ご都合主義がより一層強くなりますが予めご了承ください。
弟との語らいは存外話題性がない。
いつも弟が問いかけ、兄が答える。
六歳の年齢差は大きく学校に行っていたのかもわからない上に側にいるくせに絵を描き始めてしまうことが大きな原因であった。
ノクティスが年に一度帰省する兄にそれなりに接することができる様になったのは小学校高学年ごろから。
最初のうち。
どこか距離を開ける様に一歩下がって捉える兄にノクティスは苦手意識を持った。
食えないおじさんとは比べ物にならないほど表情が変わり、わかりやすい弟にメディウムは接し方がわからなかった。
そんな不器用な兄弟のファーストコンタクトの話。
十一歳のメディウムは家出から早五年。
交渉用に身につけた違和感がない程度の笑顔で王城の応接室に座っていた。
事の始まりはもとより帰るつもりがなかったのにおじさんに騙され、ハンマーヘッドに置き去り事件。
弟や王都をよく見てこいと意味のわからない命令を下して、一週間後に王都の外に迎えにくると言い残し自らは帝都へとんぼ返り。
ここから王都まで十一歳児に歩いて行けというのかと地団駄を踏んだが、父の友人であるシド・ソフィアが送ってくれた。
ご厚意に甘える形になってしまったので帰りに菓子折りをお届けしよう。
そんな調子で王都についたはいいが、かなり様変わりしていた。
メディウムが王都を離れた当時よりだいぶ発展している。
変わらないのは王城だけで見知った店がちらほらあったりなかったり。
物珍しいものもいくつかあって、ついついキョロキョロ見て回ってしまったらさあ大変。
見事に迷子と勘違いされてしまった。
王都警護隊の隊員がメディウムの身長に合わせて屈みこんだ。
「君、迷子かい?親御さんは?」
王城にいますとは言いづらかった。
正直なんと答えればいいかわからない。
レギスとの仲はもはや断絶状態。
弟など赤子の頃しか知らないし、王都警護隊の人達だって護衛がコロコロ変わっていた。
身の回りの面倒を見てくれていたメイドはいたが、ほとんど覚えていない。
強いて言うなら親はあのアーデンおじさんで、家は帝都グラレアのジグナタス要塞である。
戦争中なので絶対そんなこと言わないが。
無言を貫くメディウムに王都警護隊の男性隊員がツーマンセルで街を見回っていた女性隊員にお手上げと言わんばかりに両手を軽くあげたポーズをとる。
最初はお使いか何かかと思ってそっと見守っていたのだが、だんだん雲行きが怪しくなり声をかけたのである。
彼らは見回り中にこういった迷子に出くわすことも少なくない。
そうした場合はこの付近にある交番の様な王都警護隊の休憩所に連れて行って、身元の確認兼保護をすることになっている。
どこの子か言えなくても親が懸命に探していれば休憩所に情報が入っているはずだ。
二人はメディウムに優しげに微笑みかけ、まだ小さな手を取る。
「こんなところにいたら何があるかわからないからね。少し座れるところに移動しようか。」
王都警護隊は何かあった時に頼る人たちとして子供達に教え込まれている。
王都の学校に通っていないメディウムはそんなこと教わっていないがそれなりに信用できる肩書きを持っているのは確かだ。
何より行きたくないと言いづらい。
弟を見てからでなければ帰れないし、一週間も寝床がないのは辛い。
どちらにしろ安全が確保できる建物にいたかった。
五年ぶりの太陽は骨身にしみる。
体づくりは訓練でできているし、筋肉も問題なくついているが太陽ばかりはどうしようもない。
監禁の弊害が現れていたのか、とにかく暑くて早く日陰に入りたかった。
頷いたメディウムをすぐ近くの王都警護隊の休憩所に連れていった二人は、とある人物の珍しい来訪に一瞬惚けて慌てて敬礼する。
少しだけ風が通るこじんまりした建物に王都警護隊を束ねる将軍、コル・リオニスがいたのだ。
彼も見回りを毎日しているので別段おかしなことではないのだが、まさかいるとは思わなかった。
憧れと畏怖の目で上司をみる。
