだろう。

 

「ケーキ以外俺が作ったメシじゃん。」

「不満なら自分で注文する?」

「いやいい。腹減ったし。今からくるの待ってたら死ぬ。」

 

眠そうに目をこする彼はさっさと席についてパスタを啜り始めた。

行儀良くする気も起きないらしい。

まあいいさ。

今日は誕生日、無礼講だ。

 

 

 

 

 

 

五年目の十一歳の誕生日。

 

「ふむふむ。今年は洋服にしてみたけどなかなか似合うね。」

「今の今まで適当なの選んでたことを反省してからその言葉を吐いてくれ。」

「ごめんよく聞こえないなんだって。」

「こいつ…!」

 

今年の誕生日プレゼントは比較的マシな子供服。

今までコーディネートなんて考えずに兵にお使いさせていたけど今年ばかりはアーデンが通販で頼んだ。

自らの買い出しは面倒臭かったのでやめにした。

 

それもこれもこの子供をルシスの王都に一度放り込むための一手間。

まだ伝えてないけれど、適当なところでほっぽり出して適度なところで回収するつもりだ。

どうせ一人にしたって問題ない。

醜いほど生き汚いこの子なら。

 

それにしても随分大きくなった。

ちょっと前まで豆粒だったのに、瞬きをすれば少し大きな子供になっている。

人間ってこんなに成長が早いものだったっけ。

シガイに成長なんてないから忘れていた。

 

「おい、アンタ。飯くわねぇのかよ。」

「ん?ああ。君もマメだね。俺は別に食べなくても生きていけるのにさ。」

「アンタがくわねぇと違和感で俺の気分が悪くなる。」

 

あと、食卓が寂しい。

その一言でクスクス笑ったアーデンがカメラを置いて席についた。

 

 

 

 

 

六年目、十二歳の誕生日。

 

「ほら。ハッピーバースデー俺。ケーキの用意してあるんだろうな。」

「やっと自分の誕生日覚えたの。遅すぎない?」

 

無駄に豪華な食卓にケーキの箱が乗せられる。

今年は子供の方が先に用意を始め、帰宅の頃には準備万端。

六年目になってようやく覚えた自分の誕生日を祝うために、シンプルかつ豪華絢爛なメニューに自慢げだ。

 

「俺だってやればできる子だぜ。流石にケーキは無理だったけど。」

「ていうか自分の誕生日を自分で祝ってる点については疑問に思わないんだ。」

「あっ。」

 

完全に失念していたような声に呆れすら覚える。

一番重要な部分を忘れてどうする気だったのか。

祝う点は決定事項でも彼がここまで手間をかける必要性は微塵もない。

 

すっかり頭を抱えてしまった子供は数秒後にはまあいっか!と結論を出した。

早すぎない?

 

「なんかやりたかったからやった!それで良し!」

 

綺麗な子供の笑顔とともに映像が途切れた。

 

 

 

 

 

 

七年目を迎えた十三歳の誕生日。

 

思いつめたような顔をした少年が大量の書類を勉強机に積み上げている。

宰相の超忙しい面倒くさいだるい三拍子業務の一端を片付けるために奔走している最中だから。

 

その横にそっと置かれるケーキは毎年同じもの。

だが今年は美味しそうな料理もふざけたプレゼントもない。

これから出張になってしまったアーデンに用意する時間が無かったのだ。

 

部下に走らせればいいのに、変なこだわりを見せて結局買えなかった。

 

 

 

 

 

 

八年目、十四歳の誕生日

 

映っているのは薄暗いどこか。

物音一つしない闇の中で、一箇所だけぼんやりと光る。

蛍光灯の明かりに照らされた一室は牢屋のような鉄格子に覆われ、二人のそっくりな子供とディザストロが座っていた。

 

「フランシール。ブランシェ。またな。」

 

ピクリとも表情を変えない双子を置いて、少年は暗闇に足を踏み入れる。

 

「あの子らに感情移入する意味も必要性もないと思うけどな。」

「…俺がそうしたいだけだ。たとえ辛くても。」

 

今生きている命を見過ごせない。

生きていられる分だけでも、愛を与えたい。

自分が与えられなかった分だけ、あの子達に。

馬鹿なことを宣う彼もまだ少年だ。

 

「ほら。ケーキ用意してあるから、帰ろう。」

 

