母親達の心情は?
「家の娘は旨くやっている様だね。」
走って行く薫と綾を見ながらかほが呟く、先程とは違って娘を思う母親の表情を浮かべて。
それを見て真雪は微笑むとかほと同じ様に薫と綾を見て言う。
「ええ、穏やかで周りの娘達に気配りの出来る性格だから友人も多い見たいだし、学業も優秀よ・・・彼女本当に貴女の娘なの?」
「生まれた時は息子だと思ったんだけどね、まああの娘は父親似なんだよ。」
真雪のからかい気味の問いにかほは肩を竦めて答える。
「それは幸いね、貴女と同じ様な娘だったら、私は横須賀女子を逃げ出しているところだわ。」
「言ってくれるね・・・とは言え厄介事を押し付けて悪かったね。」
何時もと違いしおらしい態度に、真雪は彼女も娘を常日頃心配している母親なんだなと思う。
その気持ちは真雪も理解出来る、彼女もまた3人の娘を持つ母親であるからだ。
「厄介事なんて貴女に会った時からだから今更よ・・・それに他の厄介事に比べればまだましよ。」
疲れた様に溜息を付く真雪を見てかほは苦笑いを浮かべて聞き返す。
「その様子じゃ相変わらず厄介事に追い掛け回されている様だね。」
「ええ、増える事は有っても減りやしない・・・知っているかしらかほ、女だけの組織でも官僚主義は無くならないみたいよ。」
視線を海の方に向け真雪はぼやく、それを聞いてかほは顔を顰める。
「・・・さっさと見切りを付けて出て行った貴女の方が利口だったと思うわ。」
「私はそう言った厄介事から逃げた人間さ、残って何とかしようとしたあんたは違うさ。」
疲れきった表情を浮かべて言う真雪にかほは自嘲気味に答える。
「そのわりには子供が娘になった途端、横須賀女子に入学させてきたじゃない。」
一転して悪戯っぽい笑みを浮かべて真雪はかほを見て言ってくる。
「あんなに忌み嫌っていたブルーマーメイドにする為に。」
真雪の指摘にかほは頬を赤く染めるとそっぽを向いて黙ってしまう。
それを微笑んで見ながら、真雪は薫と綾が走っていった先を見ながら言う。
「あの娘達が一線で活躍する頃にはブルーマーメイドも変わっていると良いわね、もちろんその為の努力はするつもりだけどね。」
そう呟く真雪を見てかほは微笑んで言う。
「あんたならやるだろうさ、それに優秀な娘さんが3人もいるじゃないか。」
「上の2人は心配要らないんだけどね、ましろは・・・私の生真面目なところだけ引き継いだみたいで、自分で自分を追い込みかねないわ、だからこの先心配で。」
宗谷家の人間としての重圧に加え、生真面目故の硬直した考えがましろを取り返しのつかない事態に追い込むのではないかと真雪は危惧していているのだ。
「大丈夫さ、その娘にもきっと理解してくれる人間が出来るさ・・・かっての私達の様にね。」
その破天荒な言動の為、孤立しがちだったかほの真雪は良き理解者であったのだ。
それがどれだけ助けになったか、かほは忘れていない。
一方生真面目な為か堅物扱いでこちらも誤解を受ける事の多かった真雪にとっても、かほは本当の自分を理解してくれる存在だったのだ。
「そうねましろにも、私達のいえあの2人の様な関係を築ける様になってくれる事を祈っているわ。」
2人の母親はお互い顔を見合わせて微笑むのだった。
「ところでかほ、貴女は学校祭期間中ずっとこちらに居るのでしょう?」
「まあね、出来れば最終日まで居たいし、だから学校祭中はこちらに宿を取って滞在するつもりよ。」
真雪の質問にかほが答える。
「それなら・・・今日の夜は大丈夫ね、翌日もここに居るなら。」
「真雪、あんた何を考えているんだい?」
何かを思いついたと言う表情を浮かべた真雪にかほが聞く。
「久々にどうかなと思ってね、これでも現役時代と遜色はないわよ。」
その表情と何かを掲げる仕草の真雪にかほは彼女が言いたい事に気付く。
「私は構わないけど、校長のあんたが飲みに行くなんて良いのかい?学校祭の途中だろうに。」
「優秀な教官と生徒が居るからね、校長なんて学校祭中にする事なんか無いわよ。」
何時もの厳格な雰囲気はそこに無く、かっての『来島の巴御前』の、まあ本人は否定するだろうが、姿が戻ってきた真雪だった。
「それに一晩飲み明かしてどうにかなる柔な鍛え方はお互いしてないでしょ?」
「そうりゃそうだ・・・分かったよ付き合おうじゃなないか不良校長どの。」
悪戯っぽく笑うかほに真雪は同じ様に笑って言う。
「ええとことん付き会ってもらうわよこの悪党さん。」
2人は顔を見合わせて笑いあうのだった。
この日、横須賀の夜空の下で、久々に旧交を温めあう、横須賀女子OGの2人が居た。
アニメ本編では真雪の母親としての心情はあまり描かれていなかった気がします。
まあ、校長としての立場があったからだとは思いますが。
それでは。