不死将軍の異名を持つ彼に憧れない隊員などいないのである。
背の高い二人の隊員に阻まれて状況が理解できないメディウムは、前に立つ男性隊員の服の裾をくいくいっと引っ張る。
敬礼ということは上司がいるのだろうが、仮にも保護した子供を放置はいただけない。
高校卒業程度の教育を受けたメディウムだから良かったものを、これが年相応の十一歳児であれば突然いなくなったりするかもしれないのに。
振り返った男性隊員がハッと我に返った様に敬礼を解いてメディウムを備え付けの椅子に座らせる。
上司であるコルは、迷子の保護報告を聞きジッとメディウムを見た。
メディウムもどこか見覚えがありすぎるコルに首を傾げつつ、太陽で若干クラクラする頭を抑えて椅子に背中を預ける。
なんだか調子が悪いなとこめかみを押したところでコルが驚き戸惑った様な声をあげた。
「…メディウム様?」
その名を呼ばれたのは実に五年ぶりである。
数秒間誰を呼んでいるのか分からなかったが、そう言えば本名はその名であることを思い出してチラリとコルを見る。
隠しきれない動揺で眼球が不自然なほど揺れている。
不死将軍ともあろうものが狼狽えすぎではあるが五年も行方不明の第一王子が目の前にいればこうなるか、と考え直した。
自分のことなのに嫌に冷静なメディウムはコルの名をようやく思い出して返答する。
「久しいな。コル・リオニス将軍。昔と変わらないな。」
「は、はい。メディウム様はずいぶんご立派に成長なられました。」
思わずといった顔で社交辞令的な返答をするコルにくつくつと笑い、見栄を張るために優雅に足を組んだ。
ただの迷子だと思っていた二人の王都警護隊員は異様な光景にたじろぎ、視線を彷徨わせる。
憧れのコルが敬語を使う相手はレギス王ぐらいしかいない。
それと同等なのはノクティス王子だけだと思っている二人の隊員は目を白黒させた。
「五年も…行方不明だとお聞きしておりました。」
「ん?ああ。行方不明扱いだったのか。では帰らない方が良いかな。」
「決してその様なことは!陛下がお喜びになられます!」
冗談交じりにくつくつ笑い、またどこかへ消え去ろうとするメディウムをコルが引き止める。
なぜ突然行方不明になったのか、なぜ王都警護隊に捜索命令が出なかったのか、今まで何をしていたのか。
この小さな王子の不自然すぎる五年間、レギスは致し方ないといった表情で覇気がなかった。
ノクティスが生まれた数ヶ月後に妃が亡くなった時も大いに悲しみを背負っていたが、その後すぐに絶望に満ちた顔で自殺でもするのではないかと心配するほど落ち込んでいた時期があった。
今は順調に回復を見せているがやはり元気とは言い難い。
そしてその絶望感を背負ったレギスが一部の部下にしか伝えなかった第一王子メディウムの失踪。
当時六歳の少年が五年もどこで生き延びていたのかは分からないが、とにかく生存報告しなければ。
レギスに忠誠を誓ったコルはなによりもレギスにもう一度活力を取り戻してもらいたい。
単なる行方不明の王子ではないことが今の発言でわかったが、どんな理由であれ保護するのは絶対である。
王城にはできれば帰りたくないメディウムは貼り付けたニヒルな笑いの裏で軽く舌打ちをした。
コルは何も悪くないのだが、王城にいい思い出はない。
レギスが喜ぶという言葉も昔のいざこざで半信半疑。
しかし、職務を全うするコルがどうしても王城に連れて行くといって聞かないので致し方なくアーデンの目論見通り帰ることになった。
善は急げとばかりに部下二人を置いてコルがメディウムを王城へと連れて行くと申し出た。
ここから王城はそう遠くない。
歩いて十数分程で行ける距離感である。
何が何だかさっぱりな二人に職務に戻るよう伝えて、メディウムとコルは歩いていってしまった。
出来事がトントン拍子に進みすぎてツッコミを入れる暇もなかった男性隊員と女性隊員はお互いの顔を見合わせて、今日は何も見なかったと思う方が賢明だという結論に至った。