 

 

 

 

 

九年目、十五歳になった誕生日。

 

「ハッピーバースデー、ディア。」

「毎年同じケーキだよなぁ。」

「飽きた?」

「いや。このままがいいよ。」

 

いつものショートケーキと子供の作った夕食が並ぶ。

毎年代わり映えしない内容でも彼は文句一つ言わない。

祝ってもらえるだけ十分だと、心のどこかで思っているのだろう。

食卓に料理を並べている間、彼はふとしたようにこんなことを口にした。

 

「なあ、アンタさ。弟のことどう思ってたんだよ。」

 

恐らくしかめっ面になっているであろうアーデンの顔を見て苦笑いをしながらも質問は取り下げない。

かく言うアーデンも小さく答えを述べたのだからおあいこか。

 

「家族として大事にしてたよ。…王位の話が出るまではね。」

「王族ってのはそこがネックになるよなぁ。あんたらの世代は世界初の王だから余計にか。」

 

この子供もきっと弟とのことで思い悩んでいるのだろう。

世界が見えている分、未来も知り得ている。

神凪の一族もルシスも帝国も滅んで、残るは魔法でもシガイでもない非力な力持った人間だけが残る世界。

本来のシナリオはそこがゴールなのだから。

 

「ソムヌス様は…王位になにを思ったんだろうな。」

「人間はいつだって同じことしか見えてないよ。欲の権化が形を作って歩いてるだけだからね。」

 

プツリと音を立てて映像が切れた。

 

 

 

 

 

 

記念すべき十年目、十六歳の誕生日。

 

「いやーついに高校生かあー。感慨深いなぁー。」

「思ってもないことを軽々しく口にするなよ。」

 

少年から青年になった子供は既に仕事を始めている。

表立ったものはこれからとなるが、彼は若いなりに馬鹿にされぬよう必死についてきている。

彼は天才だ。

今を生きるそのへんの優秀な奴よりも遥かに使える人材だ。

 

ここまで育てておいて言うのも今更だが、流石はうちの子である。

きっとこれから大いに活躍し祖国を滅ぼすことだろう。

実に愉快な話である。

 

「…いっつも気になってたんだけど、あんたは幾つになったんだよ。てかあんたの誕生日いつだ。」

「ええー?二千幾つってことぐらいしか覚えてなーい。」

「誕生日ぐらいあるだろ。」

「四月三十日だよ。」

「来月じゃん。」

 

古代はそもそも祝うものではなかったし、祝うつもりもなかった。

年の数え方も日の数え方も二千年の間に多少変わってしまったのもある。

祭り事を月の最後に置いたりとか、しなくなったし。

 

「どうやって祝う。」

「君は自分の誕生日だけ気にしてればいいの。」

「なんだそれ。」

「ほら。ケーキ食べないともらっちゃうよ。」

「それはダメ!!」

 

この青年の誕生日だけで、十分なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

十一年目の十七歳の誕生日。

 

今年は帰省の時期と誕生日をわざと被せた。

彼の誕生日を"本物の家族"と祝う年。

いつも家族のことは口にせず、故郷の方角を時たま複雑そうな目で見つめる彼を知っている。

アーデンからすれば、いいイタズラのネタ提供でしかない様子にいち早く気づき、日程調整も兼ねて今年決行と相成った。

 

今頃憎っくき王族に囲まれて盛大に祝っているはずだ。

唐突な帰還でパーティーまで行かなくとも先にメールを勝手に送っておいたし、多少の準備はできているはずだ。

あの子はきっと狼狽えてアーデンを恨んでいる頃合いだろう。

ザマァない。

 

なんとなくビデオカメラを起動してみたが、映すものもなくただ主のいない彼の部屋を画面に捉える。

机の上に置かれただけの画面が今年の記念動画だ。

思いのほかつまらないものだ、と意味もなくなってきたケーキを一人で口に含んでいると、懐に入った携帯が鳴り響く。

 

こんな時間に仕事か。

いやになるなー軍部ってのは。

そんな思いでいやいや電話に出る。

 

「はいはい。仕事の予定なら今日は一切受け付けませーん。」

「――じゃあ問題ないな。親父殿。」

「ディア?なんで電話なんてかけてきたの。」

「――あんたのせいで盛大な騒ぎになってっから一旦抜けて文句言おうと思ってな!よくも勝手にメールしてくれやがったな!!」

 

