晴風乗員達によって開放された武蔵。
その後駆けつけてきたブルーマーメイド艦隊の乗員が乗り移り以後の横須賀基地への回航を行なう事になった。
これは本来の武蔵の乗員である生徒達の殆どが晴風乗員達との戦いで失神状態になってしまった事がある。
また横須賀女子に向かわないのは当事者達が乗っている為と、それまでの戦闘で沈没の危険は無いものの損傷が酷く、横須賀基地の専用ドックに入渠させる必要があったからだ。
その為明乃ともえかは泣く泣く別れなければならなかった、まあ明乃は晴風を指揮して横須賀女子に帰港する任務が有るので仕方が無い。
2人はまた再会を約束し別れるのだった。
そして横須賀基地に武蔵が接岸した時点で、もえか達はようやく全ての事から開放された。
もっとも翌日から事情聴取や報告書の作成などで暫らく拘束される事を乗り込んで来たブルーマーメイド隊員に言われてしまったが。
兎も角帰ってこれた事は確かだ、もえか達は臨時に割り当てられた横須賀基地の宿舎に向かう。
早く風呂に入り着替え、ちゃんとしたベットで寝たい、それが今のもえか達の気持ちだった。
失神してしまった生徒達の搬送が行なわれる中、もえか達はタラップを降りて桟橋に立つ。
もえかは地に足が着いたとたん危うく座り込んでしまいそうになった。
他の2人も同様で顔を見合わせて苦笑してしまう。
やっと帰ってこれた・・・今の3人はその事だけしか考えられなかった。
ふともえかは武蔵が接岸した隣にブルーマーメイドの艦艇が接岸して居る事に気付く。
どうやら飛行船支援母艦の様だったが、普段もえかが見かけるものは少々違って見えた。
大分小柄でそのわりに水線面から飛行甲板までの高さがかなりある。
その特徴的な支援母艦からもえか達の様にタラップを降りて来る2人がいた。
眼鏡を掛けた理知的な女性と美しい黒髪の清楚な女性。
「!?」
もえかはその清楚な女性を見た途端心臓が止まるかと思う程の衝撃を受ける。
その女性にもえかが幼い時に出会ったあの少女の面影を見たからだ。
「艦長?」
一緒に居た乗員の娘が声を掛けて来るがもえかには聞こえていなかった。
桟橋に降り立った2人はそんなもえかに気付く事も無く司令部施設のある区画へ歩いて行く。
声を掛けなければ・・・でも彼女はそんな昔の事を覚えていてくれるのだろうか。
もえかの心中をそんな疑問が駆け巡り声を掛ける事を躊躇させる。
だがもえかがそんな躊躇に囚われていたのは極わずかだった。
「2人共先に行って下さい。」
「「艦長?」」
戸惑う乗員の娘達を残しもえかはあの2人を追う、この時を逃せば次は無いかもしれない、今回の初航海で嫌と言うほど思い知らされたからだ。
「あ、あの・・・」
直ぐに追いついたもえかが声を掛けると2人の女性が振向く。
「貴女・・・横須賀女子の生徒ね、どうかしたのかしら。」
理知的な女性がもえかを一瞥して問い掛けてくる、一方清楚な女性の方は目を見開き驚いた表情を浮かべている。
「えっとその・・・」
だが声を掛けたもののもえかは何て言えば良いのか分からず言葉が続かない。
考えてみれば彼女たちはブルーマーメイドの隊員だ、今更ながらとんでもない事をしているのではないかともえかは考えてしまう。
そんなもえかを救ったのは他ならない清楚な女性の方だった。
「貴女もしかして呉の施設にいた娘かしら?」
覚えていてくれた・・・もえかは今までの疲れも吹き飛ぶ様な感激に囚われていた。
「しかしあの時の女の子が今や私の後輩、横須賀女子の生徒になっているなんて・・・私も歳を取った訳ですね。」
清楚な女性、飛行船支援母艦若宮の艦長である神城 綾二等保安監督官は困った表情で言う。
「いえそんな事は・・・」
初めて会った時も今の自分と同じ年齢だったにも係わらず美人だと思っていたが、現在目の前にいる彼女は年齢を重ねた事によって更に大人の魅力を増しているともえかは思い、我知らず頬を赤らめてしまう。
「それであの時はとてもお世話になりました・・・ずっとお礼を言いたくて。」
しかし時間があまり無いと思いもえかは話を進める。
綾は司令部へ行かなければならなかったが、先に若宮の副長を行かせて、もえかの為に時間を作ってくれているのだから。
「大した事した訳ではないのだけど・・・今の立派な姿を見ていると声を掛けられて良かったと思えますね。」
微笑んで見つめている綾の姿はあの頃と変わっていないともえかは思った。
次あたりで完結の予定です。
知名 もえかの話しはまた書いてみたい思いますが。
それでは。