FFXV 泡沫の王   作:急須

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ありがとう

――自分と同じ子供を拾った。

与えられた(のろい)も生まれた時代(じかん)も違うけれど、確かに同じだと思える子供だった。

拾いたての時はクソガキで、ろくに言うことも聞かなければ生活能力はゼロに等しかった。家と外の違いも分からない赤ん坊と称したのは記憶に新しい。

 

ただ、その子供は優しかった。

暖かな手、柔らかい眼差し、慈悲深い心。

聖人と呼ばれた昔の自分を見ている気分だった。

とても、哀れだった。

 

運命に逆らわないと言ったのに、剣神は信用しなかったらしい。

私兵という名の新たな贄を用意した。

お前がその気になれば、次はこの子供の番なのだと暗に告げてきた。

おぞましいことをする。

どうして我々を苦しめるのだろうか。

どうして、この血はこんなにも呪われているのだろうか。

 

――もう、眠ってくれ。兄上。

 

弟の疲れた声を聴いた。

可哀想な弟。

嫉妬と欲望を扇動され、神の意志に…いや聖石の意志に背いた。

聖石は神々とは別物だ。

あれは世界を担う防衛機構。

たまたま神々の傲慢さと聖石の意志が噛み合い、協力体制を敷いているだけ。

星の意志と神々の意志は違う。

 

たった今、十年の眠りから目覚め、二千年積み上げた王家の(のろい)を一身に受けた真の王にしてもそうだ。

死ねと言われて素直に死ねる奴がいるのなら教えて欲しい。

二十年で生を終えろと定められた青年の気持ちは誰にも推し量れない。

眠っていた十年が彼の歩む筈だった人生を奪い、殺し、押し込めた。

これを哀れだと表さずしてなんと言う。

 

ルシス王家は、哀れなのだ。

イオスと民に囲まれ、責任だけを押し付けられ、押し付けた側は無責任に追い立てる。

あの日、婚約者の神凪が弟に王を伝えなければ未来は変わっていたのだろか。

そもそも、弟に嫉妬心がなければ唆されずに平和に終わったのではないだろうか。

過ぎたことが後に誰かの命を奪うのだと気づいていれば今はなかったのだろうか。

 

「ねえ、王様。教えてよ。何一つ正しくないこの世界のどこに正解があるのか。」

 

誰一人として信用できないこの世界で、たった一人だけ愛を与えたあの子の弟。

同じように造られたはずなのに、同じ道を歩まなかったあの子の家族。

君ならきっと答えが分かるのだろう?

 

「俺にはね、見つけられなかったよ。どんなに助けようとしても足首を掴まれて引きずり落されるんだ。”お前の役目はそれじゃない”って。」

 

世界に闇を広げる、それがアーデンの使命である。

例え彼が人々を救おうと思ってもそれは実行に移せない。

必ず邪魔をする神々が現れる。

愛した女の姿をした神、愛憎に心を焦がした弟の幻影。

その誰もが救おうと手を伸ばして抗ったアーデンの手を掴むのだ。

 

「答えてよ。どうしたら全てを救えるの。どうやったらあの子に人としての人生を歩ませてあげられたの。」

 

真赤な大剣を持った愚かな男は疲れた顔を作る。

きっと、本当に全てにおいて疲れているのだろう。

死という逃亡さえ許されない地獄に放り込まれた男が答えを求めている。

 

「憎む以外にどうしたら、今の世を生きていけたの。」

 

真っ黒な雫と真っ赤な心が頬から伝い落ちる。

眠ってしまった彼の息子はしばらく目覚めることはないだろう。

だからこそ、こんな顔ができるかもしれない。

四人の前に立ちはだかる世紀の大悪党はジッと王の言葉を待っている。

全てを知り、全てを観た男の答えを静かに。

 

「…俺に、答えは分からない。」

 

悲しそうに目を伏せた王に、唇を噛み締める。

ああ、分かっていたとも。

滅びを逃れようとするなど不可能なのだ。

人は運命に逆らえないのだから。

 

「ただ、アンタ達はいつも未来に”自分がいない”んだ。」

 

人は未来を夢想するとき、必ず自らを起点に考える。

未来の自分を構想し、夢を見るのだ。

しかし、アーデンとメディウムの未来構想には自分がいない。

どこを見渡しても誰かを助ける事ばかりで自分の命がどこにも含まれない。

その考え方が未来を制限してしまっているのではないかと、ノクティスは考えている。

自分を救ってから他人を救うべきではないのか、と。

 

