「サダメ」に抗うとある艦隊の話   作:Corekan Saikoo

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 序章から少々時間が経ってしまいました…。今回から「本編」開始です。


第一話 邂逅

2031年、「原初の五人」と人類が初めて接触して二年。かつて甚大な被害を受けた日本も、復興を完了させ、徐々にではあるがかつての国力に近い水準にまで回復していた。

 政府は、深海棲艦に対抗しうる「唯一」の存在として「艦娘」を正式に国防海軍に編入し、海軍直属の「対深海棲艦対策本部」の下で作戦展開及び運用していくことを公式に発表した。当初、「信用できない」「こんな少女たちに戦わせるのか」など、各方面から様々な声が上がった。しかし、今では彼女たちの実績の積み重ねがあらわになっていくにつれて次第にこのような事を言う者たちは閉口せざるを得なくなっていった。

 

 そして現在。彼女たち「艦娘」の数は出現当初とは比べるまでもない以上に増えており、それに伴って国防海軍はかつて護衛艦隊の母港があった「横須賀」「舞鶴」「呉」「佐世保」「大湊」に「鎮守府」を設置。さらに日本全国約四十か所に「基地」を設置し、順次艦娘たちを配備させていった。

 これに伴い、軍は民間からの「司令官」の募集を開始。陸軍よりもかつての被害が甚大であった海軍は、当時ほどではないにせよ如何せん数が足りていないのが現状だった。また、今ではほとんど海に出ることがなくなってしまった護衛艦も少なからず健在であったため、そこへの維持・管理の人員を割くわけにはいかず、このような措置となった。なお、「鎮守府」においては民間の人間ではなく、海軍所属の者のみ着任することとなっており、「例外」となっている。

 

 

 

 

 

 

 

「暗すぎだろここ」

 

 そう呟く男がいるのは、「国防省」が管理している艦娘保護施設、通称「海郷寮」。この施設は本来、作戦海域において保護された艦娘を一時預かり、人員不足である基地などへ斡旋するなどの「仲介役」として機能していた。

 しかし、艦娘とのみ意思疎通が可能な謎の存在、「妖精」の出現により、にわかにきな臭い場所へと変わっていく。

 この「妖精」の出現により、艦娘たちの作戦効率が格段に上昇。傷ついた艦娘を早期に回復させる「入渠システム」、新たな装備を開発することができる「開発システム」、そして、「艦娘自体」を生成できる「建造システム」。この「建造システム」を巡り、昨今「ある問題」が発生していた。

 

 「はぐれ」。「建造システム」が生み出してしまった唯一の欠陥であり、艦娘運用において大きな支障が起きかねない状況にまで拡大してしまっている早急に対処すべき課題となっている。

 現在、「艦娘建造」に関しては国防省のデータベースにおいて既に詳細に区分されており、100%ではないもののかなりの確率で自艦隊に必要な人員を補填することが可能となっている。つまり、各基地・鎮守府において資材さえ準備しさえすれば、一部の特殊艦を除くほぼすべての艦娘を出現させることができるということだ。

 だが、この「建造」において極稀に「データとはかけ離れた」艦娘が建造されることがある。このような艦娘たちは、本来のスペックを持ち合わせておらず、そして個体差はあるものの何らかの「欠陥」をもって建造される。

 このような「欠陥」をもって建造される艦娘を、「はぐれ」、と呼ぶ。

 しかし、欠陥とは言えども多少の不具合程度のものがほとんどのため、本来であればそのまま艦隊に迎え入れ、一人の艦娘として海へと繰り出せることが可能であることが詳細な調査により明らかになっている。

 

 では、なぜここまで問題が大きくなってしかまったのか。

 その原因は「艦娘」にある。彼女たちは普段は人間や仲間に接する際、個人差はあれど素直で優しい心を持っている。それは、「はぐれ」が出現するようになってからも変わっていない。

 しかし、いざ自分たちの目の前に「はぐれ」の艦娘が表れると、普段の彼女たちの穏やかな姿とは思えないほど、激しく嫌悪し、罵倒し、侮蔑の言葉や視線をむけるのだ。

 まるで、「はぐれ」の艦娘たちに自分たちの大切な人を殺されたかのようなその反発ぶりに、いくら理論上可能とは言えども作戦に支障をきたしてまで共存させるのは得策ではないと判断した国防省と国防海軍は、彼女たち「はぐれ」の艦娘、および「はぐれ」と判別された艦娘たちを「隔離」することを決定し、かつて戦力の分散・および斡旋を担っていた「海郷寮」にその役目を与えたのだ。

 

 

 「ほんと、ひでぇところだよ全く…」

 

