「サダメ」に抗うとある艦隊の話   作:Corekan Saikoo

3 / 4
 前回からかなり期間がたってしまいした(常套句)。
 本編第二話、どうぞよろしくお願いします。


第二話 新天地

 

「眩しいぃ…」

 

約一年間、海郷寮(ほぼ独房)に居た榛名は久しぶりに見る太陽の光に目をしかめる。

 

「お前、外にも出してもらえてなかったのか?」

 

そう彼女に問うのはつい先日「提督」になったへっぽこ提督の萩和田清隆である。

 

「そりゃあ、来たばっかの時は外でれたけどさぁ、アタシがあまりに脱走しようとするもんだから外出禁止になったんだよ。」

 

「あーやっぱ案の定だな…(笑)」

 

想像通りの回答が返ってきたので萩和田は若干苦笑いになる。

 

二人は今、国防省管轄の艦娘保護施設「海郷寮」を後にし、萩和田の車が駐車されている所へ向かっていた。

 

「…………」

 

「…?」

 

つい先程まで久々の外の光景にやや興奮気味だった榛名が急に押し黙った。

 

「どうした?」

 

すると、榛名は急に立ち止まり、真っ直ぐ萩和田の目を見つめる。その瞳はまるで吸い込まれそうな錯覚を起こす程深い瞳だった。

 

「…ふと思ったんだけどさ、今までずっとアソコに閉じ込められてたアタシを、何で新参のアンタが連れ出せたのかなぁって思ってさ。」

 

榛名は一旦区切り、振り返って萩和田の目を見つめる。

 

「………誰かに頼まれたのか?」

 

そう、萩和田に問うた。

 

「俺が誰かに頼まれてお前を連れ出したってか?」

 

「それくらいしかアタシがここ出れるようにはならねぇだろ?」

 

「………………うーん、まぁ半分あってるけど半分間違ってるな」

 

しばらく黙った後萩和田は榛名の疑問に対しそう答える。

 

「なんだよそれ」

 

「本当なら『実は…』って始めるんだろうけど、俺にもいろいろあってな。また今度教えてやるよ。」

 

「あっそ。」

 

「ん?えらくあっさりしてるな」

 

「だってそこまで聞きてぇとは思わねぇし。そりゃ新人のくせにいきなりココ訪ねてくるくらいなんだから何もねぇって考える方がおかしいだろ。」

 

「ははは…。まぁ確かに」

 

 

 

 そうこうしているうちに、二人は目的地についていた。

 

「これか?」

 

目の前に止まっているワゴン車を榛名が指さす。どこにでも走っていそうな市販のもののように見える。

 

「………安モンだな」

 

「いやなんでお前にそんなこと言われなきゃならんのだ(怒)てか車の良し悪しわかるのかよ?!」

 

「いや、ちょっと言い過ぎじゃね、アタシ一応元横鎮(横須賀鎮守府)なんだけど。それなりに色々見てるんですけど…って、あれ、誰かいるのか?」

 

萩和田のワゴンの中に人影が映る。

 

「あー、これからお前と一緒に赴任する仲間だ。折角だし紹介しておく。おーい、出てきてくれー」

 

はーい、と返事が聞こえ、ドアが開く。

 

「こんにちはー!」「こんにちは。」

 

降りてきたのは二人で、桃色の髪をした明るい雰囲気の女性と、眼鏡をかけた黒の長髪をした大人しそうな女性だった。

 

「あれ?明石さんに大淀さんじゃん。仲間って、二人のことだったのか?」

 

「え?!榛名さんじゃないですか!え?!」

 

「明石…ここに来たってことは榛名さん以外に誰もいないでしょ…」

 

大淀は明石の鈍感さに呆れた口調で答える。

 

「ん?お前たち知り合いだったのか?」

 

当の連れてきた本人である萩和田も少々驚いている。そこを大淀が説明する。

 

「私と明石はだいぶ前ですけど横須賀鎮守府で一緒だったのは提督もご存じですよね?」

 

