飛行船支援母艦若宮   作:h.hokura

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乗艦体験学習編一応これにて終了です。

*8/4修正、知床 鈴を忘れていましたので、失礼しました。



乗艦体験学習4

「教官がこんな所で油を売っていて良いんですか?」

デッキで声を掛けられた綾は薫と並んで、彼女から貰ったサイダーを手に聞く。

「実習時間は終わったしね・・・やるべき時にやるべき事をしたなら後は何をしていても問わない、この艦の流儀でしょ。」

綾の多少皮肉の篭った問いに薫は悪戯っぽい笑みを浮かべて答える。

そう綾はやるべき時にやるべき事が出来るなら、他の場面で皆が楽する事を大目に見ている。

これは若宮における綾の方針、薫の言う所の流儀だった、これに対してはブルーマーメイドの一部の人間からは規律が保てないと批判を受ける事が多々ある。

だが常にガチガチになっていたら咄嗟の時に動けなくなる、それでは意味が無い言うのが綾の考えだ。

「・・・それって誰に聞いたんですか?」

とは言え批判の対象になりやすいのでその流儀は他の人間には話さない様に綾はしているのだが。

「この艦の副長によ、貴女の事を聞いたら嬉しそうに色んな話をしてくれたわ。」

「彼女がですか・・・まったく。」

若宮で初めて出会った時は、規則に厳しい融通の利かない女性だったのだが、今では艦内では一番オンオフの差が激しくなってしまっている。

まあこれは綾の影響が多々有るのだが本人は気付いていない。

「ふふふ・・・それであの娘達はどうかしら?」

綾の事をかわかう親友の顔から教官の顔に戻り質問してくる薫。

「まだ初日ですから・・・どう向き合えば良いか、悩み処ですね。」

溜息を付いて答える綾に薫は内心やはり任せて良かったと思った。

薫とて全てが簡単に済むとは思ってはいない、大切なのは明乃達晴風の乗員に自分達を見守ってくれる人間が居る事を分かってもらう事だと考えている、様は孤独に陥らない事だ、陥れば待っているの絶望だけだ。

「それで良いと思うわ、流石は綾ね・・・それじゃ早速お願い出来るかしら?」

「・・・それって教官の仕事だと思いますが。」

再び親友の顔に戻り薫は楽しそうに言ってくる、それに対し綾は顔を顰めて答える。

「もちろんフォローはします、だからお願いしますね神城艦長。」

そう楽しそうに言って薫は「それじゃ後で。」と言って艦内に戻って行く。

それを見て再び溜息を付くと綾は薫が入って行ったハッチとは別のハッチを見て声を掛ける。

「そんな所に居ないで出て来て下さい岬艦長、それに皆さんも。」

暫らくの静寂の後、ハッチから艦長である明乃と艦橋要員の娘達がばつの悪い表情をして出て来る。

「あの・・・何時からお気づきになっていたんですか?」

明乃が気まずそうに聞いてくると、綾は肩を竦めて答える。

「私と古庄教官が話し始めた時からです・・・ちなみに教官も気付いていましたよ。」

つまり最初からと言う事になる、しかも教官にもばれていた事になり皆更にばつが悪い表情になる。

「その・・・盗み聞きするつもりはなかったんですが、申し訳ありませんでした。」

明乃はそう言って頭を下げながら言う。

「貴女達がそんな事するとは思っていませんよ岬艦長。」

微笑みながら綾は明乃の謝罪に答える、まあ教官と現役の艦長の会話に生徒達が割り込むのは無理な話だとは想像出来るからだ。

「あの・・・神城艦長と古庄教官とは同期とお聞きしたのですが。」

ましろがおずおずと聞いて来る、明乃達他の艦橋要員もそれが気になるのか綾を見つめている。

「ええ、同じ教育艦で3年間一緒にね、所属科は違ったけど。」

綾は飛行科で薫は航海科所属だったのだが、入学式での出会いもあってか付き合いは長い。

「だからあんなに親しげだったんですね。」

明乃がそう呟くと綾は皆を見渡して微笑みながら答える。

「皆さんだってそうなりますよ、今同じ場所で同じ時間を共有しているんですから。」

その言葉に明乃達はお互いの顔を見合わせる。

「だから今を、同じ場所で同じ時間を共有している事を大切にして下さい、それが有れば例え・・・」

そこで綾は言葉を途切れさせる、明乃達はそんな彼女を不思議そうに見る。

実は綾はこう続けるつもりだった「例え失ったとしてもそれを乗り越えられるから。」と・・・

綾も薫もこれまでに何人かの同期を事故などで失っている、それだけブルーマーメイドの職務は厳しいと言う事になる。

明乃達もやがては遭遇するだろう、確かに前回の事では晴風の乗員に幸いにも死傷者は出なかった。

だがこの先そんな幸運が続く訳が無い、ましてやブルーマーメイドになればその可能性は高くなる。

そんな時、同じ場所と時間を共有した仲間の思いを引き継ぐのは生き残った者の責務だと綾は思う。

とは言え今話して萎縮させる事も無いだろうし、何より人に言われるより自分自身で体験しそう考える様にならなければ彼女達の為にならないだろう、まあその為の助言なら幾らでもして挙げるつもりだが。

「いえ何でもありませんよ。」

だから綾はそう言うと慈愛を含んだ笑みを明乃達に向けるだけだった。

「何か非常に気になるんだけどな・・・」

「・・・うぃ・・・」

「うう・・・何んなんでしょうか。」

志摩や芽依は不服な、鈴は不安そうなそうな声を挙げるが、明乃やましろ、幸子は綾がその続きを語ってはくれないという確信があった。

様は自分で気づけと言う事なのだろう、そしてその為には幾らでも手助けをしてあげますと、綾は言いたいのだろうと明乃は思い何だか心が軽くなってくるのだった。

図らずも明乃達が見守ってくれる存在を認識した瞬間だった。

「さてそろそろ戻った方が良いですよ、食事や入浴の時間が立て込んでいるのでしょ。」

懐中時計、艦長になると支給される物、を見て綾は明乃達を促す。

「あ、そうだった皆食堂へ行くよ。」

「そうです艦長、遅れたら皆に迷惑が掛かります。」

「と言うか食事抜きですよ古庄教官だったら。」

「冗談じゃねえぞ、食事抜きなんてやってられるか、タマ急ぐぞ。」

「うぃ、今日はカレーの日、逃す訳にはいかない。」

明乃達は慌てて行こうとするが、ましろの「艦長、敬礼を・・・」との声に、皆綾に敬礼をする。

「「「「「「失礼します神城艦長!」」」」」」

「はい、皆ご苦労様。」

綾の敬礼を受け、明乃達はデッキを出て行く。

「皆の航海に幸あらん事を。」

見送りながら綾はそう呟く、それが果たして叶うか分からないにしても、彼女はそう祈りたかった。

 




これは私の考えですが、明乃達晴風の乗員はブルーマーメイドを始めとした、大人達に強い不信感を心の底に抱いたのではないでしょうか。
大人達の思惑により心身をすり減らし、挙句に生死を共にした晴風を一度は失ったのですから。
まあそれを癒してくれる教官の古庄 薫や校長の宗谷 真雪などは居ますが。
それにうちの神城 綾も加われたら幸いだと思います。

それでは。

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