「アンタらは間違えてない。運命に逆らえないだけで、間違えてない。」

 

頭が良すぎる彼等だからこそ起こってしまう未来。

神々が道筋を示した完璧な世界の再現。

運命のレールに乗ったまま完璧を求めるが故に作り上げてしまった神々の理想郷。

それこそが、今なのではないか。

 

「ガキがッ!知ったような口を!!」

 

振り上げた羅刹の剣はグラディオラスの盾に防がれる。

魔法を放とうと振り上げた片腕はプロンプトに撃ち抜かれた。

体勢を崩したアーデンの腹に容赦のないイグニスの槍が突き刺さる。

 

ノクティスが唯一自分の手で手に入れた力。

それこそは、この場に集結した”友”である。

距離をとろうと藻掻くアーデンに、ノクティスが父王の剣を振り下ろした。

羅刹の剣で受けるも、不利な体勢に圧されている。

 

「俺はアンタのしてきたことを否定しない。肯定もしない。アンタの復讐心を貶したりしない。」

「どの口が言う!お前も俺を歴史から消そうとする!どいつもこいつも!俺を消して!何もかもをなかったことにする!」

「…今までされてきたことを思えば王の言葉なんて信頼に値しないよな。」

 

ファントムソードをまとったノクティスに続いて、アーデンが我武者羅に深紅の幻影を飛ばす。

邪魔な仲間達を無理矢理引き剥がすかの如く、四方八方に飛ぶ剣に対抗できず仲間達は後退せざるを得ない。

同じだけの威力と剣をもって対抗できるノクティスだけが、対峙し続ける。

 

激しい剣戟が続く中、突如火薬の乾いた匂いと重苦しい音が響き渡る。

プロンプトの放った銃弾がしっかりとアーデンの眉間を狙って飛ぶが、いとも容易く切り伏せられた。

しかし、隙を見逃さず鋭く飛来したノクティスのファントムソードを躱せず、脇腹をえぐり取られる。

突き抜けた鋭い力は背後で安らかに眠る兄に迫っていた。

 

咄嗟のことに剣を消そうと焦るノクティスより先に、アーデンがその身を挺して剣をへし折った。

魔力の奔流によって余分な傷を負ったアーデンは小さく舌打ちをし、崩れた天井から外へと飛び出した。

月さえも浮かび上がらない空に、小さな星が二つ、挑発するように揺らめく。

 

「来い。」

 

眠る息子を庇っての行動なのか、単に力を使うには狭すぎる空間だからなのか定かではないが、ノクティスとて兄を傷つけるのは本意ではない。

王の闘いになってしまえば従者は力を持たない的だ。

直ぐに追いついてくるようにだけ告げ、心配そうな仲間達の視線を背にシフト魔法で同様に外へと飛び出した。

 

「たった十数年どれだけ強くなったかな?」

「…十数年じゃねぇよ。二千年だ。」

 

こんなふざけた戦いに前哨戦などいらない。

只管に命を削り、殺し合う。

片方は命すらもないのにおかしな話だ。

 

深紅のファントムソードをまとった哀れな男は心から笑う。

憎悪にも勝る高揚感に背筋が震えた。

疲れなどない体が死を感じる故か重く辛い。

それが、嬉しくてたまらない。

 

「始めよう。全てを終わらせよう。」

 

赤と青が交じり合う。

劈く様な爆発音を奏で、命を抉り取る。

二度と目覚めぬように容赦のない攻撃を繰り出すノクティスにアーデンは頻りに笑った。

あの子が育て上げた弟は迷いのない太刀筋で悪党を追い詰めていく。

 

崩れ去りそうな我が子に力を分けた代償だろう。

せめて神に意思に反し、一矢報いようと用意していたのだがあまり力が出ない。

少し過保護に力を与え過ぎていたのだろうか。

でも、楽しいからいいか。

 

偽りでも社交辞令でもない笑顔が収まらないアーデンは無邪気に羅刹の剣を振り回す。

父王の剣で応戦するノクティスより腕力があるはずなのに二千年の力には歯が立たない。

憎しみ合っていた歳月はお互い様ということだろう。

でも、まだ足りない。

 

「ノクティス。俺を憎んで。憎悪と嫌悪に気を狂わせて。」

「俺はアンタとは違う!」

 

