拘束した生徒を講堂の奥まった部屋に連れ帰ると摩莉が尋問を開始する。
「ダメだな、この程度の強さじゃリーダーのことは話さないか」
摩莉はそうボヤキ始めた。彼女は複数の薬品を混ぜ自白剤を合成させ使用したが効果がなかった。
「手引きした犯人はすぐ吐いてくれたんだけどね…」
真由美もがっかりしていた。手引きしたのは叔母から送られてきた紙に書いてあった十r司甲だった。
「おそらく魔法か何かでその部分の記憶を消されたか、封じられているかもしれませんね」
そう俺は予想する。
俺は《全想の眼》を使うか迷っていた。あれは有効な魔法だが真由美たちにばらしたくないというより副作用のことを気にしていた。
《全想の眼》を使うと魔法演算領域にかなりの負荷がかかり疲弊してしまう。だが、悩んでいる時間はないので使おう。ここにいるのは先輩方2人だけなので他言しないようにお願いをした。
「今からこいつの記憶を読み取ります。ただそれをするにはある魔法を使わなければなりません。誰にも言わないと約束してもらえますか?」
真由美と摩莉の眼を見て聞いた。
「ええ、約束するわ。第一高校生徒会長としてではなく十師族の一員、七草家の長女として」
「あたしも約束するよ、七草家の長女の友人として」
摩莉の約束は真由美より固いものではなかったが、信用できる人なので何も言わなかった。俺はうなずくと確保した生徒に向く。
「それでは始めます」
息と一緒に余計な情報を吐き出す。眼を生徒の記憶に向ける。
『これで説明は終わりだ。明日は面白くなりそうだね諸君!このアジトは集会が終われば破壊されることになっているから新しいアジトは後日伝える。解散!』
大口をたたくひょろっとして、ふちなしの眼鏡をかけている男が〈ブランシュ〉日本支部リーダー司一なのだろう。アジトを出るとそこはどこにでもあるようなビルの地下だった。
しばらくして眼を現実の世界に戻す。今視たことを2人に話した。
「指導者は司一。第一高校三年の司甲先輩の義理の兄です。おそらく司先輩も魔法か何かで操られて手引きさせられたのではないでしょうか。アジトはビルの地下にあったようですが、今は何もないようで新しい場所に移動したようです」
「何故そこまでわかった?」
摩莉が聞き返してくる。
「摩莉、他人が隠している魔法を詮索してはダメよ」
真由美が止めに入る。
「構いませんよ会長。今のは俺の固有魔法でこの生徒の記憶を覗いたんです」
「怖い魔法だな。覗かれないように気を付けよう」
少なからず本気の摩莉に信頼している相手に無断で使用しないと説明しておく。
説明しながら気になった記憶をもう一度視返す。この男の横にいた男の想子を読み取る。記憶の中にいる人物だが、現実世界に存在しているので読み取ることができるのだ。
するとその男の想子が別の想子と強制的にリンクさせられているのが視えた。しかもその想子はすでに死んだ人間のものだ。
それが何なのか考える前に現実の情報世界に視界を変えその男を探し出す。討論会が始まる前に見かけていたのだからどこかにいるはずだ。
見つけた。だがこの位置は…。俺は講堂の裏口からその男が狙っている女子生徒の下に向かった。
「「克也君!?どこに行く(の)んだ!?」」
真由美と摩莉の声に振り向くことなく走る。体術と自己加速術式を使って走る。
女子生徒の姿が見えたのと男子生徒が襲い掛かるのが同時だった。間に合わないと思った俺は、想子を圧縮して想子弾を構築し男子生徒に向かって撃ちだした。
想子弾に直撃された男子生徒は大きく吹っ飛ばされ地面に倒れる。襲われかけた女子生徒は気を失って倒れていたので、抱きかかえて危険のない場所まで移動し横たわらせ男子生徒の元に戻った。
目は虚ろで生気を感じない。想子を《全想の眼》で読み取ると愕然とした。死んだ人間の想子に浸食され死んでいたのだ。
なのに生前と変わらない動きと魔法を繰り出すことに驚いたが、一撃で終わらせるために魔法式を構築し起動式を展開させる。
《夜》が一部分だけを塗りつぶす。闇に燦然と輝く星々の群れ。星が光の線となって男子生徒の中の想子を貫通した。男子生徒はその場に倒れそれきり動かなくなる。
女子生徒を抱いて保健室に向かいベッドに寝かせ、出ようとすると安宿先生に引き止められ一通り体を検査され異常なしと診断されてから解放される。
奥の部屋から出てくるとそこには真由美と摩莉、克人がいた。
「何が…」
真由美が訪ねようとしたがドアが開けられ壬生紗耶香を抱えた達也が入ってきた。寝かせて5分後に、目を覚ました壬生に異常なしと診断した安宿先生が出ていくと事情聴取が始まった。
それによると摩莉に突き放されたと勘違いした壬生先輩に、司一が付け込んだようで壬生先輩に非がないことがわかった。
「重要なことは奴らがどこにいるかですが…」
