FFXV 泡沫の王   作:急須

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のぞみ

うず高く積まれた武器や食料の物資を別のトラックに積み換える作業を横目に、今は倉庫となっているタッカの店へと入っていく。

中にいたメルダシオ協会の人々に一度席を外してもらい、店の奥へと向かうと幾分か歳をとった仲間達の姿があった。

髭を蓄えたプロンプト。

怪我の増えたグラディオラス。

髪型を少し変えたイグニス。

十年の重みが伝わる変化が仲間達に訪れていた。

 

「ノクト!」

「ようやくお目覚めか」

「無事で何よりだ」

「よっ。待たせたな」

 

皆一様に嬉しげに王の肩や背を叩き、歳をとった友の帰還を喜ぶ。

随分髪が伸びたとか、父王にそっくりだとか二十歳の時の服がアンバランスだとか。

たわいも無い話題で盛り上がる子供達を嗜めるように、メディウムが軽く手を叩く。

 

「忙しき戦の中、皆良く集まってくれた。」

 

三人が一斉に王の剣流敬礼をとる。

今は世界をまとめる盟主とは言え、普通は自らが仕えるそこの王にするものだろう、と軽く頭痛を覚える。

後でそのあたりを修正させなければならない。

苦笑いをこぼし、全員座るように促した。

これからのことについて話し合わなければならない。

 

今回、ハンマーヘッドに旅に参加していた五人全員が集まっているのはメディウムが招集をかけたからである。

もうそろそろ起きてくるだろうという時期に時間を捻出させ、ハンマーヘッドにて集合するようにあらかじめ指示していた。

もし目覚めて来なければそのまま互いの無事を確認して解散となる手はずだったのだが、無駄にはならなかったようだ。

 

「我らが王の帰還に伴い、直ぐ様元凶を討つ…と言いたいところなのだが各方面に挨拶に行かねばならん。一度、レスタルムまで皆で向かおうと思う。異論はあるか?」

「なんで兄貴、そんな口調なんだ。」

「んん…悪い。つい癖で。もっと砕けていてもいいな。うん、みんな異議なしだな。じゃあ概要を説明しよう。…おい、三人は何か言いたげな顔をするな。議題に関係ないのは目に見えてるから敢えて聞かないけど。」

 

頷いた面々、グラディオラス、イグニス、プロンプトの堪え切れないとでも言いたげな笑い方にメディウムは拗ねたような顔をする。

当然だろう。

今まで頑なに心を開かなかったかの盟主が弟の言うことは直ぐに聞いてしまうのだ。

彼も弟の帰還に相当浮かれているらしい。

 

険しい表情や無表情ばかりだった顔が今日はやけに緩んでいる。

クラレントを構えるかのように添えられた右手も今は組んだ足の上に置かれ、有事の際に全く備えていない。

気の抜けた、余裕の態度だった。

家族というものはいるだけで安心感をもたらす物なのだと、改めて感じる態度である。

 

「まず、レスタルムには既に重要人物を緊急会議と題して招集している。アコルド自由都市連邦首相カメリアとテネブラエ王国国王レイヴス、並びに神凪のルナフレーナ、傭兵団団長アラネア・ハイウィンドだ。彼、彼女等には義理を通す必要がある。」

「テネブラエ王国?復建したのか?」

「一時的にな。夜が明けぬ今、テネブラエより向こう側を自治できる才あるものが直ぐに見つからなかったんだ。ニフルハイム帝国の生き残りもほぼ国民と貴族ばかりで政府首脳部の者は少数しか生存確認ができなかった。」

 

その点で言えばテネブラエ王国は女王も健在であり、息子のレイヴスも強き力を持ち、今では公式にメディウムの神凪として最善を尽くしてくれている。

信頼性も高く血筋も十分。

これ以上ない人材だったと言えよう。

 

面倒だったのはニフルハイム帝国亡国認定の時に行われたニフルハイム国民によるデモである。

貴族が中心となって行われたデモの中心人物はメディウムとの会談を要求してきた。

 

「それどうなったんだ?」

「勿論応じたさ。まだ彼等は他国の国民だったからな。一応国の代表という形で同盟の会議に参加してもらった。」

「話ついてくの無理じゃねぇ?」

「聞いてよノクト!その会談俺達も護衛でいたんだけど酷い空気だったんだよ!」

「シガイの相手をするよりも怖かったな。」

「勉強になる駆け引きだった。」

 