「ああ。お前たち二人が元々同輩だったのは聞いているが…それにまだ大淀と榛名ならば同時期に横須賀所属だったから大体検討はついてはいたが、明石と榛名に関しては分からんな」

 

「私、横須賀から出た後は舞鶴の方に居たんですけど、何度か横須賀鎮守府の皆さんが演習に来ることがあって、その時に榛名さんとあったことあるんですよー」

 

「あん時は色々世話になったからな!」

 

「はは…まぁ色々と、ね」

 

何やら訳ありな感じが少々引っかかった萩和田だったが話を進めるため切り替える。

 

「ああ、そういう事だったのか。やっと繋がった。まぁ顔を知ってるならやりやすいし丁度いいだろ。」

 

「まぁな。でさ、明石に大淀さんよ。」

 

「何ー?ってなんで私だけ呼び捨て…」「?何でしょう?」

 

「二人なんでここにいるの?」

 

「「「 」」」

 

「え、何この間」

 

「ああ、まだ言ってなかったな二人がここにいる理由。大淀は元いた所の上司と衝突してほぼ更迭扱いで辺境の基地に飛ばされるところを俺の相談役として付いてもらった。」

 

「衝突って…なにしたんだよ大淀さん…。」

 

「ふふっ…まぁ色々あったんですよ(ニッコリ)」

 

「お、おう…なるほど…深く聞かないでおくよ…」

 

大淀の放つ謎の禍々しいオーラに思わずたじろぐ榛名。

 

「ま、まぁそこら辺の話は追追するとして…明石の方は」

 

「自己申告です!」

 

萩和田の説明を遮り明石自らが答える。

 

「いや、自己申告って…明石アンタ舞鶴の要じゃん…ダメだろ…」

 

明石の予想外の事情に面食らってしまう榛名。

 

「いやーやっぱりずっと同じところにいると体と頭がなまっちゃうんですよねぇー。まぁ、いわば心機一転!って奴です!」

 

「心機一転はいいけどさ…舞鶴の方大丈夫なんかよ…」

 

「あ、そこら辺はご心配なく!私の妖精さんを何人か向こうに残してるし、夕張もいるんで大丈夫!」

 

「あー…あのメロン子工廠付になったのね」

 

「まぁ彼女以外にも機械いじるの好きな子とかを引っこ抜いて私が居なくても艦隊運用できるようにはしたからね!何も問題は無い!」

 

明石は榛名の疑問にそう自信満々で答える。

 

「……ま、まあ、そういう事だ。これからお前達三人は、新設の前線基地である『鹿屋』に向かう。鹿屋基地だな。」

 

「鹿屋………えらく遠いな」

 

「やはりそうでしたか。検討はだいたい付けてはいましたが…」

 

「鹿屋…ふーん。まぁどこでもいいや」

 

「まあ俺自身が新参だからな。辺ぴな所に配属されるのは仕方ないだろ。あと、あまりチンたらするわけにもいかないから早う乗れ。」

 

そう言いつつ萩和田は三人をワゴンに乗せる。大淀が助手席側、明石と榛名が後部座席に座る。

 

「……ってアンタが運転するんかい」

 

横須賀鎮守府時代だった頃の榛名は、指揮官の乗る車はいつも付き人がいたのを見ていたため、萩和田自身が運転しようとしている光景に思わず突っ込む。

 

「いや、俺以外運転出来るやついないだろどう見ても…」

 

榛名のツッコミを「至極当然」という顔をした萩和田が訝しげに見る。

 

「何回も言うが、俺『新人』な?お偉いさんみたく付き人とかいないからな?」

 

半ば自虐じみたことを言いながら、萩和田は車を発進させた。

 

 

 

 

 「提督ーお腹すいたーー」「アタシもーー」

 

新任地・鹿屋へ車を走らせること約九時間。あたりはもう真っ暗になり、高速道路を走る車もまばらな時間帯に、萩和田が運転する車は走っていた。

 

