チョコボポスト・ウイズ。
ダスカ地方にあるチョコボを飼育・レンタルしている施設でチョコボ好きの店主ウイズが経営。
近くでチョコボレースも開催されている、ダスカ地方でも有名な観光地だ。
一旦車を止めたメディウムとルナフレーナはそこで一泊することにした。
「んじゃ、明日の朝ここ集合。」
「泊まられないのですか?」
モービル・キャビンへと入って行くルナフレーナに手を振ってどこかへと出かけようとするメディウムに不思議そうに聞くと、とても嫌そうな顔でモービル・キャビンを見た。
「…弟の花嫁と一つ屋根の下…ならぬ一つモービルの下はなぁ。ノクトに嫉妬されそう。」
「あう…で、ですが外で寝るのは危険です!」
初々しい反応で顔を真っ赤にし、もじもじとするがすぐさま危険性を省みて恥ずかしさをかなぐり捨てた。
乙女だが強い意志と人を守らんとする思考は気高いものだがメディウムはどうしても遠慮したい。
「ルナフレーナを一人にできないからモービルの前で仮眠でもとるよ。」
「な、中でも大丈夫です。今は緊急事態ですし…私一人では戦うことはできませんから標にも行けません。」
「チョコボポストは明るいから問題ない。…恥ずかしながらモービル・キャビンにはトラウマがあってな。」
「トラウマ?」
思い出したのか、むっすりした顔でモービル・キャビンを睨みつけている。
悪いのはいつもの胡散臭いおじさんなのだが人というものはその時の場所というものも記憶する。
お陰でギルがない時は標のキャンプになる。
ルナフレーナ、つまり女性にそんな生活を強いることもできないため、これからは早めにパーキングに寄るべきだろう。
「その、差し支えなければお聞きしても…?」
「酒の勢いと若気の至りと相手側の確信犯で最悪の一晩を過ごした。以降味を占めたのか継続されているのもトラウマの原因。何があったのかはご想像にお任せする。」
メディウムは意味深にしか聞こえない発言を残して買い物に行ってくる、とチョコボポストの売店へと向かって行ってしまった。
酒の勢いと若気の至りは色んな物事に当てはまるかも知れないが相手側の確信犯ということは誰かと泊まったのか。
味を占めて継続されるような物事に絞ると幅はぐんと減る。
女性関係かとも思ったが今まさに女性と泊まるときに遠慮し外にいる気ならばその線は薄い。
もしかしたらトラウマのせいで泊まりたくないのかもしれないが。
ご想像にお任せされてしまうと悶々と考えてしまうものだが教えてくれないならば仕方ないと、キャビンの中に入った。
ハッと気付いた頃には時すでに遅し。
暖かい毛布に包まれたルナフレーナは状況を思い出させずキョロキョロと周囲を見る。
キャビンの中に入りシャワー浴びた後疲れを感じてそのまま眠ってしまったのだ。
今は日が昇り始めた早朝。
外からは何か重いものが風切る音が聞こえてくる。
メディウムは結局どこで寝たのか。
乱れた服とシドニーにもらったジャンパーを着て霧が立ち込める外に出る。
朝日があるお陰か、朝霧は薄い。
外には昨日と同じ服装のメディウムがいた。
武器召喚をしたのか黒い大剣を片手で軽々と持ち上げ汗一つかかずに素振りをしている。
重いはずの大剣は腕の動きに合わせてピタリと空中に止まった。
「おはよう、早起きだな。」
「おはようございます。邪魔をしてしまいました。本当に外で…?」
「寝ている間にシャワーは浴びたし見張りも兼ねているから問題ない。…朝食にしよう。少し待っていてくれ。」
ルナフレーナが寝ている間にこっそりキャビンに入り悪寒が走る体を抱えながらシャワーを浴びた。
その辺のことを追及されたくないメディウムはさっさと話題を変える。
指差しで外のテーブルセットに座るよう促され、大人しく待っていると気遣いなのか毛布を二枚ほど持ってきてまたキャビンの中へと戻って行く。
冷え込む朝に身を震わせていたルナフレーナにはとてもありがたい気遣いだ。
キャビンの中のキッチンで何かを焼く音が聞こえる。
とても香ばしい匂いと砂糖とは違う甘い匂いに体がうずうずしてしまう。
大半の女性は甘いものが大好きである。
メディウムが持ってきたのは手間がかかるフレンチトーストだった。
昨晩チョコボポストで購入したパンを砂糖と牛乳を加えた卵黄につけておき焼いただけの、手間だけかかる簡単なものだが彩りがないため急遽カラメルソースを作ってフレンチトーストへとかけた。