そして最初の方の応接室に座るメディウムが出来上がるのである。
大事な会議の最中だったのでメディウムが帰ってきたと知ればコルが会議に集中できないだろうとしばし待つ様に懇願した。
一週間は滞在しなければならないので大人しく了承。
首をかしげる見たことないメイド達や王都警護隊の人たちや帝都で耳にした今年から新設された簡易的な魔法と武器召喚、シフトまで扱えるレギス王直属部隊"王の剣"に不思議そうに首を傾げられながら応接室へと通された。
個室の応接室はとある事件があった中庭が見えるのだがコルはその事件を知らない。
どこか冷めた目で美しい中庭を見る子供をコルは眉をひそめながら見つつ、向かいのソファーに座ってメディウムを観察した。
見た限りでは健康的な生活をしているがどうやら陽の光をあまり浴びない生活だったらしい。
かなり白い肌と黒髪のコントラストが目につく。
栄養状態などは専門家ではないので分からないが筋肉のつき方は十一歳児のそれではない。
連れて歩いた時に握った手はすでに武器を振り回す無骨な手だった。
王都内で生活をしていなかったのは確定的である。
一番無難でありそうなメルダシオ協会のハンターとして外で過ごしていたのかと思ったが、武器召喚を一目見れば何処の誰だかすぐに知れ渡る。
噂にだってなる。
何より日焼けしていない真っ白な子供特有の肌が屋根の外から出ていないことを表している。
やはり別のことをしていたのだろう。
メディウムの今の年齢であれば小学校高学年程度。
学校に通っているのかも疑問だが先ほどの会話を見る限りその辺の高校生より理性的に話ができている。
相当の英才教育を受けてはいたが、ここまで詰め込んではいなかったはず。
外で学んでいたのだろう。
ならば誰かに拾われたのか。
拾われたのならばなぜ誰も連れて来なかったのか。
ルシス王国内で目撃情報が皆無であったため帝国軍に連れ去られたと最悪の結果を予想していた。
実際そうなのだがそれでは帰ってきた意味がわからない。
分からないことづくしで眉間にしわを寄せるしかないコルを横目にメディウムは視線が鬱陶しいと小さくため息をついた。
レギスが会議終了後にコルが呼んでいるといわれ、腹心の部下であり心を許した仲間ともあり快く了承した。
応接室ということは会わせたい人がいるのだろう。
宰相であるクレイラスも来る様にと強く念を押されたらしく二人で応接間へと赴くとレギスは硬直してしまった。
忘れるはずもない。
成長したとしても我が子がわからない親が何処にいようか。
すっかり小さな子供から少しだけ大きな子供になったメディウム・ルシス・チェラムがソファーに座って中庭を眺めていた。
向かいにコルが座っていたがそんなことを構うことなく、レギスは我が子に小走りに近寄りその肩を掴んだ。
少しだけ驚いた様な我が子はレギスを見て一瞬だけ泣きそうな顔になり、すぐに取り繕った様に笑顔を作る。
その顔だけで心が締め付けられそうだった。
とある事件で父親として子に何もできなかった、ただただ苦しめてしまった後悔があるレギスは何も言わずに抱きしめた。
行き場のない両手をどうしたらいいか分からずに中途半端に持ち上げるメディウムは内心大慌て。
親の愛情をアーデンから多少なりとももらってはいたが本物の父親の優しさにどうしたらいいか忘れてしまった。
どうしようもない気持ちを表す様に両手が空を切る。
事件を知るクレイラスはメディウムを悲しそうに見て、コルに耳打ちをして今は二人だけにしてやろうと応接室を退出した。
パタンと静かな音を立てて閉まる扉とともにレギスが絞り出す様に言葉をこぼした。
「無事で、いたか。」
抱きしめる力が一層強くなる。
我が子の無事がレギスにとっての何よりの報告であり、ゆるい襟首から覗く痛々しい火傷にズキズキと心が痛む。
父親としての罪の証が我が子の体にありありと残っている。
剣神バハムートの言葉によりメディウムは使命を授かったが当時は十にも満たない子供であったのである。
