より一層御都合主義が濃くなりますがあらかじめご了承ください。
轟々と燃え盛る草花。
凍えるような吹雪。
絶えることなく響く誰かの声。
無事を願う声、指示を飛ばす声、やるせない怒りをこぼす声。
さまざまな音を聞き届けながら足下から迫り上がる炎の波に飲み込まれて行く。
周囲から伸びる氷の檻が炎ごと包まんと伸びてくる。
消えない業の火と溶けない咎の氷。
贄の命など、こんなものだ。
「…!」
肩で息をしながらベッドから飛び上がる。
周囲を何度も見渡し、手足の無事を確認した。
久々に見る悪夢で動揺したがどこにも異常はない。
汗だくの体が気持ち悪くてシャワーでも浴びようと毛布をめくると、スピースピーなんて間抜けな寝息を立てるカーバンクルの姿があった。
起き上がった浅緑のもふもふはまだ眠そうにふらふらとベッドサイドに来て、お伴しますと言わんばかりにピーッと鳴いた。
右前足に黒いリストバンドをしたこのカーバンクルは野生のカーバンクルで、たしか性別はオス。
リストバンドはディザストロのお手製で、大して意味はない。
大きくなって着なくなった服の布で作ったものだが、カーバンクルは喜んでつけている。
たまにいつの間にやら現れてベッドに忍び込んでくるが、可愛く呑気に寝られると追い出せない。
小動物は徳な生き物である。
「シャワー浴びるだけだ。まだ日も登ってない。寝てていいぞ。」
もふもふの毛を掻き分け、耳の裏を撫でるとピーピー鳴いて喜ぶが二度寝するよりもシャワーについてくると主張した。
寝なおす気にならないメディウムはいっそのことカーバンクルを洗いまくってやろうと、前足をあげて抱っこをねだる野性味のない毛玉を抱え上げる。
隣の部屋にアーデンの気配はあるが起きているか寝ているかは不明。
そっと忍び足で部屋の前を通り抜け、廊下の一番奥にあるシャワールームへと滑り込んだ。
スタッと腕の中から降りたカーバンクルは、メディウムが開けた棚の一番下の段に収納されたペット用シャンプーを引っ張ってくる。
稀にやってくるカーバンクルが泥遊びでもしたかのように酷い有様の時があるので買い置きしてあるのだ。
さすが幻想種というべきか、一番安いシャンプーはお気に召さなかったらしく高級品を買う羽目になった。
アーデンに買い物を頼む時怪訝な目で見られた。
シャワールームに浴槽をつけるのはどうかと思うが一応備え付けで小さめのものがある。
大人一人縮こまれば肩まで浸かれる。
カーバンクルは抜け毛などない上に泳げるので浴槽にお湯をためている間、洗ってしまうことにした。
「こっち来い。おまえ今日はドロドロじゃないけど、水浴びでもしてきたのか?」
ピーッ!
