果たして・・・?
その日、若宮は横須賀女子海洋学校の専用桟橋に接岸していた。
もちろん乗艦体験学習で晴風の乗員達を乗艦させる為だ。
「艦長、古庄指導教官以下晴風の乗員が到着したそうです。」
若宮の副長から艦長の神城 綾に報告が入る。
「分かりました、それでは行って来ますので、担当の乗員も来る様に指示を。」
「了解です艦長。」
艦の指揮を副長に託すと綾は艦橋を出てゆく。
艦内を通り舷側に出ると桟橋上に薫を前に集合しているセーラー服の少女達。
そんな少女達を見て、ふと綾は自分が横須賀女子に入学した時の事を思い出す。
自分もかってあのセーラー服を着て学校生活を送ったのだと懐かしさを感じると共に浮かんだのは。
初めて女子の制服を着せられた事だった、セーラー服の特にスカートの頼りなさと言ったら・・・
頭を振ってその記憶を追い出すと掛けられたタラップを降りて薫達の方へ向かう綾。
その綾に気付いた薫が微笑みながら敬礼をすると晴風乗員達も全員敬礼をしてくる。
「古庄 薫以下晴風乗員、お世話になります。」
「「「よろしくお願いします。」」」
敬礼に続いて薫がそう挨拶すると乗員の少女達も続く。
「ようこそ若宮へ、艦長の神城 綾です、こちらこそよろしくお願いしますね。」
敬礼を返しつつ微笑んで答える綾、その姿に薫以外の少女達は顔を赤くしてしまう。
事前に顔を知っていたのだが、やはり実際の本人を前にして少女達は改めてその美しさに圧倒されている。
「・・・?」
もっとも綾の方はその理由が分からず、緊張でもしているのかと見当違いの事を思っていたが。
「こほん、神城艦長。」
内心で『ほんとに鈍いんだから。』と呆れながら薫が先を促す。
既に綾の後ろには晴風の生徒達を担当する乗員達が集合を終わって待機している。
「えっと、失礼しました、皆さんは各科担当の指示に従って下さい。」
担当の乗員へ後を任せ綾は少し離れた所に居る薫の傍に行く。
これから各科事に艦内を見学する予定だった。
「それでは皆さんこちらへ着いて来て下さい。」
担当の乗員に導かれて晴風の生徒達は若宮へ乗艦して行く。
「あまりうちの生徒達を惑わさないで欲しいですね神城艦長。」
「・・・言っている意味が分かりません古庄指導教官。」
隣に立って意地の悪い笑みを浮かべ言ってくる薫に渋い表情の綾は答える。
そんな綾に肩を竦めると薫は改めて親友の顔を見て言う。
「ではあの娘達を宜しくね綾。」
「ええ薫。」
綾もまた親友である薫の顔を見て答えるのだった。
教え子達の様子を見て周ると言う薫と別れ綾は艦橋に戻ってくる。
「お疲れ様です艦長、皆どうでしたか?」
艦長席に座った綾に副長がタブレットを渡しながら聞いてくる。
「多少緊張していたみたいですが、まあ大丈夫でしょう。」
渡されたタブレットの報告に目を通しながら綾は答える。
「・・・彼女達の姿を見て懐かしいと思うあたり私も歳を取ったなと思いましたが。」
多少自嘲気味に話す綾に副長は微笑みながら答える。
「それを言ったら若宮乗員の全員がそうですよ、では出航準備に入りますが?」
「ええ、お願いします。」
敬礼をすると副長は出航準備の為艦橋要員達に指示を始める。
「艦長、晴風乗員の見学は終了、各科にて待機に入りました。」
若宮の出航準備が整った頃、副長から報告が入る。
「分かりました、では晴風の艦橋要員が艦橋に来たら出航します。」
若宮艦内の見学が終わり、晴風乗員達は各々の所属科の勤務場所で待機に入った。
後は晴風艦長である岬 明乃以下の艦橋要員が来れば出航となる。
「艦長、晴風艦橋要員到着しました。」
明乃達の担当乗員が彼女達を引き連れて艦橋に入ってくる。
綾は艦長席から立ち上がって明乃達を迎える。
「皆さんようこそ、それでは若宮は出航します、よろしいですね?」
「はい神城艦長。」
明乃は綾の問い掛けに敬礼して答える。
「では出航します、機関始動、錨を上げて下さい。」
明乃の返答に頷き綾は指示を出し始める。
「機関始動。」
「錨を上げ!」
乗員達が指示を復唱し動き始めるのを明乃達は興味深げに見ている。
若宮は晴風と比べれば遥かに巨大な艦だ、艦橋で働く乗員は倍もいる。
「機関始動、問題なし。」
「錨を上げました、全タラップ収容完了です艦長。」
「管制センターより出航の許可が下りました。」
晴風乗員達も出航時の作業は見慣れているつもりだったが、自分達の倍はいる乗員達が、各々役割を果たし連係する姿には圧倒されてしまう。
これが本物のブルーマーメイド艦なのだと・・・
特に明乃は同じ艦長である綾から目が離せなかった、連係する乗員達に所々で的確な指示を出している。
それがまるでオーケストラの指揮者、個々の力を引き出しそれを全体の力に高めてゆく。
まさに理想の艦長像を明乃は綾に見ていたのだった。
出航後、若宮は洋上での飛行船の展開や救助訓練を繰り広げる。
もちろんここでも綾の指揮とそれに完璧に答える乗員達の姿があり、晴風の乗員達は興奮を隠し切れ無かった、何しろあの堅物のましろさえ、若宮の副長に「副長としてどうあるべきか?」と興奮した様子で熱心に聞いていたくらいなのだから。
「岬艦長、ご苦労様でした、本日はここまでにしておきましょうか。」
やがて日が落ちる頃、綾は明乃達にそう言って微笑んでくる。
「あ、はいありがとうございました神城艦長。」
明乃達は多少疲れた様だったが満足げな表情で答える、それを見て綾は頷いて見せる。
「いえ、明日もその調子でお願いしますね。」
「「「「はい。」」」」
明乃達は敬礼をすると担当乗員に連れられ艦橋を出てゆく。
「かなり張り切っている様ですが、あんな調子で明日から大丈夫ですかね?」
副長が苦笑いを浮かべながら近付いて来て綾に尋ねてくる。
「まあ初日と言う事で、彼女達も素人と言う訳では無いでしょうから。」
綾は苦笑しつつ艦長席を立つ。
「私は一旦艦長室に下がります、後の事はお願いします。」
「了解です艦長。」
副長の敬礼に答えると綾は艦橋を後にする。
そのまま艦長室へ向かおうとしていた綾はその前に海風に当たろうと、飛行甲板下のデッキに向かった。
だが綾はそこに先客が居る事に気付く、そしてその相手に軽く驚く。
「お疲れ様神城艦長、少し付き合って貰っても良いかしら?」
指導教官の古庄 薫だった。
この話しはもう少し続きます。
それでは。