キャラ崩壊や御都合主義などが一層濃くなりますがあらかじめご了承ください。
内容などない。
ディザストロ・イズニア。高校三年生の秋。
定期試験時にしかやってこないはずの高校へとやってきていた。
本日はアーデンがいないため送り迎えと護衛を帝国軍所属、レイヴス・ノックス・フルーレ曹長がついてきた。
ディザストロ本人がどれだけいらないと抗議しても必ず護衛をつけると言われてしまい、せめて顔見知りをと指名されたのだ。
本日は定期試験ではなく午前中だけの授業日。
完全に登校しないのは流石にと懸念したディザストロに配慮して設定された年に一回の登校日であった。
どれだけ抗議しても年に一回しかないのは顔が隠せない学校という機関を懸念しているからである。
逆に悪目立ちしていそうだが会う回数が少なければ誤魔化しも効く。
「…教室までついてくるのか?」
「校門までだ。迎えは連絡をくれ。」
「一人で帰れる!高校生だぜ!?」
「帝都の地図を頭に叩き込んでいても実際に歩かなければ街は常に変わる。土地勘がなければ学校にも戻れない。」
「うぐ…それもこれも全てあのおっさんが…!」
「帝都に致し方ない理由で出るのは今年までだ。高校を卒業すれば軍に所属し正真正銘外に出ることすらなくなる。学校に通えるだけでも奇跡的だ。」
「…そうだけどよ。」
どこから持ってきたかもわからない、いつもの黒塗りの高級車を運転するレイヴスをみる。
テネブラエの象徴である白を基調とした礼装を身にまとったレイヴスはこの名門校では非常に目立つ。
すでに属国になったテネブラエといえども貴族は貴族。
それも王族に準ずる。
次期当主は神凪のルナフレーナ・ノックス・フルーレとして有名だがその兄たるレイヴスは武道の才がある。
名門校であれば幅広い知識を有している生徒も多く、その顔と礼服を一目見ればどこの誰だかわかってしまうだろう。
登校時間の今、レイヴスと共にいると周りの視線が痛い。
しかし、護衛任務を全うできないとアーデンの嫌がらせがディザストロに飛んでくる。
ならばさっさと離れようと少し離れた場所に止めた車から降り、早足に校門を通り抜ける。
後ろからため息をついて連絡を忘れるなという声が届いたが片手を上げただけでさっさと学校内に入っていった。
学校内自体はとても広く、一クラス三十人前後が一学年に五つ。
特進科だけ別棟が用意されており、高校一年から三年までそこで過ごす。
ディザストロも例外ではなく昇降口を出て廊下を曲がり、別棟を目指して歩き出す。
すると後ろから誰かが走って来る音がする。
自分には関係ないと歩みも緩めずさっさと進んでいくが走る音はどんどん大きくなり、果てはディザストロの前で止まった。
何事かと軽く首をかしげると、金髪碧眼の青年がぐるりとこちらを向いた。
「あの!あのあの!さ、さささ!さっきの!」
「何が言いたいのかわからないがとりあえず落ち着いてください。」
目を白黒させながら迫り来る青年から一歩距離を取る。
青年の身長はディザストロより高く、百八十センチはあるだろう。
体格も良く、帝国では珍しい剣を愛用する戦士の手。
ブレザーの制服は多少着崩されてはいるがきっちりと着ている範疇。
ネクタイの色から同じ三年であろう。
ちなみにネクタイは赤が三年、青が二年、緑が一年である。
それらの情報とディザストロに話しかける理由を推測した結果、金髪碧眼の多いテネブラエ出身でありレイヴスと共に歩いてるところを目撃。
どうゆう関係か聞きたかったのだろうという結論になった。
その間に青年は落ち着き始めたのか、深呼吸をして申し訳なさそうに頭を下げる。
「突然ごめんなさい!俺、三年特進科のテネリタース・プレケスです!先程レイヴス様といらっしゃったのを見てしまい…その、気になって声を、かけました…。」
だんだん弱々しく、細くなっていく声にパチクリと瞬きをする。
十人いたかいないか、減ったり増えたりする特進科で入学当初から変わらず三位ほどの成績を収めていた人の名前が確かそのような名前だったことをディザストロは思い出す。
無言でじっと観察するディザストロの雰囲気に押されて、体格の良いテネリタースはしおしおと自信なさげに肩をしぼめていった。
ほんの数秒のことで直ぐに思考が戻ってきたディザストロは完全に縮こまってしまったテネリタースに微笑む。
「特進選抜科のディザストロ・イズニアです。レイヴス様とは少々ご縁がございまして。彼にご用が?」
「いえ!俺、テネブラエの出身で…レイヴス様は平民にとって憧れの存在なんです。帝国軍に入隊したのは知っていましたが、まさか関係のない学校で間近でお目にかかれるとは思いませんでした。」
舞い上がってました、と照れ臭そうに笑うテネリタースに微笑みながら観察する。
今の話だけでテネブラエ出身であること、平民であることがわかってしまった。