腐っても帝王学を学んだ王族、フルーレ家と国民による厚い信頼を自らの頭脳と手腕、そして言動によって勝ち取ってきたカメリア、数多の記憶を持ち、口の上手さとあくどさ頭の回転の速さが世界最高峰であろう世紀のヴィランに二十年に渡る教育を施された未来視の盟主。

貴族とは言え政治と戦争の最前線に立ってきた訳でもなし、この三人に口で勝てるのはあのおじさんぐらいしかいなかった。

自分よりも若いと見下してカメリア以外をマークしなかったのが彼の運の尽きだろう。

 

「要は俺達の話し合いに一人でついて来られたらここに名を連ねてもいいって会議だったのさ。勿論ついて来られなかったがね。」

「幅が広すぎる会議だった。どれもその道の専門分野の人間でなければ分からないような言葉の応酬だったんだ。皆が皆あそこまで物を学ぶとは到底思えない。」

「イグニスもそのうちできるようになる。」

「電気工学の専門家が農業、畜産や教育、建築、金銭や税にまで手を伸ばしているような状態にまでなるのか…。」

「半分ぐらい足突っ込めるようになってるから行けるって。」

 

この十年の間にイグニスは頭脳面でも相当扱かれているようだ。

あのスタイリッシュアクション代表者が青白い顔をしている。

軍師は政治家じゃないとフォローを入れるべきなのか、今後を考えるとこのままの方がいいのだろうか。

 

兎にも角にも、今はニフルハイム帝国は存在しないことになっており、代わりにテネブラエ王国が君臨している。

国民の反発が絶えないかと思ったがそこは神凪の一族、平和の象徴の名に相応しいと言えるほど争いがない。

レイヴスの能力主義も功を奏しているのだろう。

国民皆平等に才あるものは分け隔てなくペンを持たせ、働かせているようだ。

戦いを担うのがルシス王国だとしたら内政を担うのがテネブラエ王国だろう。

その中間に立ち、統率を取ってくれるのがアコルド自由都市連邦だ。

戦後も良好な関係作りを目指したいものである。

 

「まあ、レスタルムに向かう理由は挨拶ってだけじゃないんだ。ノクトもさ、ルナフレーナに会いたいだろ?」

「俺が行って騒ぎにならないか?」

「ちゃんと会議用の建物がある。そこにいてもらっているから俺が義理を通している間に話してこい。」

「…いいのか。今すぐに夜明けにした方が皆喜ぶだろ。」

 

覚悟が揺らいでしまうような、そんな頼りない瞳をしていた。

きっと大切な人に出会ったら彼はこんな使命嫌だと逃げ出してしまうかもしれない。

そんな人間の心の弱さを、ノクティスは心配していた。

ルナフレーナの顔を見たらきっと自分は。

 

「ノクト。夜が明ければどうなるか、言わなくていいのか。言わないまま、行くのか。」

 

レギス王のように。

声には出さなかった兄の言葉が胸に刺さった。

違う、自分は皆に悲しい思いをさせるために覚悟を決めたんじゃない。

明るい未来を皆に託す為に、外へと出てきたのだ。

 

"会っておけばよかった。"

 

シドがこぼした、友への叶わぬ思い。

もう一度だけ楽しい旅をして、喧嘩別れをして、歳をとって、立場が変わっていって、仲直りをした友の顔がもう二度と見られない辛さ。

 

"なんで、兄貴も親父も...何も言わないんだよ...。"

 

遺された者の気持ちを十分に味わった。

大切な人達にも同じ思いをさせていいのか。

メディウムの顔が悲痛に濡れる。

そんなの、そんなのは。

 

「…良くない。」

「ああ。だから行こう。」

 

差し出された兄の手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

車で夜道を進み、レスタルムに新たに作られた地下道を抜けるとオフィスのような建物にたどり着いた。

元々何処かの会社が保有していたビルだったものを買い取り、急拵えの治外法権区域にしていたのである。

ここでは国も立場も関係なく、同盟に名を連ねる各国の代表や協力者達が己の意見を好き勝手に言える。

不敬罪も言論の弾圧もない真に自由の場なのである。

 

「ここの最上階が会議室だ。ルナフレーナは会議室で待ってもらっている。俺達も後で参加するから、ノクト達はまずそちらへ向かってくれ。」

「分かった。」

「大事な話は俺達が来る前にしておけ。俺達はもう知ってるから。」

 

ヒラヒラお手を振ってエレベーターで上の階に上がってしまったメディウムの言葉に、残されたノクティスは頬をかく。

どうやって夜を明けさせるのか、何故そうしなければならないのか、その為に何が必要なのか。

恐らくそれらの説明をし、説得し、協力を仰ぐことでここまでやってきたのだろう。

 