探し出したい気持ちを必死に抑え、待ちに待った五年間。
ようやっと使命から解放されたのかと期待の眼差しで少しだけ離れてメディウムの顔を見るが俯いて暗い顔だった。
期待には、答えられそうになかった。
「無事でいました。健康状態も問題ありません。引き続き使命を全うします。」
レギスは落胆した。
まだ使命があるという。
当たり前であった。
そう簡単にメディウムが解放されるとは思えない。
真の王に選ばれてしまったノクティスの兄であるメディウムにも何らかの形で重いものを背負わせているはずだ。
しかし、帰ってきたという事実だけでレギスは満足だった。
メディウムの柔らかいほほを両手で包みその首にかけられた母親の形見、銀のネックレスを見る。
毎日欠かさず磨き、身につけているのか綺麗な輝きを放っていた。
「王都にはどれほどいられる。」
「一週間ほど。」
やはり王都で暮らすのは無理な様だった。
それでもいい。
大事な我が子が少しでもいてくれるならば。
無事だとわかるならば。
抱きしめた手をそのまま腰に回して、抱え上げる。
流石に小さな子供とは言わないがかなり軽いメディウムはわたわたと慌てた。
「な、なぜ抱え上げるのですか!?」
「私がそうしたいからだ。ノクティスの元へ行かないか?弟だ。」
まさか忘れているとは思わないが一応補足。
メディウムは眉を寄せしばし考えた後、ゆったりと頷いた。
自分とは違い選ばれたノクティスはさぞ大事に育てられていることだろう。
それに劣等感を抱かないのは難しい。
高校卒業程度の知能があるメディウムとは言え子供であることに変わりはない。
だが、アーデンの命令は命令。
心を殺して会うことを決意した。
レギスの話によればメディウムの自室の隣にノクティスの部屋を設けたそう。
いつでも帰ってきていい様に綺麗にしてあるメディウムの部屋の隣で側近としてつけた年の近いイグニス・スキエンティアと共に勉強中。
ノクティスと二歳ほど歳の離れた子供でレギスの側近の甥っ子だという。
英才教育を施し、頭脳担当として育てるつもりのようであった。
エレベーターに乗って王族の居住区にまで行くのだが、レギスは決してメディウムを下ろそうとはしなかった。
王を一人にできないとクレイラスが付き従い、子供部屋へと向かった。
子供部屋ではおやつの時間だった様でイグニスとノクティスがクリームがたっぷり乗ったマフィンを頬張っていた。
髪の色でどっちがどっちだか把握し、鏡で見る自分を幼くすればあんな風であったなとノクティスを見る。
ノクティスは父であるレギスの突然の来訪と抱え上げられているそれなりに大きな子供に驚いた。
今まで自分以外を抱える父の姿を見たことがないからである。
イグニスと同様に幼き王の盾として控えていたグラディオラスにクレイラスが反応し、追加で説明を受けた。
ノクティスと三歳差、八歳のグラディオラス・アミシティアはかなり背が高い。
がっしりとした体格の割に傷が少ないことから模造刀で訓練でもしているのだろう。
いい加減下ろしてほしいと抗議して降ろしてもらい、レギスの口から紹介された。
五年の時を経て兄弟の再会である。
「ノクト、イグニス、グラディオラス。この子はメディウム・ルシス・チェラム。ノクトの兄に当たる子だ。」
突然ノクティスの兄と言われて大いに困惑した三人はメディウムを凝視する。
こうなるだろうとわかっていたメディウムは愛想笑いを浮かべて丁寧にお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。メディウムと申します。王都の外で生活をしているのですが、一時的に帰還いたしました。本日から一週間ほど王城で生活させていただきます。」
元々家であったはずなのに下宿にでもきたかの様な言い回しではあるがひとまず自己紹介。
にっこりと微笑んだメディウムはしばらく兄弟で話すといい、と言い残して名残惜しそうに仕事に戻ったレギスを見送った。
