飛行船支援母艦若宮   作:h.hokura

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そろそろアニメのキャラと係わりを、ということで。
でもまだ古庄 薫しか出ていませんが、後で登場予定です。



乗艦体験学習1

「乗艦体験学習ですか?」

他の飛行船支援母艦に対する飛行船と関連機器の輸送を終え、基地に帰港しようとしていた若宮にそんな通信が入って来た。

送って来たのは横須賀女子海洋学校の指導教官である古庄 薫、若宮艦長神城 綾にとっては女子海洋学校時代からの親友だ。

『ええ、若宮で引き受けてもらえないかと思ってね。』

薫らの言葉に綾は考え込む、色々と疑問が沸いてくるからだった。

 

乗艦体験学習とは、女子海洋学校の生徒達が実際のブルーマーメイドの艦艇に乗り、その任務を体験するものだ、いわゆる職場体験と言えるかもしれない。

実際、綾も横須賀女子に在学中にやった覚えがある正式な学習項目だ。

だからそれ自体別に問題は無いのだが不可解な話しには違いない、何故なら・・・

「幾つか聞かせて下さい・・・何故この時期なんですか、それと何故若宮なんです?」

綾の記憶が正しければ乗艦体験学習は1年間教育艦に搭乗した後に行なわれるからだった。

あと若宮が選ばれた理由だ、綾としては自分の指揮する艦を卑下する訳では無いが、ブルーマーメイド所属の最新鋭艦艇に比べれば魅力の有る対象とは思えなかった。

何しろ飛行船支援母艦と言いつつ、実際は工作艦や輸送艦扱いだ、改インディペンデンス型を始めとした艦艇達の方を生徒達は選ぶ筈だ、まあこれは実際乗艦体験学習に若宮が選らばれた事が無いからだ。

『時期については、これは今回の対象生徒が晴風の乗員と言う事だからよ・・・あの事件の後に晴風が沈没した事は神城艦長も知っているわよね。』

あの事件とは暴走した武蔵の浦賀水道進入の事だ、RATtウィルスによる一連の事件は海上安全整備局により全て隠蔽されている、だから綾も全てを知っている訳では無かった。

一応教育艦の消息不明は通信と戦術ネットワークの途絶とそれによって起こった混乱が原因とされ、武蔵の暴走も艦内システムの故障とヒュウマンエラーが重なった為とされている。

もっとも綾を始めとしたブルーマーメイドの一線に居る者達はそんな発表を鵜呑みにしてはいなかったが。

話が逸れたが、その武蔵を強制停船させたブルーマーメイド艦隊の作戦に晴風が参加した事は、綾も知っている、何しろ救援に向かった薫指揮のてんじんを始めとした艦艇に対する補給任務に付いたのが他ならぬ若宮だったからだ。

その後、若宮はてんじん達を追って横須賀に向かったが、速力が遅かったので、着いた時には全てが終わった後だった、そして晴風が帰港直後沈んだ事を綾はその時知らされたのだ。

『その後サルベージされ復帰する事になったのだけど、工事の予定や事件の後始末で実習予定が切迫してしまって、それで乗艦体験学習を前倒しにする事になったの。』

つまり時間の都合と言うわけだ、それなら綾も納得出来ない事も無いのだが。

『あと何故若宮か、と言うのは割かし簡単な理由ね、私が一番信頼出来るブルーマーメイドの人間が居るからよ。』

「えっと・・・古庄指導教官?」

真っ直ぐにそんな事を言われ綾は思わず動揺してしまう。

『彼女達は学生としては過酷過ぎる体験を最初の航海でしたわ、加えて乗艦した艦を一度失った。』

教育艦の消息不明事件直後から晴風が過酷な試練を受けた事を綾は薫から聞かされた事がある、もっとも機密事項扱いだったので詳しい内容は教えて貰えなかったが。

そして最後には乗っていた晴風を失う羽目になった、確かに学生の身分としては過酷の一言だろう事は綾にも想像出来る。

『今はショックの強さで呆然としているからまだましだけど、時間が経てば・・・』

「そのショックに押し潰される娘も出てくるかもしれないと?」

薫の言いたい事を察して綾は続ける。

「言いたい事は理解しましたが、私はカウンセラーではありませんよ。」

それなりの対応をするなら専門のカウンセラーが適任だと綾は思うのだが。

『ありきたりのカウンセリングなんかに期待してないわ・・・それに整備局にその事を任せる気にはならないし。』

「・・・・・」

薫の言葉には不審と嫌悪感が満ちている、まあこれは事件に最初から巻き込まれ、その後に受けた仕打ちもあったからだ。

もちろんそんな事を綾は知らされていないが、彼女も整備局の一連の対応には不信感を募らせていたので薫が憤慨しているのも何となく理解出来ると思っている。

『だからこそ神城艦長に任せたいの、貴女ならあの娘達を任せられるわ、もちろん私も協力するけど。』

そこまで信頼してくれるのは嬉しいが責任を感じてしまうなと綾は思った。

「信頼に答えられるか分かりませんが最善を尽くしますよ。」

『お願いね、あとこの件については宗谷校長も承認していますので、正式な辞令が降りる筈です。』

宗谷校長も関わっているらしい、まあ彼女だったらそうだろうなと綾は思う、自分の時も大いに助けられたものだったからだ。

「分かりました、詳しい打ち合わせは辞令が降り次第と言う事で良いですね。」

『ええ・・・そんな場合ではないけど貴女とまた海に出られるかと思うと嬉しいわね。』

「そうですか?、まあ海洋学校後初めてになりますが。」

2人の間に沈黙が流れる、卒業後それぞれの道に分かれた為共に海に出る事など無くなってしまった。

『それでは連絡を待ってます神城艦長。』

「はい古庄指導教官。」

受話器を戻した綾は視線を海へ向けて呟く。

「私も嬉しいですよ薫。」




この作品中で触れられている様に、RATtウィルスによる一連の事件は、関係者以外には秘匿されているという設定です。
考えてみればかなりの不祥事ですから組織的防衛の為、これくらいするでしょう。

それでは。

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