ディザストロであれば絶対に口にしない真実をいとも容易く口にするのは若さ故かと頭を巡らせるが、そもそもここは高校であることを思い出す。
自分の立場を偽り、誤魔化し、相手を翻弄する政治の場とは違う。
純粋にぶつかり合い、学び合い、時には喧嘩をして道徳心や協調性を学ぶ場。
テネリタースの発言は年相応であり、同じ高校に通う同級生に向けた、ただの世間話と説明。
疑う必要性も観察する必要性もましてや掌で転がす必要性も大してない。
その事実を思い出して、小さく息を吐く。
「あの、同学年…ですよね。敬語じゃなくてもいいかな。」
「ん。ああ。構わない。つい癖で出たが同い年に敬語は違和感あるよな。」
「口調一つで印象って変わるね…。」
恐る恐る聞いてきたテネリタースになんでもなさそうに口調を崩す。
突然ラフになったディザストロにテネリタース惚け、感心したように感想を口にした。
学校という場では身分は関係ない。
「ディザストロ君って呼んでもいいかな。」
「長いからディアでいいよ。テネリタース君。」
「俺も長いからネリーって呼んで。」
壁を作らないディザストロの雰囲気にテネリタースは笑う。
高校生相手であれば簡単に知り合いや友人に慣れるほどのコミュニケーション能力がディザストロにはあった。
もちろんそれが発揮されることは滅多にないが。
お互いに自己紹介を済ませ、特進科の別棟へと向かう。
朝のホームルームまで時間があるため足取りは緩やかだ。
「年に一回、試験以外で来てたけど今日はその日?」
「やっぱり目立ってるか?」
「そりゃもちろん。高級車で送迎に入学から学年一位キープ。滅多に学校来ないし。人間かすら疑われてた時期もあったよ。」
「だよなぁ。目立つよなぁ。怪しいよなぁ…。」
態とらしく少し落ち込み気味に肩をすぼめる。
ディザストロもそういう人間が学年にいたら怪しいと思う。
格好の噂のネタになること請け合いだ。
いつも車内から顔を出さないアーデンの送迎が今回はテネブラエの王族の送迎。
さらに噂のネタにされることだろう。
「学校にはなかなか来られないの?」
「この登校日も渋面。家…の手伝いで忙しくて。」
「なんか疑問形だね。」
「授業免除があるから通わせてもらえるだけだしなぁ。」
「授業なしで学年一位キープはすごいよ。」
他愛のない話をしながら別棟の教室へと入る。
開いた扉を一斉に見たクラスメイトに苦笑いがこぼれそうになるが、気にせず席へと着く。
窓際の一番後ろの席が入学当初からディザストロの席なのだがテネリタースはその前の席だった。
カバンを机の横にかけ席に着くという動作の最中、教室のクラスメイトはチラチラとこちらを見てくる。
毎度のことだが今回はテネリタースがいるため幾分か気分か楽だった。
当のテネリタースは椅子の背もたれに両手を置き、反対向きに座ってこちらを見ている。
「ディアって帝都出身?」
「いや、別のところ。小さい頃、養父に引き取られた。」
「あ、なんか、ごめん。」
「いいよ。養父と二人暮らしで、たまにレイヴスが遊びに来る。」
「レ、レレ、レイヴス様が!遊びに!!」
「心配性の兄貴分みたいな感じで。ネリーはどこに住んでるんだ?」
「この近くのアパート。一人暮らしなんだ。」
レイヴスとの交友関係や出会いの話になると厄介なので話題を変えると一人暮らしが判明した。
名門校故に地方の優秀な若者が受験することも多く、アパートで一人暮らしという事例も珍しくはない。
ディザストロもアーデンがいない日数の方が多いのでほとんど一人暮らしだ。
ちなみに二人の会話はクラスメイト全員聞き耳を立てて聞いていた。
ディザストロ・イズニアという人間は大いに話題性があるのだ。
「ディアって貴族か王族って噂があるだよ。真相は分かんないけど。」
「どっちも違うさ。養父がちとアレだが。」
「アレってすごい気になる。」
口調こそ貴族や王族らしさはないが一つ一つの仕草に品のある美しさを有している。
王族というのはあながち間違いではないため、若干動揺したがディザストロ・イズニアはどちらでもない。
色を変えているネックレスはワイシャツの下に隠れているためルシス王家の家紋を見られることもないだろう。
大抵のことはアーデンのせいにする精神のディザストロは食えない微笑みを浮かべるおじさんを思い浮かべた。
「送迎も養父がしてくれてたんだが、今日は出張でレイヴスだったんだ。正直これからもレイヴスでいい気がして来た。」
「来る日教えて。校門で待機する。」
「レイヴス大好きすぎだろ…。」
レイヴスがいたおかげで孤立していたディザストロにもテネリタースという友人ができた。
彼のおかげとも言えるこの状況に後で礼をしたい気分だった。
憧れというより携帯のカメラ機能を構えたテネリタースはパパラッチのようだがレイヴスには犠牲になってもらおう。
残り数ヶ月の青春に憧れていたディザストロは漸く手に入れた年相応の状況を維持するために非情になっていた。