否定したところで無駄なことだ。

先ほどよりも強く打ち付けられた父王の剣を弾き飛ばす。

勢いに任せて手から離れた剣に気をとられ、ノクティスが仰け反った。

切り伏せようとアーデンが振り下ろすとき、一瞬の間に鋭い音を伴って槍が間に割って入る。

誰かに投擲された槍が間一髪ノクティスを守ったのだ。

 

「おや。お仲間達が追い付いてきちゃったねぇ。」

 

これは王の闘いだから引き下がってくれと懇切丁寧にお願いしても聞いてはくれないだろう。

彼等にとってノクティスがどれほど大切な存在なのかは良く知っている。

面倒ではあるが、共に相手してやるのも悪くない。

今のアーデンはすこぶる機嫌が良いのだ。

 

助けられたノクティスは召喚した夜叉王の刀剣を振り下ろす。

正気ではないアーデンは大ぶりで攻撃を受けることを躊躇っていない。

たたみ掛けるのなら今だ。

 

「イグニス!指示!」

「承知した!グラディオ!」

「はいよ!」

 

二千年の想いを背負った王達の闘いに水を差すにはあまりにも非力かもしれない。

しかし、従者が前に出ずしてどうするというのだ。

勇ましく大剣を振り回すグラディオラスに続いて、プロンプトが逃げ場のないように弾幕を張る。

かすり傷など気にも留めないシガイの王だが、ただでやられてくれるほど素直でもない。

接近するグラディオラスを真面目に相手するのも面倒くさいとプロンプトに羅刹の剣を投擲した。

気が付いた時には時すでに遅く、シフト魔法で飛び蹴りをかましてきた大柄な男にはるか遠くへと蹴り飛ばされる。

 

「プロンプト!」

「よそ見はダメだよ!」

「なっ!?」

 

赤紫の異様な力を宿した羅刹の剣がグラディオラスの大剣を斬り捨てた。

まさか己の武器を真っ二つに斬られると思っていなかったグラディオラスが驚愕のあまり惚ける数秒。

プロンプトと同じように自分よりも大きなグラディオラスを回し蹴りで遠くへと吹き飛ばした。

あまりのことに惚けるイグニスも手にかけようと羅刹の剣を振り下ろす前に、背後が何者かに斬りつけられる。

 

「不意、打ちって…卑怯、じゃない?」

「アンタ相手に手段は選んじゃいられないって教わってるんでな!」

 

歴代王ほど自在にファントムソードを操れないノクティスは実力で勝つしかない。

不意打ちだろうが騙し討ちだろうが選り好みせずに戦えと助言したのはあの兄だ。

流石と言うべきか、容赦のなさは育ての親譲りである。

追撃も怠らず、わざと傷口を抉るように夜叉王の刀剣を突き刺した。

黒い液体を吐いてたたらを踏むアーデンから剣を引き抜こうと力を籠めた腕が、黒く塗れた手に掴まれる。

 

腕の骨を折ろうと力を籠める手からなんとか逃れようと藻掻く。

その時、痛みのあまり脂汗が浮かぶノクティスの前にイグニスの双剣がアーデンの腕を貫いた。

衝撃に腕を離し、何とかノクティスは間合いから逃れる。

 

「邪魔だよ!」

 

イグニスの鳩尾に拳が入った。

吹き飛ばされた姿を最後に、その場に残ったのは王達だけだ。

 

「…なん、だよ。アイツらを、殺そうとしないって、随分…お優しいじゃねぇか。」

「王様以外興味がないだけだよ…あんなガキ殺したところで何の得もない。それより王様、息が切れてるよ?」

 

ここまでの戦闘で既に疲労しているノクティスは地に膝をつく。

斬られた背中の再生が始まり、満面の笑みを浮かべたアーデンは楽し気に見下ろした。

 

「あれ?復讐を果たせそうだなぁ。そろそろ願いが叶いそうだ。」

「安心しろ…まだ、終わりじゃない。」

「じゃあ見せてもらおうかな。クリスタルの力を。」

 

歴代王の力が宙を舞う。

蒼天と深紅が夜空の下に憎み合う。

激突し合う力が轟音を生み、意志をもって飛び交う。

クリスタルによって与えられた一時的な力がアーデンの肉体を再生できぬほど傷つけた。

聖石によるファントムソードの攻撃は再生が不可能なのだ。

 

しかし、魔力量はノクティスを上回る。

既に魔力切れ寸前であったノクティスが悔しさに奥歯を噛み締めた瞬間。

銀色のネックレスが淡く光り始めた。

 

――負けてんじゃねぇぞ!一発ぶち込んでやるんだろ!?

