・・・まあ最後のシーンはTS物の定番と言う事で。
神城 綾と古庄 薫
横須賀女子海洋学校所属超大型直接教育艦武蔵・飛行船格納庫
格納されている飛行船のメンテナンスハッチを閉じて1人の女子生徒が伸びをする。
「問題無しと。」
そう呟く美しい黒髪をした作業用のつなぎを着た女子生徒。
彼女の名は神城綾、超大型直接教育艦武蔵の飛行船オペレーターだった。
そう彼女は飛行船の操作が任務で、整備は専門の生徒達が本来は担うのだが、自分で動かすものだからメンテナンスにも係わりたいと整備を手伝っているのだ。
ちなみに整備は終わり担当の生徒達は既に帰っているのだが、綾は残って点検していたのだった。
別に問題が在った訳では無い、ただこのままだと、更衣室や風呂で他の生徒達と一緒になってしま
うからだ、綾は未だに他の女子とそんな場所に居るのに慣れないのだ。
まあ女子海洋学校所属の教育艦だから乗員は当然女子しか居ない、だから当然そうなるのは当たり前だが、男として生きてきた期間が長いせいか、例え身体的には完璧な女子だと分かっていても罪悪感が消えないのだ。
だから皆が使い終わった後にそっと使用するつもりだったのだが・・・
残念ながら綾の思惑通りには進みそうも無かった。
「ああ、やっぱりまだ残っていたのね綾。」
そう言って格納庫に入って来た制服であるセーラー服を来た女生徒、同期であり友人でもある古庄 薫によって。
「あれどうしたんですか古庄さん?」
「・・・・・」
「・・・どうしたんですか薫?」
薫を古庄さんと呼んだ途端、彼女に軽く睨みつけられて綾は言い直す。
女子を名前でしかも呼び捨てするのは、知り合ってから大分たったとはいえ綾には少々ハードルが高かったのだが、最近何を思ったのか、薫は綾にこう言ってきたのだ。
「私の事は薫と呼んで、もちろんさん付けもいらないから。」
それまでは古庄さんと呼んでいた綾が驚いたのは言うまでもない、だがこれだけでは終わらず彼女は続けてこうも言ってきたのだった。
「私も今後は貴女の事を綾と呼ばせてもらうから。」
これは薫曰く、「苗字で呼び合うのは他人行儀だから。」、と言う事らしい。
女の子同士の距離感に綾が戸惑ってしまったのは言うまでもなかった。
その薫は綾の言葉に満足したのか、微笑を浮かべて近づいてくる。
「誰かさんがまだ着替えもせずにいるだろうと思って迎えにね。」
別に頼んだ訳ではないのだけどと綾は内心苦笑する、自分を薫と呼べと言った日から、こうやって迎えに来る様になったのだ。
「本当に熱心よね綾は、着替えるのも忘れる程にね。」
「・・・知って言っているでしょう薫は。」
綾が他の女子と着替えや風呂に入るのが苦手な事を薫は知っている筈なのだから。
「ふふ・・・でも熱心だと思っているのは本当よ。」
自分の職務以外まで熱心にやっている綾は生徒達の間でも有名だからだ、まあ容姿もあるのだが。
余談だが綾のこう言った姿が卒業後の彼女の進路に影響する事になる。
「皆も綾は凄いなって言っているしね、教官の評価も高いじゃない。」
「え、いやそんな事はな、無いんじゃ無いのかしら。」
真っ赤になり台詞を噛む綾に薫は噴出す。
どうもこの友人殿はこの手の賛美には非常に弱い、普段は容姿もあって凛々しいのに。
そんな友人に薫は悪いと思いつつ笑を止められないでいた。
綾は微笑みながら自分を見つめる薫を見て溜息を付く、出会った当時は落ち着いて真面目な娘だと思ったのだが、半年近く洋上で一緒に過ごしているうちに彼女が結構お茶目、いや意地の悪いところがある事に気付かされていた。