そこにガラリと教室の扉が開いた。
ホームルームの時間がやって来たのだろう。
前を向いたテネリタースに軽く笑って、一年ぶりの授業の準備を始めた。
午前中だけの授業日はすぐに終わった。
友人と過ごす学校生活というものに表にではしないがはしゃぎ、充実した午前中だった。
休み時間をテネリタースとの雑談に費やしたディザストロは帰り支度を始め、校門まで付いて来るというテネリタースとともに歩きながら電話をかけようとした。
しかし、電話をかける前に白い礼服と白髪に近い金髪が目に刺さる。
どう考えてもレイヴスしかいない。
挙動不審になり始めたテネリタースの肩を何度か叩いて正気に戻しレイヴスに近寄る。
「連絡する前に来るなよ。」
「こ、こここ、こんにちは!!レイヴスひゃま!!」
直角の九十度に頭を下げ、思いっきり噛んだテネリタースを一瞥しやつれた顔のレイヴスが顎でしゃくる先は車。
いつもの黒塗りの高級車の前にはディザストロの知らないおじさんがいた。
正確にはこんな奴知らないと言いたくなるようなおじさんがいた。
ディザストロは爽やかな笑顔でレイヴスに向き直る。
「…レイヴス。友達ができたんだ。」
「テネリタース・プレケスです!!」
「テネブラエ出身らしくてな。」
「そうか。ディアと仲良くしてやってくれ。」
「はい!!仲良くさせていただきます!!」
「ーーちょっと無視は酷くない?」
いつの間にやら近づいて来たおじさんがディザストロの肩に手を置く。
視界に入れまいとテネリタースの方向に顔を背けたディザストロにおじさんはため息をつく。
首筋を人差し指が滑り、寒気のような感覚が背中を駆け抜けるが無視し続けた。
テネリタースはレイヴスに会えた感動から少しだけ正気に戻り、尋常ではない冷や汗を流すディザストロがこちらを向いていることに気づく。
何事かとその後ろを見れば、自分より背の高くスラリとしたスーツの男がディザストロの肩を掴んでいた。
「こんにちは。ディザストロの父親…かな。」
「いいかテネリタース。これは俺の父親ではない。断じてない。俺はこんなイケオジ知らない。」
「酷いなぁ。君の大好きな父親に向かって知らないなんて。」
まさに亜空間。
やつれたレイヴスと冷や汗ダラダラのディザストロ。
いい笑顔のおじさんと状況が読めないテネリタース。
人はこれを混沌と呼ぶ。
ディザストロがなぜここまで後ろのおじさんを否定するのかというと、明らかにいつもと違うからだった。
いつもならば無精髭そのままに暑苦しいほど重ね着しつつもどこか洒落ていたおじさん。
それが数日前。
今は無精髭がなくなり、暑苦しい服装はすっきりとした黒いスーツになり飄々とした態度が大人の余裕を醸し出している。
まともな服装をすればきっちりと鍛えられており、だいぶ遠いとはいえ見目麗しいルシス王家の血筋を遺憾なく発揮することは理解していた。
しかし実際に目の当たりにすると脳が拒否をする。
こんなおじさん知りません、と。
「ほら。帰るよ。」
「…ネリー、次は定期テストの時な。」
「う、うん!またね!!」
顔を合わせようとしないが車で帰るのは変わらないため、レイヴスを盾に車に乗り込む。
テネリタースはいまいち状況が飲み込めていないようだが、おじさんことアーデンが何者であるか思い当たる節があるようだった。
イズニアという姓と顔が一致すれば何者かなどすぐに分かるものだがそれを口には出さず、車を見送った。
別れ際にディザストロが口に人差し指を立てたのだ。
これは何者か問わないでほしいということなのだと今日一日で学んだがあの錚々たる面々の中にいるディザストロの噂話はたちどころに広まった。
次の定期試験でディザストロが頭を抱えることになったのは後の話である。
・人物紹介
テネリタース・プレケス(意味:優しさ、祈り)
出身はテネブラエだが学問的、身体的な分野で非常に優秀であり、ルシス王国王都を除けば最も発展している帝都の文武両道を掲げる名門校へ入学。
学費免除対象である特進科。
高校卒業後は軍大学へ進学し帝国軍アラネア准将率いる通称傭兵部隊に所属。
主人公と面識のある数少ない兵としてアラネア准将に使い走りにされることもままあり、高校卒業後も主人公とかかわりがある。
アラネア准将が軍を脱退する際はそのままともに軍を脱退。
光なき世界でも生き残る。
・補足
主人公が通う帝国の名門校。設定上名前は特に決まっていない。
学科自体は通常の進学科、十人程度の特進科、一学年に一人しかいない特進選抜科がある。
主人公は学費免除、通常授業免除の特進選抜科。
通常授業自体は特進科と合同で行われる。
定期試験で一定以上の点数と総合一位を維持しなければ特進科へ落される。
必ず一度は落ちることになるはずの科だが主人公は一度も落ちたことはない。
主人公は学校の七不思議に数えられ、どこかの貴族かどこかの王族という噂も絶えない。