「申し訳ありませんが宗谷艦長、もう一度言ってもらえませんか。」
べんてんの真冬から入った緊急連絡は確かに深刻な物だったが。
問題は真冬から出されたその打開策の方だった、だから綾は思わず聞き直してしまったのだ。
『だから言ってるんだろう、若宮で艦砲射撃をして、スキッパー部隊を発進させてくれ、言ってるんだよ神城艦長。』
どうやら聞き間違いでは無かった様で綾は周りの副長を含めてた乗員達を見る。
真冬との会話内容は艦橋内にも聞こえており、全員困惑とそして怒りを浮かべている、綾は溜息を付く。
それはそうだろう、若宮はあくまで行船支援母艦であり、べんてんの様な艦艇とは違うのだから。
なのに真冬はその若宮に艦砲射撃で相手の抵抗の意思を奪い、あまつさえスキッパー部隊を発進させろと言っているのだから。
なぜこうなったのか、それはべんてんが機関に故障を起こしてしまった事が原因だった。
その為べんてんは作戦に使用出来なくなってしまった。
「・・・代わりの艦艇は駄目なんですか?」
『今から手配しても最低12時間は掛かる・・・それくらい時間があれば連中がこちらの動きを知って証拠隠滅を図って逃走出来る。』
「・・・・・」
『そうなれば情報調査室が苦労した事が全て無駄になる、それは出来ね相談だ。』
真冬の言う事も理解は出来る、せっかく情報調査室が密輸組織の拠点を突きとめた事が無駄になるかもしれない。
「宗谷艦長の言い分は分かりました、しかし私には乗員と艦に対する責任があります、それは理解して頂けますね。」
作戦が失敗する事は確かに避けたいが、だからと言って乗員と艦を危険に晒す事は綾には出来ない。
『ああ分かっているさ、だから神城艦長、お前さんが判断してくれ・・・行くか逃げるかを。』
ずるい聞き方だと綾は思う、ただこちらに判断の権限を渡したと言う事は、どちらでも従うという真冬の意思を示しているのだろう。
「言っておきますが、これを海上安全整備局は問題とするでしょう、お互い経歴に傷が付くかもしれません、それでも実施する気ですか。」
当然だ、若宮は支援を指示されたのだ、べんてんの代わりを務める事を良しとはしない可能性はある。
そうなれば依頼した真冬も、受けた綾も責任を追及されるだろう。
『そんな物くそ食らえだ神城艦長、俺は出来る可能性があるのに逃げるのは性に合わなねえんだ。』
なるほど彼女らしい言い分だと綾は思う、だとすれば自分の答えは決まっている。
「了解しました、ただ艦砲射撃とスキッパー部隊の突入タイミングは偵察の結果、私が判断しますが構いませんね。」
『・・・ああ神城艦長の判断に従うぜ、それは約束する。』
「結構です、ではスキッパー部隊の受け入れの準備をするので暫らくお待ち下さい。」
「分かった・・・神城艦長、あんた容姿に似合わず度胸あるんだな、気に入ったぜ。』
「そう言う事は作戦が成功したら言って下さい宗谷艦長。」
『ふふ・・・そうだな、じゃ待ってるぜ。』
真冬との通信を終わり、綾は副長を説得する為声を掛けようとしたが・・・
「整備科に連絡、スキッパー部隊の受け入れを準備させます艦長。」
だが副長は綾の決定に異義を挟む事も無く受け入れる、他の乗員達も同様に。
「副長、私は・・・」
「我々は艦長の決定に従います・・・艦長が間違った判断をされるとは思っていませんから。」
肩を竦め副長は綾の問いに答える、その顔に絶対の信頼を浮かべながら。
時々綾は皆にこれ程までに信頼される事をしただろうかと思う事がある。
「感謝します副長、皆さん。」
それは分からない、がそうであればその信頼に答える様にしなければならないと綾は決意する。
「スキッパー部隊の受け入れを完了しだい、飛行船での偵察を開始します。」
「了解です艦長。」
スキッパー部隊の受け入れ完了後、綾は若宮を密輸組織の拠点へ向けさせる。
「飛行船の発進準備は完了してますか?」
「はい、何時でも発進可能です艦長。」
綾の問いに副長が答える。
「それでは発進させて下さい、あと気付かれない為に高度と距離を取るのを忘れない様に。」
「了解です艦長、飛行船を発進、高度と距離を十分取る様にします。」
副長は復唱すると、艦内通話器を取り上げて、飛行科に指示を出し始める。
「艦長、べんてんの宗谷艦長をお連れしました。」
そんな中、スキッパー部隊を率いる真冬が艦橋にやって来た。
そう率いる為にだ、聞いた話し通り、艦長自ら突入部隊を指揮するらしい、海賊船長の名は伊達ではないらしいと綾は苦笑しつつ艦橋に入ってくる真冬を見る。
通常のブルーマーメイドとは違う黒色の制服にマントを着用したショートカットの女性だ。
「よお神城艦長、世話になるぜ・・・何だ天音この艦に乗艦してたのか?」
挨拶した真冬は綾の後ろに控えていた副長、桜井 天音を見て嬉しそうに話し掛ける。
「お久しぶりですね宗谷艦長。」
それに対し桜井副長は何時も通りドライに答える、公私を弁えているからだが。
「2人はもしかして?」
「同期です艦長、ですが今は任務中なのでお気遣いは無用です。」
「何だくそ真面目ところは変わってねえな。」
綾の問いに桜井副長は表情を変えずに答え、真冬は面白くなさそうにぼやく。
「・・・そういう真冬は適当なところが変わってませんね、それでよく艦長が務まるものです、ああ独り言なので気にしないで下さい。」
「ぷっ・・・」
「・・・前言撤回だ天音、お前大分変わったな。」
桜井副長の返しに綾は噴出してしまい、真冬は苦笑いを浮かべる。
「朱に交われば・・・ですよ宗谷艦長。」
「そういう事か、なら納得だ。」
桜井副長が綾を見て言った言葉に真冬が納得した様に答える。
「どういう意味ですかお2人共。」
綾は額に手を当てて溜息を付くのだった。
何気に副長の名前が出てきましたね(笑)。
宗谷 真冬とは同期という設定で、着任初期は規則にうるさい委員長気質の女性でした。
彼女との出会いを何時か書いてみたいとは思っていますが。
それでは。