「そ、それでお母さん、一体何で横須賀女子に?」
綾が横須賀女子に来た理由を母親に尋ね様とした時。
「そうね何でかほ、貴女が来たのか・・・私も知りたいわ。」
更にそれに重ねる様に問い掛ける声、3人はその主の方を見て・・・
「「む、宗谷校長先生!?」」
薫と綾は慌てて姿勢を正し敬礼する、一方かほの方は気楽そうに手を上げて挨拶する。
「久しぶりじゃないか真雪、大和艦長殿がどうしたんだい?」
横須賀女子海洋学校の校長である宗谷 真雪は薫と綾の敬礼に答えつつかほを睨み付けながら答える。
「今年度から横須賀女子の校長に就任したわ・・・手紙で知らせた筈だけどかほ。」
「えっとそうだったかな・・・ははは気付かなかったわ。」
目を泳がせて愛想笑いをする母親を見て綾は絶対見ていなかったなと確信した。
「返事を返さないだけでなく、読んでもさえいなかった訳ね、ほんと貴女らしいわ。」
額に手を当てながら首を振って宗谷校長は心底呆れた様に言う。
「まあ色々と忙しかったんだよ私は。」
「手紙を読む暇さえ無い程何が忙しかったのか、出来れば聞かせて欲しいものね。」
引きつった愛想笑いを浮かべながら釈明するかほに腰に手を当てて睨みつけながら問い質す真雪。
一方の薫と綾は状況に付いて行けず呆然とするしかなかった、いや母親が自分の通っている海洋学校の校長と親しげ(笑)にしている娘の方は呆然を通り越して酷い混乱状態だった。
「あの・・・宗谷校長先生・・・綾の、いえ神城さんのお母様とお知り合い何ですか?」
綾に比べれば多少ましな状態だった薫が宗谷校長に質問してみる。
「かほ、神城さんの母親とは同期よ、卒業後は彼女が退役するまで同じ艦に乗艦していたわ。」
衝撃的な真雪の話に薫と綾は互いに顔を見合わせてしまう。
「綾のお、お母様が校長先生と同期で一緒の艦に乗っていたの?」
「わ、私も知りませんでしたよ、そりゃ須賀女子のOGで元ブルーマーメイドだったのは確かですが。」
母親が須賀女子卒業しブルーマーメイドで働いていた事は知っているが、どんな職種で、何故退役したかは綾は知らなかった、と言うか教えて貰えなかったのだ。
「貴女娘さんに何も話していないのね。」
「話す様なものでもないからね、秘密の有るのは良い女の証さ。」
真雪のジト目にかほはどや顔で言うが。
「何気取っているのかしらね、どうせ面倒くさかったからでしょ。」
皆から目を逸らして惚けた表情を浮かべるかほ、どうやら図星らしい。
「校長先生、あの同じ艦に乗られていたと言う事はもしかして?」
何か考えていたらしい薫はふと気付いた様に真雪に質問して来る。
「ああ武装船団を単艦で殲滅したことかい?確かに一緒だったなあ真雪。」
かって領海内を荒らし回った武装船団を真雪が指揮して単艦で殲滅した事件、ブルーマーメイドの人間で在れば知らぬ者の居ない伝説だ。
「あれで真雪は『来島の巴御前』って有名になったんだよな。」
かほはどや顔で話しているが、それに対し真雪は苦味を噛み潰した様な表情を浮かべて答える。
「その二つ名が付いた理由の大半がかほ、貴女だって分かっているんでしょうね?」
「「えっ?」」
意外な真雪の言葉に薫と綾は驚いた声を上げると、真雪はうんざりした様に説明する。
「確かにあの時の作戦立案と指揮は私が取ったわ・・・でもその作戦を拡大解釈したのが彼女なのよ。」
「そうだっかかな?」
すっ呆けるかほを睨みながら真雪は続ける。
「そうよかほ、私は多少の損害を与えて相手の戦意を失わせ領海外へ追い出すつもりだったのに、貴女は徹底的にやったわよね、それこそ向こうの船を沈没寸前にするまでにね。」
「はあ・・・」
「・・・・・」
薫と綾は驚きの余り、言葉が出ずただ聞いて居るだけだった。
「まあ確かに領海外へ追い出せたし、報復する意思を無くさせたわ、でもお蔭で私は『来島の巴御前』なんて二つ名を得る事になったわ。」
「栄誉な話しじゃないか、なあ2人共。」
かほはそう言って薫と綾を見るが。
「その二つ名で私がその後、どれだけ苦労させられたか、忘れたとは言わせないわよかほ。」
「ははは・・・そんな事も有ったねえ。」
何だか人事の様に話すかほに真雪は心底呆れた表情でぴしゃりと言う。
「有ったねえ?じゃないわよ、貴女はまったく・・・」
伝説の真実(?)を聞いて薫と綾は何を言うべきかまったく分からなかった。
そんな2人を見て真雪は苦笑いをすると語り掛ける。
「2人共この話しは此処だけの話し、として貰えるかしら。」
「あ、はい分かりました校長先生。」
「もちろんです。」
綾としては自分の母親が原因で真雪に迷惑を掛けてしまった事もあり素直に聞き入れる、それでなくても彼女には自分の身体の事で色々配慮して貰った恩がある。
薫としても、あの伝説にそんな裏が有ったとは流石に周りの者には言えないと思い受け入れるしかなかった。
「ありがとう2人共、ところで貴方達何か用事が有ったのでは?」
真雪の言葉に薫と綾は自分達の用事を思い出す。
「そうだったわ綾、急がないと、申し訳ありません校長先生。」
「うん、確かに・・・校長先生それでは失礼します、お母さん迷惑を掛けない様にしてね。」
薫と綾は敬礼をすると慌てて教官室へ向かうのだった。
宗谷校長が『来島の巴御前』についてどんな感想を持っていたかは非常に興味があります。
もしかして困っていた?
それでは。