 

居もしない兄の声が鮮明に聞こえる。

切れかけていた魔力が満ちるのを感じ、持ちうる全てのファントムソードにありったけの力を流し込んだ。

全力でぶちのめせと拳を振り上げる兄に報いるために。

 

「集え、力よ――」

 

クリスタルの力に包まれたアーデンが地に落ちる。

続いてノクティスも地に落ちた。

もう立つ力もないが、まだ淡く光る存在に駆り立てられ、ふらつきながらも立ち上がった。

同じようにふらつく宿敵が、変わらぬ笑みを浮かべている。

 

「どちらが先に、倒れるか…。」

 

歴代の王達が周囲に浮かび上がった。

使命を果たすその時を今か今かと待ちわびる姿に、二人で苦笑いを浮かべる。

 

「せかす、なよ…もう、何発か、殴って、おきてぇんだよ…。」

「ごっほっ…げっほ…馬鹿、じゃないの。殴るのは、俺の方なんだけどっ!」

 

ふらふらでも、なぜか清々しい気分だった。

迫りくる羅刹の剣と同時にノクティスが父王の剣を振り上げると、二人そろって吹き飛ぶ。

立ち上がって、拳を握って、笑った。

 

「父親が死んだとき、バカ騒ぎして遊び惚けていたガキが…。」

 

もう一度精一杯の力で振り抜いた父王の剣によってアーデンが膝をつく。

 

「恋人が泣いてるとき、のんきに守られていた間抜けが…。」

 

膝をついたまま羅刹の剣を振り回され、たたらを踏んだ。

 

「兄が三十年苦しんでいるのに、何一つ知らなくても許された愚図が…。」

 

どこに魔力があったのか、シフト魔法の勢いを利用し、ノクティスを押し倒した。

 

「十年程度で!俺を越えられると思うなよ!俺がどれだけ!闇の中で生きてきたと思ってる!!」

 

振り下ろされた羅刹の剣を、力いっぱい弾いた。

賢王の剣、修羅王の刃、獅子王の双剣、伏龍王の投剣、飛王の弓、聖王の杖、慈王の盾、鬼王の枉駕、覇王の大剣、闘王の刀、夜叉王の刀剣、神凪の逆鉾。

旅で手に入れた一本一本を叩き込み、反撃の隙も許さない。

咆哮とも言える声で、言いたかった言葉を並べ立てた。

 

「アンタのことなんか、知らねぇよ!世界のことも分からねぇよ!でも!親父が守って!ルーナが笑って!馬鹿な仲間がいて!兄貴が愛してるこの世界を!俺は大切にしたいんだ!!」

 

無防備にも差し出されるように突き出た心臓を、父王の剣で貫いた。

人間らしい血液を垂らし、後ろへと倒れるアーデンの顔は満足そうで。

 

「最後、ソレ、選んだんだ。」

 

酷く、幸せそうだった。

 

「終わったね…王様。シガイを排除して、平和な世界を作るのか?」

 

夜空を見上げる月が、寂し気に歪む。

傍に膝をついたノクティスはただ薄く笑うことしかできなかった。

 

「俺をまた、歴史から消し去って…」

「消さない。今度は、アンタのこともちゃんと伝える。悪いことも良いことも、全部。」

 

乾いた笑いが返ってきた。

やはり信じていないのか、緩く首を振った。

信じてくれないのならそれでいい。

未来がどうなるかなどノクティスにもわからないのだ。

 

「…もう、いいだろう。目を閉じろよ。眠いんだろう。」

「そうだね…すごく、眠い。おしゃべりも、この世界も、疲れちゃったよ。」

 

漆黒の粒子が空に舞い上がっていく。

さしものアーデンも真の王たる圧倒的な力の前に再生する余力もない。

漸く、安らかに眠れる。

 

「ああ…でも…。」

 

一つだけ、心残りがある。

玉座に眠らせた大切な我が子。

腹を痛めたわけでも完全に血の繋がった親子でもない、大切な息子。

 

「あの子の、顔…最後に、見たかったな…。」

 

