FFXV 泡沫の王   作:急須

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孤高の泡沫

日が昇る安寧の時が一時間を切った。

 

ただこれだけの事実に絶望感を覚えるのは人が陽の下に生きる生者だからか、はたまたシガイという目に見えた脅威があるからか。

例え未来視すら可能にした奇跡の主導者が居ても運命には逆らえない。

争い、諍い、抗っても夜は訪れる。

黒を、夜空を愛する王族の片割れは黄昏を眺めた。

 

王が隠れ、神凪が力を失い始めてから三年。

たったそれだけの月日で世界は混沌に満たされた。

あとどれほど人類が生きるための手段があるのだろうか。

抗うことをやめ、シェルターでも作ってしまった方が良いのではないか。

何度もそんなことを考え、何度も同じようなことを打診された。

 

しかし、泡沫は知っている。

そんな一時の安全など数週間もあれば狂ってしまう。

人は閉鎖感や拘束感に耐えられない生き物だ。

常に自由へと足を向け、欲求を満たすためなら時には手段を問わない。

それら全ての鎮圧に成功したとしても、残るのは無気力な人々と言いなりにしかならないナニカだ。

 

人としての尊厳が失われる安全なら、捨ててしまった方がいい。

国とは国民がいなければ立ち行かないものなのだ。

代理の王が最も優先して取る行動はあくまで未来のためでなければならない。

例え胸倉を掴まれようが糾弾されようが石を投げられようが殺されようが関係ない。

ただ立てた策を順番に実行するだけだ。

 

あと、数十年耐えれば良い。

もう二十年耐えたではないか。

もう少し、あともう少しだけでいい。

生きて、生きなければ。

 

ーー泡沫は一人で地に倒れ伏す。

一つの街がシガイの猛攻に壊滅寸前まで追い込まれたのだ。

最早人間では対処できなくなってきた中、泡沫は人々の生存を優先し、一本の剣を街の前に突き立てた。

剣神バハムートの加護をまとった剣は彼が生きる限り、街を最大限護ってくれる。

今ここで死んだら後ろの街は耐えきれない。

 

「ああ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

吼えろ。

まだ叫べる喉を使え。

全身が異形の蔦に覆われた時、泡沫は完全なる化け物となる。

人々を救うため、世界を救うため、彼が失ったものが"存在そのもの"だったとしても。

生きて戦うことに全てを賭す。

 

「応えろ!バハムート!!」

 

嫌いだった神に助力を願うことになっても、戦わねばならない。

人としての最後の灯し火を吹き消して、泡沫は数万人を救う。

後に"始まりの夜"と語られる大規模戦闘だった。

 

 

 

 

 

 

 

半身が炭となり危篤状態に陥ったメディウムは驚異的な再生能力により見事復活を果たした。

炭となった半身は見た目こそ酷い有様だが、機能に支障はなく、戦闘も続行可能との診断が下された。

最前線での戦闘禁止令が数カ月にわたって下されることにはなったが、重傷者少数、負傷者多数で済んだのは奇跡に近い。

死者が出なかったのは一重にメディウム一人で前線を維持するという咄嗟の判断があったからこそだった。

 

「何であんな無茶したんだ!」

 

治療が行われた後、急遽行われたシガイ避け増強により病棟と化した街の一角に怒鳴り声が響く。

声の主はグラディオラス・アミシティア。

戦いの最中、メディウムを守る為に前に出たにもかかわらず首根っこを掴まれ街に放り投げられてしまった。

一度加護の範囲に入ると発動させたメディウム以外行き来が出来ず、その背中がシガイの波に飲まれる瞬間まで外へ出せと叫び続けていたという。

加護が切れた後、メディウムを救助するべく真っ先に動いたのも彼である。

 

「俺達でも十分耐え切れた!!」

「それでは死者が出ていた。」

「人ならざる連中と戦争してんだ!!死者が出ちまうのは仕様がねぇだろ!!俺達は死ぬ覚悟で元々戦ってんだよ!!」

「あんな戦い序の口だ。まだ戦争は激化する。今人員を失えば潰れるのは我々だ。」

「頭潰れたらもっと悪い状況になるってわかんねぇのか!!体のことだってずっと黙ってやがって!!」

 

検査の際体を調べ、メディウムが最早シガイと同等であると神凪ルナフレーナに告げられた。

治す手立てはなく、むしろシガイ化を治せば死に至るとまで言われた。

人間としてのメディウムはあの戦いで死んでしまったのだ。

これ以降は肉体の成長が止まり、どうなるかは予測できないと。

 

「なんで自分のこと大事にできねぇんだよ!!クソメディウム!!」

「グラディオ!怪我人に手を出しちゃダメ!」

「プロンプト!グラディオを抑えろ!」

 

殴りかかろうとするグラディオラス を側に控えていたイグニスとプロンプトが抑えつける。

個室すらない診療所には一般人だっている。

怒鳴り声で震え上がっていた人々が肩身を寄せ合い距離を取り始めた。

この場で最も重傷なメディウムは軽くため息をつき、ベッドから降りた。

慌てて医師が止めに入るが、その歩みは止まらず外へと出て行く。

 

「おい!話は終わってねぇぞ!!」

「王の盾よ。民草を震え上がらせるのが我らの責務ではない。今彼らに必要なのは休養だ。私がその邪魔になるというのなら出て行くのが道理。まだ吠えたりないのならついてこい。」

 

真っ黒になって腕と足を引きずって外へと出て行く。

舌打ちをしたグラディオラスが出て行くのを見届けプロンプトとイグニスも追いかけた。

 

「おい!…おい!どこに行く気だよ!」

 