余った卵黄は卵焼きにシフト。
唐突にしょっぱいものが食べたくなったためスパム缶を取り出し、軽く焼いてルシストマトと一緒に別のパンに挟みサンドウィッチにした。
出来上がった時にルナフレーナに食べさせるには雑すぎる、なんという男飯とがっくりきてしまったが案外喜んでくれた。
甘いものとしょっぱいものの無限ループにはまりそうになっていたのでその前にチョコボポストのグリーンスムージーで緩和した。
さっさと神凪の仕事を済ませてまともなご飯を食べに行こう。
それに着替えも買おう。
メディウムは割と切実な方向に決意を固めた。
「よし、神凪の誓約をさっさと済ませよう。この近くで有名なカーテスの大皿にいるタイタン…巨神だな。その後にフォッシオ洞窟だ。神影島が雷神の住処なんて神話もあるが、啓示はフォッシオ洞窟の最奥だし。」
「神話にお詳しいのですね。」
「まあな。神凪の一族じゃないから一から言葉を覚えたが、片言でしか会話できない。」
「神々の言葉がわかるのですか?」
「あれは古い時代の召喚獣の言葉だ。神話が濃すぎてあんまり記されてないからそこのところ曖昧だが、詳しい奴がいてな。大体の練習は野生のカーバンクル相手に。」
野生のカーバンクル。
神話の存在に近い幻獣がまるでそこらへんにいるかのような物言いである。
実際はたまたま出会ってしまったカーバンクルに懐かれて知らぬ間に契約までしているのだが、メディウムは野生のカーバンクルだと思い込んでいる。
ノクティスと契約しているカーバンクルとは別の個体だ。
「それはさておき、カーテスの大皿のほうは帝国軍が封鎖していてな。裏道を使う。そのままフォッシオ洞窟も裏から入る。帝国にバレる前にレスタルムに逃げ込むぞ。」
周辺地図を取り出して大まかなルートを指す。
一日でレスタルムまではいけないのでカーテスの大皿まで車で接近。
バレないように誓約を済ませて再び車で移動というシンプルなものだ。
どちらもチョコボポスト・ウイズから近いからこそできる荒技とも言える。
本当はチョコボを借りていきたいのだが、この近くでうろついている片目の見えないスモークアイというベヒーモスをチョコボたちが怖がり、万が一を考えて貸し出しを取りやめているという。
武器を持たない観光客として話しかけたため、その場で流され店主のウイズが強いハンターに頼めないかなとため息をついていた。
ここに強いハンターとやらも真っ青になりそうな空中戦や爆撃ミサイルよりも圧倒的な王家の力を持ったルシス王族がいるのだが黙っておいた。
近隣の迷惑になっているらしいが、その討伐に向かうと誓約をこっそり行う目的に合わない。
少なくとも腕のあるハンターとして目立つ。
時間がないわけではないが、神々の討伐を目論む帝国に先を越されてはならない。
アーデンがいる限りそれはあり得ないと言えるが、早めの方がいいのは確かだ。
「俺はカーテスの大皿が先の方がいいと思うがルナフレーナはどちらを先にしたい。」
「私も巨神を優先するべきかと思います。帝国軍の手が届かないうちに。」
「決まりだな。っと、その前にノクティスに連絡したい。これでもつけて待っていてくれ。」
メディウムがルナフレーナに渡したのは深い青リボン。
故郷に咲くジールの花を思わせるそれには白い花の刺繍が施されている。
結わくものがなく、そのままになっていた髪を気にしていたルナフレーナは細やかな気配りに礼とともに頭を下げた。
それに片手を上げて返事をして早朝だというのに遠慮なくノクティスへとかけた。
朝の遅い彼がすぐに出るはずもなく三コールほどで別の人物が出た。
「ーーどちら様でしょう。」
「サプラーイズ。おはよう。その声はイグニスだね。」
「ーーメディウム様ッ!?」
予想通りの人物がノクティスの代わりに電話に出た。
慌てたようにノクティスを起こしにかかり、遠くでグラディオラスとプロンプトが喜びの声をあげているのが聞こえてくる。
ノクティスが徐々に覚醒してきたのか、電話が交代されるのを見計らってルナフレーナにおはようの挨拶をするように促した。
「お、おはようございます。ノクティス様。」
「ーールーナッ!?」
朝の機嫌はとっても悪いノクティスはどこへやら。
イグニスと似たような声をあげて、電話越しにドタッと大きな音がする。
驚きのあまり何かを落としたか自ら落ちたか。
見事に寝起きドッキリを成功させたメディウムはルナフレーナに礼を言って電話を代わる。