説明するなという方が無理だ。

そのまま鵜呑みにしろというのも難しい内容だろう。

レイヴスはともかく、カメリアはかなり苦労したはずだ。

 

「ねぇ、ノクト。大事な話って夜明けに関してなんだよね。」

「その過程に何か問題があるって事だよな。」

「メディウム様の様子だと、その、言いにくいことか?」

 

歳をとった友人達の不安そうな声に小さく笑った。

そんなに心配することはないのに。

そもそもノクティス・ルシス・チェラムもメディウム・ルシス・チェラムもこの時の為に生まれ出でた存在だ。

不満に思う権利すら与えられていない。

受け入れるしか、道は無いのだ。

 

会議室の扉を開けると、美しき待ち人が顔を上げる。

十年経っても何一つ変わらない。

 

「お待ちしておりました。おはようございます。ノクティス様。」

「待たせた悪りぃな。おはよう。ルーナ。」

 

どちらとも言わず抱きしめた。

彼女の兄や盟主によって大切に保護されていたルナフレーナの様子に変わりはない。

オルティシエで別れたあの時から変わらない姿でそこにいた。

自分よりも細くて頼りないのに、どれだけ強く逞しいかをよく知っている。

 

彼女を見たらきっと何もかも投げ出したくなると、そう思っていたのに。

いざその顔を見るとより一層、使命と向き合おうと思える。

この人を幸せにしたい。

好きだと思えるこの人を、幸せな未来に送り出したい。

 

「なあ、ルーナ、グラディオ、イグニス、プロンプト。聞いて欲しいことがあるんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「カメリア。レイヴス。アラネア。聞いて欲しいことがある。」

 

ノクティスの目覚めにより、これから起こるであろう決戦に向けて盟主は不在になる。

これからどうするかの話をする中、メディウムの口から唐突に切り出された。

彼が話の流れを切ってまで伝えたいことなど滅多にない。

重要な案件なのだろうと、三人が口をつぐんだ。

 

「ルシス王国の王にはノクティスが相応しいと思う。」

「今も玉座についているでしょう?空白の十年を含めて、長くね。」

 

首を傾げたアラネアは何を言っているのだと瞬きをする。

数年前にメディウムをぶん殴って一時仲直りをした後、かの恐れ多き盟主に遠慮なく苦言を呈するほどになった。

何を当たり前の事実を今更言っているのだろうか。

しかし、カメリアとレイヴスは違うようだった。

長く共におり、彼の本来の父を知り、ルシス王家のなんたるかを知っているからこそ導き出される答えがあった。

 

「それは、貴方の使命を放棄すると言う宣言ととって良いのかしら。」

「正気か、メディ。この三十年の苦しみを全て無駄にする気か。」

「早合点が過ぎる。そうは言っていない。ただ"目的を達成できれば使命は果たされる"という部分を悪用するだけだ。」

 

イマイチよく事情が理解できないアラネアのために、メディウムは初めから順を追って説明し、その作戦を決行する為に協力して欲しいという。

具体的に三人が行うのはメディウムが書き上げたとある物を参考に政治を行うだけなのだが。

何処か楽しげな様が見るものの心を締め付ける。

 

「俺の使命の一つ目は既に達成された。残り一つは"真の王亡き後、王家を繋ぐ"こと。つまりルシス王家が存続すればいいわけだ。俺である必要はない。」

「ノクティスの死は既に確定している。歴代王とクリスタルの力を宿した魂を救うなど…覆すにはそれこそ同じだけ業を背負った魂すら賭ける大魔法でもなければ無理だ。」

「だから"賭けた"んだ。」

「何ですって…?」

 

つまり、メディウムが言いたいことは一つ。

 

「俺は魂ごと死ぬ、身代わり魔法を自分にかけた。」

 

レイヴスがメディウムの肩を掴んだ。

軋むような音を立てるほど強い力で掴まれたが、震えているのはレイヴスの手。

唇を切れるほど噛み締め、怒りなのか絶望なのか哀しみなのか、渦巻く感情を整理出来ぬまま強く掴む。

そんな馬鹿げたことは止めて欲しい。

心の声が聞こえてくるようだった。

 

魂を賭けるとはどういうことなのかさっぱりわからないアラネアとカメリアが説明を要求する。

マズイことになるのは目に見えている。

魂という概念に関してはメディウムよりもレイヴスの方が詳しかった。

 

「生命は魂として星を廻り続ける。体を得て地上へ出てくるが、体が尽きればやがて死に、また魂が廻る。そうやって輪廻転成を繰り返すのが生命であり、廻る為に必要なものが魂だ。」

