二年という歳月は人間にとってみれば長いもので、蹂躙され尽くした世界を美しくかたどるには十分な時間だった。
とはいっても資材不足や住居不足、食糧難や電気問題など様々な課題が山積みではあるが、各国が協力して平和に復興へと歩んでいる。
どれだけ栄えていても戦争していた時代に比べれば随分と美しい世界になったものだ。
「王都では主に住宅街と商業区域に力を入れて復興しています。区画割りは新たに整備し、元の土地の持ち主が分からない場合は国が管理することと致しました」
現在、イグニスから区画整理についての相談があると言われ、再建中の王城にて計画を見ていた。
よく出来ている計画書で、指摘する箇所はさほどないだろう。
メディウムとアーデンが重点を置くのはどれだけ稼げるか。
国として動かせる資金が多ければ多いほど良い。
問題はどう稼ぐかであるが、土地というものはどんな時代においても価値のあるものだ。
「妥当な判断だ。これから拡張することも考えて遊ばせておく土地も用意した方がいい。個人土地、企業の土地共に四割。国有地二割だ。管理会社を国で設立し、管理費を貰う。土地の売り買いが盛んになるし、国は土地の状況を把握できる」
「なるほど…商業と住宅街は人口増加を想定して広く確保していますが…」
「オフィス街ももう少し広く確保した方がいいね。発展すればするほどビル街は盛んになる」
軍事施設を優先的に建設していたニフルハイム帝国は綺麗に区画整理されていたが、ルシスは繁華街や入り組んだアパートメントも点在するような住宅街。
発展性はどちらも似たようなものだったかもしれないが、技術が残っている限りルシスの方が復興速度は早いだろう。
「…うーん」
「なに?ニフルハイムのこと思い出してる?」
「いやぁ、滅ぼした責任感じてるんだよなぁ…寝床に据えた時点で、いや。アンタが連れていかれた時点でこうなる運命は決まってたんだろうけどさ」
神影島の石牢。
あの場で眠っていたのなら雷神ラムウが帝国の侵入を勘付いていてもおかしくない場所だ。
いくら温厚な神とは言え、世界を闇に沈める存在を解き放つ帝国兵を生かして帰すとは思えない。
その時から運命は決まっていたのだ。
「でも俺はルシスの主神だし、下手に手出しすると属国にしちゃうし…」
「ああ、それについて実は我々で協議していることがあるのだが」
「え?俺達に内緒で?何々?」
イグニスが眼鏡を少し上げ、取り出したのは全壊となった今のニフルハイム帝国の現状だ。
今は王を取り戻したテネブラエ王国の手によって安全に統治されているが、それも後数年で瓦解するだろう。
元々プライドの高いニフルハイム帝国が属国として扱っていたテネブラエに従わなければならない状況を良しとしていないのだ。
反乱はいつ起こってもおかしくない。
「そこで、神に治めてもらってはどうかという話になってな」
「なるほど?炎神イフリートを舎弟に据えている俺の出番ってわけか」
「ソルハイム帝国とは言わないが、神による監視の方が抑止力は強いだろう」
「とうとう俺に玉座が用意される訳か。感慨深いねぇ」
ネックとなるのはメディウムの使徒であるアーデンだ。
アーデンのしでかしてきた所業は既にほとんどの人々が知り得ている情報。
神々との闘争、戦いの行方、夜明けの理由、それら全て分け隔てなく伝えることを遺言としたのだから。
ただの伝言となり果てたそれだが、しっかりと果された今、アーデンはニフルハイム帝国に歓迎されることはないだろう。
「どーする?」
「人間如きに俺が殺せるわけがないから普通について行くよ。宰相復活ってのも面白いし」
「ノクトも迂闊だなー。俺が戦争吹っ掛ける可能性もある訳じゃん?何せ剣神だし。そこは考えなかったわけ?」
「戦争したいのならどうぞご自由に、だそうだ」
「へぇ?」
人はそれを信頼と呼ぶ。
兄は絶対にそんなことはしないという自信を持っているからこそ他国の命運を託したのだ。
反乱する可能性だってある危険分子。
闇を招いた迫害対象。
ソレを覆すだけの権力があり、説得力があり、力がある存在はメディウムしかいない。
「ふむ。協議中ってことだけど俺は前向きに考えておくよ」
「そのように伝えておく。助言も助かった。ありがとう」
「困ったらいつでも頼って。神様って暇なんだよねぇ」
メディウムの扱いは剣神バハムートでありながら現国王の王兄、さらに同盟の盟主。
兎に角この世の偉いものを詰め込んだ権力の塊である。
悪用されないように王城に引きこもってもらう必要があるにはあるのだが、メディウム自身があまりそういった引きこもり生活を好まない。
引きこもりは引きこもりでも働く引きこもりがいいらしい。
神になった今は特にこれと言った使命もなく、やるべきこともなく。
アーデンが生前の個人財産で設立した企業に名前を貸して一緒に経営したり、土木現場にアルバイトに行ったり、人々に挨拶しながら散歩したり、神様講座を受けたり。
暇を持て余した神が国のかじ取り、とてもいい暇つぶしになりそうだ。
「んじゃ、俺はアルバイト行ってくるから。アーデンはどうする?」
「俺も会社見てこようかなぁ。復興に付け込んで運送業にも手を出そうかなと思ってるんだけど」
「えー今の環境保護の花屋とかが似合わなくて面白いのに」