「俺も腹減ってきたなー。」

 

「何ぶんあそこから休みなしで運転しどうしですからねぇ。」

 

そういう大淀もついさっきまで助手席にて安眠していたのでかなり元気である。

無論、後ろの二人は言うまでもない。

 

「んじゃあそろそろどっかで休憩するかな…」

 

 

 四人が車を降り、一息つこうとしたその時。四人は、周りがやけにざわついていることに気づいた。

 

「あれ?なんか皆さん忙しなくないです?」

 

明石がほかの三人にそう問いかける。

 

「ああ、確かにな。」「そうかー?」

 

萩和田と榛名が明石の問いに返事を返す。だが、大淀からの返事がない。

 

「大淀?どうかした?」

 

明石が大淀に声をかけようと近寄ると、

 

「皆…アレ…」

 

「アレ?あれってなに……え?」

 

大淀の視線の先、ほぼ間違いなく先ほどから周辺が騒がしかった要因。それは、

 

「なんで、あそこだけ、あんな空なんだよ…」

 

「大淀…あの方角は…」

 

「……はい、間違いありません。」

 

「なんで、なんで、『呉鎮守府』が燃えてるんだよ…‼」

 

 

そう、四人の目に映っていたその光景。「五大鎮守府」の一角であり、「東の横須賀、西の呉」と謳われた「呉鎮守府」が、黒い噴煙を立ち昇らせるように、燃えていたのである。

 

 

 

 

「榛名!明石!大淀!」

 

事態を理解してからの萩和田の行動は早かった。

 

「今すぐ呉鎮守府へ急行し、当該地域一帯の救援活動及び各鎮守府・基地に救援要請を出す!各員準備せよ!」

 

「「「了解!!!」」」

 

 

 

 

「提督、舞鶴鎮守府および佐世保鎮守府、その旗下の各基地への救援要請、完了しました!準備出来次第急行するとのことです!」

 

「わかった。俺たちはこれから、生存者及び負傷者の救出に向かう!ただし、自分の身が危ないと感じた場合は即退去だ!いいな!」

 

萩和田の号令に榛名、大淀、明石の三人は海軍式の敬礼で答える。

 

「いくぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ≪呉鎮守府内≫

 

「クソ…」

 

文字通り「炎上」する鎮守府のなかを捜索するのは容易のことではなく、下手をすれば自分の命も落としかねない状況のため、さすがの榛名も慎重に負傷者の捜索にあたっていた。

 

「おーーーい!!誰かいるかーーー!?っゲホゲホ…あーやっぱ大声は出し辛いな…」

 

必死に呼びかけるが、火事によって噴出している一酸化炭素などがあるため、大声で呼びかけることもし辛い状況の中、榛名は数メートル先に人の手らしきものを見つける。

 

「!?お、おい、大丈夫か!!!」

 

急いでそこへ駆け寄ると、そこには銀髪、というより脱色でもしたかのような真っ白な髪をした色白の少女が横たわっていた。

 

「しっかりしろ!お…い…」

 

その少女を抱きかかえた榛名が呼びかけようと顔をみると、誰でもわかるほどの恐怖の色に染まっており、目は異常に大きく見開き、小さく開いた口からはただひたすら「いやだいやだいやだいやだ…」と呟いていた。

 

さしもの榛名も一瞬怖気が走ったが、明らかにこの少女の状態は危険であるとすぐに思考を切り替える。

 

「おい!お前に他に生存者はいるのか!?いるんなら教えてくれ!」

 

「……」

 

しかし、もはやその少女は通常の受け答えができる状態ではなく、榛名の問いかけもまるで届いていないようであった。

 

「クソ!他に生存者は…」

 

しかし、もうすでに鎮守府は延焼により半壊状態になっており、これ以上深くへ行くのはあまりにも危険であった。

 

「……しょうがねぇ…コイツだけでも…」

 