神城綾と古庄 薫、2人が出会ったのは横須賀女子海洋学校入学式後の武蔵艦内だった。
これから3年間共にこの武蔵で学んで行く者達が顔を揃えた場で。
薫は綾の同性の自分さえ見惚れてしまいそうになったその姿に目を見張ったものだ。
ただその言動は容姿を裏切っていた、まるで場違いな所に入り込んでしまったかの様だった。
もっともそれが無かったら綾は美人過ぎて近づき難い存在になってしまっていたと薫は思っている。
だからこそ薫も声を掛けられたのだから。
「大丈夫貴女?」
「は、はいだ、大丈夫ですよ?」
何故疑問系なのか薫は思ったものだが、落ち着かない綾を見て思わず笑みが漏れてしまった。
まあ綾にしてみれば1年前までは男だった自分が、突然女の園に放り込まれたせいで緊張しまくっていただけなのだが。
「私は古庄 薫よ、よろしくね。」
「は、はい神城綾と申します、こ、こちらこそよろしくお願いします。」
この出会いをきっかけに初めての女の園で困惑する綾を薫はフォローして行く事になるのだった。
そんな訳で綾は薫に感謝しているのだが、親しくなるにつれこうやってからかわれる事が多くなった気がするのだ・・・分かりやすい反応をする方も悪いのだが。
「まあ評価は評価よ、認めても良いと思うけどね。」
薫はそう言ってウィンクして見せる、とても魅力的な笑顔を浮かべて、そんな薫に綾は苦笑を返すしか無かった。
「それでもう終わったのかしら?」
魅力的な笑顔のままで薫は聞いてくるのだが、綾は何故か嫌な予感がしてしまう。
この半年間の薫や他の友人達(もちろん女子)の付き合いで、彼女達がそんな笑顔をする時には自分にとってろくでもない事しか起きない事を嫌と言うほど分かっているからだ。
それは入学後初めての皆との外出以降度々思い知らされている。
「・・・ええ終わりましたが。」
それを聞いた瞬間、その笑顔のまま彼女は後ろを振向いて言う。
「皆、綾は終わったそうよ、行きましょうか。」
「「「OK薫!」」」
格納庫の扉を開けて入って来たのは、綾にとっては思い出したくも無い外出日の時一緒だった友人達。
「え・・・え!?」
綾が状況に付いて行けない間にその友人達は両腕を拘束してしまう。
「か、薫これって?」
綾の問いに薫はそれはそれは魅力的な笑顔で答えてくれる。
「皆綾を待っていたのよ・・・一緒に入浴しようとね。」
その言葉に綾は真っ青になる、先程言った通り彼女は未だに他の女性と一緒にそんな所に行くのに非常に抵抗が、と言うか恥かしさが有るのだから。
「待って下さい、私は皆と一緒は・・・それに着替えとか持ってこなかったし。」
風呂に入るなら着替え(下着を含む)を用意しなければならないが、綾は後で入るつもりだったので、当然持って来ていない。
「ああ、大丈夫よ綾、そう思って持って来て貰ったから。」
綾の拘束に加わっていない女子に薫は視線を向ける。
「ちゃんと用意してあるから心配無用よ綾・・・ああちゃんと貴女の部屋から持って来たやつよ。」
その女子が薫に負けない笑顔を浮かべて答えると、綾は絶望のあまり目の前が真っ暗になる。
「それじゃ皆行きましょうか・・・ゆっくりと話でもしながら入りましょうね綾。」
笑顔で話す薫の言葉が、綾にとって死刑宣告に聞こえたのは言うまでも無い。
実は大分前ですが、TS専門(?)のサイトに投稿していた経験がありまして、こういう話しは結構好きです。
北方海の・・・もTSでしたがあまりそういうシーンを入れられなかったので、その反動で(笑)。
それでは。