綾への弾劾は続く。
「前回の外出時、被告人は若い男性グループに声を掛けられ連れて行かれそうになりました。」
「あれは道を聞かれたので案内しようと・・・」
薫や他の友人達と休みに街へ出た時、綾は男性グループに道を聞かれ、出来れば案内して欲しいと言われたのだ。
親切心から案内しようとした綾を薫達は拘束してその場から連れ出した。
『ごめんなさい、私達これから用事があるの。』
そう薫が言い残して。
その後綾は近くの喫茶店に連行されまた薫の説教を受ける事になった。
「あんなの口実に決まっているわ、狙いは貴女よ綾。」
様はナンパだと薫は言いたいらしい。
「まさか、私をナンパなんかしてもしょうがないと思いますが。」
その綾の答えに薫を始めとした友人達は深い溜息をついてくる。
「貴女はもうすこし自分の容姿を自覚しなさい。」
同じ女子である自分達さえ見惚れる美少女の綾を男性連中が見逃す事は無いと薫は確信している。
なのに当の本人はその自覚がまったく無いのだから周りの者達は頭が痛かった。
もちろん綾だって自分が整った容姿をしている事は分かっているが、それが周りに与える影響についてはまったく気にしていないのだ。
そう自分なんて大した事は無いと思っている節が綾にはあった、容姿だけでなく他の事、例えば成績でもだが。
優秀だと誉められても、『自分のすべき事をしただけで大した事ではないですから。』と綾は言う、それも謙遜や遠慮でなく本心から・・・
その為、綾は教官や生徒達から自己評価が低いと認識されている。
さて話が逸れてしまったので、先程のナンパについてに戻す。
そう言った事から、その後の外出時に綾は薫と友人達に周りを固められ、男性達が声を掛けようと近づく度に即座に移動させられる様になった。
まあそう言った訳で今回の合同演習に薫達が強い危機感を抱くのは当然だろう。
それが今回の弾劾裁判(?)が開かれた理由だったのだ、そして薫裁判長の判決が下される。
「もう十分でしょう綾、貴女の有罪は確定したわ、よって判決を下します。」
結局綾はろくに弁明する事も出来ず、薫に判決を下されるのだった。
横須賀基地の桟橋に接岸した武蔵に東舞鶴男子海洋学校の生徒達が乗艦してくる。
ちなみに乗艦場所が学校でなく基地なのは無用な混乱を避ける為だった。
学校では武蔵の乗員以外の生徒達が居るからだ、女子高に男子を入れる事への懸念もあった。
そんな彼らの顔に緊張と共に期待の表情が出ているのは年頃の男としては仕方の無い事かもしれない。
とは言え、海の上では紳士たれの教育方針の東舞鶴だけに露骨な態度の者は居なかったが。
「ようこそ武蔵へ、歓迎いたします。」
その東舞鶴の生徒達を武蔵艦長の女生徒と各科の責任者達が迎える。
「ありがとうございます艦長、暫らくの間よろしくお願いします。」
東舞鶴側の責任者である男子生徒が答える。
「それでは皆さんこちらへ。」
武蔵乗員に案内され男子生徒達は艦内へ向かう。
そんな中、男子生徒が武蔵乗員の女子生徒の1人とぶつかってしまう。
物珍しさに注意が散漫状態だった為だ。
「す、すいませんでし・・・た・・・」
その男子生徒は相手の女子生徒を見て言葉が止まる。
何しろ髪を三つ編みして牛乳瓶の瓶底見たいな眼鏡を掛けた女子生徒だったからだ。
着ている制服もスカート丈が足首まであったり(普通は膝上が標準)と他の女子生徒達は印象が違う。
そうよくアニメなどに出て来る地味な女の子という感じなのだ。
「いえ私も不注意でしたので気にしないで下さい、それでは。」
その女子生徒は足早にその場を去って行く。
「本当にあんな子居るんだな。」
他の男子生徒が通路を走って行く女子生徒を見て言う。
物珍しいものを見たなと周りの男子生徒達は思った。
「おいお前達何をしているんだ、もう行くぞ。」
先に進んでいた男子生徒が声を掛けてくる。
「お、おう今行く。」
慌てて後を追う男子生徒達、彼らは直ぐに先程の女子生徒の事など忘れてしまった。
「うん計画通りって所ね・・・お帰り綾。」
男子生徒達を通路の影から見ていた薫はそう呟きながら先程の女子生徒を迎える。
そう先程の女子生徒こそ変装した綾だったのだ。
「何が計画通りなんですか、と言うか何で私がこんな格好を・・・」
どや顔の薫を見て綾は深い溜息を付くのだった。
うちの主人公は無自覚なTS者なもので、こういう混乱はよく起こりますね。
書くのも見るのも好きな設定です。
それでは。