「なんとダメな弟か。婚約者のモーニングコールでベッドから転落?恋も知らない小学生かね?」
「ーーうっせぇ!!」
プークスクスと態とらしく笑うと怒鳴り声が帰ってきた。
カマをかけたが本人が転落したパターンのようだ。
本日の煽りも絶好調。いやはや幸先のいい、と家族の声を聞けてどこか安心したメディウムはわけのわからない思考になる。
目の前には先ほど渡したリボンをつけて顔を真っ赤にするルナフレーナ。
電話越しのノクティスも黙り込んでしまっている。
よく知らないが、お似合い夫婦なのかもしれない。
「今聞こえた声の通りルナフレーナと一緒いる。あとで変わるからまず大事な話をしような。」
どうどうと抑えこんで、今いる場所を聞くとすぐ近くにいた。
コルニクス鉱油アルスト支店。
リード地方からダスカ地方へ向かう際の入り口となる場所で、メディウムたちと同じくモービル・キャビンに宿泊していたそうだ。
これからレスタルムに向かい王都から避難してきたグラディオラスの妹であるイリス・アミシティアに会いに行くという。
「そうか。ならそのままレスタルムに向かってくれ。レスタルムから少し先に行くと滝があってな。その裏側の洞窟に王家の墓があるはずだ。その回収に向かってくれ。」
「ーーわかった。兄貴たちは?」
「神凪の仕事。洞窟から帰る頃にはレスタルムに着く予定。ちなみに洞窟前に面倒な野獣がいるが走って洞窟に逃げ込めば無視できる。まあ頑張りたまえ。キカトリーク塹壕跡のお化け洞窟なんか目じゃないぐらいすごいから。」
「ーー他になんか言うことないのか。」
「強いて言うなら炎のエレメントの回収を忘れずに?」
「ーーそうじゃなくて!」
何かの言葉を求めるようにするノクティスに茶化すことで誤魔化した。
一度何かを言おうとしたが止め、柔らかく笑うような声と寂しそうな空気が電話越しに伝わってくる。
「…悪いな。まだ家臣として新王に合わせる顔がない。」
「ーー早くレスタルムに来いよ。つもる話はそれからだ。」
「もちろん。大事な恋人もお連れしますよ。ノクティス王。ん、ルナフレーナに代わるな。」
今は伝える気がないことにとりあえず納得してくれたようだ。
そわそわし出したルナフレーナに携帯電話を渡し、暖かく見守る。
プライナも我慢できずに腕の中でそわそわしていたが飼い主譲りか。
何を喋ればいいのか迷うノクティスにルナフレーナは言葉かける。
「メディウム様は、優しい方ですね。」
「ーー兄貴が変なことしてないか。すぐ悪いこと考えるし。」
「ふふ、良くしてもらっています。王都でも助けていただきました。」
本人の前で恥ずかしげもなく褒めるルナフレーナにメディウムは苦笑いをこぼす。
「それに、メディウム様はとっても怖がりみたいです。」
「ーー兄貴が怖がり?」
「え?ルナフレーナ、いやルナフレーナ様?」
スピーカーに設定された携帯電話から聞こえるノクティスの困惑した声とメディウムの焦ったような声。
お淑やかに微笑みながら何やら企むルナフレーナから携帯を取り上げようか迷うが相手はか弱い女性である。
婚約者の無事を喜ぶ、と付け足すとなおさら取り上げにくい。
「よほど恐ろしい体験だったのでしょう。お酒の勢いと若気の至りでモービル・キャビンがトラウマだとおっしゃっていました。」
「ーーおい!!兄貴!!今どこにいるんだ!?ルーナに何もしてないよな!?」
「ル、ルル、ルナフレーナ様!?意図的に一言抜きましたね!?まさか恨んでいます!?からかったの恨んでいます!?」
「ご想像にお任せするらしいので何があったのかわからないのですが、ノクティス様はお分かりになりますか?」
「やめて!やめてくださいルナフレーナ様!再開早々殺される!!家臣の忠義が死をもって問われる!!」
素知らぬ顔でなんのことやらさっぱりと俺の弱みを投下したつもりなのだろうがその話はまずい。
男子たるもの違う方の想像する。
「ーー兄貴…レスタルムきたら覚えておけよ。」
「俺の行動は常に全年齢対象だよ…。」
なけなしの弁明を放ったが無慈悲な神凪にブッツリ切られた。
メディウムは学習した。
ルナフレーナを揶揄うなら弱みを見せてはいけない、と。
揶揄わないと言う選択肢がないあたりはアーデンに毒されている。
恨むように睨みつけるがにこやかに微笑むルナフレーナを目にした途端遣る瀬無いため息を吐くことしかできなくなった。