飛行船支援母艦若宮   作:h.hokura

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強制執行課との共同作戦実施中。



ブルーマーメイド強制執行課3

『ワイバーン7予定空域に入ります。』

「偵察カメラ作動、映像をモニターへ。」

綾が指示すると艦橋前面に設置された大型モニターがちらつきやがて画像が映し出される。

穏やかな海上の様子が写しだされる、そしてカメラが動き始めると画面に小さな島影が映る。

最初は画面上に小さく写っていた島影が画像が拡大されると詳細に見えてくる。

小規模な桟橋を持つ島の様だった、止まっている船舶は密輸組織の高速船だろう。

島の中央付近には幾つかの小屋がある、その周りを歩き回る男達、明らかに武装しているのが分かる。

それだけでなく、海岸線には機関銃が設置され、携帯式の小型噴進発射筒を持っている者までいる。

「予想以上に重武装ですね、真っ正直に突っ込んだら大損害です。」

艦長席に座る綾の隣に控える桜井副長が画面を見ながら眉を顰めて話す。

「その通りですね、一体何処からこんな物を持ち込んできたのやら。」

情報調査室からの情報では複数の軍需企業が絡んでいるらしい、近隣で多発する紛争目当てらしいが。

「敵味方に無分別に売っていると言うのだから悪質です。」

桜井副長が呆れた様に言う、言わば儲かれば相手先を選ばないらしい、その結果など眼中に無いのだろう。

「その悲劇を防ぐ為にもこの作戦は成功させなければなりませんね。」

綾は暫らく考えると指示を出す。

「日が落ち次第島に接近し、海岸線の陣地と高速船を速やかに無力化します。」

「了解です艦長。」

若宮による突入作戦がいよいよ開始され様としていた。

 

小島・夜

見張の男は欠伸を噛み殺しながら双眼鏡で海上を見ていた。

「たっく暇だぜ・・・何か起こって欲しいもんだぜ。」

男は気楽そうに言って笑う、ブルーマーメイドかホワイトドルフィン来れば暇つぶしにはなる。

何しろこちらにはたっぷりの武器がある、返り討ちにしてやると男は考えていた。

もちろん艦艇を使って脅かしを掛けてくるだろうが、それならば高速艇でかく乱してやるまでだ。

密輸組織の連中はそこまで計画を立てて待ち構えていたのだが・・・

「え・・・?」

双眼鏡の視界に艦船が現れた、すわ現れたか?と思った男だが様子がおかしい事に気付く。

接近して来る速度がかなり遅いうえに、通常見掛けるブルーマーメイドやホワイトドルフィンの艦艇にしては大きすぎた。

だから男は最初、民間の船が接近してきたのかと思ってしまったのだが、それにしては照明どころか、航海灯すら消しているのは何故なのか分からなかった。

混乱した為男の初動が遅れたのを攻めるのは酷かもしれない、誰だって大型の艦艇で攻め込んで来るなど想像もしないだろう。

次の瞬間、男を強烈な光が襲い視界を奪う。

接近した若宮が探照灯で島や高速船を照らしたのだ、これで密輸組織の連中は全員視界を奪われた。

 

「左舷艦載砲射撃準備よし!」

砲術長が報告してくる。

「射撃開始して下さい、目標桟橋に停泊中の高速船。」

綾の命令が即座に発せられる。

「了解、目標桟橋に停泊中の高速船、撃ち方はじめ!」

若宮の左舷側に設置された10.2センチ砲が射撃を開始する。

『目標1に命中確認、目標2及び3は至近弾、弾着修正右に2及び3。』

「弾着修正急げ!」

見張り員からの報告に砲術長が叫ぶ。

『左舷1番修正右に2、2番を3に修正・・・よし。』

「撃ち方はじめ!」

再び10.2センチ砲が火を吹き、密輸団の高速船を航行不能にしてゆく。

『島より発砲、左舷600に着弾、小型噴進弾と思われます。』

「艦長、目標を海岸線の機関銃陣地へ変更します。」

砲術長が綾に報告してくる。

「了解です、手前に着弾させて下さい・・・出来れば人的被害を抑えたいですから。」

「目標、機関銃陣地、手前に着弾させます・・・大丈夫です艦長、うちの砲術員は優秀ですから。」

綾の言葉に砲術長は微笑んで答える。

『照準、目標手前へよし。』

「よし、これで決めましょう・・・撃ち方はじめ!」

奇襲と言う形になった若宮の砲撃によって密輸団の連中は陣地の維持どころで無くなり後退してゆく。

「旨く行きましたね。」

モニターを見ていた桜井副長が言う。

「そのようですね・・・まあこんな常識外れをやられてはね。」

改インディペンデンス型の様な軽快な艦とは違う大型の若宮でこんな事を実行するなんて普通は無い。

「しかし・・・これでまたあの二つ名が不動になりそうですね。」

ブルーマーメイド内での若宮の二つ名である便利屋、またその名が広まりそうで綾は溜息を付く。

「しかたありませんね、こればかりは。」

桜井副長はそう言って苦笑するしかなかった。

「・・・宗谷艦長にスキッパー部隊の発進を連絡して下さい。」

その辺の事は今は置いておく事に頭を切り替え綾が指示を出す。

「スキッパー部隊へ、発進せよ繰り返す発進せよ。」

いよいよ作戦は最終段階に入ろうとしていた。

 

「しかしあの艦長ほんとに度胸あるな・・・支援母艦の艦長にしておくにはもったいないぜ。」

若宮の行動を見ていた真冬は不敵な笑みを浮かべて言う。

「帰ったら姉貴に頼んでみるか・・・神城艦長をこっちにくれってな。」

綾の知らない所で厄介事が始まった瞬間だった。

 




若宮の艦砲射撃については、この艦の元ネタである、ユニコーンが朝鮮戦争時に対空砲で砲撃しという逸話を元にしてます。
空母にして工作艦、時には輸送艦と何でもやらされていたユニコーン、それもあって若宮も作品中で様々な事をやらされます(笑)。

それでは。

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