メディウムは振り返らない。

ただ真っ直ぐ足を動かす。

真っ暗になった夜の中を幽鬼のように進んでいく。

あまりにも頼りない背中に、グラディオラスは思わずその肩を抱いた。

傾いた身体は抵抗することなくその腕に収まる。

 

「なんで、わざわざ出て行ったんだよ。俺を追い出せば済む話じゃねぇか。」

「人の好意を無下にできるほど、俺は心を無くしてはいない。」

 

抵抗する力もないメディウムは支えられたままメルダシオ協会が管理しているセーフハウスへと足を向けた。

ハンターや各国の兵士達が優先して使える施設たる場所ならば、盟主であるメディウムも利用できる。

 

グラディオラスは唇を噛む。

本当は自分にメディウムを怒鳴りつける資格などない。

ルシス王国の事務仕事や食糧問題、水問題、光源問題、動植物の保護、教育、他にも数多くの仕事の採決は全てメディウムが行ってきた。

さらに各国の軍配置や視察、前線での戦闘も率先して行う始末。

明らかなオーバーワークと過労死寸前の生活でもたった一人で三年を持たせた。

彼しかできる人間がいなかった。

彼以上の成果を出せる人間がいなかった。

光がほとんど閉ざされた暗闇の中でも他国より明らかに高水準の生活を保てているのは全てメディウムのおかげだ。

 

こんなにもボロボロなのに彼の代わりになることはできない。

ろくな手伝いもできないのに、メディウムが心配だからと怒鳴るなどただの自己満足な行為だ。

しかし、叫ばずにはいられなかった。

彼は今世界で最も必要な人でありながら今は眠るノクティスの兄であり、共に旅をした友人でもある。

友人が死ぬかもしれない状況で平然としていられるほどグラディオラスは冷酷になれなかった。

 

「メディ。せめて、些細なことなんだ。俺は、俺達は、隣で戦いてぇんだよ。」

「今でも十分戦ってくれている。」

「お前を守りたいとか、お前がいないとダメとか、国のためとかじゃなくてだ。」

 

盟主の顔をしたメディウムがグラディオラスを見た。

それ以外の理由がまるで思いつかないとでも言いたげな顔だ。

ああ、人として大事だと思える心さえも彼から奪ってしまったのだとグラディオラスは悲しむ。

 

「一緒に戦いたい。お前を、友を一人にしたくない。」

「…私が…一人?」

 

驚いたような顔だった。

まるでその発想はなかったと言いたげなほどに、間抜けな顔をした。

そして合点がいったように何度も同じ言葉をつぶやく。

 

「…そうか…そうか…私は、一人だったか…。」

「お前一人で頑張ることは何もねぇ。何だっていいんだ。手伝えるなら、本当に何だって。お前を一人になんかしねぇから。そう思ってる奴がメディの周りにはたくさんいるんだ。」

 

沢山の人々がメディウムを心配している。

そう伝えると、心底驚いたような顔で目を丸くした。

心配する、悲しむ、それらの感情を抱く暇もなくメディウムの中で日々は過ぎ去っていった。

あの人を一人にしたくない。

あの子に沢山のものを残してあげたい。

その一心で命の灯火を業火に浸してきたメディウムにとって、自分が一人だと言う考えは存在しなかった。

 

「なぁ、グラディオラス。」

 

隣から小さな声が聞こえた。

ひさびさにあだ名以外で呼ばれた。

盟主になってから畏まるようになった口調が崩れたメディウムの声に耳を傾ける。

ゆっくりと動く唇に細心の注意を払う。

 

「ありがとうな。」

「…おう。」

 

三年ぶりに聞いた、メディウム自身の言葉だった。

崩れ去りそうな肩を強く抱いて二人は前へと歩く。

少し離れたところから様子を見ていてくれたイグニスとプロンプトが近寄り、少しだけ嬉しそうにそんな二人と共に歩いた。

何かに苛まれるように、何かに懺悔するかのように前を見ていたメディウムが力強い目で先を見る。

何かが吹っ切れたような、そんな顔だった。

 

この一連の事件からメディウムはかつて共に旅をした仲間達を頼るようになった。

食べたいものだとか見たい視察場所だとか些細な願い事ばかりで、拍子抜けするようだったが頼ってもらえることに喜んだ仲間達はより一層職務に励むようになった。

メディウムも一人で前線に出ることなく、数名で行動するようになり言葉数も少しずつ増えている。

 

そんな中話に上がったのはルシス王国王都インソムニア奪還作戦である。

強力なシガイが跋扈する激戦区であるインソムニアは剣神バハムートの加護を持ったメディウムにより、入り口に一本の剣を突き立て封鎖している。

インソムニア全体をあえて囲むことで入ることも出ることも出来ぬようになっていた。

その件を引き抜いてシガイ掃討作戦に出ようと言うのだ。

 

作戦は単純明快である。

剣を一度引き抜き、入り口から少しずつ進軍する。

安全領域を確保した分だけ奥に結界を貼り、前進していくのだ。

この作戦にはメディウムの参戦と多くの手練れが必要になり、魔法を持つ王の剣が抜擢された。

コル・リオニスを始めとする総勢五十名の少数精鋭進軍である。

 

「グラディオ、イグニス、プロンプト。各地のことはお前達に任せる。各国と速やかに連携を取り、有事の際には私に連絡を入れろ。」

「無理だけはすんなよ。」

「政務の引き継ぎ、任された。」

「たまにそっちに加勢しにいくね。」

 

この時、誰もが暗闇の中で一歩踏み出せる希望の瞬間だと確信していた。

 

「友よ、頼んだぜ。」

 

踏み出した一歩がまさか泡沫を苦しめる結果になると誰も知らなかった。

王都に、王城に潜む何者かをまだ誰も知らない。

 

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