 

人は流れのことをライフストリームと呼ぶ。

魂を賭けるとは、肉体と同様に魂そのものを砕くことである。

砕かれた魂はライフストリームに還ることもなく消え失せる。

死ぬとは生命の営みの上で切り離せない一つの終わりだ。

その終わりにすら辿り着けぬまま、永遠にカケラとなって彷徨い続け、輪廻の先でさえも二度と出会えなくなる。

 

本当の意味での、存在の消滅。

 

「アンタなんてことを!!」

 

死を悲嘆する人間にとってそれ以上の消滅という概念は未知の恐怖。

三十年の苦痛の記憶を最後にこの男はやり直しのチャンスを捨てると言っているのである。

ここまで世界に貢献した彼の願いならば神々の慈悲もあろうに、それら全てをかなぐり捨てた"人間"の魔法だった。

 

「神様なら何の代償も無しに救えるだろうけど、残念なことに俺は人間だ。賭ける他に道は無い。弟を見捨てるなんて選択肢も当然無い。」

 

もうは魔法は解けない。

メディウムが独自に組み上げたエレメントの羅列は目眩がするほど複雑であり、世界の真理に迫る異常なもの。

常にブーストがかかり続けている魔力生産力を持ってしても十年分の魔力が枯渇するほどだった。

魔力が溜まりきる前に発動していたら、逆に魂が砕かれるどころか焼き切れていたかもしれない。

 

「これは遺言だ。しかと聞き届けて欲しい。」

 

魔法すら与えられていない人間の彼女等には止める手立てすらなく、説得の余地はない。

呆然と椅子に崩れ落ちたアラネア。

厳しい瞳でこちらを見据えるカメリア。

掴んだ肩の手をそっと放したレイヴスから流れ落ちた小さな雫を拭う。

 

「泣くな、レイヴス。国王になったんだろう。」

「俺は、お前の神凪で、側近で、親友だと…何かあったら言ってくれると、信じていた!何故一言相談してくれなかった!!」

「ごめんな。止められたくなかったんだ。」

 

生きてもいい。

その言葉を聞きたくなかった。

 

「ここに大事なものが入っている。夜が明け次第、この通りに行動してくれ。」

 

差し出された封筒は分厚い。

一冊の本でも入っているかのようなそれにはメディウムの署名が為されており、開封できるのはこの場にいる三人だけになっていた。

恐らく魔法がかかっているのだろう。

 

「同盟の盟主は俺が死んだ後に好きに決めてくれ。誰でも構わないが、争わないで済む方へ進むのが一番だ。」

 

レイヴスが静かにメディウムの足元に崩れ落ちた。

聞きたくも無い親友の遺言に耳を傾けながら、目を瞑り続ける。

 

「それから。」

 

一瞬考え込んだ。

これを遺言と言うのはズルイだろうか。

人の最後の願いに忖度を含んではいけないのでは無いのだろうか。

否、最後の願いだからこそ含むべきか。

 

「ノクトのこと、頼んだ。もう、俺が守ってやれないからさ。」

 

死んだら幽霊になってでも弟を守ってやりたい。

宰相に過労で死ぬほどの仕事を押し付けられた時、白目を剥きながらそんなことを宣っていた。

あの強かった男が、図太くて飄々としたメディウムが、弱々しそうに微笑む。

 

親友達はそれ以上耐えられなかった。

 

ふんわりとした何かに包み込まれた。

両の肩に二人分の顔が乗っかって暖かくて、少しだけ重い。

体を強く抱きしめる親友二人の手にそっと自分の手を重ねた。

縋り付くような友の姿に身が裂けそうな想いが募る。

 

「なぁ、二人共。こんな暖かさなんていらねぇよ。こんな重さ、俺には贅沢すぎるよ。なんだよ、お前等。なんでそんな、優しいんだよ。止めりゃあいいだろ。殴ってもいいんだぜ。なんで抱きしめてんだよ。いっつも仲悪い癖にこんな時ばっかり息ぴったりでさ。」

「うるさい。止めたって聞かない癖に。殴ったって笑うだけの癖に。」

「今ぐらい好きにさせろ。」

 

レギスを送り出す時も、こんな気持ちだった。

カメリアは抱きしめ合う三人を一人静かに見つめる。

強く賢く優しい者から消えていく。

戦えぬ者から失う悲しみを知り、戦う者から死への道を突き進む。

 

「どうして、若い子から居なくなるのかしら。」

 

また一人、世界を守るために消える。

神様も世界も惨い存在だ。

 

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