「堅実にギル稼ぎたいじゃん。神様がアルバイトしてる方が変だよ。もっと偉そうにクリスタルの中でふんぞり返ってたら?」
「俺は庶民派なの」
口々に言い合いながら人ならざる者達が人よりも人らしい生活をしている姿は不思議なものだ。
誰よりも健全な生活を送り、冒険的な挑戦を繰り返している。
街の人々も神であることより盟主であった姿の方が新鮮なのか、どこか遠巻きにしながらも気さくに話しかけている様子であった。
「イグニス、陛下のことよろしくな」
ひらひらと手を振って去って行く二人はそれぞれの場所へ散って行った。
メディウムは定職に就くことなくその日暮らしのアルバイト生活を送っていた。
正確には王城が実家なので金銭に困ることはないのだが、一応の体裁をとって働きに出ている。
本来ならば肉体をかなぐり捨て剣神として概念的に存在することも可能なのだが、ノクティスが生きているうちは人間と神の半々で生活する予定である。
王城の自室に住まい、ノクティスと共に朝食を摂り、アルバイトへ出かけ、夕方には帰る。
まるでフリーターのような生活だが、職業神なので完全にフリーターではない。
一方アーデンはというと、こちらは大企業の社長様である。
メディウムと共に現実世界へ帰ることを承諾してから、その手腕を発揮して一つの会社を立ち上げた。
現在は環境保護を兼ねた花屋なのだが、牧場への出荷や品種改良にも手を出している。
その功績は目まぐるしいものであり、絶滅危惧種であったジールの花の栽培、極度に数の減ったチョコボの繁殖に成功している。
その中に黒チョコボも含まれており、アーデンの独占市場と化している。
あらゆる地方へのルートを確保している彼は最近運送業にも着目しているようだ。
復興に際してモノの移動が激しい世の中、運送会社は既にパンク状態である。
そこへ帝国で開発した魔導戦艦技術を流用できないかと模索しているらしい。
魔導戦艦を作っていた技術者は皆シガイにしてしまったそうで、詳しい作り方はアーデンとメディウム以外はもはや確認しようもない状態。
絶好の商機とみているらしい。
ちなみに奇跡のような快進撃に神の力だ!ズルだ!と声高に叫ぶものもいるらしいが、そもそも神が顧問についているのでズルでも何でもないのである。
神が起こしたような奇跡のようなクリエイトを、との文言は嘘ではない。
「親方―、資材来たぞー」
「それ運んどいてくれ。重機いるか?」
「浮かせて運んどく」
「魔法でちょちょいーっと家も建ててくれたら楽なんだがねぇ」
「神の奇跡で一軒作ったら何億って値段になっちゃうだろう。ダメダメ」
がやがやと騒がしい現場でふと思う。
使徒が悠々と社長室の椅子に座っている最中に自分は汗水たらして現場で建設業。
選んだのは自分だが、普通逆じゃないか、と考えて頭を振った。
昔は自分でクワをもって農耕していたと聞いたが、今のアーデンでは想像できない。
「どう思います?ソムヌス王」
独り言のようにつぶやいたアーデンの弟への一言は神に連なる者にしか見えない光の粒子となって途絶えた。
クリスタルの中で義理の姉と共に穏やかに現実世界を見つめる初代王が風に乗せた微笑みでクスクスと笑う。
それに交じって歴代王達が昼間から酒を飲む音、音楽を楽しむ音、読書に興じる音などがやがやとした気配も伝わってきた。
クリスタルの中にまだいる歴代王達がとても騒がしい。
それに交じって息子を見守るような父の視線も感じ取り、苦笑いを零した。
貴方の息子は王になったり神になったり、忙しいですね。
「ああ、昔の兄上には似合わないけど今の兄上にはらしい?確かにそうですね」
「おい、また独り言か?」
「ナンデモナイデスヨー!今運ぶんでちょっとお待ちを!」
親方から飛んでくる言葉を躱し、魔法で資材を全て浮かせて運んでいる最中。
聞こえ始めた王達の音が途絶えることなく耳に入る。
キラキラと降り注ぐ光の粒子は神になってから見えるようになったクリスタルの加護だ。
クリスタルの中に治められた魂達と直接会ったり会話したりできる便利なものである。
これは遠距離でも対象らしく、喧しいことに一度感知すると数時間は内容がはっきり聞こえてくる。
大抵はメディウムに対する説教である。
王兄が庶民に混じってアルバイトなんてするんじゃない、とか。
自分の使者を野放しにして自由に会社経営させるんじゃない、とか。
今の王はなってないからここに連れて来い、とか。
兎に角うるさいと称するしかない。
コレが他の人間には聞こえず、アーデンにはソムヌスとエイラの声しか届いていないのが厄介であった。
歴代王達の声はメディウムにしか聞こえないのである。
クリスタルの加護は望めばいつでも剥がし、つけることも可能だ。
しかしメディウムが外さないのは、ひとえに自身の父がその中に混じっているからである。
先代ルシス国王、レギス・ルシス・チェラム。
クリスタルにいる歴代王達は役目を終えた今、現世に干渉する方法はメディウムに言伝を預け、見守る事のみ。
レギスが望めばいつでも我が子達が見えるように、喧しいのを堪えて加護を付けたままにしているのである。
「あーうるせぇ」
ガンガンと音が鳴り響く工事現場。
それ以上に喧しい王達の声に叱責されながら、欠伸を一つ。
今日も平和だ。