「本当に居たんだって、なあお前も見ただろう?」
飛行甲板で綾を目撃した男子生徒はそう言ってその場に居合わせた友人に言う。
「ああ確かに居た、間違いない。」
友人もそう言ってくるが、話を聞かされたその場に居なかった男子達は困惑した顔でいる。
「別にお前達を疑う訳じゃないんだが・・・でもなあ?」
実習から解放された男子達は、他の男子と合流後綾に遭遇した事を話したのだ。
聞かされた男子達は色めき立ち、その話しはたちまち演習に参加していた者達全員に広まった。
早速他の男子達もその事実を確かめようと動き出したのだが、結果はかんばしくなかった。
女子生徒達の反応は最初の頃より厳しかったからだ。
曰く、「さあそんな人知りませんね。」とか「疲れていますね皆さん、大丈夫ですか?」と言われる始末だった。
中にはそんな話を出した瞬間、周りの女生徒達に囲まれ、その場から追い出された男子もいたのだ。
ちなみに例の美少女に変身(?)したと言う地味な女子生徒はその後男子達の前に現れなくなった。
彼女についても女生徒達は口を閉ざし一切話そうとはしなかった。
「彼女は別の件で忙しいんです、第一飛行船オペレーターである彼女が飛行甲板に居る訳ないじゃないですか。」
男子達に質問された女生徒はそう言って答えた、それはもう不機嫌そうにだ。
だから目撃した男子以外の者達は本当の事かと疑問に思うようになった。
「一応武蔵艦長の娘にも聞いたんだがな・・・」
リーダーである男子生徒が、それとなく武蔵艦長の女子に聞いたのだが。
「さあそんな生徒いたでしょうか・・・多分皆様は妖精でも見たのでしょう、武蔵に昔から居ると呼ばれる何か乗員に危機に陥ると現れる妖精の少女に。」
もちろんそんな話なんて無いのだが、武蔵乗員では無い男子達に分かる訳がなかった。
結局男子生徒達は事の真偽を確かめる事が出来ず混乱状態のまま合同演習を終えようとしていたのだった。
まあ何故こうなったかは説明の必要はないだろう、武蔵乗員達は艦長を筆頭に綾の事を隠蔽しようとしたのだ、しかもまた全員で示し合わせる事もせずに。
何ともすっきりしない気分のまま男子生徒達は武蔵を降りて行く羽目になった。
なお正体のばれた綾は薫にそれはもうたっぷりと説教を食らい、男子生徒達が降りるまでの間権限の無い生徒は入れない飛行科のデータ管理室に軟禁された。
ちなみに飛行船の航法プログラムを管理するこの部屋に本来SEでない飛行船オペレーターの綾が入れたのは、彼女がSEの資格を持っていたからなのは余談である。
こうして綾にとっては散々だった合同演習は終わったのだが、実はこれには綾や薫などの当事者達が知らない後日談がある。
隠蔽するする為武蔵艦長が東舞鶴男子生徒達に言った妖精の少女、もちろんこれは嘘なのだが、何故かそれが武蔵の代々の乗員達の間で語り継がれる事になったのだ。
それは・・・