榛名はその少女を抱え、先ほど萩和田たちと別れた安全な場所へと向かった。

 

 

 

 ≪鎮守府外≫

 

 榛名が戻ると、そこには一足先に戻っていた明石と大淀がいた。

 

「大淀さん!明石!」

 

「榛名さん!その子は!?」

 

少女を抱えながらこちらへ向かってくる榛名に走り寄る大淀と明石。

 

「わかんねぇ!恐らくここんとこの艦娘なんだろうけど見たことねぇ顔だ!ともかくあんましよろしくねぇ!すぐ手当てしないと不味い!」

 

先ほどまで自分たちしかいなかった場所には、萩和田の指示で大淀が予め連絡していた消防及び警察が駆け付け、消火活動を行っていた。

 

「あ!艦娘の方ですか!その子をこちらへ!!」

 

救急隊員の一人が三人に声をかける。

 

「この子をお願いします!」

 

と、大淀が少女を引き渡す。

 

「中に他に誰かおられますか!?」

 

消防隊員がそう尋ねてきたとき、榛名ははっとした。

 

「おい、提督は!?」

 

「いや、まだ戻ってきてないですね…」

 

珍しくおどおどした口調で大淀が答える。

 

「あの野郎…なにやってんだ……」

 

三人の見つめる先には、もはや原形さえとどめぬほどの業火で包まれた呉鎮守府「だったもの」があった。

 

 

 

 

 ≪鎮守府内・萩和田≫

 

 彼も、榛名たちと同様に生存者救助のために鎮守府内を駆け回っていた。そして、「司令部室」と書かれた部屋のドアを開けると、そこには恐らく呉鎮守府艦隊の司令であろう男が横たわっていた。

 

「おい!大丈夫か!」

 

萩和田がその人物に近づき、上半身を起こす。

 

「!!!」

 

遠目から見ると気づかなかったが、呉鎮守府艦隊司令の体には、いくつもの弾痕があったのだ。

 

「アンタ…アンタ!一体ここで何があった!?深海棲艦の襲撃か?だが、行く道行く道生存者どころか負傷者さえいなかったぞ!!」

 

把握しきれない状況におもわず萩和田は司令に問いかける。

 

「………!」

 

「何!?なんて言った!?」

 

かなりの重傷で、もうほとんど声が出ない有様であったため、彼の言葉を聞き取ることが出来ない。

 

「…………あの子を……救っ…てやって………くれ……」

 

やっとの思いでひねり出したであろう言葉だった。

 

「あの子って…」

 

「………美しい……白銀の髪の……少女だ…彼女だけならまだ……間に合う…」

 

「わかった!その子を保護すればいいんだな!おい、急ぐぞ!」

 

「私は………もう、助から…ない…」

 

「馬鹿言え!諦めてどうすんだ!!!その子が待ってるんだぞ!?」

 

「自分の…命の限界は……自分が一番…よく、わかっている……だから、あの子だけでも、救って欲しい…」

 

燃え尽きかけそうな声で、萩和田に頼み込むその目には、自らの死を目前にしながらも、最後まで部下を思う優しさと彼自身の芯の強さを宿していた。

 

「………わかった。」

 

彼の最後の願いを聞くことこそ、死にゆく者への自分の出来うる礼儀であると決めた萩和田は、彼を静かに床に横たえる。

 

「…………」

 

顔も見たことのなかった、五大鎮守府の一角を担った呉鎮守府の最高指揮官に、萩和田は静かに敬礼し、その場を後にしようとした。その時。

 

「……………………『原初』には……気をつけろ…」

 

「何!?今…」

 

部屋を出ようとした萩和田はすぐ彼の下へ再び駆け寄ったが、もう、息を引き取った後だった。

 

 

「『原初には気をつけろ』…どういう意味だ?」

 

 

 

 

 

 後に、萩和田は彼の遺したこの言葉の真意に気づくことになるが、それはまだまだ先の話である。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。