王族が二人もいるなど聞いていないグラディオラスは父であるクレイラスにそっと近寄ってどうしたらいいか聞くと正真正銘第一王子だと言われた。
よく物語の王族で聞く様な異母兄弟ではない本物の兄弟である。
失礼のない様に、と言い残してクレイラスも部屋を出た。
残された子供四人は顔を見合わせ、おそらく最年長であろうメディウムはぽりぽりと頬をかいた。
三人は向かい合わせのソファーに座っている。
ノクティスの隣にイグニスが座り、イグニスの向かいにグラディオラスが座っておやつを食べていた。
ひとまずグラディオラスの隣に座るのが無難かと、隣を失礼して座った。
一人二つのおやつで予備の紅茶のカップが目の前にあったので自分で適当に入れて一口入れた。
口を濡らさねば気分が落ち着かなかった。
向かいに座るノクティスがジッとこちらを凝視し、カップから口を離したタイミングでぶっきらぼうに言った。
「兄がいるなんて、聞いてないんだけど。」
メディウムのノクティスに対する最初の印象は"生意気なクソガキ"である。
「王都の外で生活をしていたもので。帰る予定もありませんでしたし伝えるか迷ったのでしょう。ノクティス様の好きなようにお呼びください。」
ノクティスのメディウムに対する最初の印象は"不気味な笑顔"となった。
「じゃあ兄貴って呼ぶ。」
「ええ。なにやら愛称があるとお聞きしました。ノクト、と呼んでも?」
「いいよ。後何で敬語なの。」
「癖のようなものです。お気に召さないのであれば変更いたしますが。何分、貴方の赤子の頃しか知りませんので兄弟への接し方がわからないのです。」
困ったように眉を下げるメディウムに表情を偽ることを知らない子供達は本心なのだろうと納得する。
ノクティスとて困惑しているし兄のように接してほしいとレギスに言われたイグニスも本物の兄がいたことに心底驚いている。
唯一母親が妹を身ごもっているグラディオラスはなんとなくわかるかもしれないが会話となるとさっぱりであった。
一先ず家族に敬語はどうなのかということでメディウムに敬語をやめてほしいとノクティスが要求した。
すんなり受け入れられ、ガラリと雰囲気がかわる。
「改めて。メディウムだ。歳は十一。六歳差になるな。先程も言ったように一週間世話になる。其々の紹介はあらかじめされているからしなくても構わん。好きなように呼んでくれ。」
ノクティスがメディウムに抱いた第二印象が"妖しい兄"になった。
だが嫌いではない。
貼り付けたような笑いから変わったニヤリという笑い方はなぜかいい印象が持てた。
メディウムはノクティスを怪しまれない程度に観察する。
本物の武器はあまり持ったことがないだろうが訓練はしているようだ。
勉強もしているようだが机の端に避けられたテキストは小学校中学年レベル。
英才教育とは言い難いがそれなりの教育である。
見ていると鼻で笑ってしまうレベルだが五歳ならば難しい方にはいるだろう。
所作の一つ一つは家庭教師でも付けられているのかお世辞にも綺麗とはいえないが整っている。
優雅に紅茶を一口含み未来の王様をまだ弟とは見られなかった。
可愛らしいといえばそうだがそれだけである。
自分も昔はこんな顔だった。
「メディウム様は王都の外で生活をなされていたのですよね。」
「ああ。外は自由だ。その分責任が付きまとうがな。」
不意にイグニスが質問する。
問いには肯定を返してイグニスも観察した。
こちらは完璧な帝王学に基づいた英才教育を受けている可能性が高い。
似たような教育を猛スピードでこなしてみせたメディウムだからわかる。
王都から出たことがないという世間知らずを除けば外に出しても恥ずかしくない子供だろう。
若干可愛げがないが大目に見る。
「王都の外ってどんなところなんだ。」
「写真ではないが絵がある。見るか?」
「見る。」
王都の外に興味を持ったノクティスに自らが描いた水彩画をスケッチブックを召喚して呼び出す。
武器召喚ばかり見てきたノクティスはまさかスケッチブックを出す人間がいると思わなかったらしくまじまじと見てきた。