闇に囚われた永遠の中で唯一の救いだった子。

さようなら。

次に会えたら、また家族になろうね。

 

声にならない言葉を残して消え去っていく男の魂に目を瞑る。

どうか、彼に安らかな眠りが訪れることを願って。

そのためにも、決着をつけねばならない。

 

吹き飛ばされた仲間達が、満身創痍で戻ってきた。

 

「…兄貴のところ、戻んねぇとな。」

「俺達も…。」

「わりぃ。この先は王家に任せてくれ。」

 

王城を見上げていたノクティスが振り返る。

例え共に旅をしてきた彼等と言えど、この先には進めない。

この階段を下りて戻ってくるのはノクティスではなく…。

 

「…頼むぜ。」

 

別れを悲しみで彩りたくない。

グラディオラスがいつもと変わらぬ顔で、ノクティスの背を目線だけで追いかける。

 

「…頑張って。」

 

絞り出すようにか細く声を出したプロンプトに、階段を上る足を止める。

下を向いて拳を握り締める仲間達に残す言葉があることを思い出した。

 

「プロンプト、グラディオ、イグニス。後は頼んだ。」

 

短くて、長い旅だった。

得るものも失うものも多い旅路だった。

仲間がいなければ途中で挫けていたことだろう。

王として最後に残せる言葉は、十年前に父王から授けられたあの言葉しか思い浮かばなかった。

 

「常に、胸を張って生きろ。」

 

深く三人が頷き、イグニスが去って行く背中に声を張り上げた。

 

「どうか、ご無事で!陛下!」

 

背後に湧き上がるシガイ達の音を背に、ノクティスが片手をあげる。

 

「行ってくる。」

 

兄の待つ玉座へと、淀みなく足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

玉座の間には、夜空を見上げる兄の姿があった。

背を向け続ける兄は顔を見られたくないのか、振り向かない。

 

「ぶん殴ってきた。」

「知ってる。」

 

漸く、兄が振り返った。

止めどなく溢れる涙がはらはらと落ちていくのを拭い、微笑む。

ノクティスに並んで、玉座へと向き直った。

 

「帰ったよ。ちゃんと、胸張ってさ。」

 

父王への報告だった。

二人そろって玉座へとやってくるのは何十年ぶりだろうか。

もしかしたら一度たりともなかったかもしれない。

 

「遅くなっちまったけど、強くなった。」

 

荘厳に輝く玉座へと座る。

十年ぶりにルシスへ王が帰ってきた。

傅く兄が、クラレントを差し出した。

 

「俺も連れて行って。」

 

クラレントを持ち、兄が笑った。

三十年の歳月を語る兄の半身を向こうの世界へ連れて行こう。

これが最後の戦いだ。

 

「一緒に過ごせて、幸せだった。」

「俺も、お前が弟で良かったよ。」

 

光耀の指輪が光り出す。

現れた歴代王の前に、死の前に震える手に兄の手が乗った。

なんと心強いことだろうか。

 

「――ルシスの王よ。集え!」

 

十三人の選ばれし王達。

その身に最大限の力を宿すため、ノクティスの体を歴代王達が貫く。

その痛みは想像を絶することだろう。

玉座の前に響き渡る弟の悲鳴を聞きながら、メディウムはクラレントを構える。

一人、また一人と消えていく。

 

「親父、兄貴、後は任せろ。」

 

最後の一人。

盟主として臨時ではあったが百十五代目ルシス王として、メディウムがノクティスへ剣を振り上げた。

 

「さようなら。ノクト。」

 

一番辛い役目を背負わせてごめん。

ありがとう。

兄にこの言葉、届いただろうか。

 




※読まなくてもいい蛇足。



Chapter 13 帰郷のタイトルを最初の一文字だけ縦読みしてみてください。

ただいま
のぞみ
しずかに
かみしめる
つづくみち
たくすおもい

これらすべて縦読み用に平仮名で表記していたのですが気づいた方はおられたでしょうか。
最初の一文字を繋げると「たのしかった」と読めるのです。
そして今回の「ありがとう」を含め…。
これが誰の言葉なのか、誰に宛てた言葉なのかは皆さまのご想像にお任せいたします。
ただ、誰かにとってこの旅路はとても楽しく、共に歩んできた人々にお礼を言いたくなるほど素晴らしい日々だったと、言えたのではないでしょうか。

まだお話は続きます。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
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