FFXV 泡沫の王   作:急須

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Chapter 13 帰郷
ただいま


ーーコポリ。

 

 

ーーさあ、真の王よ。行きなさい。世界のために。

 

 

ーーコポリ。

 

眼が覚めると、薄暗い洞窟のような場所に出た。

覚悟が決められず長らく揺蕩っていた星々の中から抜け出し、現実へと戻ってきたのだ。

目覚めた王は自らの役目を果たすべく、外へと踏み出す。

あれから"十年"もかかってしまった。

 

闇に沈む定めの時はとうに過ぎただろう。

沈んだ後の闇い世界が目の前に広がっている。

荒廃した土地、闊歩するシガイ、怯える人々。

そのどれもがあらゆる意味で自分の帰還を今か今かと心待ちにしている。

 

幼き時から共に過ごした友、自らを支えてくれた人々、寂しそうに送り出してくれた兄、討つべき仇敵。

彼らの行方も分からぬまま、真の王ノクティス・ルシス・チェラムは現実へと帰還した。

 

神影島にはキーの刺さった一台のクルーザーが停泊していた。

オルティシエに向かう際、シド・ソフィアの手によって修理された船である。

まるでシガイの姿が見当たらない神影島に王族のクルーザーが一台。

明らかに意図的に置かれたもので間違いないだろう。

クルーザーの中には一枚の置き手紙が置かれていた。

 

"ハンマーヘッドで待っている"

 

達筆な文字。

見覚えのありすぎる紙を握りしめ、海を見つめる。

王は旅の初めに訪れたガーディナ渡船場へと向かった。

 

 

 

 

 

「なんだ、これ…。」

 

ルシス王国に入国する唯一の海路であり、観光地として賑わっていたかつてのガーディナ渡船場は見る影もなかった。

数年以上放置されたような有様に、暗闇の中に湧き出るシガイが悠々と闊歩している。

 

"光無き地に人の生きる場所はない"

 

バハムートの言葉が脳裏をよぎる。

クリスタルの中で揺蕩い、膨大な力を蓄え覚悟を決めた十年の間に、人々はどこまでの後退を余儀なくされたのか。

少なくとも海路の使用を断たなければならない程に、人々は陸地へと移動したのだろう。

 

襲い来るシガイの群れを潜り抜け、陸路を進む。

巨大なシガイを傍目にバレぬように走る。

ハンマーヘッドまでこんな調子で大丈夫なのだろうか。

 

「けど、アイツらに何も言わずにってのは、流石にナシだよな。」

 

"仲間のことは大切にしろよ"

 

オルティシエに向かう前にシドに言われた言葉だ。

ルシス王家が、真の王が迎える結末を仲間達に伝えなければならない。

元凶を屠る前に、手遅れになる前に。

 

道路沿いに走り続けると、一台の車がこちらへとやってくる。

こちらの存在に気がついたトラックがゆっくりと止まった。

トラックに乗った年若い運転手が驚いたような声をあげる。

 

「あの…。」

「…誰。」

「十年経ちましたし、見た目じゃあ分かりませんよね。タルコット・ハスタです。祖父がアミシティア家に仕えていた…。」

「タルコット!?」

「はい。ノクティス様ですよね。」

 

そうか、十年も経てばあの子供だったタルコットがこんなにも大人びてしまうのか。

分からなかったことを謝り、人が居る場所を教えてくれないかと聞くと、車に乗るように促された。

ここから歩いていくには遠いらしい。

溢れ出るほどの力を手に入れたとはいえ、十年ぶりに地に足をつけたばかり。

タルコットの言葉に甘え、ノクティスは助手席へと乗り込んだ。

 

「今からハンマーヘッドへ向かう所だったんです。定期補給の時期で、色々物資を積んでいます。」

「定期補給?」

「はい。強いシガイが特に多い王都では、精鋭が集められ、少しずつ王都の安全領域を増やしているんです。今ちょうど、ハンマーヘッドにはグラディオラス様も居るはずです。電話、かけてみますね。」

「助かる。」

 

数コールで応答した相手と一言二言挨拶を交わした後、タルコットが事情を説明し始めた。

途中、ノクティスへ代わるように要求してきたが、会ってからでいいと首を振った。

電話の相手はイグニスだったようだ。

 

「イグニス様もプロンプトさんもいらっしゃるそうです。御三方が揃っているなんて珍しい。」

「そっか。兄貴は居なさそうか?」

「今ハンマーヘッドに向かっているらしいです。メディウム殿下が有事以外で王都を離れるのは初めての事ですし、何か感じるものがあったのでしょうか…。」

 

トラックを動かし、感慨深そうに笑うタルコットにこちらは苦笑いを浮かべる。

未来予測、未来予知、先見、言い方はなんでも構わないが、それに類する頭脳を持つ兄ならないことはなさそうだ。

逆に他の三人は偶然そこに揃っただけに過ぎないような気もする。

偶然でも揃えば、それは必然なのやもしれないが。

 

「兄貴はともかく、アイツらはたまたまだろうな。兄貴はずっと王都で精鋭とかと一緒に戦ってるのか?」

「はい。半年に一度、各国の代表が集まって行われる定例会議には出向かれているようですけれど、それ以外はずっと王都に。もう、七年目になります。」

 

タルコットによるとメディウムはルシス王国第一王子でありながら一時的に組まれた世界連邦の盟主でもあると。

その負担は計り知れず、世界中あらゆる物事の最終決定権を有しながらも自国の統治も行わなければならない。

その上で前線でも活躍し続ける一種の神のような存在だと、興奮気味に語られた。

なるほど、神。

六神が聞いたら眉間にしわを寄せるかもしれない。

 