まぎれもない血族の証でもある。
スケッチブックを机に置いてノクティスの方へ向けると、パラパラとめくり始めた。
完全な監禁のためネットワークで調べたり出張帰りでお土産にとられた写真を模写して描いたものが多い。
独学にしては中々の絵に三人は目を奪われた。
見たことない街並みや海というもの。
知らない地形に知らない場所。
ビルなど一つもない外の世界を初めて見た三人は感嘆の声を漏らした。
気に入ってくれたようで何よりである。
「これはメディウム様が?」
「趣味だな。欲しいならそれごとあげよう。どうせもう満杯だ。」
「欲しい。」
グラディオラスに自分の絵だと伝え冗談交じりにあげるとノクティスに言えば即答で欲しいと言われた。
多少面食らったが弟にプレゼントを贈って懐柔するのも悪くない。
欲望に忠実とは存外可愛げがある。
子どもらしいと言えばそうなのだろう。
「兄貴は魔法が使えるのか。」
「ああ。見せてあげようか。どんなのがいい。」
「綺麗なのがいい。」
少しだけキラキラした目でメディウムに魔法をねだるノクティスになんだかわからないが衝動的に頭を撫でる。
不思議そうにこちらを見てきたがなんでもないと笑って片足をタンッと強く床に打ち付けた。
パキッと音を立てて地面が次々に霜で覆われていく。
氷の外殻をまとった炎が所々地面に凸凹を作り、自然と冷たい空気を暖かい空気に変えた。
氷が溶けないのはそういう魔法だからである。
その炎を宿した氷をいくつも生成し、時たま雷を宿す氷も作り茎から花へと造形していく。
成長するようににょきにょきと作られていく花達はあっという間に霜を覆い尽くした。
ノクティス達がいる場所を避けるように出来上がった花は膝の高さまである。
炎の赤や雷の黄色でキラキラと輝く氷達は魔法による温度操作で寒さを感じない。
氷に直接触れても溶けもしなければ冷たくもなかった。
クリスタルのような花達に魅せられて顔を輝かせる子供達にメディウムは満足そうに笑う。
なんだか知らないが彼らを大事にしようという気になってきた。
保護欲や庇護欲というものなのだが彼はよくわかっていない。
「これ、飾りたい。」
仏頂面は何処へやら。
花瓶を指差して笑う弟の頭を撫でて花瓶の中に氷の花を数本生成する。
水を吸わないアートは元々さしてあった花を飾り立てる小さな花弁を作った。
これはまぎれもない魔法で彼がノクティスの兄ということは十分頷けた。
弟の要求に快く答えるメディウムという兄はイグニスやグラディオラスの中で心優しい年上という位置付けになった。
でも、このままでは移動できないと困るイグニスに歩いて見るといいと悪戯っ子のように告げる。
氷の花畑にそっと足を入れると半径一メートルほどの空間を花達自らが作った。
わさわさと動く花達はイグニスの進路に合わせて道を作る。
作っては戻り、作っては戻り。
実は先に敷いた霜がセンサーのようになっていて花が避けるようになっていた。
抜け目ないメディウムに感心し、なんだか面白そうだとテンションの上がったノクティスは部屋を歩き回る。
全て同じ花ではなく、所々違う花が咲いていて聞けば外の花で様々な国のものだという。
中にはテネブラエのジールの花もあった。
完全にテンションが上がりきったノクティスと興味津々といったイグニスとグラディオラスが外の話をねだる。
苦笑いのメディウムがそっとテーブルの上に氷の箱庭を作って外の説明を事細かに始めた。
これがメディウムとノクティスの最初の出会い。
なんてことない普通の兄弟になるまで時間を要し、ギクシャクしたがお互いに親愛を持っていた。
そしていつしか兄は弟に永遠の忠誠を誓うのである。
それがいつ頃の話なのかはっきりと覚えていないが、最初の時から"この子を守ろう"と思ったのは間違いないだろう。
戻ってきたレギスに驚かれてそっと魔法を解いた後に残った花瓶の氷の花はノクティスの部屋に飾られている。
王都襲撃の後も咲き誇る花は綺麗に輝き続けていた。