合同演習最終日。
武蔵の後方にある飛行船発着甲板で飛行訓練が行なわれていた。
白い作業用のつなぎを着た飛行科の女生徒達と男子生徒達が動き回っている。
そしてその場に変装した綾も居た。
本来なら飛行船オペレーターである綾が居る場所では無いが、彼女は許されるならこうやって飛行船発着甲板での訓練に参加する事があった。
実を言うと綾は整備科の訓練にも参加しており、武蔵乗員の間では有名だったりする。
まあ最初はやり過ぎだと言う声も無くは無かったが、本人の熱心さもあり今では文句の言う者も居ない状態だ。
むしろ歓迎する向きもあったりしている、これは綾が武蔵内で人気者である為でもあるのだが。
もちろん訓練に参加している男子生徒達と離されているのは当然だ。
そして今、1機の飛行船が着艦する為発着甲板に近付きつつあった。
この時までは男子生徒達も真面目に参加していたのだが、やはり最終日と言う事もあり、彼らは少々気を抜いていた。
その為、男子生徒達は飛行船の進入路に立っている事に気付いていなかったのだ。
周りに居た飛行科の女子生徒達はその時他の事に気を取られこちらも気付いていなかった。
そんな中、綾は補助と言う事もあり周りを見渡す余裕があり、男子生徒達に気付く。
危ないと感じ綾は男子生徒達に注意しようと近付いた時だった。
進入中の飛行船が姿勢を崩した、急激な横風でオペレーターが操作を誤ってしまった為だ。
そして飛行船は進入路に立っている子生徒達へ急速に接近してしまうが、その時点で誰も気付かない。
そう綾を除いて・・・
「危ない!!」
走り出し綾は男子生徒達を飛行甲板に突き飛ばし自分も伏せる。
その上空を飛行船は通り過ぎて行く、綾と男子生徒達の上数メートルを・・・
「神城さん!?」
「着艦中止!!3号飛行船を一旦上空待機へ!」
事態に気付いた飛行科の娘達が叫び、騒然となる飛行甲板。
「大丈夫ですか皆さん・・・あの位置に立っていては危険だと習わなかったのですか?」
全員が無事で綾は安堵するが、それと共に怒りも沸いて来たのか何時もと違いきつい言いかをしてしまう。
「「「・・・・」」」
だが言われた男子生徒達は呆然とした表情で綾を見返すだけだった。
「?本当に分かって・・・」
「神城さん。」
そんな男子生徒達に綾は更に言葉を続けようとして飛行科の娘に肩を叩かれる。
「すいません、でも今は彼らに注意しておかないと・・・」
大事な事だから事情説明は後にしてと思った綾だが、その娘が言いたかったのはそんな事では無かった。
「そうじゃ無くて・・・神城さん、ウイッグと眼鏡が飛んじゃっているわよ。」
「へっ!?」
慌てて頭と目の辺りを触った綾は三つ網のウイッグと牛乳瓶底の眼鏡が無い事に今気付いた。
そう綾は変装を解いた状態で男子生徒達と至近距離で向かい合っているのだ。
「あ、貴女はもしかして神城 綾さん?」
男子生徒達は地味な女子が突然美少女になった事に一瞬呆然となったが、直ぐに立ち直ると聞いて来る。
「あ、いえそれは・・・」
綾は慌ててしまった、何しろ変装を絶対に男子生徒達の前で解くなと薫に注意されていたからだ。
これじゃ後で怒られる、いやそれより今の状況をどうにかしないと綾はパニック状態になったのだが。
「彼女を至急艦内へ・・・急いで!!」
突然両脇を女子生徒達に捕まれ綾は連行されて行くのだった。
「・・・注意して下さいね皆さん、それでは作業を続けましょう。」
「「「はい。」」」
そして何も無かったかのように作業に戻って行く女子生徒達。
男子生徒達はその状況に言葉を失ってしまうが、何とか女子生徒達に問い掛ける。
「あ、あのさっきの娘は神城・・・」
だが問い掛けた男子生徒を遮って、女子生徒は微笑みながらこう答えた。
「ここに神城さんなんて生徒は居ませんでした、皆さんは幻覚を見たんですよ。」
「いや俺達を助けて・・・」
言いかけた男子は言葉を思わず止めてしまう、何故なら凄まじいプレッシャーがその女子だけでなく、周りからも掛けられて来たからだ、思わず身の危険を感じてしまうくらいの・・・
結局男子生徒達はそれ以上何も聞く事が出来なかったばかりか、実習終了までその場を動く事さえ許されなかった、女子生徒達のプレッシャーと視線の為に。
困った・・・何も書くことが(笑)。
それでは。