どうやらルシス王家は手際が良かったらしい。

身内だけのパーティーと称して王城に会場が出来上がり、メディウムとして絶賛祝われ中らしい。

ケラケラ笑ってやると、電話口にため息の声が届く。

 

「――今年はあんた、祝ってくれねぇのかよ。」

「あー俺に祝われたかったの。素直にそう言えばいいのに。ディザストロちゃぁーん。」

「――やっぱりやめだ。早くくたばっちまえ。予定より長めに滞在してやる。」

 

ブチ切れ寸前の青年は早々に切るべく電話を肌から話したようだ。

遠くからの騒がしい誰かの声が少しだけ入ってくる。

なるほど、彼は存外愛されているようだ。

言葉を惜しむ理由もない。

アーデンはさらに笑いを深めながら一言だけ放つ。

 

「お誕生日おめでとう。王子サマ。」

「――どうもありがとうございます。宰相サマ。」

 

盛大に音を立てて電話が切られた。

 

 

 

 

――十二年目の誕生日を流す前に、レイヴスから制止の声が入った。

 

「待て。十二年目から十九年目までは俺も参加していた。内容は知っている。」

「ここまで見て飛ばすのかよ。」

「当たり障りない誕生日会だっただけだ。軍部内で祝ったりもした。重要なことを喋るとは思えない。」

 

問題は最後の二十年目なのだと、彼は苦々しく言う。

王都と襲撃戦が日に日に近付く中で彼らはひっそりと祝っていたのだろう。

レイヴスの知らない誕生日の映像を流した。

 

 

 

二十年目、この生活に終焉を迎える二十六歳の誕生日。

 

「今年で最後か。アレもコレもソレも、もう二度と見られねぇ日が近づいてんだなぁ。」

「ずいぶん弱気なこと言うよね。」

「あんたこそ、随分嬉しそうにしてるよな。」

 

やっと復讐への道を本格的に歩み始めるアーデンをディザストロが茶化す。

この部屋ともあと数日もすればしばしお別れだ。

王都を襲撃したら彼はノクティスに近づき、最短ルートでこの帝都へと導く。

準備も怠らせない。

 

真の王を、ソムヌスの子供を、殺す時が来たのだ。

 

「なあ、俺も最後には死ぬのか。」

「生かすよ。君は死なない。目的を果たすまで君は意地でも死なない。そんな奴をわざわざ殺すのも面倒くさいし。好きなだけ生きて好きな時に死ねばいい。」

「そりゃあいい。好きな時に生きて死ねる人間なんて世の中にゃあいないだろうよ。」

「死にたい人間なんかほとんどいないからね。当然の帰結さ。」

 

今年も同じケーキを食べながら、殺伐とした話をする。

ここ数年はそんなものだ。

ブラックジョークのオンパレードで頭の正常な者が聞いたら眉をしかめる。

生きているだけで死にたがるほど疲弊する人間がいるなど、正常だと言い張る連中は思いもしないだろう。

 

ディザストロもアーデンも誰にも理解されない。

お互いのことはお互いしか知らない。

彼らはもう未来に備えている。

世界を巻き込む盛大な出来事を彼らが起こすのだ。

 

「なあ、アーデン。」

 

俺は、いつ死ねるんだ。

 

「悪運の強い阿呆の死に場所なんか、作らない限り一生ありはしないよ。」

 

だから作ってあげよう。

暗闇の世界の先に二人だけの終点を。

 

 

 

 

 

二十年目の映像を流した後に、レイヴスがそっと一つのビデオテープを入れた。

新品かと見まごう程新しいものは二十一年目と記されている。

映っているのはこの部屋の玄関だった。

 

「この映像を見ている頃にはおそらく部屋に入って三十分以上経過しているだろう。そろそろ俺が戻ってくるぜ。この、部屋にな。」

 

今までの映像と明らかに変わった風貌。

ディザストロとは違う意味でまるでアーデンかのような血塗られた髪と獲物を狩るオッドアイを光らせる画面の向こうのメディウムに、二人が息を飲む。

 

玄関の開閉音。

硬い靴と何かを引きずる重い音。

後ろの扉が、ゆっくりと開いた。

 

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