キャラ崩壊や御都合主義などが一層濃くなりますがあらかじめご了承ください。
番外編 01 教育
ニフルハイム帝国の首都に当たる帝都グラレア。
その中心部に設置された薄暗い蛍光灯が灯る移動型戦艦ジグナタス要塞の一室。
軍の旗艦であるこの要塞はほとんど帝国軍の宰相の家といっても過言ではない。
要塞内部にはルシス王家の武器召喚や魔法を阻害する電波のようなものが垂れ流しになり、シガイ研究のために置かれた実験サンプルや研究資料などが置かれている。
最上部はいずれルシスから奪うつもりのクリスタル保管庫となっていた。
鬱々とした空気が流れるジグナタス要塞の中を行き来する人間はほとんどいない。
ニフルハイム帝国軍に所属する人間の兵の中では"命令されても行きたくない場所"No. 1の軍事施設である。
たが、その要塞には都市伝説がある。
家のように最上部近くに部屋を構える宰相とはまた別に、一人の子供が住んでいるというのだ。
宰相にそっくりな子供だが、そもそも宰相であるアーデン・イズニアは結婚していないはず。
何人もの兵に目撃されている子供は一体何者なのか。
その答えを知る者は未だいない。
そんな都市伝説など露知らず。
ジグナタス要塞最上部の丁度真下に位置する、専用の鍵でしか開かない部屋に閉じ込められた噂の子供は半泣きでスパルタ教育を受けていた。
「ほらほら。ここ、やったばっかでしょ?なんでできないかなぁ?俺も暇じゃないんだよ?」
「...教え方が雑なんじゃないの。」
「一時間追加。」
「忙しいんじゃないのかよ!」
机に広げられた紙束は、帝国の高校生レベルのテキストから抜粋された問題がびっしりと書かれており、涙目になりながらも手を動かし続ける子どもの足元にはルシス王国の高校生レベルのテキストが同じように抜粋されて積まれている。
これらの紙束はニヤニヤと笑いながらシャープペンシルで子供の頭をつつく男。
帝国の宰相、アーデン・イズニアによって用意されたもの。
そして、突かれながら足で蹴り返す子供はディザストロ・イズニア。
正式名メディウム・ルシス・チェラム。
妨害電波の影響を受けない魔法がかけられたネックレスを身につけて目の色と髪の色を変えているが、元の色はルシス王家によくいる夜空のような子供である。
使命のために六歳でアーデンのものとなったが学校に通う前の年齢であったために学は皆無。
ディザストロ・イズニアとして遊びで育てるつもりのアーデンは右も左もわからない、掛け算もできない子供では困ると教育を施しているのである。
現在この要塞に閉じ込めて二年、八歳となったディザストロは未だにこの最上部付近の出入り以外は禁じられている。
しかし、廊下に設置された監視カメラにはその姿が映ってしまい少し目を離したすきにテケテケと禁止区域にまで出歩いてしまう。
アーデンも特別施錠などしておらず出歩いたことはバレてないとホッとするディザストロにカマをかけたり目撃情報を漏らしたりして反応を楽しみ、白状するか誤魔化すかしだしたディザストロをきつく躾けるのが楽しみになっている始末。
変態を極めている気がするが、もちろん全年齢対象の躾である。
このアーデンの行動により監視カメラの映像を見た兵やすれ違ってしまった兵が都市伝説と噂しているのも把握しているが放置している。
いずれ帝国の表舞台に立たせるのだからわざわざ教える必要もない。
「"今日は大事な仕事があるからお留守番しててね王子様"とかいってたくせに!思いっきり暇じゃねぇか!」
「ヴァーサタイル君の呼び出しだから行かないとね?」
「部下に呼び出される上司って...。」
かわいそうなものを見る目を遠慮なく向けるディザストロに昔はもっとびくびくしてたのになぁとニヤつくアーデン。
その顔に、さらに身を引くディザストロ。
最近躾けることを愉しみにし始めたことを理解しているディザストロはいつか兵たちが話していた非人道的な実験のサンプルにされるのではないかと内心ハラハラしている。
それでも軽口はやめない。
幼さゆえともいうが。
「そういえば、ヴァーサタイル君がディアのこと嗅ぎつけてきてねぇ。俺の子供ならとってもいい実験サンプルになるんじゃないかって。」
ゴクリと唾を飲み込む。
一番危惧していた爆弾がなんでもないことのように投下された。
上司の子供ですら研究材料か。
生き物であろうが無機物であろうが関係なく突き詰める様は研究者の鏡なのだろうがどうか人道の許す範囲にしていただきたい。
帝国に最も必要な教育は道徳だと思う。
「でも今殺されると愉しみが減っちゃうからね。この階層にいる間は手を出してはいけないって注意しておいたよ。」