「それにしても、ノクティス様とまた会えて本当に嬉しいです。」

「俺もだ。あのタルコットがこんなに立派になってるなんて思わなかった。」

 

日が昇ることもなく、エンジン音だけが響く車内で互いに笑い合う。

十年とはそれ程までに長い時間だと実感できる。

歳をとると、こんなにも不思議な気持ちになるのか。

これから会いにいく仲間達も十年前とはかなり違うのだろうか。

 

「実はメディウム様とは七年前を最後に一度も顔を合わせていなくて。」

「じゃあどんな風になってるか楽しみだな。」

 

タルコットの少し悲しげな顔が前を向く。

その様子にこの十年で兄に何があったのかを悟った。

予想はしていたがまた怪我が悪化しているのは当然、火傷も増えていることだろう。

あの兄のことだ。

ろくなことにはなっていない。

 

随分と長いこと無理をさせてしまった。

二十年と十年。

ノクティスが生きたのとまるまる同じ年、三十年という長い歳月を苦痛の中に沈めた兄もこれでやっと解放される。

陽を拝み、安心して眠れる夜がやってくる。

自分達三人が憎しみを捨て、静かに眠る事で人々が安寧を手に入れる。

ルシス王家とは人々を守る盾でありながらとんだ疫病神だ。

 

「ハンマーヘッドにシドのじいさんはまだいるのか?」

「いえ、今はレスタルムに移っています。あまり元気そうではなくて…ハンマーヘッドに戻りたいって良くメディウム様に直談判しています。」

 

ずっと却下され続けていますけど、と苦笑いを浮かべたタルコットに軽く頷いた。

ハンマーヘッドは電気が通っているようだが、戦えないシドが住むには余りにも危険すぎる。

陽の登らない世界で最高権力者たる兄に毎度抗議しにいく様は周りがヒヤヒヤさせられる事だろう。

実の所、兄の方がシドに頭が上がらずなんとか出来ないかと模索し、結局ダメだと返答していそうだ。

 

「積もる話、沢山ありそうだな。」

「はい。きっと、他の皆さんも沢山お話ししたい事がありますよ。」

 

暗いばかりの道の先に明かりが灯る場所が一つ。

旅の始まりとなった場所。

初めて外の世界を知ったあの場所。

二度と帰れないと思った故郷への道程。

バリケードが施されたハンマーヘッドが見えてきた。

 

「ノクティス様…夜が明ける日は来るんでしょうか。」

 

タルコットが突然そんなことを言った。

漠然とした不安の中に浸った十年。

ノクティスの帰還とは、即ち夜が明けることを意味する。

それと同時に長過ぎる怨恨への終わりも告げていた。

これは神達の手の上で踊らされた神秘の贄達による終焉への幕開け。

 

勝つか負けるか。

そんな単純な話ではない。

全力でぶつかりあって全力で殴り合って全力で殺し合う。

死ぬ事以外に選択肢のない、世界への贄が捧げられる時なのだ。

 

だから、どんなにあがいても答えは一つしか存在しない。

 

「くる。絶対に。」

 

そうでなければならない。

もう、アイツも兄も自分も十分に苦しんだ。

否、自分とは比べ物にならないほど彼等は苦しんだ。

終わりを迎えるのなら早い方がいい。

安らかに逝けるのなら直ぐにでもノクティスは剣を持って向かう。

闇を祓い"人々"を救う王だから。

 

あんなに優しい"人達"を借り物の力で救えるのなら構わないと思った。

恨みもある。

巻き込まれたことへの怒りもある。

しかしそれ以上に、クリスタルの中で見た歴史はあまりにも悲しかった。

あまりにも辛かった。

 

「俺が、晴らす。」

「…はい。その時を待っています。」

 

人工の光溢れるハンマーヘッドへと入っていく。

さて、かつての仲間達はどのような変化を遂げているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

パリッカリッと携帯食品を食い千切っり、また新たなものを口に突っ込む。

一際目立つ厚手の衣装を着た赤毛の混じる黒髪の男が積まれた積荷を確認しにトラックへとやってきた。

橙色だった瞳は金色のような色へと近づき、全てを見透かすように周囲を見る。

黒き瞳は何処までも続く深淵のようで、覗き込めば吸い込まれそうなほどに深い色を宿していた。

 

「カボチャの馬車と行かずにすまなかった寝坊助な我が弟よ。よーく眠れたか?」

「ああ。バッチリだ。クリスタルの中は快適だな。強いて悪い点を言うなら心底夢見が悪かったってところか。」

「そりゃあ重大な欠点だ。」

 

聞き慣れたはずなのに懐かしい声の主が恭しくトラックの扉を開け、手を差し出してくる。

その手を掴むと暖かいような冷たいような、なんとも言えない生温い感覚が手から伝わってきた。

生きているのに死んでいるかのような、中途半端な温度だ。

やはり、とノクティスは目を伏せる。

バハムートからメディウムという存在を明確に教え込まれ、そうなるだろうとは思っていたのだ。

 

「兄貴、意外と若いな。もう三十六だろ?あのおっさんそっくりだぜ。」

「そういうノクトは歳をとったな。俺よりもおっさんくさい。ああ、でも父王にそっくりだ。」

 

ノクティスは掴まれた手を強く握り返す。

例え兄がどんな存在であろうとも今どんな立場にいようとも自分達が兄弟であることに変わりはない。

今再会を喜ばずしていつ喜ぶべきなのか。

 

「おはよう。兄貴。」

「おはよう。かわいい弟。」

 

パシッ。

開いた片手でハイタッチ。

さあ、反撃開始だ。

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