 この「海郷寮」には、中に収容している「はぐれ」の艦娘たちが外界へ脱走しないよう厳重な防衛線が幾重にも張り巡らされており、尚且つ仮に脱出できたとしても、立地自体が人里から遠くに離れた山の奥の奥にあるため、一度収容されれば二度と、青い空も、その空を悠々と泳ぐ白い雲も、そして彼女たち艦娘がもっとも恋焦がれる「海」も、その目で見ることができなくなるのである。

 

 「こんなところに詰め込まれたら、そりゃあこの世から消えたくもなるわな…」

 

 そう。こんな絶望しかない世界に生きる価値などないと、この施設に収容された多くの艦娘たちは、自らの手でその短い一生を終えていったのである。それはまるで、世界中のあらゆるものから「お前たちは必要ない」と宣告されたも同然だったろう。

 

 

 

 「さて、お目当ての奴はどこにいるのかねー」

 

 彼の名は、「萩和田 清隆」。背丈はやや高めの、つい先日「国防海軍兵学校」を卒業した新米の「軍所属提督(以降、制服組)」である。ちなみに、「超」がつくほどの「へっぽこ」提督である。

 

 しばらく海郷寮の薄暗い廊下を進んでいると、萩和田の目の前にまさしく「堅牢」と称される規模の「部屋」に来ていた。

 

「これ、『部屋』じゃなくて『独房』でしょ」

 

そう、その雰囲気はほぼ刑務所のソレとおなじである。

 

「おー相当暴れてんだなあ」

 

そして、その「部屋」の主のものとおぼしき拳の形をした凹みがあちらこちらに作られていたのだ。このような頑丈な扉を凹ませることができのだ。相当な怪力の持ち主なのだろう。

 

「場所は…ここであってるな。よし。」

 

彼は、あらかじめ管理員に「お目当ての艦娘」のいる部屋の場所とそこの鍵を受け取っていた。ただ、そこで管理員に言われたのが、

 

「こちらは一切責任は負いませんので」

 

の一言であった。

 

「なんだよ、『責任は負わねえ』って…殺されたりでもするのかってんだ。」

 

先ほどの管理員の言葉を思い出し、ブツブツ呟きながら萩和田は扉の鍵を開ける。「ゴオオオオン…」という重厚な音をたてながら扉が開く。

 

「さあて、面談といきますか」

 

 

 

 

 

 

 

 例の部屋の中に入り、後ろ手で扉を閉めた萩和田は、しばらくその場であたりを見渡す。すると、奥の方にわずかに「なにか」の気配がした。彼がその「なにか」に近づこうとしたその時、

 

「お前、何の用だ。」

 

一言、その「なにか」が問いかける。そのたった一言の中に、「どす黒い闇」と「怨恨」の念がこもっているのを萩和田は肌で感じ取っていた。とてつもなく重い雰囲気がその場を支配する。

 

「ああ、君にちょっと頼みたいことがあってね」

 

その「なにか」の表情が微かに動いた。

 

「頼み?俺にか?」

 

「そうそう。君にやってもらいたいんだ。」

 

「こーんな辺鄙な土地にわざわざ出向いて、しかも世の中から忌み嫌われる『はぐれ』の俺に頼み事ってか。まず名乗れ。」

 

「おっと済まない。自己紹介からが初対面の人と会う時のマナーだったわ。忘れてたよ(笑)」

 

重苦しい雰囲気をまき散らす「なにか」に対し、萩和田はのらりくらりとヘラヘラした態度で応対する。

 

「俺の名は、『萩和田 清隆』。つい先日兵学校を卒業し、第五方面群第三地区『鹿屋基地』に着任した新人提督だ。あ、ちなみに学校長からのお墨付きの『超へっぽこ』なんでそこんとこもよろしく。」

 

「…ずいぶんと適当な奴だな…」

 

「まあな。よく言われる。」

 

恥じる様子もなく萩和田はさらりと答える。

 

「さ、次は君の番だ。」

 

しばらく、「なにか」は息を潜め、沈黙が流れる。

 

「おいおい、人に聞いといてそりゃあないでしょー。まあいいけど」

 

答えようとしない「なにか」にそう言い、言葉を一旦切ると、

 

「横須賀鎮守府所属、主力艦隊第三艦隊の旗艦・金剛型巡洋戦艦三番艦、榛名。」

 

「!!!」

 

自分の昔の所属を寸分たがわず当てた萩和田の言葉に、その「なにか」、「戦艦・榛名」は驚愕した。

 

「…懐かしい名だな。」

 

「懐かしいも何も、これ君の名前なんだけど」

 

自分の名前を言われてもどこか他人事な榛名の言葉に違和感を覚える萩和田。

 

「俺の今の名前は『番号:5738』だ。」

 

「……は?」

 

萩和田は、己が耳を疑う。

 

「だから…その『榛名』って名はもう捨てたんだよ!同じこと言わせんな!俺の今の名は―」

 