つまり、今までのように立ち入り禁止区域を颯爽と駆け抜けた場合命の保証はできないと。
先程から話題に上がっているヴァーサタイルとはこのジグナタス要塞に頻繁に出入りするヴァーサタイル・ベスティアを指す。
彼は魔導兵の開発者として名を馳せているがそれ以上に全ての物事を研究材料としか見ないヤバいやつでもある。
怖いもの知らずのディザストロですら出会ったら即刻逃げることもやぶさかではない相手だ。
しかし、この階層はとてつもなく娯楽がない。
最上部のクリスタル格納庫は未だに何もないため出入りは自由にされているがそれだけ。
階層一つを部屋にすると聞くと広いと思ってしまうかもしれないが、空間の持て余し度が異常に高い。
最低限生活できるように風呂やトイレがあり、簡易キッチンが扉一つ隔てて設置されている以外はベッドが一つあるのみ。
ここにディザストロが来てからは勉強用の机と椅子。
アーデンが座るソファが設置され、書類収納と読書用に大きめの本棚が四つ。
研究機関として機能していることを考えるとこの部屋は一際異彩を放つ部屋となっているが立入れるのは鍵を持つディザストロとアーデンのみ。
食材を置いて、三日か四日帰らないことはざらにあるのでほとんどディザストロの一人部屋とも言える。
娯楽のない部屋に子供が一人。
ダメと言われればやりたくなる年頃のディザストロは部屋を抜け出すことに娯楽を見出してしまったのだがそれも命の危険があるのならばやめざるを得ない。
だが遊べないということは、八歳のディザストロには死活問題である。
こんな薄暗い部屋に勉強だけ、だんだん上手くなってくる落書きとともに缶詰など心が死んでしまう。
本能的にそれを感知したディザストロはすがるようにアーデンを見つめる。
「せめて何か遊ぶものを要求する!」
「えー、そんなこと言われてもなぁ。」
おちょくるようにシャープペンシルを回すアーデンは実に愉しげである。
単調な生活に刺激をという意味のわからないコンセプトを元に時たま無理難題を押し付けてくるが、今回もそのパターンであろう。
グッと腹に力を込めて構えていると両手の指を突き出す。
「十日間俺は出張に行ってくるね。帰って来たときにテスト。範囲はココとココね。」
ドスンと置かれた紙束は帝国のものとルシスのものが半分。
科学的なものが進んだ帝国と道徳精神や神話、歴史などが多く乗っているルシス。
その全てを十日で把握、理解し応用すらも解けるようになれ、と。
ほとんど不可能だろう。一夜漬けすればいけるとかのレベルではない。
「合格点は各教科九十点以上。失格の教科の分だけ罰ゲーム。」
「...成功報酬は?」
「ルシス王国、王都製の携帯電話とタブレット。」
ガタッ。
科学の進んだ帝国でも追いつけないルシス王国全体でも高級品の王都製の娯楽用品。
アーデンが持ち歩いていたものを一度見て質問したときに帰って来た言葉がそれだった。
好奇心旺盛な年頃の子供を釣るにはもってこいの報酬。
例に漏れず、ディザストロもつられた。
「範囲が広すぎる。もう半分。」
「こんなのもできない子にあげる報酬はないねぇ。」
やるの?やらないの?
有無を言わさぬ物言いに、娯楽が欲しいディザストロは頷くしかなかった。
アーデンは無理を言っているわけではない。
一般的な子供であれば不可能な要求だが目の前に座るディザストロは驚異的な理解力を有している。
二年という短さで無学から高校レベルまで理解できるのは最早天賦の才。
本来ならばこの倍量でも問題ないのだが、アーデン自身が最近はほとんどこの部屋に帰って来ておらず四日に一度は必ず様子を見にくるがどこか背中が寂しげ。
どうでもいい子供で、遊ぶためのおもちゃだが寂しがられたり落ち込まれたりするとそれはそれで困る。
誰かを大切にしたり愛しく思ったりする行為はとうの昔に忘れてしまったが、世間では家族愛という感情をアーデンは感じていた。
そこで、一週間の出張の間気分を紛らわせる物をと考え出したのがこのテスト地獄。
家族愛など忘れたアーデンが遠回しに表した愛情。
さらに、実際に嗅ぎつけたヴァーサタイルに注意をしているので嘘ではない。
そんな心の機微など知らないディザストロにとっては文字通りテスト地獄である。
「一週間後にね。」
潰れるのではないかと疑うほどの力で頭に掴みかかり、ぐわんぐわんと頭を回して部屋を出ていった。
取り残されたディザストロは痛む頭を抑えつつも早速覚える作業に入る。
その後どうなったのかは、ホクホク顔でタブレットをいじるディザストロから察するべきだろう。