達也は話を聞いた後そう切り出した。
「行くつもりか司波?危険だぞ」
達也の言葉に何かを感じた克人は止めに入る。
「わかっています。俺は学校側に手を貸してもらうつもりはありません」
「司波君もし私のためだったらやめて怪我されたくないから」
壬生は達也をなだめる。
「壬生先輩のためではありません自分の生活空間がテロの標的になったんです。俺と深雪、克也の日常を損なおうとするものはすべて駆除します」
だが達也の答えは辛辣だった。しかしそれを咎めるような声は上がらない。
「でも達也、拠点がわからないとどうしようもないぞ」
そう俺が聞くと達也は「知らなければ知ってる人に聞けばいい」と言いながら保健室のドアを開ける。
そこには一年E組の担当カウンセラー小野遥が立っていた。
「九重先生の秘蔵の弟子から隠れ遂せようだなんて…やっぱり甘かったか」
苦笑気味で話し、遥から拠点の地図をもらい確認する。
「達也が行くなら俺も行くぜ」
「当然あたしもね」
レオとエリカが同行すると言い出した。
「なら俺も行こう十師族としてこのまま見逃すわけにはいかん」
今まで黙っていた克人が切り出した。
「車は俺が出すそれでいいな?」
「十文字君が行くなら私も…」
「七草、お前はダメだ」
「そうだぞ真由美。この事態に生徒会長が不在なのは困る」
「わかったわ十文字君お願い。でもそれなら摩莉もダメだからね。まだ校内に残党がいるかもしれないんだから」
説得された真由美は摩莉を止めた。摩莉も残念がっていたが。
「達也、俺も残るよだから後のことを頼む」
「任せろ」
それだけ言うと達也達は駆逐するために駐車場に向かった。
残りの残党を(全想の眼を使って)捕まえていると、安宿先生から女子生徒が目を覚ましたと連絡が来たので保健室に向かった。
「気分はどう?リンちゃん」
真由美が呼んだように襲われそうになっていたのは市原鈴音だった。
「ええ、驚いて倒れた時に頭を少し強く打っただけですから。それよりここに連れてきてくれたのはどなたですか?」
「お前の目の前にいるよ市原」
「え?」
摩莉の言う通り眼を横にずらして市原先輩は俺を見てくる。
「あなたが?」
「それだけじゃないぞ。お前を襲おうとした奴を倒したのもそいつだ。どうやってかは知らないが」
摩莉の言葉に目を見張る市原先輩に新鮮さを感じていた。
「あたしたちは事情説明があるから行くよまたな」
摩莉がそう言って真由美とともに保健室を出ていく。
「改めて助けていただきありがとうございました」
「いいえ、そんなご丁寧に怪我がなくてよかったです」
それだけ話すと市原先輩は黙ってしまった。ここは挨拶だけして出た方がいいのか何か話題を作るべきなのか迷っていると、市原先輩が紅潮させながらお願いしてきた。
「は、初めて生徒会室に来た時から気になっていました。今日助けられてすごくうれしかったです。わ、私とそ、そのお、お付き合いしてもらえませんか?」
まさかの告白に俺は数秒間フリーズした。
「俺なんかでいいんですか?」
そう尋ねるとさらに顔を赤くしてうなずく。これ以上伸ばすと精神的なダメージを与えそうなので答えることにした。
「喜んでお付き合いさせていただきますよろしくお願いします」
そう言うと市原先輩は年相応の笑顔を俺に向けてくれた。
夕方、拠点を落とした達也と深雪と3人で家に帰る。あとは就寝するだけの合間に操られていた生徒の話をした。
「…というわけでやむを得ず《流星群》を使ってしまったんだ」
俺の話に耳を傾けていた達也は真剣な顔で頷く。
「なるほど、死者の想子を魔法式で復活させ安定させるために器である魔法師に組み込んだのか。魔法式が不完全だったのか器がそぐわなかったのかわからないが、安定せず暴走しだしたということだな。その器にされたのは誰だったんだ?」
「二年のニ科生の
達也の質問に答えた。
「黒木家とは何ですが?」
「黒木家は魔法師の家系でありながら魔法を排除しようとする一族だ。知る人ぞ知る話だから深雪は気にしなくていいよ」
達也は説明しながら深雪の頭をなでる。
俺は2人に「俺、市原先輩と交際することになったから」と特大の爆弾を落として寝室に向かった。その時の達也の驚いた顔を俺は忘れないだろう。
翌日、一日中深雪から不機嫌オーラを吹きかけられた俺は、授業に集中できず週末に居残りさせられることになるという失態を犯した。
そして市原先輩との交際は広まらないだろうと思っていた俺の予想に反して、ありえない速度で広まってしまった。
犯人は誰かわからないまま謎は迷宮入りした。
ついにブランシュ編まで書くことができました。次話からは九校戦編に入ります。なにとぞよろしくお願いします。
黒木竜(くろきりゅう)・・オリジナルキャラ。魔法師の家系でありながら魔法を排除しようとする家系の一人息子。