「「ガァン!!!!!」」

 

「!?」

 

俯き気味に話していた榛名は、突然の破壊音に驚き顔を上げた。

そこには、かつて自分が殴りつけていた扉が跡形もなく消えていた。いや、正確には遥か後方へ吹き飛んでいただけなのだが、そんな事は榛名にとってどうでもいいことだった。

 

「何してんだよ……」

あまりの唐突な萩和田の行動に、さすがの榛名も疑問を呈さずにはいられない。

 

「…………名を奪われ、かつて自分が駆け抜けた海ももう二度と見ることが出来ない、もちろん自由などない。………こんなクソみたいな所、とっとと出るぞ。準備しろ」

 

「……………………は?」

 

「聞こえなかったか、『ここを出るから準備しろ』って言ったんだよ。」

 

榛名は、混乱していた。

今までの自分は、ただただ否定され、忌み嫌われ、そして最後には「自由」まで奪われた。自分は普通に生きていただけなのに。そのあまりに唐突な理不尽に、彼女は抗おうとした。だが、あまりに敵が多すぎた。壁を、扉をいくら殴っても何も誰も自分を見てくれない。そんな世界に絶望して自らを終えた者達を彼女は何人も見てきた。その度に、「自分は決して諦めない」と意思を固めてきた。だが、それでも変わらぬ世界に、いつしか彼女自身が諦めの感情を抱きつつあったのだ。

 

そんな自分に向けた、萩和田の「出るぞ。」の一言。そのたった一言で、彼女がかつて持っていた熱いモノを蘇らせた。

 

「出るったって、どうするんだよ。俺はすでに規則でここを出ちゃいけねぇんだぞ。」

 

「お前に会う前に、既に調べてある。ココに入れられた後の艦娘達の所在はどうなるかをな。結果、お前はどこぞの海で轟沈したことになってたよ。」

 

「なんだよ、それ………」

 

「これが実状だ。お前をここに放り込んだ連中は、始めからこうするつもりだったのさ。胸糞悪ぃ。」

 

「じゃあ、俺はもう既に」

 

「そうだ。公式には『横須賀の榛名』はもう存在しない。残念だが、俺だけではどうしよもなかった。」

 

萩和田が済まなさそうに顔を歪める。

 

「……いいさ。これで後腐れなく行けるし。てか、アンタが謝ることないっての。」

 

「…そう言ってもらえると助かるよ。話の続きだが、俺はそこに目を付けた。」

 

「そこに目をつけてどうするのさ。」

 

「さっきも言ったろ?『俺と一緒に来い』って。」

 

「?」

 

「つまり、俺の『部下』にするってことだ。そうすれば、お前は『鹿屋基地所属の榛名』として新たに生まれ変わるってことさ」

 

「ッ!!そんなことが出来るのか?!」

 

「新しく着任した艦娘を登録するのに特別な手続きなんていらねぇよ。」

 

「じゃあ、」

 

「お前は、今日から俺の部下の『戦艦・榛名』だ。」

 

萩和田はそう言い榛名へ手を差し伸べる。

榛名はその手をじっと見つめ、

 

「……アタシ以外で最後までここに居た奴が、自分の死に際にアタシにこう言ったんだ…。『貴方には、必ずいつか貴方を迎えに来てくれる人が現れる。それまで頑張って生きて、もしその人が来たなら、私の分まで生きて。』ってさ……」

 

「…………榛名…」

 

榛名は一瞬目を伏せ、そして何かを決したかのようにガシッと萩和田の手を掴んだ。

 

「辛気くせぇのはなしだ。アタシは行く。そして切り開いてやるさ。アタシ自身がゆくべき道を。」

 

その榛名の目には、もう先程のような悲壮に似た感情はこもっていなかった。かわりに、一歩も引くものかという覚悟を決めた強い力を秘めた瞳があった。

 

「よぉし、なら話は決まった。行くぞ!榛名!」

 

 

 

 

二人は踏み出した。己が「サダメ」を断ち切るため。自分のゆく道を自分で切り開くために。

 

 

 

 




☆語句補足(小説内で説明できなかった単語)

・「提督(司令官)」…日本国防海軍に属する「対深海棲艦部隊」に所属しており、国防省より艦娘の「管理・運用」と彼女たちの活動資源の調達権をまかされている。人選は国防省と国防海軍の両方の面接試験をパスした後、「養成所」とよばれる訓練施設にて一ヶ月指導を受け、全国に点在する「基地」へと転属していく。

・「妖精」…艦娘出現直後に表れた艦娘とは違い人語の通じない謎の生命体。しかし艦娘とは意思の疎通は出来る模様。彼らの技術力はすでに人類の次元を遙かに超えており、一切が謎に包まれている。
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