飛行船支援母艦若宮   作:h.hokura

16 / 57
知名 もえか編2話です。
彼女達の苦悩は続きます。



知名 もえか2

何故こうなってしまったのか?

横須賀女子海洋学校に入学し、武蔵艦長に任命されたもえか。

念願だったブルーマーメイドへの第一歩を明乃と共に踏み出す事が出来て嬉しかった。

それにもう一つの願い、あの少女の事を知る機会が訪れたのだから。

彼女が横須賀女子の生徒なのは、あの時の大人達と彼女の会話から間違いないともえかは確信している。

だとすれば横須賀女子に来ればあの少女の消息を知る事が出来るかもしれない。

初めての実習航海が終わったら、もえかは少女の消息を調べるつもりだったのだが。

その初めての実習航海は今や最悪の展開を見せていた。

出航からしばらくは問題なかった、武蔵の乗員に選ばれるだけあって生徒達は皆優秀だったからだ。

それが集合場所の西之島新島沖に近付くにつれもえかは様々な事象に悩まされる様になる。

まず武蔵の電子機器が不調を訴え始めた、レーダー、無線、戦術ネットワーク、航法システム。

乗員達がいくら調べても、予備のシステムに切り替えても一向に回復しなかった。

そのうち途切れ途切れだった教官艦さるしまとの通信が完全に途絶してしまった。

もえかはさるしまの通信士が最後に訳の分からない言葉を喚き散らしていた、と言う報告に不安を覚えた。

ここで横須賀女子に戻るべきか悩んだが、状況を確認する為もえかは集合場所に向かう決断を下す。

だがそれは始まりに過ぎなかったのだ、むしろ恐怖はここから加速する。

次の当直の為艦橋に向かっていたもえかに、息を切らせ走りよって来る二人の乗員。

「「か、艦長!」」

「どうかしましたか?」

2人の尋常でない姿にもえかは不安が更に大きくなるのを押さえ切れなかった。

「それが皆が・・・変なんです、あれじゃまるで、ひっ!」

乗員の1人が説明しようとして悲鳴を上げる。

通路の奥、落とされた照明で暗闇になった場所から数人いや十数人の乗員達が現れる。

だが彼女達は表情が抜け落ち、足取りもおぼつかない、なのに確実にもえか達へ向かってくる。

まるで何かに取り付かれた様だともえかは恐怖に陥る。

「「艦長・・・」」

「2人共こっちへ、艦橋に向かいます。」

怯える二人を連れて艦橋へ向かうもえか、彼女自身も恐怖の余り足が震えるが、艦長としての責務を思い出し何とか耐える。

幸い迫ってくる乗員達は歩く速度を変えずにいたので、3人は何とか艦橋に逃げ込む事が出来た。

「・・・これは?」

艦橋には誰も居なかった、当直時間中で有る筈なの乗員の姿がまったく無くもえかは絶句する。

しかし気を取り直すと艦長席に向かい艦内通話器を取り、無線室に繋ぐ。

「無線室、艦長の知名です、横須賀女子に・・・」

『うう・・・ああ・・・』

「!?」

しかし無線室から帰って来たのは訳の分からない言葉を喋る乗員の声、そうさるしまの様に・・・

もえかは通話先を変える、機関室、レーダー室、ダメコン、だがどこも通じないか、通じても無線室と同じ意味不明な言葉が返ってくるだけだった。

「・・・・」

最早正気を保っているのは自分達だけではないのか?もえかは今にもその場に座り込んでしまいそうになる。

だがそんなもえかを他所に事態はなおも悪化してゆく。

今度は艦橋のドアを激しく叩く音が響く。

「艦長、ドアを強引に開けようとしています!」

乗員の声にドアを見るもえか、それは開けると言うより破壊しようとする様にしか見えない。

「動かせる物をドアの前に・・・早く。」

乗員の娘達と共に、机や椅子などをドア前に置き、外から開かれない様にするもえか。

何とかこれで侵入を防げるが、それは艦橋にもえか達が閉じ込められた事を意味していた。

 

その後、もえかはその時点でまだ生きていた非常回線で救援要請を行なったが、返答が来る前に回線は閉鎖されてしまう。

そのころには艦橋の機能も全て奪われ、もえか達は辛うじて残ったモニターシステムで状況を確認する以外に何も出来なくなってしまっていた。

そしてもえかはそれ以後、耐え難い状況を見せ続けられる事になる。

まず最初は東舞鶴の教員艦隊との遭遇だった。

危険を感じたもえかは何とか武蔵の状況を伝え様としたが・・・

双方が直ぐに戦闘状態になってしまった為、せかっく送った発光信号も気付いてもらえず、教員艦隊が壊滅して行くのをもえか達は胸が裂かれる様な思いで見ている事しか出来なかった。

そしてもえかにとってはもっとも最悪な状況、晴風との遭遇が起こった。

しかも明乃はスキッパ―で武蔵に接近をしようとしたのだ。

もえかが彼女を失ってしまうと言う恐怖に襲われたのは言うまでも無い。

結局接近は失敗、明乃は海に投げ出されてしまうのだが、かろうじて救助されるのが確認できもえかは安堵した。

そして晴風は武蔵から離れていった、明乃が乗員と艦の安全を優先すべきと判断したのだろう。

もえかは明乃がそう判断してくれた事が自分の事の様に嬉しかった。

「そうよミケちゃん、貴女は艦長として優先すべき事をしたの、それは正しい事だから。」

自分の事を助けられなかった後悔に襲われているだろう明乃を思って、もえかはそう呟くのだった。

離れて行く晴風を見つめながら・・・




アニメでは武蔵の艦橋に幽閉されていた知名 もえか達ですが、その心境はどんな物だったしょうか?
まあそれを想像して書いてみたのですが。

それでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。