飛行船支援母艦若宮   作:h.hokura

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強制執行課編・完結です。



ブルーマーメイド強制執行課4

『スキッパー部隊へ、発進せよ繰り返す発進せよ。』

若宮の艦内に声が響き、乗員達によってスキッパーが下ろされて行く。

その動きは迅速でかつ的確だった、まるで何時もやっている様に・・・

もちろん若宮もスキッパーを搭載しており扱うのが初めてではない。

だが通常は救助や艦艇間の連絡のみであり、べんてんの様に緊急発進を想定していない。

だが若宮の乗員達はそれを難なく行っており強制執行課のメンバーを驚かせていた。

「艦長・・・こいつら何でこうも手際がいいんですかね?」

真冬の部下の1人が驚いた表情を浮かべ聞いてくる。

「まあ分からんでもないさ・・・お前達も若宮がブルーマーメイド内で何て言われてるか知ってるだろ。」

若宮の二つ名である便利屋・・・様々な任務を任される彼女達に対する少々の敬意とそれに倍する揶揄を含んだ名である事はブルーマーメイド内で知らない者は居ないだろう。

「何でもやらされてきたから大概の事は連中出来ちゃうんだろうな。」

そのお蔭でまた様々な事を任される事になる・・・皮肉な話しだと真冬は内心苦笑する。

「でもそうなったら普通腐りませんか、私達は便利屋じゃないとか言って。」

様は厄介事を毎回押し付けられている様なものだ、乗員にしてみれば面白くはないだろうと、真冬の部下達は皆思った。

現に若宮の乗員達にとって『便利屋』という言葉は禁句だと言われているからだ。

「それは多分、此処の艦長殿が彼女だからだと思うぜ。」

「彼女・・・神城艦長だからと言う訳ですか?」

真冬の答えに部下達は顔を見合わせて聞いてくる。

「天音、此処の副長だが、女子海洋学校時代は規則が服を着ている女って呼ばれていたんだが。」

学校時代の事を思い出しながら真冬は言う。

「兎に角何より規則を重んじる女でまったく融通が利かない・・・だからさっき艦橋で会って驚かされた。」

部下達を見渡して真冬は言う。

「天音が居てよく俺の話が通ったなってな、あの女相手が上司でも規則と言う点では妥協しないしな。」

しかもこっちの嫌味にしっかり切り返してきやがったと真冬は内心苦笑する。

「神城艦長に心酔してやがる、まあこれは他の乗員達にも言えるがな。」

周りで準備を進める乗員達を見ながら真冬は呟く。

「だから天音以下若宮の連中は任された任務が厄介事だとしても、神城艦長の命じた事だから全力で答える、そう思っているんだろうよ・・・考えてみれば凄いカリスマだ、もっともあの艦長自身はそれに気付いちゃいないみたいだがな。」

肩を竦めて真冬はこの話を打ち切る。

「さて与太話はここまでだ、俺達の仕事を始めるぜ・・・若宮の連中が此処まで答えてくれたんだ、これでしくじったら強制執行課の名折れだがらな、行くぜ。」

「「「「了解!!」」」」

強制執行課のメンバー達が敬礼をすると準備されたスキッパーに乗り込んで行く。

 

『スキッパー部隊発進しました。』

艦橋に設置されたスピーカーから報告が入ると共にモニターに発進して行くスキッパー部隊が写し出される。

「島の状況はどうですか?」

綾の声にモニターは再び飛行船から撮られる島の様子を映し出す。

一時パニック状態になった密輸団だが、今は冷静を取り戻し迎撃体制を整えつつあった。

「ワイバーン7の高度を落とさせて探照灯を照射し、連中の目を引き付けて下さい。」

そう指示を出す綾に天音、桜井副長が確認してくる。

「その場合、銃撃を受ける可能性がありますが。」

「構いません、死傷者を出すよりはましです。」

「了解です艦長、ワイバーン7の高度を落し探照灯の照射を行なわせます。」

桜井副長は復唱すると艦内電話を取り上げて飛行管制室に指示を伝える。

この一連のやり取りを真冬が見ていれば再び驚かされていただろう。

飛行船にそんな事を行なわせるのは完全に規定違反だ、昔の天音だったら確認ではなく抗議していただろ。

そこには天音の綾に対する絶対的な信頼感が見て取れる。

 

「ほんといい度胸をしているぜあの艦長。」

スキッパーで島に接近していた真冬は突然上空に現れて島を照射し始めた飛行船を見て呟く。

密輸団は再びパニックに襲われている、連中も飛行船が居る事は予想していただろうが、まさかこんな行動を取るだろうとは思っていなかった様だ、先程の大型艦での艦砲射撃同様に。

そうなれば後は楽だった、島に上陸した強制執行課のメンバー達はろくに反撃の出来ない密輸団の連中を瞬く間に鎮圧した。

 

「終わりましたね。」

機関故障で作戦に参加出来なかったべんてんが到着し捕縛した密輸団が乗せられてゆくのを見ながら綾はほっとした表情を浮かべて言う。

「・・・そうですね。」

だが桜井副長の表情は晴れない、何故なら天音はこの後の事が非常に気掛かりだったからだ。

真冬が今回の事で綾を気に入ったの確かだろう、天音としては敬愛する綾が認められるのは嬉しい。

だが真冬が気に入った相手を必ず自分の手元に置きたがる事を天音は女子海洋学校時代の経験から知っている。

「どうかしましたか副長?」

天音の様子を気にした綾が聞いて来る。

「・・・いえ何でもありません艦長。」

自分達から艦長を引き離させる事は絶対させない、天音はそう決意を固める。

「なら良いのですが、無理をしない様にして下さい副長。」

「配慮感謝します、では今後の航路について航海科と打ち合わせてまいります。」

何時もの様に冷静な天音が、実はそんな事を考えているとはその時綾は思いもしなかった。

 

後に綾の知らない所で起こる、真冬と天音以下若宮乗員達との『神城艦長』争奪戦のゴングが鳴った瞬間だった。

 

21:10

密輸団の拠点制圧作戦終了。




真冬は書いていて楽しいキャラだったので、また綾とのからみを書いてみたいですね。

それでは。

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