こうして武蔵の伝説に新たなエピソードが加わった。
そしてこの伝説を綾は卒業後暫くたって知る事になる。
きっかけかもえかとの会話でだった。
横須賀基地での再会後、綾はもえかと度々会うようになっていた。
もちろん明乃を含めてだが、時には綾ともえかだけの時もあった。
そんな時、もえかが話してくのだ、あの少女の事を。
武蔵に伝わる妖精の少女の伝説は先に言った通り乗員達の間でのみ語られるものだ。
だから明乃が居た場合は話せなかったのだが、二人きりだったし、何より綾は武蔵のOGと言う事もありもえかが話したのだ。
だがもえかはその伝説を聞いた綾が何とも言えない複雑な表情を浮かべ事に首を捻る。
綾がそんな表情を浮かべてしまったのは、伝説に出て来た少女の容姿に思い当たるものがあったからだ。
そうあの合同演習の時に自分がした変装とそっくりだと。
だから綾は頭を抱えたくなってしまった、何故自分が卒業後に生まれた伝説にかって自分がした姿が登場しているのかと。
「どうかされましたか綾さん?」
ちなみに綾ともえか、明乃が3人だけで話す時、二人は綾の事を『綾さん。』と呼んでいる。
最初の頃は『神城艦長。』と二人は呼んでいたのだが、綾が公式の場では無いので、肩書では呼ばなくても良いと言ったのだ。
もっとも綾は『神城さん。』と呼ばれる事を想定していたのだが、二人はそれを聞いて嬉しそうに『それじゃ綾さんとお呼びしますね。』となってしまったのだ。
もえかと明乃にしてみれば、深く敬愛する綾を親しげにそう呼べる事が何より嬉しかったのだ、そして他の生徒達に対しての優越感もあった。
相変わらず綾は女性同士の距離感に慣れる事が相変わらず出来なかった。
それにしても、何故そんな伝説が生まれたのか、綾は不思議な思いに駆れる。
少なくても自分が乗っていた頃にはそんな話は無かった筈で、明らかに卒業後に生まれたものだろう。
そしてもえかの時代まで続いている、ただ何で自分が演習の時した格好なのか分からなかったが。
「なんでもありませんよもえかさん。」
ちなみに綾も3人だけの時は『もえかさん。』、『明乃さん。』と呼んでいる、まあ二人にそう呼んでと懇願されたからだが。
「そうですか・・・あ、その少女の事なんですが、2代前の武蔵乗員達が・・・」
嬉しそうに綾に伝説の話を続けるもえかを見ながら綾は思った。
この後も自分が変装した姿の少女が武蔵乗員達を助ける伝説が続いて行くのだろうかと。
正直言って恥ずかしいなと内心溜息を付くのだった。