FFXV 泡沫の王   作:急須

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本編と関係のない、主人公の昔話。
キャラ崩壊や御都合主義などが一層濃くなりますがあらかじめご了承ください。


番外編 05 兄弟の語らい

「兄貴の趣味ってその水彩画?」

「なんだ?いきなり。」

 

王都に帰省した二十歳になる年の夏。

十四歳になったノクティスの誕生日祝いと称して贈られたメモ帳の最後のページには海の水彩画が描かれていた。

ノクティスは最近コル将軍に連れられて釣りを始め、趣味になりつつあるがメディウムの趣味は知らない。

年に一度しか帰らない兄なのだから当たり前だがよくメールに添付される水彩画が趣味なのかもしれないと思い、思ったことをそのまま口に出していた。

 

「よく描いてるじゃん。綺麗だし。展覧会?でもすればいいのに。」

「趣味と本職を一緒にするな。芸術のわからん中坊め。美術の勉強してるか?」

「してるし。よくわかんねぇけど。」

「ガキじゃねぇか。」

「大人の兄貴と比べるな!」

 

王城のノクティスの部屋。

一等大きな窓の前で脚を組み、キャンパスに色を添えるメディウムの姿がノクティスには何よりも美しく見えていた。

素直には褒められないがメディウムの描く水彩画は大切なものの一つ。

芸術がわからないなりに綺麗だと思えるような淡く柔らかく寂しげな絵。

見るものを引き込みその世界を魅せる。

ノクティスは水彩画を見るたびに胸が締め付けられるような悲しみと口には出せない寂しさを感じる。

それはメディウムの絵の魅力でありどこか不思議なものだと思っていた。

 

ノクティスの考えなど知らないメディウムは芸術のわからない子供だと揶揄う。

 

「それに趣味かと聞かれれば微妙なところだな。」

「あんなに描いてたのに。」

「送ったのだって一部だけだ。実際はもっと描いてる。でもなんていうか描いてても楽しくはないんだよなぁ。」

 

キャンパスの筆が止まる。

王都の空と魔法障壁を描いたその絵は美しく眩い魔法障壁が青空を遮り塞ぎ王都を守る障壁は空を閉じ込める檻のように見えた。

父が命を削って維持している魔法障壁が檻に見えるなど思ってはいけないことだがなぜか納得する絵だった。

 

「絵ってのはな、趣向やその人の生き様が反映される。どんな風に過ごしてきてどんな風にものを見てきたか。全部その絵に出るんだ。」

「それはなんで?」

「主観でしかものを捉えられないのが人間だからかな。知らない物事を絵にはできないし写せない。構造を理解していないと全く同じものは作れないだろう?」

「じゃあ青空は?」

「お前はどうして青空に見えるのかちゃーんとわかってるか?」

「うーん?」

 

勉強不足じゃないか、とため息をつかれノクティスは頬を膨らませる。

メディウムはわざわざ近づきそっぽを向く頭を撫で空を指差す。

 

「まあたいていの人間は青空の理由なんて気にしない。でも構造がわからないから目で捉えられても理解ができない。そこで補うために使われるのがその人の主観…だと俺は思ってる。」

「それが描くのが楽しくないのとなんの関係があるんだよ。」

「ノクトには俺の絵が楽しそうな絵に見えるか?」

 

メディウムの問いにもう一度キャンパスをみる。

鳥籠の中の鳥のように、その空を羨ましげにみるようなその絵はとても楽しそうとはいえない。

美しいのに悲しいその理由はメディウムの主観だというのか。

いつもお調子者で頼れてどこか気の抜けた兄しか知らないノクティスは疑問に思いながらも静かに首を振った。

 

「この絵を楽しく描けてないってことだな。この空を楽しく描くほうが難しいし。」

「そうなの?」

「自分の父親…をいずれ殺す魔法を見て楽しく思う奴がいるか?」

「それは…。」

「国民は讃えてるが万能ではないしそもそも俺はあの魔法を好ましく思えない。王族だからと割り切る考え方も気に入らない。言ってもしょうがないがな。」

 

たとえそれが宿命だとしても。

頭では王族という存在そのものが一般人と違うものなのだと理解している。

持っている力も違うし役目も自分のためではなく多くの民のためになる。

王として魔法障壁を張るならばその魔法は奇跡のような代物であり、とても栄誉あることで慕われる王そのものだろう。

 

だが、一人の家族として誰かと生きるならば魔法は厄災、ひいては呪いだ。

 

王族だから仕方ない。

多くの国民がそう割り切るだろう。

メディウムとてそれが間違いだとは思わない。

しかし、一般市民と変わらない同じ人間が誰かのために身を投げ出すことを当たり前とする。

同じ人であることをわかっていても理解せず大勢のために死ぬことを見て見ぬ振りする考え方がメディウムは気に入らなかった。

 

「楽しくなるような絵を描けばいいじゃないか。その…しがらみみたいなのは多いかもしれないけど、一つぐらいあると思う。」

「ないんだ。絵を描くことは何百回とあった。でもないんだ。楽しくなるようなことも楽しかったこともない。」

 

窓から差し込む日差しがあるのにメディウムの目には光が差し込まなかった。

この絵と同じように籠の中に閉じ込められ、閉じこもることしか知らない鳥。

外の世界を知っている分、その悲しさは大きく外を知らない他を哀れむ色が強い。

 