一度だけ泥だらけで布団に忍び込まれたことがあり、盛大に説教をかました。
その反省なのかここ最近は何処かの川で水浴びしてからやってくる。
科学的な帝都で綺麗な川などあるのかとカーバンクルに聞けば、召喚獣語でテネブラエまで行ってるよ!と説明された。
普段ピーピーしか言わないくせに言葉を求めると途端に召喚獣語で話す不思議なカーバンクルである。
ディザストロが頭痛で顔をしかめているのを見てピーピー言い始めたが、ノクティスが世話をしているカーバンクルと出会って携帯にテレパシーで文を送る特殊能力を身につけていた。
さすが王都育ちのカーバンクル。
とても近代的。
今は手持ちに携帯端末がないため鳴き声しか発さないが。
浴室に持ってきたら一瞬でお陀仏なのでどうしようもない。
つめたかった水がぬるめのお湯に変わった所で桶にカーバンクルが浸かる。
ぷひー…なんて鼻をぷすぷす鳴らす姿は大変愛らしいがおっさんそのものである。
カーバンクル用ハンドタオルをいつの間にやら棚から取ってきて頭に乗せているのだからさらにおっさんくささと可愛さが増す。
防水のカメラ今度買おうかな。
ひとまず使ってる間に頭を洗いたまえ、と尻尾の先でディザストロのシャンプーボトルをペシペシ叩く。
すっかり自分の家の風呂のようにくつろいでいるカーバンクルに苦笑いして、頭を洗い始めた。
その間ぷすぷす鼻を鳴らし、稀にパシャパシャと尻尾で水を弾いて遊んでいた。
長い耳は桶に入れたくないのか頭を桶のヘリに乗せ、耳を外に出している。
どうせ洗わせるのだから濡らしておいて欲しいのだが。
頭を洗い終えてカーバンクルにかからないように泡を流し、ペット用シャンプーに手をかける。
キュイキュイ鳴きながら桶からでないので入ったままの泡風呂状態。
幻想種は贅沢だなぁなんて呑気なことを考えながら全身洗ってやると突然キューキュー騒ぎ出した。
風呂嫌いではないはずなのにあまりにも騒ぐカーバンクル。
なんだか視線を感じて後ろを見ると、いつものニヒルな笑いを浮かべる素敵なおじさんがいらっしゃった。
補足説明として着衣状態であることを添えておこう。
ーーラッキースケベ!
「どこでそんな言葉覚えてきたんです!お母さん教えてませんよ!」
「俗なカーバンクルだなぁ。電気がついてるから覗きにきただけだよ。」
「あんたは覗く前にノックか声かけをしろ!」
突然召喚獣語でロクでもないことを言ったカーバンクルにそんなこと言っちゃいけませんと説教。
音もなく浴室の扉をあけて覗きをしていたアーデンにもツッコミを入れた。
「今更見られてまずいものなんてないでしょ。」
「ないよ!ないけど!気持ちの問題なんだよ!風呂の覗きされて怒らない人はいないって!」
「世の中の二割ぐらいは怒らないんじゃない?」
「特殊事例すぎてなんとも言えねぇよ!」
世の中の二割って多いな。
せめて一割にしなさい。
ツッコミしきった所でハッと我に帰る。
調査したこともない世論に惑わされる所だったが、アーデンおじさんは現在進行形で覗きをしているのである。
「確認したら閉めろよ!もういいだろ!」
「そんな生娘じゃないんだから。」
「なんで俺が悲しい生き物みたいになってんだよ。おかしいだろ。」
とても哀れなものを見る目でラッキー助平おじさんがみてくる。
こいついっぺん絞めたろか。
後ろから早く洗えと催促するようにキュイキュイ鳴き声が聞こえる。
他人事のカーバンクルをジト目で見ると澄まし顔で泡風呂に浸かっていた。
別に見られて減るもんでもあるまいに、とパシャパシャ尻尾で泡風呂をさらに泡立てている。
お前その動作やめないと説得力無いからな。
泡増量しながら言われても。
ノクティスの所にいる王都育ちカーバンクルは素直で可愛らしい飼い主似だったのにうちのカーバンクルは誰に似たんだか。
飼ってないけど。野生だけど。
「どう考えてもディアに似たでしょ。」
「俺の性格の元祖はアーデン、つまりこいつはアーデン似。QED。」
「無茶苦茶な証明だなぁ。数学苦手なんじゃない?」
「教えたのあんただよ。」
さらっと脳内思考を読まれたが気にせずカーバンクルを洗う。
ラッキーで助平なおじさんは退かすのが面倒くさいので放置の方向である。
奴は自分で決めないとテコでも神様でも動かせない。
カーバンクルを泡風呂の桶からだし、緩めのシャワーで流して溜まった浴槽の縁に下ろす。
泡風呂の桶を流して湯水ですすぎ、こっちももう一度風呂にできるぞと示したが浴槽に入りたがった。
謎の犬かきで泳げるカーバンクルは自ら深い浴槽に浸かり、魔法なのか神秘なのかプカプカと浮かんですぴすぴ鼻を鳴らした。