「それにな、最初に描きたかった絵を描けていないんだ。」

「描きたかった絵?」

「油彩画にしたかったんだが向いてなくてな。希望のあった水彩画でチャレンジしてもうまくいかず。理解してるのに描けない唯一があるんだ。それを描けたら少しは楽しく描けるようになるかもな?」

 

ノクティスから離れキャンパスの前に立つと、赤い絵の具で筆を濡らし思いっきりばつ印を描いた。

見事に没作品となったその絵をノクティスは勿体なさそうに見る。

 

「結論を言うと俺にとっての絵は楽しいからやる趣味とは違う、やりたいからやる趣味かな。」

「やりたいから…やる…。」

 

ノクティスはメディウムの描きたかったと言う絵の対象が気になった。

自然なものから人工的な街並み、そこに住まう人々や野獣。

あらゆるものを見てきたし今までノクティスが出会ってきた人たちの絵も何枚かあった。

見て描いたというよりうろ覚えの描き方だったがその人の特徴をよく捉えた水彩画だった。

その中にもないものとなるとノクティスに思い当たるものがない。

 

「描きたかった絵って何を描きたかったんだ?」

「夕日さ。」

「夕日?描いてたじゃんか。」

「あれは空のだろ。俺が描きたかったのは俺の夕日。」

「兄貴の夕日?」

 

頭に思い浮かぶ夕日は海に映ったり街並みから顔を出す絵。

メディウムが描く題材の中で最も多く描かれていることだろう。

しかし、彼だけの夕日となるとノクティスには想像もつかない。

どんなものが彼だけのものなのだろうか。

 

「俺が一番綺麗だと思う夕日ってことさ。描けないけど。」

 

失敗作の絵を丁寧にたたむとそのままゴミ箱に投げ捨てた。

新しい紙を設置して今度は部屋の中を見回している。

 

そこにガチャリと音を立てて扉が開いた。

 

「失礼します。ノクティス様、メディウム様。」

「やぁイグニス。ノクトって呼んでも大丈夫だよ。メディって呼んでくれてもいいし。」

「では、ノクト、メディウム様。お茶菓子をお持ちしました。」

「呼ばないのね…。ああそれ、テネブラエのお菓子?」

 

本日はイグニスの通う高校は休日で定例会議が行われていた。

メディウムは定例会議を免除され休暇を言い渡されていたのだが内容をイグニスがきちんとメモして持ってきてくれたようだった。

さらに紅茶とイグニスの手作りらしいテネブラエの郷土料理たるお菓子を持ってきていた。

 

メディウムはこれ幸いと話題変換を試みる。

 

「メディウム様は口にされたことがあるのですか?」

「テネブラエにはよく行くんでな。あっちの地方でしか取れない果物ばかり詰め込まれてる。」

「なるほど…。」

「だから違う味がすんのか。」

 

聞けば昔テネブラエで食べたお菓子をイグニスが再現しようとしているらしい。

郷土料理といってもジャムを詰め込むため味は各家庭によって違う。

どの味がノクティスの正解なのかはわからないがかなりの種類があることだろう。

それを再現しようとするイグニスにノクティスは甘やかされてるのか、とメディウムは苦笑いを向けた。

 

「来年の帰省には向こうの果物を土産にするわ。これはこれでうまいが違和感がすごい。」

「やはり違う味ですか。」

「こっちの地方の味だなぁ。アレンジってやつか。」

「違う味。」

 

もぐもぐと食べながら書類に手をつける。

ベリーのような酸味とクッキーのような硬めの生地。

甘くとろけるクリームと風味が乗ったベリーの相性は生地が邪魔をしないため絶妙と言えるのだがテネブラエのとは違う。

故郷の味がジグナタス要塞で作る男飯であるメディウムからすれば高級な味とも言えた。

 

ノクティスは当たり前のように咀嚼しているがメディウムは格差を感じていた。

王子であることを時たま忘れるがそれなりに美味しいものも食べているし珍味のような高級食材も口にしている。

それでも普段食べるのが簡素なものだと庶民の舌になるものだった。

 

「普段いいもの食ってる王子は違うなぁ。」

「兄貴も王子だろ。普段何食ってんだ。」

「自分で作るかカップ麺か。地方料理も乙なもんだぜ。今まで食べた中で一番驚いたのはガラード地区の郷土料理だな。モルボルを食べようっていう発想がすごい。」

「緑色のスープのやつ?すごいまずかったけど。」

「ここの料理人ガラードの人なのか。モルボルではないが色合いが似てるらしくてな。名物だってよ。」

 

ノクティスは身に覚えがあるのかしかめっ面でうえっと舌を出す。

余程まずかったのだろう。

余談だがレギスとともに食事をとっていたノクティスが不味いといったためスープを出した料理人は解雇されている。

 

「兄貴も一緒に夕飯食べればいいのに。」

「レギス陛下ともだろ。」

「親父はよく一緒に食べられたらなって言ってる。今日は特に決めてないんだろ。一緒に食べようぜ。」

「料理人が困るだろう。」

「それならば手配してまいります。」

「うわ有能。でも今はいらない有能さ。」

 

メディウムの制止を聞かずイグニスは部屋を出て行った。

王都を出てから一度も交流らしい交流をしたことがないが弟に縋られると弱い。

結局メディウムはその日の夕食は王城で取ることとなった。

王族三人の食事は今代王族ではこの日始めてとなり歴史的な瞬間とも言えた。

 

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